◇サスケ視点◇
森を圧搾するように聳え立つ巨大な化け物を見上げ、サスケは本能的な戦慄と共に息を呑んだ。
すべてが砂で構築された山のような巨大な身体。大樹をへし折る太い腕に、あらゆるものを引き裂く鋭い爪。そして、狂気的な眼光でこちらを見下ろす不気味な顔。
一尾――守鶴。
我愛羅の中に封印されていた本物の尾獣が、今、現世にその完全な姿を現していた。
「……これが、尾獣」
圧倒的な質量を前に、思わず声が漏れる。先ほどまで相手をしていた半尾獣化の我愛羅とは、チャクラの総量も破壊の規模も違いすぎる。
サスケは自身の体内に巡るチャクラの残量を冷静に確かめた。すでに半分を切っている。千鳥を使ったことに加え、これまでの激しい戦闘で相当なチャクラを消費していた。
この状態で、あの化け物を倒せるのか。
一瞬、弱気な考えが頭をよぎる。
――勝てるのか?
だが、すぐに頭を振り、サスケは写輪眼で冷徹にその巨体を観察し続けた。そして、心との修行で鍛えられた精神力は、弱気な思考を一瞬で握り潰す。
(勝てるかじゃねえ……。俺がこいつを倒すんだ)
一尾が大きく地鳴りを上げて右腕を振り上げた。
「来る……!」
サスケが爆発的に地面を蹴って跳んだ直後、視界の全てを埋め尽くすような巨大な風の塊が飛んできた。
「風遁・無限砂塵大突破ーー!」
これまで見たこともない神話規模の風遁。
まるで超巨大な台風そのものが、自分を目がけて高速で突っ込んできたかのようだった。
サスケは横へ鋭く跳躍し、纏で身を守りながら地面を激しく転がる。
直撃は間一髪で避けた。しかし、大気を引き裂く風の余波だけで、全身の肉が剥ぎ取られそうになるほどの衝撃が走る。
「くそっ……!」
まともに一撃でも喰らえば、一瞬で肉塊に変えられる。
サスケは即座に立ち上がり、再び一尾を鋭く睨み据えた。攻撃を避けるだけでチャクラを消耗していく。それでも、写輪眼の視線は決して逸らさない。
巨大な腕の予備動作、チャクラの集束点、風遁を放つまでの呼吸の間隔、そして――攻撃を放ち終えた直後のわずかな硬直。
一つでも多く、この怪物の情報を集める。
勝つために。
少しでも勝率を上げるために。
サスケは一切諦めていなかった。
その時だった。
「な、何だってばよアレはーー?!」
聞き覚えのある、死ぬほど騒がしい声が森に響き渡った。
サスケが視線を向けると、そこには深い森を駆け抜けてきたナルト、サクラ、シカマルの三人が息を切らせて立っていた。
「……フッ」
サスケの口元に、思わず不敵な笑みがこぼれる。
頼もしい援軍の到着。正直に言えば、これ以上なく心強かった。
だが、サスケはすぐに表情を引き締め、鋭い声を飛ばす。
「おい……お前ら、あれの動きを止められるか?」
サスケの問いに、三人は唖然として山のような一尾を見上げた。
「む、無理無理! いくら俺の影真似の術でも、あのイカれた巨体じゃ一秒だってチャクラが持たねーって!」
シカマルが冷や汗を流しながら即座に首を横に振る。
「私の全力の一撃で怯むのかしら……」
サクラも拳を握りながら、難しい顔をしていた。
「だったら、ガマ親分ならどうだってばよ!」
ナルトがひらめいたように大声を上げた。
「ガマ親分……?」
サスケが眉をひそめる。
「そうだってばよ! あいつと同じくらいのデカさなら、正面からガチンコで止められるかもしれない!」
ナルトはそう言うと、印を結び始めた。
その瞬間、ナルトの身体から普段のチャクラとは一線を画す、悍ましくも膨大な赤いチャクラがブワッと溢れ出す。
サスケは写輪眼の瞳孔を細めた。
(この底知れないチャクラの質量……。ナルト、お前……)
九尾のチャクラを引き出し、ナルトは地面へと力強く両手を叩きつけた。
「口寄せの術――っ!!」
ドンッ!!!
大爆発が起きたかのような凄まじい白煙が周囲の森を丸ごと覆い尽くす。そして――。
「おいおいおい! またバカ坊主が、面倒くせえ場所に呼び出しやがって!」
立ち込める煙の向こうから、一尾と完全に同等の巨躯を持つ巨大な山型の大蝦蟇が姿を現した。背中には巨大な大刀を背負い、口には太い煙管。
ガマ親分こと、蝦蟇ブン太。
そのブン太の巨大な頭部の上に、サスケ、サクラ、ナルト、シカマルの四人が着地する。
対する相手は、砂の巨獣・一尾。
巨大な狸と、巨大な蝦蟇。
森を見下ろす二大巨頭の対峙。
「……なるほどな」
サスケはブン太の頭の上で不敵にクナイを構え直した。
「こいつなら、確かにあの化け物と対等にやり合える」
ブン太は煙管の煙を吐き出しながら、目の前の一尾をドスの利いた眼光で睨みつける。
「おい、ナルト。ありゃあ一体何だ?」
「敵だってばよ、ガマ親分! 里を壊そうとしてるバケモノだ、ぶっ飛ばしてくれ!」
「簡単に言いやがるじゃねえか、このガキが……!」
ブン太は煙管を噛み締め、ドスンと深く腰を落とした。一尾もまた、ブン太の登場に激しい敵意を剥き出しにし、砂の巨腕を振り上げる。
次の瞬間、二体の巨体が正面から激しく激突した。
ドガァァァン!!!
大地の底が抜けるような衝撃波が走り、砂塵が舞い上がり、周囲の木々が爆風でドミノのようにへし折れていく。
大怪獣同士の、里の存亡を賭けた死闘が幕を開けた。
◇自来也視点◇
(……チッ、まずいのぅ)
自来也は激しくチャクラを火花散らせながら、内心で冷や汗を拭っていた。
大蛇丸との一対一の戦いであれば、決して一方的に押されるわけではない。忍としての純粋な技量と経験だけで言えば、万全の状態なら勝機は十分にこちらにある。
しかし、今は状況が最悪すぎた。
先ほどまで大蛇丸が繰り出してきた初代火影と二代目火影。あの未完成とはいえ『忍の神』たる二人を同時に相手取ったせいで、三代目も自分も体内のチャクラと体力を大幅に消耗しきっている。
ようやく二人を巻物へ封印し、大蛇丸一人に集中できる環境を作ったものの、肉体に蓄積した致命的な疲労は簡単には拭えない。
現在はなんとかガマヒロとの連携で対等に切り結んでいるが、大蛇丸の底知れないタフさの前に、少しずつこちらの均衡が崩れつつあるのを感じていた。
(この狭い結界の中、なんとか隙を作って『仙人モード』に入れれば一撃でひっくり返せるんじゃがな……)
自来也は苦渋の表情で思考を巡らせる。妙木山の二大仙人を呼び出し、仙人モードへ移行できれば戦況は一変する。しかし、そのためには両手を合わせて膨大な自然エネルギーを練る『静止の時間』が必要だ。その間、自分は完全に無防備になる。
大蛇丸という稀代の暗殺者が、その致命的な隙を黙って見逃すはずがなかった。
(それに……先生がもう限界じゃ)
自来也はチラリと横目で三代目火影・猿飛ヒルゼンを見やった。
老いた火影の身体は、すでに満身創痍。戦闘服はボロボロに裂け、全身から血が滲み、その呼吸には隠しきれない濁った疲労が混ざっている。
これ以上、三代目を大蛇丸の猛攻の前に晒し続けるのはあまりにも酷だった。
自分が仙人化のために静止すれば、三代目の盾が消える。だからこそ、動けない。
「くくく……どうしたのよ自来也、先生。随分と呼吸が荒くなって、余裕がなくなってきたじゃない?」
大蛇丸が蛇のような長い舌を伸ばして唇を濡らし、勝ち誇ったように薄く笑う。
「抜かせ……ワシらの底力は、まだまだこれからじゃよ!」
自来也が大蛇丸を鋭く睨み返した、まさにその瞬間だった。
トッと、ワシの肩に微かな重みが加わった。
「ん……?」
一瞬だけ戦闘の視線を切らずに肩へ意識を向けると、そこにはいつの間にか、手のひらサイズの小さな赤い小鳥がちょこんと止まっていた。
(……この鳥、いつの間に……!?)
自来也が目を見開いた直後、脳内の奥底に直接、クリアな少年の声が響き渡った。
『自来也さん、俺です。心です。大蛇丸に気づかれないよう、このままチャクラの通信を聞いてください』
(心じゃと……!? 結界の外からワシの中にチャクラを繋いできたか!)
自来也は表情を一切変えず、正面の大蛇丸を睨み据えたまま、心の声に全神経を集中させた。
『この通信は一方通行ですので、詳しい状況説明は後回しにします。今から大蛇丸を追い詰める、最高の作戦を伝えます――』
◇心視点◇
自来也さんに小鳥を介してテレパシー、チャクラ通信を繋ぐ、およそ十分ほど前のこと。
俺は各地の音忍を処理しながら、朱明様から聞いた話について思考を巡らせていた。
朱雀一族が持つチャクラ通信には、少し特殊な固有の性質がある。基本的に、契約獣からの声を聞くことができるのは契約者である俺だけだ。
だが、俺が発信したチャクラの波動であれば、契約獣が直接物理的に『触れている相手』の脳内にもそのまま一方通行で共有させることができる。
(これなら、四紫炎陣の結界の遮断をすり抜けて、中にいる自来也さんに直接作戦を耳打ちできる!)
そして、新しく口寄せする朱雀一族『朱歌』の能力の運用方法。
朱歌の紡ぐ癒やしの旋律が届く有効範囲は、半径およそ百メートル。
大蛇丸にその歌を聞かせるには、この紫の炎の結界の目と鼻の先まで接近して発動しなければならない。
そして、もう一つ重要なリスクがある。
朱歌の回復の波動は、敵味方を区別しない。
範囲内にいるチャクラを持つすべての存在に均等に作用する。
歪みのない一般的な忍なら体力とチャクラが完全回復するが、魂を他人の器へ無理やり繋ぎ止めている大蛇丸には、その清らかな波動が『拒絶反応の劇薬』となって内側から肉体を崩壊させる。
しかし、結界の外側で四紫炎陣を必死に維持している音の四人衆にも、その回復効果は届いてしまう。彼らが俺から受けたダメージや消耗したチャクラを、歌によって全回復してしまう可能性は極めて高い。
(まあ……大蛇丸をここで確実に仕留められるなら、四人衆の回復くらいは安いコストか)
最優先は大蛇丸の打倒だ。
結界が解けた後、四人衆が万全の状態で襲いかかってくるリスクは、外にいる上忍たちにケアしてもらえばいい。
俺は結界のすぐ外側で、押し寄せる敵を次々と撃破していたカカシ先生とガイ先生の元へと瞬身で着地した。
「カカシ先生、ガイ先生」
「心か。影分身の各地への援護、助かった。で、状況は?」
カカシ先生がクナイを構えたまま視線をくれる。
「大蛇丸を内側からハメる作戦があります。まず、この結界の周囲半径百メートル以内にいる敵の残党を完全に掃討してください。これから朱歌の能力を展開するにあたり、外の雑魚敵まで回復させたくないんです」
「朱歌……?」
ガイ先生が太い眉をひそめて首を傾げる。
「口寄せ契約した朱雀一族です。戦闘能力は皆無ですが、その歌声には『範囲内の人間を回復させ、魂が歪んでいる者にだけ致命的な拒絶ダメージを与える』という特殊なチャクラ波動があります」
二人に朱歌の能力の概要を素早く説明した。
「朱雀一族の感知能力は優れていて、一族の長ーー朱明様に大蛇丸の魂が歪んでいる者に該当することは確認済みです」
「なるほどね……。周囲への回復と、魂が歪な者には特効薬になる……か。面白い術だ」
カカシ先生がマスクの下で不敵に顎に手を当てる。
「ただ、結界を維持している音の四人衆も範囲内に入ります。彼らも回復してしまうため、結界が解けた直後、四人衆が襲ってくる可能性が高いです。先生方には、その四人衆の瞬時の無力化をお願いしたいんです」
「フッ、そういうことなら任せてもらおう! 結界が解けた瞬間に、俺の青春の熱き鉄槌で四人衆を一網打尽にしてやるぞ!!」
ガイ先生が白い歯をキラリと光らせて親指を立てる。
「了解。外の残党は俺たちで一瞬でクリアにする。心、お前は作戦を進めろ」
カカシ先生が写輪眼を鋭く輝かせて頷いた。
「助かります、お願いします!」
二人に深く頷き、俺は紫の結界の天井を見上げた。結界の内側には、事前に侵入させておいた朱雀の小鳥一羽が上空に潜んでいる。
(あとは、あの小鳥が自来也さんに接触すれば、通信網は完成する……!)
俺はその小鳥のチャクラへ意識を鋭く同調させた。
『自来也さんの肩へ接触して、俺の声を届けてくれ!』
『は〜い!』
脳内で小鳥の返事が響き、瞬時に大蛇丸の視界の死角をすり抜けて自来也さんの肩へと舞い降りた。よし、通信は繋がった。
あとは、俺が外側から朱歌を口寄せし、この戦場全体に最高の歌を響かせるだけだ。
◇サスケ視点◇
「すげぇ……」
足元に広がる、圧倒的な質量を持つ蝦蟇の皮膚を見下ろしながら、サスケは小さく呟いた。
ナルトが口寄せした巨大な蝦蟇。その威容と存在感は、目の前の化物である一尾に対しても寸分も引けを取っていない。
(あいつ、いつの間にこんな術を……)
驚きと同時に、胸の奥に複雑な感情が湧き上がる。
ナルトは、以前ならば出来の悪い弟のような存在だった。騒がしくて、無鉄砲で、何をするにも失敗ばかり。だが、今は違う。自分の知らないところで、確実に成長している。そのことが嬉しくもあり、悔しくもあった。
(俺も負けていられないな)
サスケは密かに決意する。
口寄せの術、自分もいつか習得してみせる。
そんなサスケの決意の間にも、文太と一尾の超重量級の戦闘は激しさを増していた。
一尾の巨大な砂の爪が空気を引き裂いて振り下ろされ、ブン太がそれを背中の大刀を抜いて強引に受け止める。
キィィィィン!!!
凄まじい金属音が響く。
「ぐっ……! クソ重てえな、なんて馬鹿力だあのタヌキは!」
「ガマ親分、負けるなだってばよ! 根性見せろ!」
「うるせえ! お前は頭の上で黙ってろ、このガキが!」
ブン太が怪力で一尾を強引に押し戻す。
しかし、一尾は狂ったように笑いながら、今度は巨大な尻尾を鞭のようにしならせて横からブン太の脇腹を狙った。
「うおっと!」
ブン太は驚異的な跳躍力で巨体を反転させ、直撃を辛うじて回避する。地響きと共に地面が大きく抉れ、猛烈な砂煙がブン太の頭上まで巻き上がった。
シカマルは風圧に飛ばされそうになるが、サスケたちは心との修行で鍛えたチャクラコントロールを駆使して、ブン太の皮膚にピタッと吸い付くように姿勢を崩さず踏みとどまっていた。
「このまま正面から殴り合ってたら、ジリ貧よ……!」
サクラが一尾の額のあたりを鋭く見つめながら声を張り上げる。
「そうだな。ナルト、あの蝦蟇に丸投げして勝てる相手じゃねえぞ」
サスケが写輪眼を輝かせながらナルトを促した。
「分かってるってばよ!」
ナルトが一尾を睨みつけたその瞬間、一尾の額の砂の装甲がメキメキと蠢き、形状を変えた。砂の額の中から、何かがゆっくりとせり上がってくる。
「……あれは?」
サスケが写輪眼の洞察力を極限まで凝らした。
そこに現れたのは、目を閉じて眠ったような表情を浮かべる我愛羅の上半身だった。そして、彼の口が呪詛のように小さく動く。
「――忍法・狸寝入りの術」
その瞬間、我愛羅の肉体と一尾の巨体から、先ほどまでとは文字通りケタ違いの、ドス黒く悍ましい狂気のチャクラが爆発的に膨れ上がった。守鶴の目が、ゆっくりと、完全に閉じていく。
「おい、ナルト! 何が起きてやがるんだ! あのタヌキの気配が変わりやがったぞ!」
ブン太が声を荒らげる。
「いや、俺に聞かれてもーー……えっ?」
「……ナルト?」
ナルトが急に目を丸くして固まる。その姿を不審に思い、サクラが呼びかけるが無反応。
しばらくするとナルトはハッと我に返り、冷汗を流しながら叫び返した。
「ガマ親分! あいつ、自分から眠りやがったんだってばよ! 今、九尾の奴が教えてくれたんだ……! あの術で自分から眠ることで、我愛羅の中にいる一尾ーー守鶴っていう奴の意識を完全に解き放って、目覚めさせやがったんだってばよ!!」
「一尾の……守鶴……!?」
サスケは目を見開いた。
ナルトの中に九尾がいることは心に教えられて知ってはいたが、そんな情報を急に伝えてきた事実にも驚いた。
だが、それ以上に、一尾の身体から放たれる凄まじいチャクラの圧力が、周囲の空間そのものを歪ませていく。
先ほどまでとは比較にならない、世界そのものを圧殺するような絶望的な殺気。巨大な砂の狸の顔が、ニィと裂けるように笑いながらこちらを向いた。
「グオオオオオオオオオオオオッ!!!」
大気を破裂させる本物の咆哮。
直撃した周囲の巨木が一瞬で粉々に粉砕され、衝撃波がブン太の巨体を強引に数メートル押し下げる。
「チッ……! どうやら、ここからが本当の地獄のようだな!」
ブン太が大刀を両手で固く構え直した。
「ガマ親分! だから、あの額に埋まってる我愛羅の奴のド頭をぶん殴って、無理やりにでも目を覚まさせなきゃダメんだってばよ!」
「理屈は分かっている! だが、あの嵐の中にどうやって近づく気だ!?」
一尾が大きく胸を膨らませ、大量の空気を吸い込んでいく。
「来るぞ、最大規模のやつだ!!」
サスケが鋭く叫んだ。
次の瞬間、大気を圧縮した超巨大な空気弾が放たれた。
「風遁・練空弾!!!」
ドゴォォォン!!!
ブン太は大刀を盾にして必死に耐えるが、凄まじい風圧と衝撃波に巨体が大きく後方へと押し込まれる。
「しっかり足場を踏み締めろ、お前ら!」
サクラは足裏のチャクラ制御を限界まで高めてブン太の頭部に完璧に立ち尽くし、シカマルも必死に姿勢を低くして耐える。風が収まった時、周囲の森は跡形もなく消し飛び、地面には巨大なクレーターが刻まれていた。
「なんてデタラメな威力だ……。付き合ってられねえぜ」
シカマルが顔を引きつらせる。
「これじゃ、普通に突っ込んでもあの額までたどり着く前に消し炭ね……」
サクラも唇を噛む。
サスケは一尾の額で眠る我愛羅の本体を鋭く見つめた。
(ナルトの言う通り、我愛羅を物理的に叩き起こす……それがこの化け物を止める唯一にして最短の正解ルートか)
だが、あの超高火力の攻撃を掻い潜りながら、あの巨大な砂の身体をどうやって登る? 今の自分のチャクラ残量では、無謀に突っ込めば途中の風圧だけで力尽きかねない。
「ナルト!」
サスケが前を見据えたまま、隣の仲間ーーライバルへ鋭い声をかける。
「何だってばよ、サスケ!」
「要は、あの額にいる我愛羅の面に、お前の一撃を叩き込めばいいんだな?」
「おう! あいつの目を覚まさせれば、一尾のコントロールは切れるってばよ!」
「なら――俺たちで道を作ってやる」
サスケは不敵に口元を歪め、二つ巴の写輪眼をギラリと輝かせた。
「サクラ、シカマル。ナルトのバカがあの狸のド頭に飛び込めるよう、俺たちでサポートをするぞ!」
「任せて! 心仕込みの拳、ここで全部解放してあげるわ!」
サクラが頼もしく両拳を打ち鳴らす。
「はぁ……死ぬほど面倒な役割分担だけどよ。ここまで来てナルトを死なせたら、心に何を言われるか分かったもんじゃねえからな。やるしかねーか」
シカマルも観念したように鋭い眼光を見せた。
「お前ら、ガキのくせに格好いいこと言いやがって!」
ブン太が大きく口を開き、大刀を握り直す。
「俺もとことん付き合ってやる! だが、あの化け物の懐に入るんだ、絶対に足を踏み外すんじゃねえぞ!」
「おう!!! 行くってばよ!!」
ナルトが拳を突き上げて咆哮した。
サスケはその横顔を横目で見随えた。
(……本当に、とんでもねえ速度で変わりやがるな、お前は)
サスケは心の奥で静かに笑った。
「行くぞ……!!」
ブン太が強靭な後脚で大地を爆裂させて跳んだ。巨大な蝦蟇が、狂暴に練空弾を連発する一尾の懐目がけて突撃を開始した。