クルタ族転生   作:ryyonn

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火影室で語られる未来と、三人の師

 

 

予選が終わり、受験者たちがそれぞれ帰路につく中、心は一人、火影室へと向かっていた。

 

 用件はもちろん、第二試験中に遭遇した大蛇丸についてだ。

 

 あの時、カカシは心たち四人を試験から棄権させ、治療を受けさせたうえで事情聴取を行うつもりだった。だが、心たちの意思を尊重し、試験を続行させてくれたのだ。

 

 その借りを忘れたわけではない。

 

 それに、大蛇丸が中忍試験に現れたという事実は、里にとっても見過ごせない問題だった。

 

 先ほどカカシとすれ違った際、彼は心にだけ聞こえる声で告げていた。

 

『あとで火影室に来てくれる? 話があるから』

 

 その言葉に頷き、こうしてやってきたというわけだ。

 

 火影室の前に着くと、心は足を止めた。

 

 室内には三人分の気配がある。

 

 もっとも、今は緋の眼を発動させていない。チャクラを感知することはできなかったが、人の気配を察する程度なら問題ない。

 

 心は扉をノックした。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 扉を開けた心は、室内を見渡した。

 

 机の向こうには三代目火影、猿飛ヒルゼン。

 

 その傍らには、担当上忍のはたけカカシ。

 

 そして、窓際に立っていたのは――。

 

「……お久しぶりです、自来也さん」

 

 目が合った心がそう挨拶すると、白髪の大男は口元にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「おぉ~、久しぶりじゃのぉ、心!」

 

 自来也は大げさに両腕を広げた。

 

「編集長が嘆いておったぞ。続編をまっっったく書いてくれんとなぁ!」

 

「……ああ」

 

 心は思わず遠い目をした。

 

 その反応に、カカシが片目を丸くする。

 

「……二人、知り合いだったんですか?」

 

「うむ。ちょっとした縁があっての」

 

 自来也が愉快そうに笑う。

 

 一方、ヒルゼンは二人の関係を知っていたのか、特に驚いた様子もなく煙管を置いた。

 

 心は小さくため息をついた。

 

「……すみません。下忍になってから任務が忙しくて、まったく書く時間が取れなかったんです」

 

「わかっておる。じゃが、編集長の顔を一度見せてやりたいくらいじゃぞ。新作を待ち望む読者も多いらしいからのぉ」

 

「それは……ありがたいことです」

 

 心は苦笑した。

 

 まさか、忍の里で小説家としての仕事を催促されるとは思わなかった。

 

 もっとも、自分で蒔いた種ではあるのだが。

 

 ――七歳の頃。

 

 心は、生活費のことで頭を悩ませていた。

 

 両親が残してくれた金は、まだ多少の余裕こそあったものの、贅沢をしなくてもいずれ底をつく。幼い身で安定した収入を得る方法など、簡単には思いつかなかった。

 

 悩んで、悩んで、悩み抜いた末にたどり着いた答え。

 

 それが、前世で親しんでいた漫画や小説を、この世界で自分の手によって書くことだった。

 

 絵心は皆無だった。

 

 だが、文章なら書ける。

 

 そう考えた心は、前世で読んでいた物語を思い出しながら、一つの作品を書き上げた。

 

 そして、原稿を抱えて出版社へ向かったのである。

 

 そこは、自来也の著作『イチャイチャパラダイス』を出版している出版社だった。

 

 しかし、七歳の子供が持ち込んだ原稿を、まともに取り合ってくれる人間はいなかった。

 

 当然だろう。見た目だけなら、ただの子供なのだから。

 

 結局、心は原稿を読んでもらえないまま、出版社を後にしようとした。

 

 その時だった。

 

『おい、坊主。そんなにしょぼくれた顔をして、どうした?』

 

 声をかけてきたのが、自来也だった。

 

 事情を聞いた自来也は、興味本位もあったのだろう。心の原稿を受け取り、その場で読み始めた。

 

 そして――。

 

『……ほう。こいつは面白い』

 

 自来也は目を輝かせた。

 

 そのまま編集部に乗り込み、担当者たちに原稿を読ませるよう直談判してくれたのである。

 

 結果は、心にとって夢のようなものだった。

 

 作品は出版され、評判は瞬く間に広がった。売れ行きは好調で、生活費の心配どころか、十分すぎるほどの金が手元に入ってきた。

 

 その作品の題名は――『ONE PIECE』。

 

 もちろん、心の絵心では漫画にすることなど不可能だったため、小説として書き上げたものだ。

 

 書きながら、心は何度も心の中で謝っていた。

 

 ――尾田先生、本当に申し訳ありません。

 

 あなたの作品を、勝手にこの世界へ持ち込んでしまいました。

 

 とはいえ、生活のためだったのだ。どうか許してほしい。

 

 そんな経緯があったからこそ、自来也とは面識があり、出版社の編集長とも顔なじみになっていた。

 

 しかし、下忍になってからは任務や修行が優先になり、執筆は完全に止まっていた。

 

 編集長が嘆いているというのも、無理はない。

 

「……まあ、執筆の話はひとまず置いておこう」

 

 ヒルゼンが、咳払いを一つした。

 

「心。今日は、お前から話を聞くために集まってもらった。第二試験で何があったのか、詳しく聞かせてくれるか」

 

「はい」

 

 心は表情を引き締めた。

 

 ここからが本題だ。

 

     ◇

 

 心は、第二試験で起きたことを順を追って説明した。

 

 森の中で感じた不審な気配。

 

 巨大な蛇による襲撃。

 

 そして、ナルトに化けてサスケとサクラに近づき、不意打ちを仕掛けた男の正体。

 

「……間違いなく、大蛇丸でした」

 

 心の報告を聞き終えたカカシが、低い声で確認した。

 

「姿は確認してませんが、戦場に残っていたあのチャクラの残滓……昔大蛇丸と会った時に感じたものと同じでした。アンコにも確認済みです」

 

「そうか……」

 

 ヒルゼンの表情が険しくなる。

 

 かつての教え子。

 

 優秀でありながら、禁忌に手を伸ばし、里を去った男。

 

 その大蛇丸が、今度は中忍試験の会場に姿を現した。

 

「それで、大蛇丸はお前たちに何をした?」

 

「サスケに呪印を刻みました。俺とサクラにも仕掛けようとしていましたが、そちらは防げました」

 

「呪印……か」

 

 ヒルゼンが目を伏せる。

 

 カカシも、サスケの首筋に刻まれた三つ巴の黒い模様を思い出していた。

 

 あれが何を意味するのか、まだ十分にはわかっていない。

 

 ただ、大蛇丸がサスケに何かを仕込んだことだけは確かだった。

 

「それと、もう一つあります」

 

 心は一度言葉を切った。

 

「大蛇丸は、俺の一族について知っていました」

 

 その一言に、カカシが心へ視線を向ける。

 

「枢流陀一族のことか?」

 

「はい。大蛇丸は、一族が研究対象だったと言っていました。そして、緋の眼を発動させている間、周囲の自然エネルギーを吸収し、チャクラに変換する能力があったとも」

 

「自然エネルギーをか……?」

 

 自来也が驚いたように目を見開いた。

 

 ヒルゼンも、先ほどまでの険しい表情を一層深める。

 

 枢流陀一族について、里に残されている記録は多くない。ましてや、そんな特殊な性質があるなど、彼らも把握していなかった。

 

「大蛇丸の言葉がすべて真実とは限りません。ただ、俺自身、呪印に触れた際に似た性質の力を感じました。緋の眼を使って吸収を試みたところ、サスケの苦痛を和らげることができたんです」

 

「それは、以前報告してくれた件だな」

 

 カカシが頷く。

 

「はい。呪印そのものを消せたわけではありません。あくまで、苦痛を和らげただけです」

 

「……大蛇丸は、お前の一族についてかなり詳しく知っているようだな」

 

 ヒルゼンの声には、警戒が滲んでいた。

 

「一族の秘密を研究していたのなら、他にも何かを知っている可能性がある。今後、大蛇丸と接触した場合は十分に注意しろ」

 

「わかっています」

 

 心は素直に頷いた。

 

 大蛇丸がどこまで知っているのか。

 

 そして、枢流陀一族の能力に、まだ自分が気づいていない側面があるのか。

 

 それは心にとっても重要な問題だった。

 

 緋の眼と自然エネルギー。

 

 この二つの関係を理解できれば、自分の力をさらに高められる可能性がある。

 

 だが、今はその研究に没頭している場合ではない。

 

 もっと大きな問題が、目前に迫っているのだから。

 

「……さて」

 

 ヒルゼンは心を見据えた。

 

「カカシから、お前が以前話した夢のことも聞いておる」

 

 心の胸が、わずかに重くなる。

 

「まだ、同じ夢を見るのか?」

 

 室内が静まり返った。

 

 カカシも自来也も、心の返答を待っている。

 

 心はすぐには答えず、一度ゆっくりと息を吐いた。

 

 ここから先は、慎重に言葉を選ばなければならない。

 

 自分が知っている未来を、すべて話すわけにはいかない。

 

 だが、何も伝えなければ、守れるはずの命まで失うことになる。

 

「……同じ夢ではありません」

 

 心は、静かに口を開いた。

 

「ただ、これから起こることについて、いくつか気になる夢を見ました」

 

「話してみなさい」

 

「中忍試験の本戦当日です」

 

 心はヒルゼンをまっすぐ見た。

 

「大蛇丸が、本戦に乱入してきます」

 

 カカシの目が細くなる。

 

 自来也の笑みも消えた。

 

「……何だと?」

 

「大蛇丸は、木ノ葉を襲撃します。試験会場が戦場になるんです」

 

 心は、知っている情報をそのまま並べることはしなかった。

 

 襲撃の細かな手順や、敵の配置、戦闘の経過。

 

 それらをすべて話せば、かえって不自然になる。

 

 だからこそ、最も重要なことだけを伝える。

 

「そして……」

 

 ほんの一瞬、言葉に詰まった。

 

 これから告げることは、目の前にいる老人自身の死だ。

 

「三代目火影様が、命を落とします」

 

 沈黙が落ちた。

 

 誰も、すぐには口を開かなかった。

 

 カカシは心を見つめたまま、何かを考えるように黙っている。

 

 自来也の顔からも、いつもの軽薄な笑みは消えていた。

 

 ヒルゼンは目を閉じ、深く息を吐く。

 

「……そうか」

 

 それだけだった。

 

 激昂することも、夢の話を否定することもない。

 

 ただ、静かに受け止めていた。

 

 心の話は、これまでにも一度、現実と重なっている。

 

 大蛇丸が現れること。

 

 その人物が木ノ葉に危険をもたらすこと。

 

 すべてを証明できるわけではない。夢という説明にも、わからないことは多すぎる。

 

 それでも、無視することはできなかった。

 

「……お前は、その未来を変えたいのだな」

 

 ヒルゼンが尋ねた。

 

「はい」

 

 心は即答した。

 

「俺は、誰にも死んでほしくありません。もちろん、三代目火影様にも」

 

「ふむ……」

 

 ヒルゼンは椅子の背もたれに深く寄りかかった。

 

 そして、天井を見上げる。

 

「老い先短い身だと思ってはおったが……弟子に殺される未来まで示されるとは、何とも皮肉なものよ」

 

「火影様……」

 

「気にするな、カカシ。今の話を聞いて、何もせずに座っているつもりはない」

 

 ヒルゼンは顔を戻し、心を見た。

 

「心。夢で見たという未来が、必ずその通りになるとは限らん。だが、お前の話を無視するつもりもない。大蛇丸の襲撃に備え、警備を強化しよう」

 

「ありがとうございます」

 

「ただし、お前も無茶をするな。まだ十二歳の下忍なのだぞ」

 

「……善処します」

 

「その返事は、あまり信用できんな」

 

 カカシがぼそりと呟いた。

 

「先生、聞こえてますよ」

 

「聞こえるように言ったからね」

 

 心は苦笑した。

 

 確かに、これまで何度も無茶をしてきた自覚はある。

 

 しかし、今回は自分一人で背負うつもりはなかった。

 

 だからこそ、ここに来たのだ。

 

「それで、自来也さん」

 

 心は窓際に立つ大男へ向き直った。

 

「本戦当日、三代目火影様の近くにいてもらえませんか?」

 

「ほう?」

 

「大蛇丸が来るのなら、三忍同士の戦いになる可能性があります。三忍に対抗できるのは、同じ三忍である自来也さんしかいないと思います」

 

「……なるほどのぉ」

 

 自来也は腕を組み、しばらく考え込んだ。

 

 やがて、いつもの不敵な笑みが戻る。

 

「もともとワシは、大蛇丸を追っておったからの。あやつが木ノ葉に姿を現したと聞いた時点で、嫌な予感はしておった」

 

 自来也はヒルゼンへ視線を向けた。

 

「……猿飛のジジイ。本戦当日は、ワシも警戒に回る。もし大蛇丸が現れたなら……そん時は、ワシがこの手で奴を止めてみせる」

 

「……自来也」

 

「任せておけ、ジジイ」

 

 二人の間に、かつて師弟だった者同士の言葉では言い尽くせない思いが流れた。

 

 心は、その光景を見て小さく息を吐いた。

 

 これで、少なくとも何もしないまま当日を迎えることは避けられる。

 

 だが、まだ足りない。

 

 心は次に、カカシへと視線を向けた。

 

「それと、カカシ先生。お願いがあるんですが」

 

「……何かな?」

 

「サスケの修行を見ていただけませんか?」

 

「サスケの?」

 

 カカシが少し意外そうな顔をした。

 

「はい。サスケは、これからもっと強くなる必要があります。呪印のこともありますし、今のうちにしっかり鍛えてほしいんです」

 

 サスケはすでに、うちは一族の血継限界である写輪眼を開眼している。

 

 第二試験では二つ巴へと進化した。

 

 だが、写輪眼の力を引き出すことと、実戦で使いこなすことは別問題だ。

 

 呪印という不安要素もある以上、カカシのような経験豊富な上忍に指導してもらう価値は大きい。

 

「……わかった。俺が責任を持って見るよ」

 

 カカシは頷いた。

 

「サスケ本人にも、きちんと話しておこう」

 

「ありがとうございます」

 

 心は頭を下げた。

 

 続いて、自来也へと向き直る。

 

「自来也さんには、ナルトの修行をお願いしたいです」

 

「……ナルト?」

 

 自来也が眉を上げた。

 

「はい。あいつには、まだ自分でも気づいていない力があります。今のうちに、その力を扱うための基礎を身につけさせてほしいんです」

 

 九尾のチャクラ。

 

 そして、ナルト自身が持つ底知れない可能性。

 

 今のナルトに必要なのは、ただ強くなることだけではない。

 

 自分の中にある力を知り、それを制御する術を学ぶことだ。

 

 その役目を任せられる人間は限られている。

 

 自来也ならば、ナルトの力を理解し、導くことができるはずだった。

 

「……ふむ」

 

 自来也は顎に手を当て、少し考えた。

 

「面白い小僧だとは思っておったが、そこまで言うか。よかろう。ワシが面倒を見てやる」

 

「ありがとうございます!」

 

 心は頭を下げた。

 

 そして、最後にもう一つ。

 

「それから、サクラの修行を紅先生にお願いしたいです」

 

「……春野サクラを?」

 

 今度はカカシが首を傾げた。

 

「はい。サクラには幻術の才能があると思うんです」

 

 心は前世の記憶を思い返していた。

 

 原作では、サクラは幻術に対する適性を持っているとカカシから評価されていた。

 

 さらに、優れたチャクラコントロールという長所もある。

 

 今のサクラは、以前とは違う。

 

 大蛇丸との戦いで恐怖に震えながらも、仲間のために立ち上がった。自分も仲間と肩を並べて戦いたいと決意し、地道な修行を続けている。

 

 だからこそ、彼女に合った道を探したかった。

 

 幻術への対処や、相手の動きを封じる技術。

 

 それらを身につければ、サクラはチームにとって大きな支えになる。

 

「紅先生なら、幻術を中心にサクラを鍛えてもらえると思います。もちろん、本人の適性を見たうえで、必要な修行を選んでもらえれば」

 

「なるほどね」

 

 カカシが頷いた。

 

「確かに、サクラはチャクラコントロールに優れている。幻術の修行をさせてみる価値はあるか」

 

「……ふむ。あの子も、ずいぶん成長しておるようじゃな」

 

 ヒルゼンも感心したように言った。

 

 心は、三人の仲間の顔を思い浮かべた。

 

 ナルトは、誰よりも諦めない心を持っている。

 

 サスケは、強さを求める意志が誰よりも強い。

 

 サクラは、仲間を守れる自分になろうと努力している。

 

 自分が一人で強くなるだけでは、意味がない。

 

 仲間たちがそれぞれの力を伸ばし、いざという時に支え合えるようになれば、未来を変えられる可能性は高くなる。

 

「……心」

 

 不意に、自来也が声をかけた。

 

「お前さん、自分の修行はどうするつもりじゃ?」

 

「俺は予定通り、山に籠もって修行するつもりです」

 

「一か月、ずっとか?」

 

「はい」

 

 心は頷いた。

 

「本戦までに、どうしても確かめたいことがあります。大蛇丸との戦いで、まだ自分の力が足りないこともわかりましたから」

 

 あの時の戦いを思い出す。

 

 全力の一撃を叩き込んでも、大蛇丸には決定的な傷を与えられなかった。

 

 仲間たちが駆けつけてくれなければ、どうなっていたかわからない。

 

 あの男は、まだ余力を残していた。

 

 ならば、自分も立ち止まるわけにはいかない。

 

 特に、自然エネルギーについては調べる必要がある。

 

 枢流陀一族が持っていたという能力。

 

 緋の眼を発動した時、自分の身体には何が起こっているのか。

 

 その答えを見つけることができれば、今後の戦いに大きく役立つかもしれない。

 

「……そうか」

 

 自来也は心をじっと見つめ、やがて口元を緩めた。

 

「お前さんも、なかなか難儀な性格をしておるのぉ。まだ子供じゃというのに、背負い込むものが多すぎる」

 

「……自覚はあります」

 

「なら、少しは周りを頼れ。お前さんの仲間は、守られるだけの存在ではないのじゃろう?」

 

「……はい」

 

 その言葉に、心は静かに頷いた。

 

 サスケも、ナルトも、サクラも。

 

 彼らはもう、自分が一方的に守るだけの存在ではない。

 

 第二試験で、それを身をもって教えられた。

 

「よし。それでは、各自準備を進めよう」

 

 ヒルゼンが話を締めくくった。

 

「本戦当日まで、残された時間は1ヶ月。その間にできる限りの備えを整える。心、お前も決して無理はするな」

 

「はい。ありがとうございます、火影様」

 

 心は深く頭を下げた。

 

 火影室を出る直前、ふと振り返る。

 

 ヒルゼンは机の上の書類に目を落とし、カカシと自来也はこれからの準備について話し始めていた。

 

 未来は、少しずつ変わり始めている。

 

 けれど、まだ安心するには早い。

 

 大蛇丸が何を考え、どこまで準備を進めているのか。

 

 そして、自分が知っている未来がどこまで変化するのか。

 

 それは、誰にもわからない。

 

 心は静かに扉を閉めた。

 

 ――今度こそ、守り抜いてみせる。

 

 胸の内でそう誓いながら、彼は火影室を後にした。

 

     ◇

 

 その頃、火影室では――。

 

「……自来也」

 

 ヒルゼンが、去っていった心のことを思いながら口を開いた。

 

「あの子は、まだ十二歳だ。だが、時折……その年齢とは思えぬほどの覚悟を見せる」

 

「そうじゃな」

 

 自来也は窓の外へ目を向けた。

 

「何かを知っておるようにも見える。じゃが、それを無理に聞き出すのは得策ではないじゃろう」

 

「私もそう思います」

 

 カカシが頷く。

 

「少なくとも、あいつが仲間を守ろうとしていることは確かです。第二試験でも、自分の命が危険にさらされているのに、サスケとサクラを庇っていました」

 

「だからこそ、我々が支えてやらねばならん」

 

 ヒルゼンは、再び窓の外へ視線を向けた。

 

 木ノ葉の里は、いつもと変わらぬ日常を営んでいる。

 

 子供たちの笑い声が聞こえ、商店街には人々が行き交っていた。

 

 この平穏を守ること。

 

 それが、火影としての責務だ。

 

「大蛇丸……」

 

 ヒルゼンは、かつての教え子の名を静かに呟いた。

 

「今度こそ、お前を止めてみせる」

 

 その声は、誰に聞かせるでもなく、静かに室内へ溶けていった。

 

     ◇

 

 火影室を出た心は、夕暮れの里を歩いていた。

 

 山籠もりの準備をしなければならない。

 

 食料、寝具、修行に必要な道具。

 

 そして何より、自然エネルギーについて調べるための時間を確保する必要がある。

 

 だが、その前に――。

 

「……みんなに、ちゃんと伝えておくか」

 

 修行を任せることになった三人。

 

 突然師匠が変わると聞けば、戸惑うかもしれない。

 

 特にナルトは、何かと騒ぎそうだ。

 

 心は苦笑しながら、仲間たちの家へ向かう道を選んだ。

 

 中忍試験本戦まで、あと1ヶ月。

 

 それぞれが、それぞれの課題に向き合う時間が始まろうとしていた。

 

 

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