◇心視点◇
(ついに、この戦いが来たか)
俺は試合場を見つめていた。
サスケ対我愛羅。
中忍試験本戦の中でも、特に重要な戦いだ。
そして、この試合を境に木ノ葉崩しが始まる。
俺は観客席から二人の様子を確認する。
サスケはすでに準備を終え、試合場の中央に立っていた。
対する我愛羅も、いつもの無表情でサスケを見つめている。
「……両者、準備はいいな?」
口に咥えた千本を軽く動かし、審判のゲンマが二人を見やる。
二人がそれぞれ、静かに視線を交わした。
「……始めろ!」
合図と同時に、サスケが動いた。
「速い!」
観客の誰かが声を上げる。
サスケの動きは、以前とは比べものにならないほど速かった。
その姿を見て、俺は少し驚く。
(あの動き……リーに似ているな)
リーとの試合で見た高速の体術。
それを参考にしているのだろう。
だが、それだけではない。
サスケの足運びや重心の移動には、俺との訓練で見せていた動きも取り入れられている。
リーの速度と連続攻撃。
そして、俺が使う相手の力を受け流し、最小限の動きで攻撃につなげる体術。
それらを自分なりに組み合わせているのだ。
(まさか、ここまで自分のものにしているとはな)
サスケは我愛羅へ一気に接近した。
我愛羅の周囲から砂が盛り上がる。
しかし、サスケは速度を落とさない。
砂が腕のように伸びてくる直前、身体をひねってかわす。
続けて、砂の防御が形成されるよりも早く、拳を叩き込んだ。
ドンッ!
砂が弾け飛ぶ。
我愛羅の身体がわずかに揺れた。
「……!」
我愛羅の目が細くなる。
サスケは攻撃の手を緩めなかった。
蹴り、拳、肘打ち。
砂が防御に回るたびに、サスケは攻撃の角度を変えて隙間を狙う。
我愛羅は砂を操り、何度もサスケを捕らえようとするが、そのすべてをかわされていた。
(すごいな……)
俺は素直に感心していた。
原作でのサスケと我愛羅の戦いとは、明らかに違う。
この時点のサスケは、すでにリーとの戦いを経験し、カカシとの修行で千鳥を習得している。
それだけではない。
俺たちとの訓練で、基礎的な身体能力や戦闘技術も大きく向上している。
成長というより、もはや進化と言っていい。
我愛羅が砂で守ろうとしても、サスケはその動きを上回る。
砂の防御が完成する前に攻撃を叩き込み、反撃を許さない。
「おい……そんなもんか、お前の砂の盾は……」
サスケが不敵に口元を歪めて挑発する。
我愛羅の表情が憎悪に歪んだ。
「……黙れ」
砂が一斉に動く。
今までとは比較にならない量の砂が、サスケを包み込もうとした。
しかし、サスケは後方へ跳び、地面を蹴って横へ移動する。
砂の追撃を紙一重でかわし続けた。
「ちっ……!」
我愛羅が舌打ちする。
明らかに押されている。
そして、ついに我愛羅は決断した。
(来るか)
俺は我愛羅の様子を注意深く観察する。
我愛羅の足元から砂が集まり始めた。
それは次第に大きくなり、彼の身体を覆っていく。
「何だ、あれは?」
観客席がざわつく。
サスケは距離を取り、警戒した。
我愛羅の身体は完全に砂の中へ隠れた。
巨大な砂の球体。
(早くも、アレを仕掛けるか)
俺は目を細めた。
あれは守鶴の力を引き出すための準備だ。
我愛羅は砂の中で、自分の身体を守りながら変化を進めている。
サスケは球体を見据えた。
「それで隠れているつもりか?」
サスケが一気に踏み込む。
拳を叩き込む。
ドンッ!
砂の球体に大きな衝撃が走り、表面に亀裂が入った。
だが――。
ズズズ……。
亀裂はすぐに塞がっていく。
サスケはチッと舌打ちをして、一度バックステップで距離を取った。
次の瞬間。
バシュッ!
球体の表面から、無数の砂の針が飛び出した。
「!」
サスケは即座に後方へ跳ぶ。
砂の針が地面に突き刺さり、試合場に無数の穴を開けた。
サスケは壁を駆け上がり、高い位置で着地すると同時に印を結ぶ。
(千鳥か)
両手が素早く動く。
そして、右手に青白い雷光が集まった。
バチバチバチバチッ!
激しい千の鳥の地鳴きのような高音が、会場に響き渡る。
術の完成が速い。カカシ先生と遜色ないレベル。
チャクラの乱れが少なく、雷光の密度も高い。
(完全に自分のものにしたな)
サスケは壁を蹴り、強烈な加速で真下へと滑り降りた。
一瞬で砂の球体へ肉薄する。
激しい雷光をまとった右手が、砂の球体を容赦なく突き破った。
バギィィィン!
砂が砕け散る。
サスケの右腕は、そのまま内部にいた我愛羅の身体を捉えた。
「……!」
観客席から悲鳴が上がる。
だが、俺はサスケの表情を見ていた。
攻撃が命中した直後。
サスケの顔から余裕が消え、強烈な戦慄が走る。
(一尾を感じたのか?)
サスケはゾッとしたような表情で引き込み、腕を引き抜くと後方へ大きく跳んだ。
その判断は正しかった。
直後、砂の球体がドサリと崩れ落ちる。
中から現れた我愛羅の身体には、真っ赤な血が流れていた。
「……っ、あ……う、あ……」
我愛羅は頭を押さえ、ガタガタと身体を震わせている。
その目は恐怖と狂気に染まっていた。
「ボ、ボクの……血だ……! ボクの血ィィ!!」
鼓膜を突き刺すような絶叫。
生まれて初めて味わう痛みに、我愛羅の精神が完全に崩壊していく。
「我愛羅……!?」
観客席のテマリが恐怖に顔を青ざめさせ、不安そうに呟いた。
カンクロウもワナワナと表情を強張らせている。
我愛羅の周囲の砂が、不自然に、そして悍ましく蠢き始めた。
(まずいな)
俺は視線を我愛羅から会場全体へ移した。
そして、その瞬間。
「……っ!」
会場内に、異様な気配が広がった。
観客席に座る人々の動きが、次々と止まっていく。
審判も、観客も、忍たちも。
まるで眠りに落ちたかのように、次々と意識を失っていった。
(幻術か!)
俺は即座に緋色の瞳を発動させた。
視界が鮮明になり、周囲のチャクラの流れが見える。
幻術の影響を受ける前に、チャクラを乱して解除する。
俺は座席から立ち上がり、いつでも動けるよう身構えた。
(ついに始まったか……木ノ葉崩し)
会場の様子を確認する。
観客たちは眠りに落ち、試合場周辺でも多くの忍が意識を失っている。
だが、全員が眠ったわけではない。
あらかじめ警戒していた忍たちは、異変に気づいているはずだ。
俺は小鳥たちへ意識を向けた。
『配置している全員に伝えてくれ。作戦開始だ』
すぐに返事が返ってくる。
『はーい!』
『了解です』
『任せてね』
俺は続けて指示を送った。
『三代目の周囲を最優先で警戒。風影の動きを監視して、三代目から離れたらすぐに知らせてくれ』
『それから、ナルト、サスケ、サクラ、いのの位置を確認。危険が迫ったら報告して』
『里の中にいる小鳥たちも、敵の侵入経路を探してくれ。特に砂と音の忍びの動きには注意して』
『分かったよー!』
小鳥たちがそれぞれの場所へ意識を飛ばす。
俺は試合場へ視線を戻した。
サスケはまだ我愛羅を警戒している。
我愛羅の身体からは、先ほどまでとは違う不気味なチャクラが漏れ始めていた。
(サスケ……今は我愛羅との戦いに集中してくれ)
そして、俺は観客席の一角に目を向けた。
そこには、眠ったように見える人々の中で、動き出そうとしている忍たちの姿があった。
(俺も動く準備をしないとな)
木ノ葉の里を守る。
三代目を守る。
そして、仲間たちを守る。
今度こそ、誰も失わせない。
俺は緋色の瞳を輝かせたまま、戦場の気配を探り続けた。