◇心視点◇
最初に動きを見せたのは、火影たちが座っていた主賓席だった。
ドォォォンッ!!
突然、主賓席の上にある建物が爆発した。
瓦礫が飛び散り、煙が立ち上る。
その屋根の上に、二つの影が姿を現した。
一つの影は、3代目火影と自来也。
3代目の影に潜んでいた自来也さんが瞬時に3代目を抱えて飛び退いていた。
そして、もう一つの影は――それと対峙するように風影の姿をした大蛇丸が立っていた。
(始まったな)
俺は三人の姿を確認すると同時に、少し前のことを思い出す。
大蛇丸が動くよりも前。
俺は小鳥たちから、会場周辺に潜伏している怪しい忍びがいるとの報告を受けていた。
『心ー! なんか怪しい人が四人いるよー!』
『どこだ?』
『あっち! 建物の陰に隠れてる!』
報告された方向を確認すると、そこには四人の忍びが潜伏していた。
その不気味なチャクラの質と配置を見て、俺はすぐに正体を察した。
(音の四人衆か)
狙いは分かっていた。
大蛇丸と三代目を閉じ込め、誰も寄せ付けないための結界。
四人衆が予定通りに結界を張れば、外部からの介入は完全に遮断される。
だからこそ、俺は先手を打った。
四本のクナイを取り出す。
それぞれに起爆札を取り付け、さらにチャクラを纏わせた。
ただのクナイではない。
周によって極限まで切味と速度を強化したクナイだ。
狙いは大蛇丸ではない。その手下どもだ。
俺は四本のクナイを同時に投げ放った。
風を切り、視認できないほどの速度で狙った四方向へ一直線に飛んでいく。
そして、現在。
大蛇丸が三代目を連れて屋上へ降り立った瞬間、四人衆が動いた。
四人が大蛇丸たちを取り囲むように跳躍する。
彼らが印を組み、結界を展開しようとした――その刹那だった。
ドォォォォンッ!!
四方向から同時に激しい爆風が巻き起こった。
俺の放ったクナイが、四人衆それぞれに命中し――起爆札が炸裂したのだ。
(よし、タイミングはずらせた)
ただし、これで終わりではない。
爆煙が広がる中、激しい咳き込みと痛みに耐えている四人衆の姿が現れた。
「クソッ……! どこのどいつだぁ! ぶっ殺してやる!」
「いっ……それよりも結界だ!」
四人の身体から禍々しいチャクラが溢れ出す。
次の瞬間、彼らの皮膚に黒い呪印の紋様が広がり、身体がドス黒く変貌していった。
一気に『状態2』へと解放したのだ。
人間離れした異形の姿となった四人衆は、無理やりそれぞれの定位置についた。
そして、ワンテンポ遅れて結界が展開される。
「忍法――四紫炎陣!」
不気味な紫色の炎の結界が、大蛇丸たちを囲い込んだ。
(結局、張られたか……だが)
俺はすぐに小鳥へ意識を向けた。
『結界の中はどうなってる?』
『大蛇丸と三代目、それから自来也さんがいるよ! あと、木ノ葉の暗部が二人!』
『分かった。中にいる小鳥たちは、巻き込まれないよう上空で待機。結界の外から状況を報告してくれ』
『はーい!』
小鳥たちの報告を聞き、それぞれに指示を告げた後、俺は屋上を見上げた。
本来なら、あの完璧な結界のなかに自来也さんが入る隙はなかったはずだ。
俺の攻撃で四人衆のタイミングがほんの少しズレた。その僅かな隙を見逃さず、自来也さんは三代目の護衛として結界の内側に滑り込むことができたのだ。
「…… あとは任せました、自来也さん……!」
俺は屋上から視線を外す。
今、俺が優先すべきことは別にある。
会場内へ、音隠れと砂隠れの忍びたちが雪崩れ込んできていた。
涅盤精舎の術で眠っている観客や、混乱している下忍たちを容赦なく狙っている。
「くそっ! 敵襲だ!」
「全員、戦闘態勢を取れ! 上忍は観客を守れ!」
木ノ葉の忍びたちが迎撃を始めるが、事前の奇襲によって敵の数が圧倒的に多い。
(ここは俺が片付ける)
俺は地面を強く蹴った。
次の瞬間、俺の姿が敵の視界から完全に消える。
「なっ――! どこに消え――」
敵の砂忍が声を上げるより早く、その腹部に全体重を乗せた拳を叩き込んだ。
一人目が木の葉のように吹き飛ぶ。
その勢いのまま瞬身でスライドし、隣にいた音忍の首筋へ鋭い手刀を入れる。
二人目が白目を剥いて崩れ落ちる。
さらに、後方からクナイを投げてきた忍びの懐へ一瞬で潜り込んだ。
「遅い」
容赦のない膝蹴りが腹部を穿つ。
続けて、背後から迫る無音の刀撃を、身をひねってかわし、カウンターの肘打ちを顎へと叩き込んだ。
流れるような体術の連撃に、敵が次々と沈んでいく。
「何だ、あのガキは!」
「囲め! 一人ずつ相手をするな!」
敵が数人で俺を取り囲み、印を結ぼうとする。
だが、その予備動作はすべて見えている。
俺は地面を蹴り、敵の頭上を飛び越える。
空中で身体をひねり、着地と同時に一人の足を払った。
倒れた相手の身体を利用して、もう一人の動きを止める。
そして、最後の一人へ接近。
鳩尾に拳を叩き込んだ。
「ぐっ……!」
敵が倒れる。
俺は周囲を見渡した。
まだ敵はいる。
一人でも多く、観客や仲間に被害が及ぶ前に無力化しなければならない。
(数が多いな……)
俺はチャクラを練り上げる。
緋の眼が、周囲の動きを捉える。
敵の位置、チャクラの流れ、攻撃の予備動作。
すべてが鮮明に見える。
俺は再び駆け出した。
木ノ葉崩しは始まったばかりだ。
◇自来也視点◇
「……ふぅ。心に助けられたのう」
自来也は小さく呟き、額に浮かんだ冷や汗を拭った。
その隣には、臨戦態勢をとる三代目火影・猿飛ヒルゼンが立っている。
先ほどの突如とした爆発。
あの一瞬の歪みがなければ、自分は大蛇丸の不意打ちから三代目を引き剥がすことも、この結界の内側に滑り込むこともできなかっただろう。
大蛇丸は風影の変装をベリベリと剥ぎ取り、あの白蛇のような、冷酷で美しい素顔を晒して歪に笑った。
「くくく……相変わらずの覗き趣味ね、自来也。先生の影に潜んでまで私から先生を守りたかったかしら?」
「……お前が里に害なすってんなら、黙って見てるわけにゃいかねーんだよ」
自来也は油断なく構えた。
(あの心のクナイの妨害がなきゃ、ワシは結界の外へ閉め出されて先生を一人にするところだったぜ……。大した機転だ、心)
「それにしても……」
大蛇丸が、ふと楽しげに目を細めた。
「さっきの結界への妨害……やっぱり、あの子いいわね。実に素晴らしいわ」
その瞳には、底知れない執着と貪欲な光が宿っていた。
自来也の目つきが、一瞬で鋭く険しいものに変わる。
「……大蛇丸。お前、まさか心にまで手を出すつもりじゃねーだろうな?」
「あら、どうかしらね? あの年齢であれほどのチャクラのコントロールと判断力……そしてあの緋の目を完璧に扱えている。くくく、実にそそる器じゃない?」
「ふざけたこと抜かすんじゃねーぞ。心はお前の思い通りにはさせねぇ」
「ふふふ、それはどうかしら……。じっくりと……その体を調べ尽くして、研究してみたいものね」
「断る。お前には指一本触れさせんわい」
自来也の言葉に重ねるように、三代目火影が前に出た。
その身体から、全盛期を彷彿とさせる圧倒的な忍のチャクラが吹き荒れる。
「大蛇丸……お前の浅はかな考えも、ここまでじゃ。……いや、かつてお前を斬れなかったワシの甘さが、この事態を招いたのかのう。ならば、ワシの手で決着をつけねばならん」
大蛇丸は愛おしそうに、そして冷酷に首を傾げた。
「ふふ。先生……そのお歳で、自来也と二人がかりとはいえ、この私を相手にどこまでやれるかしら?」
「3代目、無理はしねーでくださいよ。ワシもついてます」
「分かっておる、自来也。じゃが、ワシもまだ枯れてはおらんぞ。木ノ葉の火影としての意地を見せてやろう」
「へっ、分かってますって!」
自来也はニカッと笑った。
だが、すぐにその表情を引き締める。
大蛇丸の実力は嫌というほど知っている。
さらに、外では四人衆が命がけで『四紫炎陣』を維持しており、外部からの応援は一切期待できない。
「行くぞ、大蛇丸……! 昔のツケを払ってもらうぞ!」
「ええ、いらっしゃい。……楽しませて頂戴ね」
三人の強大なチャクラが激突し、屋上の瓦礫が消し飛ぶ。
二人の暗部も固唾を呑んで武器を構えた。
紫の炎に包まれた絶対の結界の中で、里の命運を賭けた、最高峰の死闘が幕を開けた。