◇木ノ葉隠れの里――心◇
朱明の背中に乗り、空を飛ぶこと数時間。
眼下には山々や森が広がり、遠くには町や村も見える。
「それにしても、空を飛ぶのは気持ちいいですね」
「そうじゃろう。地上を走るのとは見える景色が違うからの」
朱明は翼を大きく広げ、風に乗るように飛んでいた。
「ところで、心よ」
「はい?」
「先ほどの修行で得た力じゃが、決して無理をして使うでないぞ」
「分かっています。まだ、どれくらい自然エネルギーを取り込めるのかも、どれくらい維持できるのかも分かっていませんから」
「うむ。特に、自然エネルギーを取り込みすぎることには注意せよ。自分の身体で扱える量を見誤れば、危険なことになる」
「気をつけます」
俺は頷いた。
自然エネルギーを自分の意思で取り込むことで、通常時の緋の眼よりもさらに能力が向上する。
五日間の修行で得た新しい力だ。
しかし、まだ使いこなせるとは言えない。
実戦で試すのは、十分に制御できるようになってからだろう。
「それと、朱雀一族の者を呼び出すときは、相手によって性格も能力も違う。わしのように話が通じる者ばかりではないぞ」
「……それは少し不安ですね」
「はっはっは! まあ、呼び出してみれば分かるじゃろう」
そんな話をしているうちに、遠くに見覚えのある景色が見えてきた。
木ノ葉隠れの里だ。
「見えてきましたね」
「うむ。もう少しじゃ」
朱明は速度を上げた。
そして、里の外れにある森へと降り立った。
俺は背中から飛び降り、朱明を見上げる。
「ここまで送っていただいて、ありがとうございました」
「なに、気にするでない」
朱明は人の姿へと戻った。
「それより、枢流陀一族のことを忘れるでないぞ」
「はい」
「そして、わしら朱雀一族との契約もじゃ。何かあれば呼ぶがよい」
「分かりました」
朱明は満足そうに頷いた。
「ではな、心。また会おう」
そう言うと、朱明の姿が煙に包まれた。
次の瞬間には、巨大な朱い鳥の姿となり、空へと舞い上がっていった。
俺はその姿が見えなくなるまで見送った。
「……さて、帰るか」
本戦まで残された時間は三日。
俺は仲間たちの待つ里へと歩き始めた。
◇木ノ葉隠れの里――病院◇
「おい、ナルト。調子はどうじゃ?」
病室の扉を開けた自来也は、ベッドの上で横になっているナルトに声をかけた。
「もう平気だってばよ!」
ナルトは元気よく答えた。
もっとも、まだ完全に回復したわけではない。
九尾のチャクラを引き出し、ガマブン太を口寄せした反動は大きかった。
「まったく、無茶をしおって」
「でも、ガマ親分を呼び出せたんだってばよ!」
「ああ。そこはよくやった」
親分?と一瞬疑問に思う自来也だったが、聞き流すことにした。
「だが、あの蝦蟇を自由に呼び出せるようになったわけではない。九尾のチャクラを自分の意思で引き出せたのも、今回が初めてじゃろう」
「そうだけどよ……」
「これからは、その力を自分の意思で引き出し、制御する練習が必要じゃ」
ナルトは真剣な顔で頷いた。
「分かったってばよ!」
「よし。身体が回復したら、また修行じゃ」
「おう!」
自来也は満足そうに笑った。
ナルトは大きな一歩を踏み出した。
しかし、まだ先は長い。
九尾の力を使いこなすには、これからの修行が重要になる。
◇木ノ葉隠れの里――心◇
里へ戻った俺は、まず自宅へ向かった。
荷物を置き、身体の状態を確認する。
五日間の修行で疲労はあるものの、体調に問題はない。
自然エネルギーを取り込む感覚も、しっかりと覚えている。
「まずは、みんなの様子を確認しないとな」
俺は自宅を出て、病院へ向かった。
ナルトが入院していると聞いていたからだ。
病室の前まで来ると、中から聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。
「だから、もう大丈夫だってばよ!」
「分かったから、少し静かにしなさい!」
サクラの声だ。
どうやら、いつも通りらしい。
俺は扉をノックした。
「入るぞ」
「ん?」
病室に入ると、ベッドの上にナルトがいた。
その傍らにはサクラとサスケがいる。
「心!」
ナルトが俺を見て目を輝かせた。
「お前、いつ帰ってきたんだってばよ!」
「今さっきだよ」
「おお! 修行はどうだったんだ?」
「それなりに成果はあったよ」
俺はそう答え、ナルトの様子を確認する。
「身体はもう大丈夫なのか?」
「ああ! 今日で退院だからもう元気いっぱいだってばよ!」
「まだ無理は駄目よ。医療忍者の人にも言われたでしょ」
サクラが呆れたように言った。
「分かってるってばよ!」
「本当に分かってるのかしら……」
サスケは腕を組んだまま、俺を見ていた。
「随分と長かったな」
「悪い。少し遠くまで行っていたからな」
「……そうか」
サスケはそれ以上追及しなかった。
「それで、みんなの修行はどうだった?」
俺が尋ねると、ナルトが真っ先に口を開いた。
「俺は九尾のチャクラを引き出せるようになったんだってばよ!」
「九尾のチャクラ?」
「ああ! エロ仙人に崖から突き落とされてさ!」
「……は?」
俺は思わず聞き返した。
「崖から突き落とされた?」
「そうだってばよ! 死ぬかと思ったぞ!」
ナルトは身振り手振りを交えて説明する。
九尾と会話したこと。 九尾のチャクラを引き出したこと。 そして、その力でガマ親分を口寄せしたこと。
「そんなにデカい蝦蟇を呼び出したのか」
「ああ! すっげえでかかったんだぜ!」
ナルトは誇らしげに胸を張った。
「まあ、最後は気絶しちまったけどな」
「気絶したの?」
「うっ……」
サクラが呆れた顔をする。
「でも、成功したんだろ?」
「ああ!」
俺は笑った。
ナルトらしい、無茶な修行だ。
だが、九尾のチャクラを引き出せたことは大きい。
「サスケは?」
俺が尋ねると、サスケは静かに右手を持ち上げた。
「千鳥は完全に自分のものにした」
「そうか」
サスケの右手に青白い雷光が走る。
バチバチバチッ!
鋭い音とともに、雷のようなチャクラが右手に集中していく。
チャクラの集中に無駄がない。
写輪眼で捉えた動きを、そのまま術の発動へとつなげられるだけの精度も身につけているようだった。
「すごいな。かなり完成度が上がっている」
「当然だ。カカシから十分に教わった」
サスケは千鳥を解除した。
その表情には、確かな自信があった。
体術も以前とは比べものにならないほど洗練されているはずだ。
写輪眼による動体視力を活かし、相手の動きを見切る。 瞬身を組み合わせて間合いを詰める。 そして、千鳥で決定打を狙う。
単に強力な術を覚えただけではない。
サスケ自身の戦闘能力が、大きく底上げされている。
「カカシ先生との修行はどうだった?」
「悪くなかった。写輪眼の使い方も、千鳥を使うための動きも、かなり身についた」
「そうか。よく頑張ったな」
「まだ足りない」
サスケは短く答えた。
「もっと強くなる」
その言葉に、俺は笑みを浮かべた。
サスケは本当に成長している。
本戦での戦いが楽しみだ。
「サクラは?」
「私は幻術の修行をしていたわ。紅先生にいろいろ教えてもらったの。かなり上達したわよ」
サクラは少し照れくさそうに笑った。
「自分なりの戦い方も、少しずつ見えてきた気がするの」
「それはよかった」
三人とも、しっかり成長しているようだ。
俺がいない間も、それぞれが自分の課題に取り組んでいた。
「本戦まで、あと三日だな」
俺がそう言うと、ナルトが拳を握った。
「おう! 絶対に勝つってばよ!」
「俺もだ」
サスケも静かに答える。
サクラも頷いた。
「私も頑張るわ」
俺は三人の顔を見回した。
本戦まで、残された時間は三日。
この三日間で、それぞれが最後の調整を行うことになる。
俺自身も、新しく得た力を確認しなければならない。
ただし、自然エネルギーの扱いはまだ不安定だ。
焦って実戦投入するつもりはない。
「よし。みんな、無理だけはするなよ」
「心に言われたくねえってばよ!」
ナルトの言葉に、サクラとサスケが小さく笑った。
確かに、俺も人のことは言えないかもしれない。
だが、今はこうして仲間たちと話せている。
それだけで、里に帰ってきた実感が湧いていた。
中忍試験本戦まで、あと三日。
それぞれの修行の成果を胸に、俺たちは決戦の日を迎えようとしていた。