翌日。
心は、いつもの修練場に三人の仲間を呼び出していた。
「それで、話って何だってばよ?」
ナルトが首を傾げる。
隣にはサスケとサクラ。三人とも、本戦までの一か月をどう過ごすか考えていたところだった。
心は腕を組み、順番に三人を見た。
「昨日、火影室に行ってきた。そこで、お前たちの修行を見てくれる先生を見つけてきたんだ」
「先生?」
サクラが聞き返す。
「ああ。サスケはカカシ先生。ナルトは自来也さん。そして、サクラは紅先生だ」
「その自来也?って誰だってばよ?」
「バカ!ナルト!!あの伝説の三忍、自来也様よ!?」
誰だかわかってないナルトに、サクラが驚きながら自来也の事を教える。
「ふ〜ん。その三忍?というのがオレの修行を見てくれるのか?」
「そういうことだ。カカシ先生にはサスケの写輪眼を含めた戦闘能力の向上を、紅先生にはサクラの適性を踏まえた修行をお願いしてある」
「……カカシが、か」
サスケは少し考え込むような表情を浮かべた。
自分の写輪眼については、まだ使いこなせているとは言い難い。さらに、首筋には大蛇丸に刻まれた呪印がある。
カカシならば、その二つを踏まえたうえで修行をつけてくれるだろう。
「サクラも、いい先生にお願いできたと思う。紅先生は幻術を得意としているからな。お前のチャクラコントロールのよさを活かせるかもしれない」
「幻術……」
サクラは自分の手を見つめた。
これまで、彼女はナルトやサスケと比べて、自分には突出した能力がないと思っていた。
けれど、心との修行を通じて、チャクラコントロールという自分の長所を知った。
大蛇丸との戦いでは、まだまだ実力不足だと思い知らされた。
だからこそ、今回の機会はありがたい。
「うん! 紅先生にしっかり教えてもらうわ!」
「その意気だ」
心は満足そうに頷いた。
そして、懐から三枚の紙を取り出した。
「それと、これを渡しておく」
「何だってばよ?」
「俺が考えた修行メニュー表だ」
それぞれの名前が書かれた紙を、三人に手渡す。
「担当の先生からも修行を受けることになるから、量はそれほど多くない。あくまで、修行の合間にできるメニューだ。時間がある時に取り組んでくれ」
「修行の合間……?」
サクラが紙を受け取り、内容を確認する。
数秒後。
「……心。普通、修行の合間って休憩する時間じゃないの?」
「休憩も大切だぞ」
「だったら、どうして休憩時間にまで修行があるのよ!」
「休憩だけで強くなれるなら、俺もそうしたいんだけどな」
「絶対に思ってないでしょ!」
サクラが即座に突っ込んだ。
一方、ナルトはメニュー表を見たまま、みるみる顔を曇らせていく。
「うげぇ……。これ、全部やんのかってばよ……?」
「無理のない範囲でいい。担当の先生から指示があったら、そちらを優先してくれ」
「いやいやいや! そういう問題じゃねえってばよ!」
ナルトが紙を掲げる。
「なんでオレのメニュー、影分身を使うやつばっかりなんだよ!?」
「お前の得意分野を活かすためだ」
「得意分野って……影分身は得意だけどよ!」
「なら問題ないな」
「あるってばよぉぉぉ!」
ナルトの悲鳴が修練場に響き渡った。
その横では、サスケが黙々とメニュー表を読み込んでいた。
その表情は真剣そのものだ。
心は二人の反応を見て、わずかに目を細めた。
「……何か文句でもあるのか?」
じろり、と睨む。
「な、ないわよ!」
サクラが慌てて首を振った。
「オ、オレもねえってばよ!」
ナルトも慌てて紙を抱え込む。
そしてサスケは――。
「……ふっ」
小さく笑った。
「サスケ、お前は何がおかしいんだ?」
「いや。お前らしいと思っただけだ」
「ほう?」
心が目を細める。
サスケは何事もなかったかのように、再びメニュー表へ視線を落とした。
「……別に、文句はない。やるべきことが書いてあるなら、やるだけだ」
「最初からそう言えばいいんだよ」
心は肩をすくめた。
だが、内心では少し安心していた。
この三人なら、きっと自分の想像以上に成長してくれる。
だからこそ、今回のメニューも、それぞれの長所と課題を踏まえて作っていた。
◇
まず、サスケのメニュー。
内容は、写輪眼を用いた動体視力の訓練、体術と手裏剣術の連携、そしてチャクラコントロールの精度をさらに高めるための反復練習だ。
サスケはすでに、心との訓練で基礎的な身体能力やチャクラコントロールを大きく伸ばしている。
今必要なのは、身につけた力を実戦で最大限に発揮すること。
写輪眼で見切った動きを、自分の身体で再現する。
相手の動きを読めても、身体が追いつかなければ意味がない。
そして、もう一つ。
呪印の影響を受けている間は、無理に力を引き出そうとしないこと。
その点については、カカシがきちんと管理してくれるはずだった。
――原作では、この時期にカカシがサスケへ千鳥を教える。
心も、その可能性は十分にあると考えていた。
ただし、今のサスケは原作のサスケよりも基礎能力が高い。写輪眼もすでに二つ巴まで進化している。
千鳥を習得するにしても、単に技を覚えるだけでは終わらないだろう。
カカシなら、サスケの強みを伸ばしながら、弱点も見極めてくれるはずだ。
◇
次に、サクラのメニュー。
こちらは、幻術への対処、相手のチャクラの乱れを見抜くための観察訓練、そしてチャクラコントロールを維持しながらの回避運動が中心だった。
幻術を得意とする紅の指導を受けるなら、まずは幻術を見破り、対処するための基礎が必要になる。
もちろん、サクラの優れたチャクラコントロールを伸ばす訓練も欠かせない。
体術も引き続き鍛える。
サクラはすでに、心との訓練で身体強化の基礎を身につけつつある。
その力を無駄なく扱えるようになれば、攻撃を当てる瞬間にチャクラを集中させることも可能になるだろう。
ただし、力任せに殴ればいいわけではない。
相手の動きを読み、隙を見つけ、必要な瞬間に力を込める。
サクラには、その方向で成長してほしいと心は考えていた。
「……幻術の修行かぁ」
サクラがメニュー表を見ながら呟く。
「私、ちゃんとできるかな?」
「できるかどうかは、やってみないとわからない。でも、お前にはチャクラコントロールという武器がある。そこは自信を持っていい」
「……うん!」
サクラは、ぎゅっと紙を握りしめた。
「絶対に強くなってみせるわ!」
「その意気だ」
◇
そして、ナルトのメニュー。
心は、ナルトの紙に目を落とした。
そこには、多重影分身の術を利用した修行方法が記されている。
その中心となるのは、チャクラの性質変化だ。
ナルトには、原作知識から風の性質に適性がある可能性が高いと心は考えていた。
もちろん、まだ確定ではない。
だから、まずはチャクラの性質を調べるための紙を一緒に渡してある。
その紙にチャクラを流し込めば、どの性質に適性があるかを確認できる。
そして、適性がわかったら、性質変化の修行に取り組む。
多重影分身を利用して経験を積み重ねれば、通常よりも効率よく修行を進められるはずだ。
ただし、影分身が解除された時に大量の経験が一気に戻ってくる負担は無視できない。
心自身も、その危険性をよく知っている。
だからこそ、ナルトには無理をしないよう、きちんと注意書きを入れていた。
――原作では、水面歩行の修行でチャクラを使い切り、九尾のチャクラを引き出す方法を探る流れになる。
だが、今のナルトは水面歩行をすでに習得している。
同じ修行を繰り返す必要はない。
自来也が九尾のチャクラを引き出す方法を教える可能性は高いが、それと並行して、ナルト自身の能力も伸ばすべきだ。
風の性質変化を身につければ、将来の戦闘で大きな武器になる。
心はそう考えていた。
「……なあ、心」
ナルトが不安そうに顔を上げる。
「これ、どうやってやるんだ?」
「紙に書いてあるだろ。まずはチャクラの性質を調べる。適性がわかったら、書いてある手順で練習すればいい」
「……字が多いってばよ」
「ちゃんと読め」
「うぐっ!」
ナルトが呻いた。
サクラが呆れたようにため息をつく。
「ナルト、修行以前に、説明を読むところから始めた方がいいんじゃない?」
「うるせー! ちゃんと読むってばよ!」
いつもの調子に戻ったナルトを見て、心は小さく笑った。
こうして三人に必要な修行を用意することはできた。
あとは、それぞれが自分の師匠のもとで何を学び、どこまで成長するかだ。
「それじゃあ、俺は行く」
「え? もう?」
サクラが驚く。
「山に籠もって修行するって言っただろ。準備もあるし、あまり時間を無駄にしたくない」
「……そうだったな」
サスケが頷く。
「お前が戻ってきた時、今より強くなっている。覚悟しておけ」
「楽しみにしてるよ」
心は笑みを返した。
「オレだって負けねえぞ! 次に会った時は、びっくりするくらい強くなってやるってばよ!」
「私もよ。心が驚くくらい強くなるんだから!」
三人の言葉に、心は満足そうに頷いた。
「期待してる」
そして、心は三人に背を向けた。
「じゃあな。また本戦で会おう」
「おう!」
「うん!」
「……ああ」
それぞれの返事を背中で聞きながら、心は修練場を後にした。
◇
――とはいえ。
山籠もりと言っても、心はまだ木ノ葉の里から出ていなかった。
彼が向かったのは、里の外れにある森の中の修練場だった。
人目につきにくく、周囲に迷惑をかける心配も少ない場所だ。
心は木々の間を抜け、開けた場所へ出ると足を止めた。
「……さて」
ここで、これから一か月の修行を始める。
だが、今回の目的は単純な身体能力の強化ではない。
大蛇丸との戦いで知った、枢流陀一族の秘密。
緋の眼を発動している間、周囲の自然エネルギーを吸収し、チャクラへと変換する能力。
それが本当なら、自分の身体にはまだ知らない可能性が眠っている。
自然エネルギーを理解し、制御することができれば、今よりも強くなれるかもしれない。
問題は、その研究をどこで行うかだった。
木ノ葉の森でも自然エネルギーは存在するだろう。
しかし、自然エネルギーを扱うための知識がないまま、手探りで研究するのは危険だ。
何より、自然エネルギーが豊富な場所で試した方が、変化を確かめやすい。
そこで心が思い出したのが、口寄せの術だった。
「……確か、自来也も似たようなことをしていたはずなんだよな」
前世で見た原作の記憶。
あるいは、スピンオフ作品の内容だったかもしれない。
幼い頃の自来也は、契約していない状態で口寄せの術を使い、どこか別の場所へ飛ばされたことがあった。
その場所は、蝦蟇たちが暮らす世界。
妙木山。
自然エネルギーが豊富に存在し、仙術に関する知識も伝わっている場所だ。
記憶が正確なら、契約していなくても、口寄せの術によってそこへ飛ばされる可能性がある。
もちろん、確実ではない。
記憶違いかもしれないし、何らかの条件があった可能性もある。
それでも、試してみる価値は十分にあった。
「……よし」
心は両手を合わせた。
口寄せの術は、チャクラを消費して契約した対象を呼び出す術だ。
通常は契約を結んだ相手を呼び出すものだが、逆に術者自身が別の場所へ飛ばされる現象が起こる可能性もある。
それが、いわゆる逆口寄せだ。
心はまだ、蝦蟇との契約を結んでいない。
だが、今回はそれでいい。
契約がなくても妙木山へ飛ばされる可能性があるのなら、まずは試すだけだ。
心は指先を噛み、血をにじませた。
そして地面に手をつく。
「口寄せの術!」
瞬間、足元に術式が広がった。
煙が爆発的に立ち上り、視界を白く染め上げる。
「――っ!?」
身体が、強烈な力に引っ張られた。
まるで地面そのものが消え、身体が別の場所へ引きずり込まれるような感覚。
心は思わず目を見開いた。
成功したのか。
それとも、ただ術が暴発しただけなのか。
判断する間もなく、視界がぐにゃりと歪む。
足元の感覚が消え、身体が宙へ放り出された。
「うおっ!?」
心の身体が、白い煙の向こうへと消えていく。
次の瞬間――。
木ノ葉の森から、彼の姿は完全に消失した。
◇
風が吹いていた。
木々のざわめきはなく、代わりに聞こえてくるのは、どこか遠くから響く水の音。
心は、柔らかな地面に転がるようにして着地した。
「いっ……!」
慌てて身体を起こし、周囲を見渡す。
そこには、見慣れない景色が広がっていた。
巨大な岩山。
見上げるほどに高い崖。
そして、あちこちに生い茂る植物。
空気は澄み切っており、木ノ葉の森とは明らかに違う。
何より、肌に触れる空気そのものに、妙な濃密さがあった。
心は目を細めた。
緋の眼は、まだ発動していない。
それでも、身体が何かを感じ取っている。
ここには、何かがある。
自然そのものが持つ、目には見えない力。
心はゆっくりと立ち上がった。
「……ここが、妙木山……?」
確信はなかった。
だが、もし記憶が正しければ――。
この場所には、自分が求めている答えがあるかもしれない。
その時だった。
「……ん?」
心は、背後から近づいてくる気配に気づいた。
振り返る。
そこには――。
人間のように二本足で立つ、巨大な蝦蟇の姿があった。
蝦蟇は心を見下ろし、目を細める。
「……おい、人間。お前、どこから入ってきた?」
心は一瞬、言葉を失った。
――本当に来てしまった。
しかも、いきなり見つかったらしい。
心は内心で冷や汗を流しながら、ゆっくりと両手を上げた。
「ええと……話せばわかると思います」
「……何を言っている?」
蝦蟇の目が、ますます険しくなった。
どうやら、先行きは少々不安なものになりそうだった。