クルタ族転生   作:ryyonn

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山頂に待つモノ、それぞれの成長

 

 

 心が走り続けて、一週間が経過した。

 

 そして、二週目に突入していた。

 

 最低限の睡眠と、どうしても避けられないトイレの時間。それ以外、心はひたすら走り続けていた。

 

 食事は道中で見つけた、食べられそうな果物だ。

 

 木々の間を駆け抜けながら、視界に果実が入れば手を伸ばしてむしり取る。そのまま口に放り込み、咀嚼しながら走る。

 

 立ち止まる時間すら惜しかった。

 

 全力疾走。

 

 ひたすら全力疾走。

 

 それを延々と繰り返す。

 

 普通の人間なら、とうの昔に体力が尽きているだろう。忍であっても、これほどの無茶を続ければ身体が悲鳴を上げるはずだ。

 

 だが、心は走り続けていた。

 

 緋の眼を発動させ、身体能力を底上げする。

 

 さらに、纏ったチャクラを身体の周囲に維持し、堅へと移行させる。

 

 しかし、堅を維持しながらの全力疾走は、想像以上に過酷だった。

 

 緋の眼を発動させているだけなら、今の心にとって大した負担ではない。

 

 これまでの修行によって、緋の眼の維持だけなら一日どころか二日続けても、ほとんど疲労を感じなくなっていた。

 

 だが、それはあくまで緋の眼を維持するだけの話だ。

 

 全力で走り続け、堅を維持し、周囲への警戒も怠らない。

 

 肉体にも精神にも、絶え間なく負荷がかかっていた。

 

「……っ、はぁ……っ、はぁ……!」

 

 呼吸が荒い。

 

 全身から汗が噴き出し、服は何度も汗で濡れていた。

 

 それでも、心は速度を落とさない。

 

 ――まだだ。

 

 ――まだ走れる。

 

 ――止まるな。

 

 そう自分に言い聞かせ、足を動かし続ける。

 

 そして、数日が経過した頃。

 

 心の身体に変化が現れ始めた。

 

「……あれ?」

 

 走りながら、心はわずかな違和感を覚えた。

 

 疲れている。

 

 当然だ。

 

 これだけ無茶をしているのだから、疲労がなくなるはずもない。

 

 しかし、以前と比べて、その疲労が少し軽くなっていた。

 

 全力疾走を続けたときに感じていた脚の重さ。

 

 堅を維持する際に生じていた、じわじわと身体の内側を削られるような負担。

 

 それらが、少しずつ軽減されている。

 

「……もしかして、慣れてきたのか?」

 

 心は走りながら、自分の身体を確かめた。

 

 堅を維持する。

 

 以前なら、しばらくすると集中力が乱れ、チャクラの制御が甘くなっていた。

 

 だが、今は違う。

 

 維持できる時間が、確実に延びていた。

 

 チャクラの流れも安定している。

 

 全力疾走による肉体への負担にも、少しずつ適応しているようだった。

 

 間違いなく、成長している。

 

 修行の成果が出ているのだ。

 

 本来なら、喜ぶべきことだった。

 

「……よし、成長してるぞ、俺!」

 

 心は小さく拳を握った。

 

 しかし、その表情はすぐに曇る。

 

「……で、いつ着くんだよ」

 

 そう。

 

 問題はそこだった。

 

 成長している。

 

 それは間違いない。

 

 だが、目的地に到着できていない。

 

 あの蝦蟇が指し示した方向へ、何日も走り続けている。

 

 それなのに、目的地はまだ遠い。

 

 そもそも、あの蝦蟇の言葉を信じてよかったのだろうか。

 

 約一万キロ。

 

 改めて考えてみても、正気の沙汰ではない。

 

「……くそっ。あの蝦蟇、帰りのことも考えてくれよ……」

 

 愚痴がこぼれる。

 

 このまま山頂に辿り着いたとして、帰り道はどうするのか。

 

 また一万キロ走れとでもいうのだろうか。

 

 考えれば考えるほど、不安が膨らんでいく。

 

 目的地が見つからなかったら?

 

 山頂に何もなかったら?

 

 そもそも、自然エネルギーを扱う手掛かりなど、本当に得られるのだろうか?

 

 考えることは、いくらでもあった。

 

 だが、考えても答えは出ない。

 

 そして、不安ばかりが心を蝕んでいく。

 

 ――なら。

 

 心は、ふと考えた。

 

 ――考えなければいいんじゃないか?

 

 単純な結論だった。

 

 不安になるのは、先のことを考えるからだ。

 

 目的地に辿り着けるかどうか。

 

 その先に何が待っているのか。

 

 そんなことを考えたところで、今の自分にできることは変わらない。

 

 走ること。

 

 それだけだ。

 

「……よし」

 

 心は、余計な思考を切り捨てた。

 

 目的地のことも、帰り道のことも、自然エネルギーのことも。

 

 いったん、すべて頭の隅に追いやる。

 

 ただ、走る。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 足を前へと運ぶ。

 

 呼吸を整え、チャクラを制御し、堅を維持する。

 

 余計なことは考えない。

 

 ただ、走り続ける。

 

 それからの心は、ほとんど無心だった。

 

 不安に心を乱されることもなく、ただひたすら前へ進み続けた。

 

 そして――。

 

 二週目の半ばを過ぎた頃。

 

「…………」

 

 心は、ようやく足を止めた。

 

 目の前には、巨大な山がそびえ立っていた。

 

 見上げても、頂上が遠い。

 

 山肌は険しく、周囲には人の気配もない。

 

 だが、心にはわかった。

 

 ここまで走り続けてきた道の先。

 

 あの蝦蟇が示した場所。

 

 ようやく、辿り着いたのだ。

 

「……はぁ……っ、はぁ……」

 

 荒くなった息を整えながら、心は山を見上げた。

 

「……ここが、あのくそ蝦蟇が言っていた山か?」

 

 返事はない。

 

 当然だ。

 

 ここには、心しかいないのだから。

 

 心は山を見つめた。

 

 目的地に着いた。

 

 そう理解しているはずなのに、喜びが湧いてこない。

 

 極度の疲労によって、思考能力がほとんど停止していた。

 

 もはや、何かを考えることすら億劫だった。

 

「……登るか」

 

 それだけ呟くと、心は山へ足を踏み入れた。

 

 ここまで来たのだ。

 

 山頂に何があるのか。

 

 それを確かめなければ、意味がない。

 

 心は再び、歩き始めた。

 

 今度は走らない。

 

 足場の悪い山道を、一歩ずつ登っていく。

 

 木の根を越え、岩場を抜け、急斜面をよじ登る。

 

 途中、何度も足が止まりそうになった。

 

 それでも、心は進んだ。

 

 頭は働かない。

 

 身体は重い。

 

 それでも、足だけは前へと動いていた。

 

 そして、数時間後。

 

 心は、ついに山頂へと辿り着いた。

 

「…………」

 

 そこは、奇妙な場所だった。

 

 山頂であるにもかかわらず、周囲は不思議なほど静かだった。

 

 風の音さえ、遠く感じる。

 

 そして、その中央に――。

 

 一羽の巨大な鳥がいた。

 

 真っ赤な羽毛。

 

 燃え盛る炎を思わせる、鮮烈な赤色。

 

 翼を畳んでいるだけなのに、圧倒的な存在感があった。

 

 その姿を見た瞬間、心の脳裏に前世の記憶がよみがえった。

 

 ――朱雀。

 

 中国の伝説に登場する、南方を守護する神獣。

 

 もちろん、目の前の鳥が本当に朱雀なのかはわからない。

 

 だが、その姿は、心が前世で知っていた幻獣の朱雀を彷彿とさせた。

 

 巨大な鳥は、ゆっくりと首を動かした。

 

 そして、心を見つめる。

 

『……ほう』

 

 声が響いた。

 

 口を開いたわけではない。

 

 それでも、心には確かに聞こえた。

 

『枢流陀一族がここへ来るとは、いったい何年ぶりのことだろうな』

 

「……っ」

 

 心の意識が、わずかに浮上した。

 

 枢流陀一族。

 

 その名を、この鳥は知っている。

 

 しかも、ここへ来た一族の人間が、過去にも存在していたという。

 

 つまり――。

 

 ここが、あの蝦蟇の言っていた目的地なのだ。

 

 自然エネルギーを学ぶための手掛かりが、ここにある。

 

 その確信が、ようやく心の中に生まれた。

 

「……やっと……着いた……」

 

 安堵の言葉が、かすれた声となって漏れた。

 

 その瞬間だった。

 

 張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。

 

 これまで心を支えていたのは、目的地へ辿り着くという執念だった。

 

 疲労も、不安も、先の見えない焦燥も。

 

 すべてを押し殺し、ただ前へ進み続けてきた。

 

 だが、もう、その必要はない。

 

 目的地に辿り着いた。

 

 ようやく、辿り着いたのだ。

 

「……あとは……頼んだ……」

 

 誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。

 

 心はその場で膝をつき――。

 

 そのまま、前へと倒れ込んだ。

 

 意識が、闇に沈んでいく。

 

『……まったく』

 

 巨大な鳥は、倒れた心を見下ろした。

 

『人の身で、よくぞここまで辿り着いたものだ』

 

 その赤い瞳が、静かに細められる。

 

『しかも、枢流陀の緋の眼を宿しているとは……』

 

 鳥は翼を広げた。

 

 燃え盛るような赤い羽毛が、山頂の空気を揺らす。

 

『目覚めるまで、しばし休むがよい』

 

 その声を最後に、山頂は再び静寂に包まれた。

 

 心の長い旅路は、ひとまず終わりを迎えたのだった。

 

 

 

◇一方、その頃――木ノ葉隠れの里◇

 

 

◇うちはサスケ◇

 

「――来い、サスケ!」

 

「言われなくても!」

 

 雷鳴が、訓練場に轟いた。

 

 サスケの右手に、青白い雷光が集束している。

 

 バチバチバチバチッ!

 

 無数の鳥がさえずるような音。

 

 千鳥。

 

 カカシが長年磨き上げてきた、雷遁の高等忍術。

 

 それを、サスケは自分のものにしていた。

 

 しかも、習得速度は異常なほど速い。

 

 もちろん、一度使えるようになったからといって、完成というわけではない。

 

 千鳥は突進力に優れる一方、使用者の視野が狭くなるという欠点を持つ。

 

 写輪眼による動体視力がなければ、相手の反撃に対応することは難しい。

 

 その点、サスケには写輪眼がある。

 

 だが、写輪眼があるからといって、すべての攻撃を見切れるわけではない。

 

「はあああっ!」

 

 サスケが地面を蹴った。

 

 一瞬で距離を詰め、千鳥を構えた右手を突き出す。

 

 対するカカシは、紙一重で身体を捌いた。

 

「惜しいな」

 

「まだだ!」

 

 サスケは即座に体勢を立て直し、左手で苦無を投げつける。

 

 カカシは首を傾けてかわした。

 

 その隙を狙い、サスケが再び踏み込む。

 

 今度は千鳥を使わない。

 

 近距離での体術へと切り替えたのだ。

 

「へえ……」

 

 カカシの目が細まった。

 

 サスケは、ただ千鳥を習得しただけではない。

 

 千鳥を使うための動き。

 

 その前後に繋げる体術。

 

 相手に避けられた場合の次の行動。

 

 それらを、自分なりに組み立て始めていた。

 

 さらに、サスケの動きには、あの戦いで見たものが反映されていた。

 

 枢流陀心とロック・リーの試合。

 

 写輪眼を通して見た、心の体術。

 

 相手の攻撃を正面から受け止めるのではなく、わずかな角度で受け流し、相手の力を利用する技術。

 

 あの動きを、サスケは忘れていなかった。

 

 いや、忘れられるはずがなかった。

 

 心は、自分よりも強い。

 

 その事実を、サスケは認めている。

 

 だが、だからといって、追いつくことを諦めるつもりはなかった。

 

 いつか、隣に並ぶ。

 

 そして、今度こそ、背中を預け合える存在になる。

 

 それが、サスケの目標だった。

 

「……いいぞ、サスケ」

 

 カカシは、わずかに口元を緩めた。

 

「でも、まだまだだな」

 

「……わかっている」

 

 サスケは息を整えながら答えた。

 

 悔しさはある。

 

 だが、今の自分に足りないものも理解していた。

 

「もう一度だ」

 

「はいはい。元気だねえ」

 

 カカシは肩をすくめた。

 

 その声音はいつも通り気の抜けたものだったが、内心では別のことを考えていた。

 

 ――あの試合を見ていたのは、サスケだけじゃない。

 

 カカシ自身も、写輪眼を通して心とリーの戦いを見ていた。

 

 あの試合は、カカシにとっても刺激的なものだった。

 

 心の技術。

 

 リーの努力。

 

 そして、二人が限界を超えていく姿。

 

 自分も、まだ成長できる。

 

 そう思わせるだけのものがあった。

 

 だからこそ、カカシも手を抜いてはいなかった。

 

 サスケを鍛えることは、自分自身の技術を見直すことにも繋がる。

 

 互いに磨き合い、互いに強くなる。

 

 この一ヶ月は、サスケにとってもカカシにとっても、決して無駄にはならないだろう。

 

「サスケ。次は千鳥を使わずに、俺から一本取ってみろ」

 

「……望むところだ」

 

 二人は、再び構えた。

 

 訓練場に、鋭い足音が響き渡る。

 

 サスケもまた、確実に進化していた。

 

 

 

◇春野サクラ◇

 

「――もう一度、やってみて」

 

「はい!」

 

 紅の言葉に、サクラは力強く頷いた。

 

 二人がいるのは、木ノ葉の森の一角。

 

 幻術の修行に適した、静かな訓練場所だった。

 

 紅はサクラに幻術の基礎を教え、そこから応用へと進めていた。

 

 幻術を見破る方法。

 

 幻術にかかった際の対処。

 

 相手の感覚を惑わせるためのチャクラ操作。

 

 そして、幻術を仕掛ける際に必要な観察力。

 

 サクラは、それらを驚くほどの速さで吸収していた。

 

「……本当に、覚えが早いわね」

 

 紅は感心したように呟いた。

 

 幻術は、単にチャクラを操れば使えるというものではない。

 

 相手の感覚や認識を理解し、わずかな違和感を見抜く観察力も必要になる。

 

 サクラには、その両方の素質があった。

 

 もともと、彼女はチャクラコントロールに優れている。

 

 その繊細な制御能力が、幻術の習得にも役立っていた。

 

「ありがとうございます!」

 

 サクラは笑顔で答えた。

 

 だが、すぐに真剣な表情へと戻る。

 

「紅先生。私、幻術を覚えるだけじゃなくて……自分の戦い方に組み込みたいんです」

 

「自分の戦い方?」

 

「はい」

 

 サクラは拳を握った。

 

「私には、ナルトやサスケくんみたいな派手な忍術はありません。心みたいに、圧倒的な体術があるわけでもありません」

 

 言葉にすると、改めて自分の実力が見えてくる。

 

 それでも、以前のように落ち込むことはなかった。

 

「でも、私にも得意なことはあります。チャクラコントロールと、体術です」

 

 サクラは自分の手を見つめた。

 

 心の家での修行。

 

 ナルトやサスケと一緒に汗を流した日々。

 

 そして、森の中で大蛇丸と対峙したときの恐怖。

 

 自分は、仲間を守りたかった。

 

 ただ守られるだけの存在でいたくなかった。

 

 その気持ちは、今も変わらない。

 

「幻術で相手の動きを一瞬でも止められたら、その隙に懐へ入れる。逆に、体術で相手に攻撃を意識させておいて、幻術を仕掛けることもできると思うんです」

 

 紅は黙って聞いていた。

 

「相手が幻術を警戒したら、その分、体術で攻めやすくなる。体術を警戒したら、幻術を仕掛ける隙が生まれる……そんなふうに、相手に選択を迫る戦い方ができたらって」

 

 話しながら、サクラの瞳に熱が宿っていく。

 

 まだ、完成した戦術ではない。

 

 実戦で通用するかもわからない。

 

 それでも、自分なりの戦い方の輪郭は、少しずつ見えてきていた。

 

 紅は、ふっと微笑んだ。

 

「いい考えね。もちろん、幻術に頼りすぎるのは危険だけれど……あなたのチャクラコントロールと体術を活かすなら、十分に可能性はあるわ」

 

「本当ですか?」

 

「ええ。ただし、相手も忍よ。幻術に気づけば、すぐに対処してくる。だからこそ、相手が違和感を覚える前に仕掛けること。そして、幻術が破られた場合の次の手も用意しておくこと」

 

「はい!」

 

 サクラは力強く頷いた。

 

 覚えることは、まだ山ほどある。

 

 でも、進むべき方向は見えてきた。

 

 自分だけの戦い方。

 

 仲間の隣に立つための力。

 

「よーし……やってやるわよ!」

 

 サクラは両手を握り締めた。

 

「しゃんなろー!」

 

 森の中に、彼女の元気な声が響き渡った。

 

 紅は、その姿を見て小さく笑う。

 

 この少女もまた、自分の可能性を大きく広げようとしていた。

 

 

 

◇うずまきナルト◇

 

「だああああっ! 割れろってばよぉぉぉ!」

 

 轟音とともに、滝の水が大きく揺れた。

 

 だが――。

 

 滝は、割れなかった。

 

 水飛沫が周囲に散り、ナルトの金髪がびしょ濡れになる。

 

「……くっそぉぉぉ!」

 

 ナルトは地面に拳を叩きつけた。

 

 目の前にあるのは、巨大な滝。

 

 心から与えられた修行の一環として、ナルトは風の性質変化に取り組んでいた。

 

 影分身を大量に作り、それぞれに風の性質変化を練習させる。

 

 分身が消えれば、経験が本体に戻る。

 

 その方法自体は、非常に効率的だった。

 

 しかし、効率的であることと、すぐに成果が出ることは別問題だ。

 

「うおおおおっ!」

 

 ナルトが両手にチャクラを集中させる。

 

 風が巻き起こった。

 

 以前は、ほんのわずかなそよ風を起こすのが精いっぱいだった。

 

 だが、今は違う。

 

 勢いよく風が吹き荒れ、目の前の草木を大きく揺らすほどになっていた。

 

 突風と呼べるレベルには、到達している。

 

 しかし、それだけだった。

 

 風を鋭い刃のように変える。

 

 その段階には、まだ届いていない。

 

「なんでだってばよ! もっと、こう……ビュンッて! スパーンッてなるはずだろ!」

 

「説明が雑すぎるわい」

 

 隣で見ていた自来也が、呆れた声を漏らした。

 

「風の性質変化というのは、ただ風を強く吹かせればよいというものではない。チャクラの性質を変え、鋭さを持たせる必要があるんじゃ」

 

「んなこと、わかってるってばよ!」

 

「わかっとらんから、滝が割れんのじゃろうが」

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

 ナルトは悔しそうに歯を食いしばった。

 

 だが、すぐに顔を上げる。

 

「よし! もう一回だ!」

 

「その前に、チャクラが残っとるのか?」

 

「……あ」

 

 ナルトは、自分の手を見つめた。

 

 ほとんど空っぽだった。

 

 影分身を大量に使って修行し、その経験を本体に戻す。

 

 それを何度も繰り返した結果、身体は疲労し、チャクラもほぼ尽きていた。

 

「……じゃあ、次は口寄せの修行だってばよ!」

 

「おう。そうじゃな」

 

 自来也は、どこか遠い目をした。

 

 風の性質変化も、まだ道半ば。

 

 そして、口寄せの術に至っては――。

 

「よし! いくぜ!」

 

 ナルトは指を噛み、地面に手を叩きつけた。

 

「口寄せの術!」

 

 煙が立ち上る。

 

 自来也は、わずかな期待を込めて煙の向こうを見つめた。

 

 もしかしたら、今回は。

 

 少しはまともな蛙が呼び出されるかもしれない。

 

 そんな淡い期待があった。

 

 煙が晴れる。

 

 そこにいたのは――。

 

「……」

 

「……」

 

 おたまじゃくしだった。

 

 またしても。

 

「…………はぁぁぁぁぁぁ……」

 

 自来也は、深く、深くため息をついた。

 

「お主、ほんっとうに才能ないのぉ……」

 

「なっ!? うるせーってばよ! まだ終わってねえ!」

 

 ナルトは反論しながら、おたまじゃくしを指差した。

 

「よく見ろってばよ!」

 

「ん?」

 

 自来也が視線を向ける。

 

 すると、おたまじゃくしが――。

 

 ぴょん。

 

 ぴょん。

 

 小さく跳ねた。

 

 その身体には、短い足が生えていた。

 

「足が生えてるじゃねぇか! 前より成長してるってばよ!」

 

 ナルトは胸を張った。

 

 自分の成長を、これでもかとばかりにアピールする。

 

 確かに、前に呼び出したおたまじゃくしよりは成長している。

 

 足が生えているのだから、間違いない。

 

 間違いないのだが――。

 

「……そうじゃな」

 

 自来也は、額に手を当てた。

 

「確かに成長はしとる。うん。しとるのぉ……」

 

「だろ!?」

 

「……はぁぁぁぁぁ……」

 

「なんでため息つくんだってばよ!」

 

 ナルトの叫びが、森に響き渡った。

 

 自来也は、もう一度だけ、おたまじゃくしを見た。

 

 そして、心の言葉を思い出す。

 

 ――ナルトには、まだ伸びしろがある。

 

 ――だから、頼みます。

 

「……まったく。あやつは、ずいぶんと大きな仕事を押しつけてくれたもんじゃ」

 

 自来也は小さく呟いた。

 

 だが、その目には笑みが浮かんでいた。

 

「よし、ナルト。もう一度じゃ!」

 

「おうっ!」

 

 ナルトは元気よく返事をした。

 

 何度失敗しても、諦めない。

 

 それが、うずまきナルトという少年だった。

 

 そして、その諦めの悪さこそが、彼の最大の武器なのかもしれない。

 

 三人は、それぞれの場所で成長を続けていた。

 

 サスケは、カカシとの死闘を通じて技を磨く。

 

 サクラは、幻術と体術を組み合わせた自分だけの戦い方を模索する。

 

 ナルトは、風の性質変化と口寄せの術に悪戦苦闘しながらも、決して諦めない。

 

 彼らの目標は、同じだった。

 

 次に心と顔を合わせたとき、少しでも成長した姿を見せること。

 

 そして――。

 

 遠く離れた山頂では、心がまだ意識を失ったまま横たわっていた。

 

 その傍らに立つ、燃えるような赤い羽毛を持つ巨大な鳥。

 

 鳥は、静かに心を見下ろしていた。

 

『……枢流陀一族よ』

 

 その声は、誰にも聞かれることなく山頂に響く。

 

『お前たちが受け継いできた緋の眼。そして、自然の力を取り込む資質……』

 

 赤い瞳が、心の閉じられた目を見つめた。

 

『果たして、お前はどこまで辿り着けるのだろうな』

 

 巨大な鳥は、翼をゆっくりと広げた。

 

 山頂に、赤い羽根が一枚舞い落ちる。

 

 それは、まるで心の新たな修行の始まりを告げるかのようだった。

 

 

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