クルタ族転生   作:ryyonn

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枢流陀一族と朱雀一族の過去

 

 

『……枢流陀一族と朱雀一族。この二つの一族には、長きにわたる縁があったのじゃ』

 

 朱明は懐かしむように目を細めた。

 

 心は箸を置き、静かに耳を傾ける。

 

 自分の一族が、かつてどのような存在だったのか。

 

 そして、なぜ滅びることになったのか。

 

 それを知る機会が、ようやく訪れたのだ。

 

『まだ人類がチャクラなるものを手にする、ずっと昔の話じゃ』

 

「……チャクラが生まれる前?」

 

『そうじゃ。人間が忍術を使うことも、チャクラを練り上げることもなかった時代じゃな』

 

 朱明は窓の外へと視線を向けた。

 

 そこには、朽ち果てた家屋と、長い年月を経て自然へと還りつつある集落の姿がある。

 

『この秘境は、昔から自然エネルギーに満ちておった。外の世界とは比べものにならぬほど豊かな自然があり、生命の力に溢れた土地じゃった』

 

 心は思わず周囲を見渡した。

 

 ここへ来るまでに感じていた、妙な感覚。

 

 自然の中に満ちる、目には見えない何か。

 

 もしかすると、これが自然エネルギーなのだろうか。

 

 いや、正確にはまだわからない。

 

 だが、朱明の話を聞けば聞くほど、この土地が特別な場所であることは理解できた。

 

『そこに暮らしておったのが、枢流陀一族と、ワシら朱雀一族じゃ』

 

「二つの一族が、一緒に暮らしていたんですね」

 

『うむ。互いに助け合い、支え合う仲間じゃった。少なくとも、あの男が現れるまではな』

 

 最後の言葉に、朱明の表情がわずかに曇った。

 

 しかし、彼女はまだその話には触れず、続きを語り始めた。

 

『まず、ワシら朱雀一族について説明しておこうかの』

 

「お願いします」

 

『朱雀一族は、戦闘力そのものは大したことがない。正面から敵と戦うような一族ではなかったのじゃ』

 

「……そうなんですか?」

 

 心は、少し意外に思った。

 

 目の前の朱明は、巨大な鳥の姿をしていた。

 

 しかも、その姿は神話に登場する朱雀を彷彿とさせる。

 

 そんな一族が戦闘に向いていないというのは、どうにも想像しづらかった。

 

『なんじゃ、その顔は。見た目が立派なら強いというわけでもあるまい』

 

「いえ、そういうつもりじゃ……」

 

『まあ、よい。ワシらの得意分野は索敵と隠密じゃ。気配を消し、遠くの存在を察知し、敵に気づかれることなく情報を集める。そうした能力に長けておった』

 

 心は頷いた。

 

 忍の世界で考えても、索敵と隠密は極めて重要な能力だ。

 

 直接戦う力がなくても、戦闘を避けたり、仲間を危険から遠ざけたりできる。

 

 それだけで、一族としての価値は十分にある。

 

『そして、もう一つ。朱雀一族には、特殊な能力があったのじゃ』

 

「特殊な能力?」

 

 心は身を乗り出した。

 

 自然エネルギーについて調べに来たはずなのに、思わぬ話が出てきた。

 

 だが、自分の一族と長い付き合いがあったという朱雀一族の能力だ。

 

 興味を持たずにはいられなかった。

 

 朱明は、得意げに胸を張った。

 

『朱雀一族は、死なぬのじゃ』

 

「…………は?」

 

 心は、思考を停止させた。

 

 死なない。

 

 今、死なないと言ったのか。

 

「……えっと、それは、不老不死という意味ですか?」

 

『いや、正確に言えば、死んでも蘇るのじゃ。新たな肉体を得てな』

 

「…………」

 

 心は、絶句した。

 

 死んでも蘇る。

 

 しかも、新しい肉体で。

 

 それは、忍術による蘇生とはまったく異なるものなのだろう。

 

 少なくとも、心が知る限り、そんな能力を持つ一族は存在しない。

 

 穢土転生のような術とも違うはずだ。

 

 あれは術者が死者を蘇らせるための術であり、目の前の朱明が語る能力とは性質が違う。

 

「……本当に、死んでも蘇るんですか?」

 

『うむ。もっとも、蘇るまでの時間や、どのような肉体になるかは、個体によって違いがあるがの』

 

 朱明は、まるで当たり前のことを話すように頷いた。

 

『ワシも、これまで何度も蘇ってきたものじゃ』

 

「何度も……」

 

『そうじゃぞ! そのたびに新たな肉体を得て、ぴちぴちギャルを体験してきたわい!』

 

「…………」

 

 心は、無言で朱明を見つめた。

 

『いやあ、若い肉体というものは素晴らしいのう! 肌の張りが違う! 動きも軽い! 何より、ぴちぴちギャルの気分を何度でも味わえるというのは――』

 

「……朱明様」

 

『なんじゃ?』

 

「……話を戻してもらってもいいですか?」

 

『なんじゃ、つれないのう』

 

 朱明は、実に楽しそうに笑った。

 

 心は小さくため息をつく。

 

 ――この人、いちいちおじさん臭いんだよな……。

 

 見た目は絶世の美女と言ってもいい。

 

 だが、口を開けば、どこかのおっさんのような発言ばかり飛び出してくる。

 

 しかも、本人はそれをまったく気にしていない。

 

 心は、朱明の見た目と中身の落差に、どう反応すればいいのかわからなくなっていた。

 

『まあ、ワシのように、過去の記憶を保ったまま蘇る者はごく稀じゃがの』

 

「……え?」

 

 心は、再び顔を上げた。

 

「記憶を保ったまま蘇るのは、珍しいんですか?」

 

『そうじゃ。大半の者は、以前の記憶を失って新たな生を受ける。生まれ変わったことすら、自覚せぬ者も多い』

 

「なるほど……」

 

 それなら、朱明が何度も蘇っているという話にも納得できる。

 

 ただし、彼女は記憶を保っている。

 

 つまり、過去の経験をすべて積み重ねてきた存在ということだ。

 

 それがどれほど長い年月になるのか、心には想像もつかなかった。

 

『さて、次は枢流陀一族の話じゃな』

 

 朱明の声が、少しだけ落ち着いたものに変わった。

 

『お主の一族は、ワシらとは違った』

 

 心は、自然と背筋を伸ばした。

 

『あの頃の枢流陀一族は、常に緋色の目をしておったのじゃ』

 

「……え?」

 

 心は思わず目を瞬かせた。

 

「常に、ですか?」

 

『うむ。お主のように、必要に応じて緋の眼を発動させるのではない。あの頃の枢流陀一族は、生まれながらにして、常に緋の眼を宿しておった』

 

 朱明は、心の青い瞳を見つめた。

 

 その表情には、懐かしさと、わずかな悲しみが混じっていた。

 

『今のお主とは違うのう』

 

「…………」

 

 心は、言葉を返せなかった。

 

 自分の緋の眼は、感情の高まりによって発動する。

 

 訓練を積んだことで、意識的に発動させることもできるようになった。

 

 だが、常に緋の眼だったというのなら、昔の枢流陀一族は、現在の自分とは根本的に違う存在だったことになる。

 

「……昔の一族は、どうして常に緋の眼だったんですか?」

 

『それが、枢流陀一族の本来の姿だったからじゃ』

 

「本来の姿……」

 

『お主たちは、自然エネルギーを吸収し、それを自らの力へと変換する能力を持っておった。吸収した自然エネルギーを身体に巡らせ、肉体を強化する。反応速度も、知覚能力も、常人とは比較にならぬほど優れておった』

 

 心は、息を呑んだ。

 

 それは、今の自分が目指しているものに近い。

 

 自然エネルギーを取り込み、力に変換する。

 

 ただし、昔の枢流陀一族は、それを生まれながらにして行っていたという。

 

「……じゃあ、俺の緋の眼も、本来は常に発動しているものだったんでしょうか?」

 

『さあて、そこまではわからぬ』

 

 朱明は、静かに首を振った。

 

『ワシが知っておるのは、あの頃のお主の一族が、そういう存在だったということだけじゃ。今のお主がなぜ、必要に応じて緋の眼を発動させるようになったのか。それは、ワシにもわからぬ』

 

「……そうですか」

 

 心は考え込んだ。

 

 自分の緋の眼は、感情によって能力が上がるだけのものではないのかもしれない。

 

 自然エネルギーを吸収する能力も、本来は一族の特性として備わっている。

 

 それが今の自分では、十分に引き出せていない可能性がある。

 

 ならば、今回の修行は、単なる新しい力の習得ではない。

 

 自分の一族が本来持っていた能力を取り戻すための修行なのかもしれなかった。

 

 心がそう考えていると、朱明は、ゆっくりと目を伏せた。

 

 

 

『……じゃがな』

 

 朱明の声から、先ほどまでの軽妙さが消えた。

 

『今のお主を見ておると、どうしても昔のことを思い出してしまうのう』

 

「昔のこと……ですか?」

 

『うむ。あの頃の枢流陀一族は、皆が常に緋の眼を宿しておった。お主のように、必要に応じて緋の眼を発動させる者などおらなんだ』

 

 朱明は、心の青い瞳をじっと見つめた。

 

 その眼差しには、懐かしさだけではない、深い悲しみが宿っていた。

 

「……俺の緋の眼が、今のような発動型になったのには、何か理由があるんですか?」

 

 心の問いに、朱明はすぐには答えなかった。

 

 しばらく沈黙したあと、静かに頷く。

 

『もちろんじゃ。理由もなく、あのような変化が起きたわけではない』

 

「……!」

 

 心は思わず身を乗り出した。

 

 自分の一族に何があったのか。

 

 なぜ、昔の枢流陀一族は常に緋の眼をしていたのに、今の自分は意識して発動させなければならないのか。

 

 ずっと知りたかった疑問の答えが、目の前にある。

 

「朱明様。それは――」

 

『じゃが、今はまだ話せぬ』

 

「……どうしてですか?」

 

『お主には、まず知っておかねばならぬことがある。緋の眼が変化した理由を知るだけでは、何が起きたのか、本当の意味で理解することはできぬからじゃ』

 

 朱明は、ゆっくりと窓の外へ視線を向けた。

 

 そこには、かつて枢流陀一族が暮らしていた集落の跡が広がっている。

 

『すべての始まりは、一人の男じゃった』

 

「……男?」

 

『そうじゃ。ある日、この集落に、一人の男がやって来たのじゃ』

 

 朱明の表情が、わずかに険しくなる。

 

『チャクラを持つ男じゃ』

 

 心は息を呑んだ。

 

 チャクラ。

 

 それは、この世界の忍たちが扱う力だ。

 

 だが、朱明の話によれば、この出来事が起きたのは、人類がチャクラを手にするよりもずっと昔のこと。

 

「……人類がチャクラを持つ前から、チャクラを使えたということですか?」

 

『そうじゃ。少なくとも、ワシらが暮らしておった時代には、あの男のような存在はほかにおらなんだ』

 

 朱明は、再び心へと視線を戻した。

 

『その男が何者だったのか。そして、何をもたらしたのか。それを知らねば、お主の一族に何が起きたのかも理解できぬ』

 

 心は拳を握り締めた。

 

 緋の眼が発動型になった理由。

 

 枢流陀一族の過去。

 

 そして、一族の運命を変えた男。

 

 それらは、すべて繋がっている。

 

「……教えてください、朱明様。その男について」

 

『うむ。話してやろう』

 

 朱明は、遠い過去を思い返すように目を細めた。

 

『あれは、人の歴史が大きく動き始める、ほんの少し前のことじゃった……』

 

 

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