ナルトとネジの試合が終わり、会場にはまだ興奮が残っていた。
「やったってばよーーー!」
控室へ戻ってきたナルトは、満面の笑みで拳を突き上げている。
「おめでとう、ナルト」
心が声をかける。
「へへっ! 心!!ちゃんと見てたか、だってばよ!!」
「ちゃんと見てたよ。いい戦いだった」
「だろ!」
ナルトは嬉しそうに笑った。
その隣では、サスケが腕を組んでいる。
「調子に乗るなよ。まだ一回勝っただけだ」
「何だとー! サスケ!」
「事実だろ」
「ぐぬぬ……!」
いつもの二人のやり取りに、サクラが苦笑する。
「もう、二人とも。次は私の番なんだから静かにしてよね」
「おっ、そうだったな!」
ナルトはサクラに向き直った。
「サクラちゃんも頑張れってばよ!」
「ええ!」
サクラは笑顔で頷いた。
その表情には緊張がほとんどない。
むしろ、これから始まる試合を楽しみにしているようだった。
心はそんなサクラを見て、少しだけ目を細める。
(紅先生との修行で、かなり自信がついたみたいだな)
サクラは以前とは違う。
ただ守られるだけの存在ではない。
自分にできることを考え、努力し、自分だけの戦い方を作り上げようとしてきた。
まだ完成には至っていない。
それでも、今の彼女なら十分に戦えるはずだ。
「サクラ」
「何?」
「いつも通りでいい。自分の戦い方を見せてこい」
「うん。ありがとう、心」
サクラは軽く拳を握った。
「行ってくるわ!」
「続いて、第2回戦!」
審判の声が会場に響く。
「秋道チョウジ! 春野サクラ! 両者、中央へ!」
チョウジは少し緊張した面持ちで、ゆっくりと試合場へ向かっていた。
「うう……」
「チョウジ、頑張れー!」
観客席からシカマルの声が飛ぶ。
「おう……!」
チョウジは小さく返事をした。
一方のサクラは、軽い足取りで試合場へと進む。
緊張した様子はない。
チョウジと向かい合うと、にこやかに挨拶した。
「よろしくね、チョウジ」
「う、うん。よろしく……」
チョウジは少しだけ戸惑っていた。
相手は春野サクラ。
予選ではテマリを倒した実力者だ。
しかも、あの一撃。
壁に大きな穴を開けるほどの怪力を持っている。
(正面から攻撃を受けたら危ない……)
チョウジは自分の体格を考え、どう戦うかを頭の中で整理していた。
審判が二人の間に立つ。
「それでは――始め!」
開始の合図が響いた瞬間。
サクラが飛び出した。
「なっ!?」
チョウジが反応するよりも早く、サクラは一気に距離を詰める。
その速度は、以前のサクラとは比べものにならない。
木ノ葉の忍として鍛えられた体術。
そして、チャクラコントロールによる身体能力の強化。
一瞬でチョウジの目の前まで迫った。
「くっ!」
チョウジは咄嗟に術を使おうとする。
「倍化の術!」
体を大きくし、防御を固めようとした。
しかし、その直前――。
チョウジの視界に、サクラの拳が迫った。
「うわっ!」
慌てて両腕を顔の前に構える。
だが。
サクラの拳は、チョウジの顔を通り抜けた。
「……え?」
拳が当たった感触はない。
痛みもない。
ただ、目の前にあったはずの拳が、そのまま顔をすり抜けていった。
「幻術……!?」
チョウジが気づいた時には、すでに遅かった。
本命は、正面からの拳ではない。
サクラは幻術によって拳を見せ、チョウジの意識を顔面へ誘導していた。
その隙に、身体を低く沈めて懐へ潜り込んでいたのだ。
「これで――!」
サクラの拳が、チョウジの腹部へ向かう。
渾身の力を込めた一撃。
チャクラコントロールによって拳に集中させた力が、一点へと解放される。
「はああああっ!」
ドゴォォォン!!
轟音が会場に響き渡った。
チョウジの体が、凄まじい勢いで吹き飛ばされる。
「えっ……!?」
観客たちが目を見開いた。
チョウジの巨体は試合場を横切り、そのまま壁へと激突する。
ドガァァァン!!
だが、勢いは止まらない。
壁に大きな亀裂が走り――。
バキィィィン!!
壁に風穴が開いた。
チョウジの体は、その穴を突き破って会場の外へと吹き飛んでいった。
「…………」
一瞬。
会場から音が消えた。
誰もが、今起きたことを理解できずにいた。
試合場には、拳を突き出したまま固まっているサクラだけが立っている。
やがて――。
「うおおおおおおおおおお!!」
観客席から、割れんばかりの歓声が湧き上がった。
「すげええええ!!」
「今の一撃、何だ!?」
「壁をぶち抜いたぞ!」
「幻術で攻撃を見せて、本命を当てたのか!?」
会場全体が騒然となる。
観戦場所。
ナルトは口を大きく開けていた。
「…………」
サスケも目を見開いている。
「……あいつ」
心は思わず苦笑した。
(いや、全力で殴ったな……)
サクラが作り上げようとしていた戦い方。
幻術によって相手の認識をずらし、体術で懐へ入り込む。
そして、チャクラコントロールを活かした一撃。
それらが一瞬のうちに組み合わさった。
まだ完成していないと言っていたが、十分に形になっている。
ただし――。
「……サクラ、大丈夫かな」
心は試合場へ視線を戻した。
サクラは自分の拳を見つめていた。
そして、急に顔色を変える。
「えっ……」
自分が放った一撃の威力を、今になって理解したらしい。
「ちょ、ちょっと待って……!」
サクラは壁の穴へと駆け寄った。
「チョウジ!? 大丈夫!?」
先ほどまでの余裕は消え失せている。
「私、ちょっと力を入れすぎたかも……!」
サクラの声が震えた。
会場の外。
吹き飛ばされたチョウジは、瓦礫の上に倒れていた。
意識はない。
腹部に強い衝撃を受け、気を失っている。
サクラの一撃は凄まじかったが、幸いにも命に別状はなかった。
医療忍者が駆け寄り、すぐに状態を確認する。
「大丈夫だ! 気を失っているだけだ!」
その声を聞いたサクラは、ようやく胸を撫で下ろした。
「よ、よかったぁ……」
膝から力が抜けそうになる。
「本当にごめんね、チョウジ……」
サクラは申し訳なさそうに呟いた。
審判は試合場と会場の外を確認し、勝敗を宣言する。
「勝者――春野サクラ!」
再び、会場に歓声が響き渡った。
「サクラちゃん、すげーってばよ!」
ナルトが大声で叫ぶ。
「いや、あれは……」
サスケは壁に開いた穴を見つめていた。
「怪力だけじゃない。最初の拳は幻術で見せたものだ。相手の意識を誘導して、本命を叩き込んだ」
「そうだな」
心は頷いた。
「幻術、体術、チャクラコントロール。その三つを組み合わせた戦い方だ」
「……あいつ、いつの間にあんなことを」
サスケは少し驚いた様子だった。
心は笑う。
「サクラも頑張ってたんだよ」
やがて、サクラが戻ってきた。
「みんな……」
「サクラちゃん! すっげー強かったってばよ!」
「ありがとう、ナルト。でも、チョウジが心配で……」
「大丈夫だって。医療忍者が確認してくれてたよ」
心がそう伝えると、サクラは安心したように息を吐いた。
「よかった……」
「ただ、あの一撃は少し強すぎたな」
「うっ……」
心の言葉に、サクラは気まずそうに視線を逸らした。
「ごめんなさい……」
「謝ることじゃないよ。試合には勝ったんだ。あとは力の加減も覚えていけばいい」
「うん……!」
サクラは小さく頷いた。
その表情には、勝利の喜びと反省が入り混じっていた。
この日。
春野サクラは、自らの戦い方で初めて本戦の舞台を勝ち抜いた。
幻術によって相手の認識を惑わせ、隙を作り出す。
そこへ体術を組み合わせ、チャクラコントロールによって一点に集中させた力を叩き込む。
それは、単純な怪力だけではない。
相手の意識を操り、戦いの流れそのものを支配する戦法だった。
まだ未完成。
しかし、その片鱗は確かに現れていた。
後の時代。
人々は彼女を、こう呼ぶことになる。
――幻拳士サクラ。
その名が生まれる、最初の一歩だった。
そして、本戦はまだ続く。
Aブロックで次に控えるのは、油女シノと春野サクラによる試合。
サクラの勝利によって、Aブロックの流れは大きく動き始めていた。