中忍試験本戦まで、残り一日。
心は朱明と一緒に、木ノ葉の森の中にいた。
昨日、朱明が口にした「超重要なこと」。
その内容を聞くためである。
「それで、朱明様。昨日言っていた重要なことって何ですか?」
「うむ。口寄せについてじゃ」
「口寄せ?」
「そうじゃ。オヌシはまだ、朱雀一族の力を十分に理解しておらん」
朱明は腕を組み、心を見た。
「まずは少ないチャクラで口寄せをしてみよ」
「少ないチャクラで、ですか?」
「うむ。大量のチャクラを使う必要はない。必要最低限で呼び出すのじゃ」
「分かりました」
心は指先を噛み、地面に手をついた。
「口寄せの術!」
煙が立ち上る。
その煙が晴れると――。
「……鳥?」
そこにいたのは、小さな赤い小鳥だった。
手のひらに乗るほどの大きさで、鮮やかな赤い羽毛を持っている。
小鳥は首を傾げ、心を見上げた。
「これが……朱雀一族?」
「そうじゃ。まずはこの子について説明してやろう」
朱明は小鳥の頭を優しく撫でた。
「朱雀一族は、全員が優れた感知能力と隠密能力を持っておる」
「全員ですか?」
「うむ。戦闘能力は個体差があるが、感知と隠密については一族全体の得意分野じゃ」
「なるほど……」
「試しに、この子に隠密行動を取らせてみるがよい」
「隠密行動?」
「そうじゃ。姿を隠すだけではないぞ」
朱明が小鳥に視線を向けた。
「では、やってみよ」
小鳥は小さく鳴いた。
次の瞬間。
「……え?」
小鳥の姿が消えた。
煙が出たわけでもない。
高速で移動したわけでもない。
ただ、そこにいた小鳥が一瞬で見えなくなったのだ。
心は目を凝らした。
しかし、何も見えない。
気配もない。
音もない。
匂いも感じない。
チャクラすら感知できなかった。
「……完全に消えた?」
「姿だけではない。匂いも音も気配も、チャクラもな。何一つ感知できんじゃろう」
「そんなことが……」
心は緋の眼を発動させた。
身体能力だけでなく、感知能力も引き上げる。
周囲の空気の動き、地面の振動、わずかな気配。
あらゆる情報を拾おうとする。
しかし――。
「……何も感じない」
「そうじゃろうな」
朱明は楽しそうに笑った。
「まるで空気に溶けて消えてしまったかのようじゃろ?」
「はい……」
「ちなみに、今その子はオヌシの肩に掴まっておるぞ」
「えっ!?」
心は慌てて肩を見る。
しかし、何も見えない。
それどころか、触れられている感触すらなかった。
「……本当にいるんですか?」
「おるとも」
「いや、でも……」
「仙人でもない限り、触れられても気づかんじゃろうな」
その時だった。
『すごいでしょ〜』
突然、頭の中に幼い声が響いた。
「!?」
心は目を見開く。
『えへへ。見つけられないでしょ〜』
「今の声は……?」
「その子の声じゃ」
朱明が笑う。
「朱雀一族は、契約者とテレパシーで会話できる。先ほど説明したじゃろう?」
「そうでした……」
『ねえねえ、もっと褒めて〜』
「……すごいな。本当に何も分からなかった」
『えへへ〜!』
小鳥の声は嬉しそうだった。
朱明は心に向き直る。
「この子は、まだ自我がそれほど強くない。頼めばすぐに協力してくれるぞ」
「それなら、偵察や索敵にかなり役立ちそうですね」
「うむ。特に敵に気づかれずに情報を集めることには、非常に向いておる」
心は改めて小鳥の隠密能力に驚いていた。
姿を消すだけなら、忍術でも可能だ。
しかし、匂いも音も気配もチャクラも完全に消す。
しかも、触れられても気づけない。
これほどの隠密能力を持つ存在が味方になるのは、非常に心強い。
「ありがとうございます。これはすごい能力ですね」
「まだ終わりではないぞ」
朱明がニヤリと笑った。
「次は、もう少し大きな者を呼び出してみよ」
「大きな者?」
「うむ。今度はワシが手伝ってやる」
心は頷き、再び口寄せの印を結んだ。
今度は、先ほどよりも多めにチャクラを込める。
「口寄せの術!」
ボンッ!
大きな煙が立ち上る。
その中から現れたのは、人間ほどの大きさをした赤い鳥だった。
鮮やかな赤い羽毛。
鋭いくちばし。
堂々とした体格。
小鳥とは比べ物にならない存在感がある。
「おお……!」
心が感嘆の声を漏らす。
すると、その鳥は心を見下ろした。
「おい! お前がオレを呼んだのか?」
「え?」
「ったく、いきなり呼び出しやがって! 何の用だよ!」
ずいぶんと威勢のいい声だった。
朱明が苦笑する。
「紹介しよう。こやつは朱火丸じゃ」
「朱火丸?」
「うむ。朱雀一族の中でも、なかなか腕の立つ者じゃ」
「おい、朱明! オレの紹介をするなら、もっと格好よく言えよ!」
「十分格好よく紹介しておるじゃろう」
「全然足りねえ!」
心は二人のやり取りを見て、少しだけ目を瞬かせた。
(……この性格、どこかで見たことがあるような)
朱火丸は心へと向き直る。
「それで、お前が新しい契約者か?」
「ああ。枢流陀心だ。よろしく頼む」
「ふーん。まあ、よろしくな!」
朱火丸は翼を広げ、軽く羽ばたいた。
その風圧だけで、周囲の草木が揺れる。
「朱火丸は水遁系の術が得意でな。水を使って相手の動きを妨害する術を豊富に扱える」
「水遁ですか?」
「そうじゃ。実際に見せてもらうとよい」
朱明が促すと、朱火丸は得意げに胸を張った。
「よし! 見せてやるよ!」
朱火丸は近くの木に向かって翼を振る。
すると、地面から大量の水が噴き上がった。
水は複数の細い流れに分かれ、木の周囲を取り囲む。
次の瞬間、それらが一斉に木へと襲いかかった。
バシャァッ!
水流が木の幹に叩きつけられ、枝を大きく揺らす。
続いて、地面を這うような水の流れが広がり、周囲の足場を水浸しにした。
「どうだ! すげえだろ!」
「確かに……」
心は感心しながらも、心の中で一つの疑問を抱いていた。
(……名前に火が入ってるんだから、火遁を使えよ)
もちろん、口には出さない。
「水を使った妨害が得意なんですね」
「おう! 相手の動きを止めたり、足場を崩したり、視界を遮ったりな! 真正面からぶつかるだけが戦いじゃねえ!」
朱火丸は自慢げに翼を広げた。
「なるほど。俺の水遁とも相性が良さそうだ」
「そうじゃな。オヌシ自身も水遁が得意じゃろう。組み合わせれば、面白い戦い方ができるはずじゃ」
朱明が頷く。
心は朱火丸の術を思い返しながら、頭の中で戦術を組み立てていく。
自分の水遁で攻撃し、朱火丸に足場や移動経路を制限させる。
そこに渦流弾を組み合わせれば、相手の回避先を誘導することもできるだろう。
(これはかなり使えるな……)
「朱明様、ありがとうございます。二人とも、これからよろしくお願いします」
『よろしくね〜!』
「おう! 任せとけ!」
小鳥と朱火丸の声が、心の頭の中に響いた。
朱明は満足そうに頷く。
「うむ。これで一通りの説明は終わりじゃな」
「いえ、まだまだ知らないことは多そうですけどね」
「それはこれから覚えていけばよい。朱雀一族は、オヌシの力になるじゃろう」
心は頷いた。
口寄せの契約を結んだことで、戦術の幅が大きく広がった。
特に小鳥の隠密能力は、偵察や情報収集において非常に優秀だ。
朱火丸の水遁も、自分の戦い方と組み合わせれば大きな力になる。
ただし――。
(本戦前日に新しい能力を覚えたところで、いきなり使いこなせるわけじゃない)
まずは、それぞれの特徴を理解すること。
無理に実戦投入するつもりはなかった。
明日は中忍試験本戦。
これまで修行してきた成果を見せる日だ。
心は拳を握り、静かに息を吐いた。
その日の夕方。
心は自宅に戻り、翌日の準備を整えていた。
中忍試験本戦まで、残りわずか。
ナルトは自来也のもとで九尾のチャクラを扱う修行を続けている。
サスケはカカシの指導のもと、千鳥を自分のものにした。
サクラも紅のもとで幻術を学び、自分なりの戦い方を形にし始めている。
そして心自身も、朱明との修行で自然エネルギーの感知と吸収を習得した。
さらに、朱雀一族との契約によって新たな仲間を得た。
(みんな、確実に強くなっている)
心は窓の外を眺めた。
明日、いよいよ本戦が始まる。
試験会場には各国の忍や大名、そして多くの観客が集まる。
その中で、木ノ葉を襲撃するために動く者たちもいる。
大蛇丸。
砂隠れ。
音隠れ。
そして、これから起こるはずの出来事。
(今度こそ……守れるものは守る)
心は静かに目を閉じた。
明日は、長い一日になる。
中忍試験本戦が、いよいよ始まろうとしていた。