◇三代目火影・猿飛ヒルゼン視点◇
「久しぶりだな……猿」
不気味な塵をまとって棺桶から踏み出してきた、伝説の二人の忍。
一人は、長い黒髪を後ろに流し、生気がなくとも圧倒的な存在感を放つ男。もう一人は、白いツンツン頭に鋭い赤眼、顔に三本の戦痕を持つ男。
初代火影・千手柱間。
二代目火影・千手扉間。
「初代様……二代目様……!」
ヒルゼンは苦渋に満ちた表情で、かつての師たちの姿を仰ぎ見た。
扉間はヒルゼンの顔を鋭く見つめ、低く掠れた声で口を開いた。
「……老いたな、猿。あれからずいぶんと年月が流れたか」
「ええ……。不肖の弟子ながら、ワシも随分と長く火影の席に座りすぎましたな」
「むぅ……? 身体が勝手に動く。……扉間、これはお前が昔作った例の禁術ではないか?」
柱間が自分のひび割れた両手を見つめながら、困ったように眉を下げた。
「……黙れ、兄者。あの後ろの小僧が、術者として我々を縛っているようだ」
扉間が冷徹に状況を分析する。柱間ははぁ、と大きなため息をついた。
「まったく、死んだ後まで現世の争いに駆り出されるとは、困ったものだな。猿飛、すまぬな。お前と戦うことになりそうだ」
「初代様、二代目様……。お二人の御遺体をこのような悍ましい術で冒涜され、ワシの不徳の致すところ。申し訳ありません」
ヒルゼンは重く頭を下げた。だが、扉間は冷淡に遮る。
「謝る必要はない、猿。この術を使った男を、今すぐここで殺せば済む話だ」
その瞬間だった。
大蛇丸が背後から不気味に印を結ぶ。
「ふふふ……そこまでにしてもらいましょうかね。お喋りが過ぎるわ」
二人の火影の脳天に、呪印の仕込まれたクナイが突き刺さり、頭の中へとズブズブと没入していく。
「……むうっ!」
柱間が抵抗するように顔を歪めるが、それも一瞬。
二人の瞳からわずかに残っていた理性が消え去り、ただの冷酷な殺戮人形へと変貌した。
「大蛇丸……! どこまで先代を愚弄する気じゃ!」
ヒルゼンが怒りでチャクラを激しく震わせる。大蛇丸は狂気的に笑った。
「さあ、始めましょうか。先生、自来也」
合図と共に、二人の伝説が同時に地を蹴った。
「来るぞ! 先生!!」
自来也が叫ぶ。同時に、呪縛された柱間の両手が目にも留まらぬ速さで印を結んだ。
「木遁・樹界降誕!!」
ドゴゴゴゴゴ……ッ!!
屋根のタイルを突き破り、巨大な樹木の大群が猛烈な勢いで増殖し、生き物のようにヒルゼンたちへと襲いかかる。
「水遁・水龍弾の術!!」
間髪入れず、扉間がこの水のない屋上で、信じられない規模の水龍を練り上げ、荒れ狂う津波となって迫る。
「このレベルの術を同時にくらうにゃ、この結界は狭すぎるぜ……チッ!」
自来也は舌打ちしながら横へと鋭く跳躍する。木遁と水遁の挟み撃ちは、まさに天変地異の破壊力だった。
「先生! 術の規模がデカすぎる! こっちは俺が引き受けますぜ!」
「頼む、自来也! ――口寄せの術!!」
激しい煙の中から現れたのは、ヒルゼンの長年の相棒であり、金剛如意棒へと変化する猿の王・閻魔。
「久しぶりだな、猿飛! お相手は……何ィ!? 初代様と二代目様だと!?」
「すまん閻魔! 力を貸してくれ!」
一方、自来也も同時に巨大な印を結んでいた。
「口寄せの術!!」
ドスンと大きな地響きと共に、巨大な二本の刀を背負ったガマヒロが姿を現す。
「頼むぜ、ヒロ! あの木を切り刻んじまえ!」
ガマヒロが巨体を躍らせて迫る巨大な枝をバッサバッサと斬り払い、閻魔もまた如意棒となって伸縮自在に柱間の木遁を押し戻していく。
「猿飛! あの二人、動きが妙だぞ! 技のキレが本来の初代様たちのそれじゃねえ!」
如意棒に姿を変えた閻魔が叫ぶ。
「うむ……ワシも気づいている!」
ヒルゼンは扉間の容赦ない体術を如意棒で受け流しながら、その違和感を確信していた。
かつて世界を震撼させた『忍の神』たちの力。しかし、今繰り出されている術の威力や速度は、伝説に語り継がれる生前の力の半分にも満たない。
「先生!」
自来也が柱間の攻撃をガマヒロと共に防ぎながら、ヒルゼンへ視線を飛ばす。
「分かっておる、自来也……! 大蛇丸のあの術は、まだ未完成じゃ!」
大蛇丸の用意した「生贄の器」の許容量が足りないのか、あるいは術自体の精度が低いのか、二人の火影は術者の命令に従うだけのただの人形。
生前の圧倒的な戦術眼や、限界突破したチャクラの真価を発揮しきれていないのだ。
(穢土転生の身体はどれだけ傷つけても修復される……。だが、本来の力を出し切れていない今なら、付け入る隙はある……!)
「先生! ワシが奴らの動きを止める封印術の術式を練る! 少しの間、時間を稼いでください!」
「任せよ、自来也! 閻魔、行くぞ!!」
「おうよ!!」
自来也は柱間と扉間から距離を取り、封印の準備のため膨大なチャクラを練り始めた。二人の暗部もその死角を埋めるように、決死の覚悟で前線へと飛び込んでいく。
未完成とはいえ、相手は初代と二代目。里の命運をかけた、一瞬の油断も許されない時間稼ぎの死闘が始まった。
◇うちはサスケ視点◇
(くそっ……! どこまで行った?)
サスケは鬱蒼とした森の中を、凄まじい速度で駆け抜けていた。
木々の枝を弾むように足場にし、次々と前方へ跳び移る。視線の先には、我愛羅たち三人が逃げていった微かなチャクラの残気。
(我愛羅……!)
あの砂の中から感じた異様な気配。
サスケは、あれを放っておくつもりはなかった。
しばらく走り続けたところで、前方のひらけた木々の中に、三つの人影を捉えた。
「見つけた……!」
サスケは写輪眼を鋭く輝かせ、さらに加速する。その気配に、最後尾を走っていたテマリがバッと振り返った。
「チッ! しつこい奴め、もう追ってきたか!」
「テマリ! 我愛羅を連れて先に行け!」
カンクロウが急停止し、サスケの進路を塞ぐように立ちはだかった。
「カンクロウ!」
「早く行けってんだよ! ここは俺がせき止めてやる!」
テマリは一瞬だけサスケを鋭く睨みつけると、苦しむ我愛羅の肩を抱き直して再び森の奥へと消えていった。
サスケは二人を追おうと跳躍したが、カンクロウがその着地点に鋭く立ち塞がる。
「お前の相手は俺だぜ、うちはサスケ」
「邪魔だ。どけ。お前ごときに構っている暇はない」
「そうはいかねぇじゃん!」
カンクロウが背中の大きな包みをドサリと下ろした。中から現れたのは、不気味な木製の傀儡人形。
「こいつでじっくり遊んでやるよ」
サスケは千鳥の残チャクラを意識しながら、冷徹に構えを取る。
(こいつを一瞬で戦闘不能にして、すぐに我愛羅を追う……!)
サスケが踏み込もうとした、まさにその瞬間だった。
「……ぬ? なんだこれぁ!?」
突然、カンクロウの身体の各所に、黒い不気味な虫の群れがブワッと群がった。一匹や二匹ではない。無数の虫が一斉にカンクロウの衣服の隙間へ這い回り、その動きを制限していく。
「な、なんだこりゃあ! クソッ、離れろ!」
カンクロウが慌てて身体をむしるように虫を振り払う。
サスケが攻撃の手を止め、虫が飛んできた頭上の大樹へと視線を向けると、そこには首を傾げた高襟の少年が静かに佇んでいた。
「油女シノ……!」
「サスケ。お前は先に行け。なぜなら、お前の戦うべき相手はあの砂の男だからだ」
シノはサングラスの奥の瞳を動かさず、淡々とした声で言った。
「何?」
「お前が我愛羅との決着を望んでいることは分かっている。ここは俺が引き受ける。だから……先に行け」
サスケは一瞬、シノの静かな横顔を見つめた。いつもは目立たない男だが、その全身からは、カンクロウを完全に圧倒するほど無数の寄壊蟲が蠢き出している。
「……借りにしておく」
それだけ告げると、サスケは再び地面を強く蹴り、カンクロウの頭上をすり抜けていった。
「おい! 待ちやがれうちはサスケ!!」
カンクロウが急いで追おうとするが、その進路を遮るように、巨大な虫の壁が目の前に立ち塞がった。
「言ったはずだ。お前の相手は、俺だ」
シノが静かに木の上から舞い降りる。
「チッ……! しゃらくせえええ!」
カンクロウは虫の気味悪さに鳥肌を立てながら、背負っていた傀儡人形・カラスを激しく操り始めた。
◇油女シノ視点◇
「木ノ葉の油女一族か……。虫使いの陰気な野郎が」
カンクロウは指先から放たれるチャクラ糸を激しく動かし、傀儡人形・カラスを前に出した。
「だったら、こいつの毒牙にかかって死にやがれ!」
カラスの腕がガチガタと不気味に鳴り、仕込まれた鋭い毒刃がシノの喉元へと迫る。シノはわずかに首を傾げ、最小限の動きでその刃を避けた。
「傀儡か」
「そうだ。こいつはカラス。俺の自慢の相棒よ!」
カンクロウが器用に十指を動かす。カラスの胴体がバラバラに分解するように開き、内部から仕込みナイフが四方八方へと発射された。
シノは後方へしなやかに跳び、大樹の幹を足場にして距離を取る。だが、カラスはまるで生きているかのように、チャクラ糸に引かれて空中で軌道を変え、シノを追いすがってきた。
「逃がすかよ!」
カンクロウがニィと下品に笑う。
しかし、シノは着地と同時に表情一つ変えなかった。
「なるほど。人形を遠隔からチャクラの糸で操作しているのだな」
「今さら気づいたところで遅えんだよ!」
「いや。ただの確認だ。なぜなら、構造が分かれば対策は容易だからだ」
その言葉と同時に、シノの袖口から黒い雲のような寄壊蟲の群れが爆発的に飛び立った。虫たちはカラスのボディへと一斉に群がり、関節の隙間を容赦なく埋め尽くしていく。
「なっ……! おい、カラスの動きが……! 何をしやがった!」
カンクロウが焦って指を引くが、カラスの動きは鉛のように鈍くなっていく。虫たちは人形の緻密なカラクリの隙間へ入り込み、チャクラを貪り食いながら、内部の部品を物理的に食い荒らしていた。
「クソッ! 離れろッ!」
カンクロウは慌ててカラスを手元に引き戻そうとする。だが、一度群がった寄壊蟲は簡単には離れない。
「俺の、カラスが……!」
「お前の人形は、俺の虫にとって格好の餌場だ。なぜなら、お前が操るために流しているそのチャクラ自体が、彼らの大好物だからだ」
シノは冷静に宣告した。
「だったら、これならどうじゃん!」
カンクロウが最後の力を振り絞り、カラスの口を無理やり開けさせた。次の瞬間、内部のガス弾が破裂し、紫色の濃い毒霧が周囲に噴き出した。
「!」
シノはすぐさま後方へ大きく跳び、毒霧の範囲から距離を取る。毒霧は周囲の草木を一瞬で腐らせ、空気に不気味な死の香りを漂わせた。
「どうだ! これなら虫ケラどもも近づけねぇだろ!」
カンクロウは勝ち誇ったように激しく笑う。
しかし、シノは煙の向こうで淡々と佇んでいた。
「確かに、その毒霧の中に直接突っ込ませれば、普通の虫なら死ぬだろう」
「何……?」
「だが、俺の虫はすでに、お前の周囲を取り囲んでいる。なぜなら、最初にクナイを構えた戦いの始まりの瞬間から、お前の足元へ潜り込ませていたからだ」
「な、なんだと……ッ!?」
カンクロウが驚愕して自分の足元を見た瞬間、彼の衣服の裾から、無数の黒い虫がゾロゾロと這い上がってきた。
「いつの間に……ッ!?」
「お前がカラスの操作に集中し、自分自身の足元への警戒を怠っていた。ただ、それだけのことだ」
虫たちが一斉にカンクロウの肌に噛み付き、その体内からチャクラを強引に吸い上げていく。
カラスを維持していたチャクラ糸がプチプチと途切れ、自慢の傀儡人形は地面にドサリと落ちて、ピクリとも動かなくなった。
「俺の……カラス、が……」
全身のチャクラを吸い尽くされたカンクロウは、激しい脱力感に襲われ、その場にバタリと膝をついた。
「勝負はついた」
シノが静かに告げる。
「お前の傀儡のギミックは確かに厄介だった。だが、傀儡を操るお前自身が術に頼りすぎて無防備になっては意味がない」
カンクロウは屈辱に歯を食いしばるが、もう指一本動かす力も残っていなかった。
シノはカンクロウを見下ろしながら、役目を終えた虫たちを静かに自分の皮膚の中へと引き戻していく。
「……サスケ。無事に追いつくといいが」
森の奥からは、未だに悍ましい砂のチャクラが膨れ上がる気配が続いている。シノは一度だけ周囲を警戒するように見渡すと、森の中へ静かに歩を進めた。