三代目火影視点
「勝者――春野サクラ!」
審判の声が会場に響き渡る。
観客席からは、割れんばかりの歓声が上がっていた。
三代目火影・猿飛ヒルゼンは、その光景を眺めながら、口元に笑みを浮かべていた。
(いやはや……あの歳で、あれほどの力を身につけるとはのぅ)
サクラの最後の一撃。
あれは単なる怪力ではない。
チャクラコントロールによって、必要な瞬間に必要な場所へチャクラを集中させ、身体能力を極限まで引き上げたものだ。
その技術は、かつての伝説の三忍の一人――綱手を思い起こさせる。
もちろん、まだ綱手ほどの完成度ではない。
しかし、あの年齢であそこまで扱えるのは驚異的だった。
(心の指導の影響か。それとも、紅の教えも大きいのか……)
いずれにせよ、木ノ葉にとって頼もしい才能であることに違いはない。
もっとも。
(……あの拳をワシが受けたら、死ぬかもしれんのぅ)
ヒルゼンは内心で冷や汗を流した。
自分が現役だった頃ならまだしも、今の身体であの一撃をまともに受けるのは避けたい。
そんなことを考えていると、隣に座る風影が口を開いた。
「火影殿」
「なんじゃ?」
「次の試合ですが、少し後回しにしませんか?」
ヒルゼンは風影へ視線を向けた。
「なぜじゃ?」
風影は会場を見渡し、穏やかな声で続けた。
「会場の皆さんが一番見たいのは、次の試合だと思いませんか?」
「次の試合?」
「ええ。うちはの天才と、砂隠れの天才。この戦いですよ」
ヒルゼンは返事をせず、風影を見つめた。
風影は気にした様子もなく、話を続ける。
「先ほどの試合も素晴らしいものでした。しかし、本命の前の前座としては、少々あっさり終わってしまいましたからね」
「……」
「ほかの一試合を先に終わらせてからの方が、会場もさらに盛り上がると思うんですがね」
風影はそう言って、ヒルゼンへ視線を向けた。
(此奴……何を考えておる?)
ヒルゼンは風影の顔をじっと見つめた。
表情からは何も読み取れない。
試大名たちや観客の手前、公式な祭典の順序を当日に変えるなど本来ならあり得ん暴挙。だが、わざわざこのタイミングで不自然な提案をしてくる理由が分からなかった。
(何か狙いがあるのか……? サスケをじらすことで、砂の側に有利な状況を作ろうとしておるのか。あるいは……)
考えても答えは出ない。
しかし、ここで突っぱねて警戒されるよりは、あえて相手の土俵に乗った方が、その裏にある意図を見極めやすい。
(ここは、此奴の策に乗ってみるか。何が起きても対応できるよう、暗部への警戒を強めさせておけば問題なかろう)
ヒルゼンは小さく息を吐いた。
「分かった。試合の順番を変更しよう」
「ありがとうございます、火影殿」
風影は丁寧に頭を下げた。
ヒルゼンは近くで待機していた係員を呼び止める。
「次の試合、うちはサスケと我愛羅の試合は後回しじゃ。先に枢流陀心とカンクロウの試合を行うよう伝えてくれ」
「はっ!」
係員はすぐに走り去っていった。
風影は満足そうに会場へ視線を戻している。
ヒルゼンは、その横顔を見つめた。
(さて……吉と出るか、凶と出るか)
胸の奥に小さな不安を抱えながら、ヒルゼンは警戒心を強めた。
◇心視点◇
サクラの試合が終わり、会場の熱気がまだ冷めやらぬ頃。
審判のもとへ、一人の忍びが近づいていった。
何やら短く言葉を交わしている。
その後、審判が試合場の中央へ進み出た。
「次の試合について、変更を伝える!」
会場のざわめきが少しずつ静まっていく。
「予定されていた、うちはサスケ対我愛羅の試合は後回しとする! 先に、枢流陀心対カンクロウの試合を行う!」
(やっぱりか)
俺は特に驚かなかった。
朱雀たちに配置していた小鳥から、先ほど三代目と風影――いや、大蛇丸との会話が伝わってきていたからだ。
(大蛇丸の提案に、三代目はあえて乗ったわけか)
三代目も、風影の提案に何かしらの意図があることは察しているはずだ。
それでも受け入れた。
おそらく、相手の思惑を探るためでもあるのだろう。
(さて、どうなるかな)
俺は試合場へ向かおうとした。
その時だった。
「棄権する」
カンクロウが、突然そう口にした。
「……え?」
審判が目を丸くする。
「俺はこの試合を棄権する」
カンクロウは淡々と告げた。
その様子を見て、俺は内心で納得する。
(原作通り、カンクロウは棄権したか)
理由は分かっている。
おそらく、これから行われる奇襲作戦の前に、自分の手の内を見せたくないのだろう。
傀儡使いであるカンクロウにとって、傀儡の仕掛けや戦い方は重要な情報だ。
それを大勢の観客の前で披露するのは避けたいはずだ。
「カンクロウ選手の棄権により、この試合は枢流陀心の不戦勝!」
審判が勝者を告げると同時に、俺はカンクロウへと視線を向けた。
カンクロウは俺と目を合わせようともしない。
(まあ、無理に戦う理由もないか)
そして、次の試合が発表された。
「続いて、シカマル対山中いの!」
「あっ?」
俺は思わず声を漏らした。
そうだった。
この組み合わせもあったな。
シカマルといの。
幼い頃からお互いをよく知る二人だ。
どちらも相手の性格や戦い方を理解している。
(これは長引くかもしれないな)
そう考えていると、観客席の一角から声が聞こえた。
「おい、シカマル! さっさと行けってばよ!」
「うるせぇな……」
シカマルは面倒くさそうに返事をする。
どうやら、試合に出る気があまりないらしい。
その様子を見ていたナルトが、シカマルの背中に手をかけた。
「ほら、行けってば!」
「お、おい!」
次の瞬間。
ドンッ!
「うわあああああっ!」
シカマルの身体が控室席の柵から押し出された。
そのまま下の試合場へ落ちていく。
ドサッ!
「……」
会場が静まり返った。
シカマルは地面にうつ伏せになったまま、しばらく動かなかった。
「何やってんだ、ナルト……」
俺は思わず額を押さえた。
一方、いのはその様子を見て、目を輝かせた。
「何よ! やる気満々じゃないの、シカマル!」
「いや、そういうわけじゃ……」
「私も負けないんだから!」
いのは気合を入れ直し、控室室の柵から試合場へ降り立った。
シカマルはゆっくりと立ち上がり、服についた土を払う。
「……はぁ。面倒くせぇ」