◇ナルト視点◇
ナルトは、狂暴に吠え猛る一尾の圧倒的な圧力を正面から見据えながら、己の意識の最深部へと深く潜り込んでいた。
――精神世界。
薄暗い水が張られた、巨大な封印の檻。その格子戸の奥に潜む、山のような九本の尾を持つ九尾。今のナルトにとっては、ただの恐るべき災厄のバケモノではなかった。
ナルトは自来也との修行で、初めて自分の中にいる九尾と対面して以来、毎日のようにここへ来ていた。
最初は、ただ追い詰められた時に九尾の赤いチャクラを制御し、引き出す方法を探るためだった。だが、次第にナルトの目的は変わっていた。
「なあ、九尾!」
『……また貴様か、クソガキ。何度我の前に這い寄れば気が済む』
「だってよ、お前いつも檻の奥で退屈そうなツラしてっからよ!」
『フン……貴様のような浅はかな人間と話すことなど何一つないわ』
「そんな冷たいこと言うなってばよ!」
九尾はいつも通り、不機嫌そうに鼻を鳴らして凄まじい殺気のプレッシャーを放つ。
人間への底知れない憎悪、呪い、そしてナルト自身へ向けられる剥き出しの敵意。
それらは初めて会った時から何一つ変わっていない。
それでも、ナルトは九尾への対話を決して諦めなかった。
かつてのナルトなら、九尾を恐れ、力を借りるためだけに接していたかもしれない。
しかし、この世界のナルトは違った。
心と出会い、初めて友達ができた。
一緒に修行をして、失敗して、競い合って、時には叱られた。
心との時間は、ナルトの身体だけでなく、考え方や精神面も成長させていた。
だからこそ、ナルトは気づいてしまった。
九尾の憎悪の奥にあるもの。
それは、怒りだけではなかった。
どこか、寂しさのようなものも感じたのだ。
(こいつ……ずっと、たった一人で誰も信じられずにいたのかな……)
そう思ってしまったら、放っておけなくなった。
どれだけ悪態をつかれても、どれだけ邪険にされても、ナルトは笑顔で話しかけ続けた。
そして、九尾の方にも変化が生まれていた。
そして、その諦めの悪さは、九尾の頑なな心に少しずつ、確実に変化を刻んでいた。
人間への憎悪が消えたわけではない。だが、ナルトの泥臭い成長を誰よりも特等席で観測し続けるうちに、その魂の在り方を認め始めていたのだ。
特に、ナルトの初めての友人である『枢流陀心』という少年の存在。九尾はナルトの瞳を介して、心という存在に強い興味を抱いていた。
枢流陀一族。
呪われた力ーー緋の眼を持つ一族として、その悪名を知っていた。
周囲からどれだけ化け物として恐れられ、冷冷たる視線を向けられようとも一切ブレず、己の力をただ純粋に制御し、ねじ伏せていく心の姿。
九尾はそれをずっと見つめていた。
人間は等しく愚かで、醜い。
ずっとそう思っていた。
だが、心のような生き方をする人間もいる。そしてナルトのように、どれだけ邪険にされようとも、真っ直ぐに檻の奥へと手を伸ばし続けようとする馬鹿な人間もいる。
そんな二人の奇妙な絆を見せつけられるうちに、九尾の傲慢なプライドの壁に、僅かな綻びが生まれていた。
だからこそ、ナルトが中忍試験で初めて友達のために激怒した時、自らのチャクラを貸してやったのだ。
そして、つい先ほども。一尾の守鶴について、そして我愛羅の『狸寝入りの術』の危険性について、頼まれもしない情報をナルトの脳内へフリーズさせるほどの勢いで教えてやったのも、その変化の証拠だった。
『おい、小僧』
巨狐の赤い瞳が、檻の奥で妖しく光る。
「ん? どうしたってばよ?」
『貴様は……この先、どうしたい』
「どうしたいって、そりゃあの砂の我愛羅の奴をぶん殴って止めるに決まってっだろ!」
『……フン、相変わらず短絡的なガキだ。……砂の小僧を止めた後のことだ』
「……我愛羅を助けてやりてぇ。お前も誰かと繋がって生きていけるって教えたいってばよ」
『……そうか』
「九尾!お前もだってばよ!」
ナルトは満面の笑みを九尾へ向ける。
格子の奥の巨狐は、しばらく深い沈黙を保っていた。そして、どこか照れ隠しのように、苦々しく、だが明確な重みを持って口を開いた。
『……九喇嘛だ』
「え?」
ナルトはポカンと目を瞬かせた。
『それが我の真の名だ。九尾などという、人間どもが勝手につけた忌々しい数文字で我を呼ぶな』
「…………」
最初、ナルトはその言葉の重みをすぐには理解できなかった。
だが、脳内でその響きを反芻するうちに、少しずつ意味が染み渡ってくる。
世界中から恐れられる眼前の巨大な化け物が、自分だけに、初めてその本当の名前を教えてくれたのだ。
「……そっか!!」
ナルトの顔に、これ以上ないほどの弾けるような満面の笑顔が浮かび上がった。
「おう! これからよろしくな、九喇嘛!!」
『……フン、調子に乗るな、ガキが』
九喇嘛はフイッとそっぽを向いた。しかし、その表情にはいつものような刺々しい苛立ちはなく、どこか奇妙な、静かな諦念と信頼の光が混ざっていた。
ナルトはその魂の変化を肌で感じ取りながら、現実世界へと一気に意識を戻した。
(よし……!!)
視界が開ければ、目の前には咆哮を上げる巨大な砂の怪獣・一尾。そして、その額に眠る我愛羅。
ナルトは拳を血がにじむほど強く握り締めた。
(九喇嘛が力を貸してくれたんだ……! 我愛羅、お前を絶対にその暗闇から助け出すってばよ!!)
◇サスケ視点◇
一尾とブン太の超重量級の激突は、周囲の地形を完全に消し飛ばすほどに熾烈を極めていた。
「ぐおおっ!!」
ブン太が一尾の圧倒的な砂の爪撃を大刀で強引に受け止める。巨体同士の凄まじいチャクラのぶつかり合い。その余波の衝撃風だけで大地が激しく割れ、何十本もの大樹が爆風で消し飛んでいく。
「ナルト!! まだかよ!」
サスケが写輪眼のニつ巴を激しく回転させながら、隣のナルトへ鋭い声を飛ばした。
「……おう! もうバッチリだってばよ、サスケ!!」
ナルトの瞳が一瞬で鋭い十文字気味の気配を帯び、全身から立ち上る赤いチャクラが完璧に安定したコントロール下に入る。
その間にも、冷静に一尾の巨体の重心を観察し続けていたシカマルが、ブン太の頭上で鋭く叫んだ。
「ガマ親分! 次は右から砂の触手が来る! そのまま身体を左に深く傾けてかわしな!」
「注文の多いガキだな、おい!」
ブン太は文句の毒づきを吐きながらも、シカマルの戦術眼を信じてその巨体を指示通りにスライドさせた。
一尾の暴進を大刀のハラで巧みに受け流し、砂煙を隠れ蓑にしながら少しずつ、着実に一尾の死角へと距離を詰めていく。
シカマルの狙いは、ただ一つ。一尾のあの巨体に『影真似の術』をダイレクトに叩き込むこと。
ただし相手は圧倒的なチャクラを誇る尾獣だ。
正面から普通に影を伸ばしても、その莫大なプレッシャーで術そのものを弾かれるか、瞬時に気づかれてかわされる。
だからこそ、ブン太の巨体と打撃を利用して、一尾の視線と身体の向きを強制的に誘導し、最大の死角を作った。
「――今だ!! 影を滑り込ませろ!!」
一尾の背後、ブン太の影が最も長く伸びた一瞬の刹那。シカマルの足元から爆発的に影の触手が走り、一尾の巨大な足の影へと完璧にリンクした。
「忍法――影真似の術!!!」
ビキィィィッ!!! と、狂暴にのたうち回っていた一尾の巨体が、まるで時間が凍りついたかのようにピタリと制止した。
「よしっ、かかったァ!!」
ナルトが歓声を上げるが、術の術者であるシカマルの顔面は一瞬で血の気が引き、歯が砕けるほどのプレッシャーが襲う。
(クソッ……重すぎる……!! チャクラの質量がケタ違いだ……!)
一尾の抵抗する力が強すぎる。
影真似の術でこの怪物を完全に抑え込んでいられる時間は、コンマ数秒、持って数秒が限界。
「くっ……! 持って数秒だぞ! 早くしろォ!!」
シカマルの悲鳴のような叫び。
だが、その言葉が終わるよりも早く、既に弾丸の速度で一尾の頭上へと跳躍している影があった。
サクラだ。
◇サクラ◇
(シカマルが止めるこの一瞬……ここしかない……!)
シカマルが影真似の術を成功させる完璧なタイミングに合わせ、サクラは迷いなくブン太の頭部を蹴って真上へと飛び出していた。
サクラは空中を舞いながら、冷静に一尾の頭部を見下ろして思考を極限まで研ぎ澄ましていた。
心から教わった技術。
纏。絶。 練。周。凝。 そして、硬。
纏で身体能力を高めるだけでは、一尾の砂の絶対防御を貫くには到底足りない。かといって、纏だけのチャクラで凝しても、あの巨体にダメージを与えることはできない。周も同様。
必要なのは練。
そしてーーまだ一度も成功していない技術。
練で爆発的に増幅させチャクラを一点に集中、凝縮させる技ーー硬。
これしかない。
だからこそ、サクラは飛び出す前から準備をしていた。
自身のチャクラを精密にコントロールし、必要な瞬間に解放できるように。
(集中して……! 心のチャクラの流れをトレースするのよ……っ!)
サクラの脳裏には、心が見せてくれた完璧なチャクラの流れのイメージが鮮明に焼き付いていた。
そして今。
サクラは一尾の真上ーー上空へ到着。
一尾の頭部が視界に迫る。一尾の意識がシカマルの影真似の拘束を強引に引きちぎろうと暴れ出す。
その瞬間、サクラの瞳が鋭く見開かれた。
「練っーー!!」
最大限に溜めたチャクラを一気に解放する。
全身から爆発的に噴き出した桜色のチャクラを、超精密な制御で右拳へと一点集中させる。
(すべてのチャクラをーー右拳へ!)
制御を乱せば失敗する。
だが、ここで失敗するわけにはいかない。
サクラの瞳が鋭くなる。
「 硬ォォ!!! しゃーんなろーっ!!!」
渾身の力を込めた、重力をも置き去りにする右ストレートを撃ち下ろしーー、一尾の砂の脳天へと真っ直ぐに炸裂した。
ドゴォォォォンッ!!!!!
森全体がひっくり返るような凄まじい衝撃波が走り、一尾の巨大な頭部が強引に地面へと叩きつけられ、その足元の台地が丸ごと陥没した。
「グオオオオッ!? 何だこの、人間の娘の威力はぁぁ!?」
一尾の巨体が完全に脳震盪を起こしたように激しく揺らぐ。
サクラはしなやかに着地しながら、ジジじとチャクラの煙を上げる自分の右拳を見つめた。
(できた……! 心の言っていた、チャクラを逃がさない、硬の感覚……掴んだわ!)
土壇場での限界突破。
しかし、サクラは勝利の余韻に浸ることなく、即座に次の連携へと視線を繋いだ。
「サスケくん、今よ!!」
◇サスケ◇
サクラが一尾へと跳躍すると、ほぼ同時。
サスケは己の手の中に最大の雷遁を滾らせていた。
「千鳥!」
バリバリバリバリッ!!! と千の鳥の地鳴きが響き渡る。
だが、いつもの千鳥とは明らかにチャクラの形状が異なっていた。
(あの巨大な砂の質量に対して、ただ点で貫く通常の千鳥をぶち込んでも、内部まで届く前に砂に吸収されて終わりだ……!)
千鳥の切先に、体内の残チャクラの全てを無理やり注ぎ込み、雷の性質変化を極限まで暴走させる。
そして、その拡散しようとする膨大な雷を、纏と凝の技術を逆用して手のひらのなかに無理やり、高圧圧縮した。
(まだだ……! 弾け飛ぶな、俺の制御下にいろ……もっと圧縮しろ!!)
キィィィィンと耳を突き刺すような超高音の雷鳴。
少しでも集中が切れれば、サスケ自身の左腕が消し飛ぶほどの暴発寸前のエネルギー。
サスケはそれを写輪眼の洞察力と心との修行で身につけたチャクラの制御力で、力づくでねじ伏せる。
そしてーー
ドゴォォォォンッ!!!!!
サクラの強烈な攻撃によって、一尾が地面へ沈み込んだーーその瞬間。
サスケはブン太の頭部から一尾の胸元へと瞬身の速度で肉薄し、胸の装甲へと直接、その左手を力強く叩きつけた。
「ーーーーー千鳥・放電ッ!!」
圧縮されていた膨大な雷遁を一尾の砂の肉体の内部へと一気に解き放つ。
バリィィィィン!!!
一尾の巨大な身体の内部を、数万ボルトの青白い電撃の網が血管のように縦横無尽に駆け巡った。砂は本来、高熱の雷を通すことでガラス化し、その結合を完全に破壊される。
「グオオオオオオオオッ!? 身体が、動か、ん……!?」
一尾の巨体が、全身のチャクラの伝達網を雷遁で完全に焼き切られ、激しく痙攣しながら完全にその場に凍りついた。
サスケは歯を食いしばり、左手の皮が焦げるのも構わずに全てのチャクラを流し込み、叫んだ。
「今だ、ナルトォォ!! 行けェ!!!」
◇ナルト◇
「任せろってばよ、サスケェェエエ!!!」
サスケの叫びと同時に、ブン太の頭部から弾丸のように飛び出したナルトが、一尾の額で眠る我愛羅の元へと真っ直ぐに肉薄した。
ナルトの全身には、九喇嘛から引き出した禍々しくも圧倒的に洗練された、黄金色に近い赤いチャクラの衣が完璧に纏われている。
ナルトはその全エネルギーを、自身の右手へと一気に集束させた。
(九喇嘛!! 力の制御を合わせろ!!)
『フン、我のチャクラの奔流に振り落とされるなよ、ナルト!!』
九喇嘛の圧倒的なチャクラの主導権と、ナルトが心から叩き込まれた四大行の技術――『纏』、『練』、そして『硬』のイメージが、今、完璧な一本のラインとして融合した。
『練』と『硬』
ナルトはこれまで一度も成功したことがなかったが、九喇嘛という最高の相棒が内側からチャクラの波長を完璧にコントロールし、ナルトの右拳へと全質量を上乗せしていく。
「――これが、俺と九喇嘛の……修行の成果だってばよおおお!! 硬ォォオオ!!!」
九尾の圧倒的なチャクラを高密度に凝縮させたナルトの鉄拳が、一尾の額で狸寝入りをしている我愛羅の顔面に、正面からクリーンヒットした。
ドグォォォォンッ!!!!!
凄まじい衝撃波が爆発し、我愛羅の身体が一尾の砂の結合から完全に引き剥がされ、空中を何十メートルも吹き飛んで地面へと激しく激突した。
主導権を握っていた我愛羅の意識が強引に叩き起こされたことで、一尾の巨大な砂の肉体が、ガラガラと音を立てて崩壊し始める。山のような狸の姿は一瞬にして形を失い、ただの広大な砂の山へと戻っていった。
「……ふぅ、やったってばよ」
ナルトがズドンと着地する。その直後、ガマ親分が深々と煙管の煙を吐き出した。
「ふん。大したガキどもだ。これで俺の役目は終わりだな。ナルト、また美味い酒のつまみでも用意しとけよ!」
ボンッ!! と巨大な煙を残し、蝦蟇文太は満足そうに妙木山へと帰還していった。
静寂を取り戻した演習場の森。
そこに残されたのは、肩で息をするサスケ、サクラ、ナルト、シカマルの四人。
そして、少し離れた地面に力なく倒れている我愛羅の姿だった。
◇
「我愛羅!」
ナルトは即座に、倒れている我愛羅の元へと駆け寄った。サスケたちも油断なくクナイを構えながらその後に続く。
我愛羅は地面に仰向けに横たわり、全身の砂の鎧が剥がれ落ちて意識を失っているようだった。
「おい! 我愛羅! 起きろってばよ!」
ナルトがその肩を何度も強く揺する。
しばらくすると、我愛羅の瞼がゆっくりと、重そうに開いた。
「……ここは」
「気がついたか!」
ナルトは心の底から安堵したように、ニカッと笑った。
我愛羅は焦点の合わない目で、周囲の砂に戻った一尾の残骸、傷つきながらも自分を囲むナルトたちを見渡した。
そして、その掠れた声で困惑を吐き出す。
「……なぜだ。なぜ……俺を殺さなかった」
「ん?」
「俺はお前たちを殺そうとした。里を壊し、何人も傷つけた……。お前たちにとって、俺はただの敵のはずだ。それなのに、なぜ手を差し伸べる……?」
我愛羅の声には、これまで彼が信じてきた『自分以外の人間は全て敵』という世界のルールが崩壊したことへの恐怖と困惑が混ざっていた。
ナルトはすぐには答えず、我愛羅の孤独に染まった瞳を真っ直ぐに見つめ、静かに口を開いた。
「……お前が、昔の俺と、全く同じ目をしてたからだってばよ」
「何……?」
「俺も、心が話しかけてくれるまではずっと独りぼっちだった。里の奴らからはバケモノって避けられて、誰も俺の存在なんて認めてくれなかった……。だから、お前がどれだけ苦しくて、どれだけ寂しい気持ちで生きてきたのか、痛いほど分かるんだよ」
我愛羅は言葉を失い、ナルトの言葉をただ呆然と聞き入った。
「でも、今の俺には、ここにいる大切な仲間たちがいる」
ナルトは振り返り、サスケ、サクラ、シカマルへと視線を向けた。
「一緒にバカやって修行して、ケンカして、命がけで助け合って……俺の存在を、真っ正面から見てくれる奴らがいるんだ。心が俺を暗闇から引っ張り出してくれたみたいにさ」
その言葉に、サスケは「フン……」と少し照れくさそうに視線を逸らし、サクラとシカマルは静かにナルトの言葉に頷いた。
「だから俺は、そいつらを守るために強くなりてえ。お前だって、本当はただ人を殺したいんじゃなくて……誰かに名前を呼んでほしかったんじゃねえのか?」
我愛羅の張り詰められていた心が、ナルトの真っ直ぐな魂の言葉によって、バラバラと音を立てて崩壊していく。
「俺は……殺すことでしか、自分の存在を定義できなかった。俺が生きる理由は、自分だけを愛することだ……」
「そんな悲しいこと言うなってばよ」
ナルトは優しく首を横に振った。
「これからだって、いくらでも変われる。俺だって心の影を追って変われたんだ。だから、お前だって絶対に変われるはずだってばよ!」
我愛羅はもう何も言い返せなかった。
自分を完膚なきまでに叩き伏せた少年が、自分を憎むどころか、その孤独を理解して手を差し伸べている。
「……お前は、なぜそこまで、真っ直ぐに強くなれる……?」
「仲間が、俺を信じてくれてるからだってばよ!!」
ナルトは一切の迷いなく、胸を張って答えた。
我愛羅はゆっくりと目を伏せーー
「……そうか」
と、初めて他人の光を受け入れるように小さく呟いた。
「我愛羅!!」
その時、森の奥から悲痛な声が響き、テマリとカンクロウの二人が血相を変えて駆け寄ってきた。二人は一尾が完全に消滅した戦場の跡を見て驚愕しながらも、我愛羅の元へと膝をつく。
「無事だったのね……! よかった……!」
テマリが我愛羅の体を恐る恐る抱き起こし、カンクロウも全身の力を抜くように安堵の息を漏らした。
我愛羅は、自分を本気で心配してくれている二人の実の兄姉の顔を見つめた。
そして、少しだけ躊躇した後、生まれて初めての言葉を口にする。
「……テマリ、カンクロウ。……すまなかった」
二人は息を呑み、驚愕で目を見開いた。あの狂気に満ちていた我愛羅が、他人に謝罪の言葉を口にするなんて、彼らにとっては天変地異よりも信じられない光景だった。
「俺は……お前たちにも、ひどい恐怖を植え付け、傷つけてきた。……これからは、少しずつだけど、お前たちと変わっていきたい」
「我愛羅……っ」
テマリの瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ落ち、カンクロウもその肩をそっと叩いた。
ナルトはその様子を見て、満足そうに鼻をすする。
「にしし! そうだってばよ! 変わるならこれからだぞ、我愛羅!」
「……うるさい。お前に言われる筋合いはない」
我愛羅は小さくフイッと目を逸らしたが、その声に以前のような冷酷な殺意は微塵も残っていなかった。
サスケはそんな砂の兄妹の和解を眺めながら、体に溜まった疲労を吐き出すように深い息を吐いた。
「……フン。これでこっちの狸退治は、一件落着ってわけか」
「ええ。だけどサスケくん、まだ全てが終わったわけじゃないわ」
サクラの鋭い言葉に、全員の表情が一瞬で戦時モードへと引き締まる。
木ノ葉隠れの里の方向からは、未だに無数の戦闘の爆音と、禍々しいチャクラの波動が響き続けていた。
一尾という最大兵器は止めた。
だが、この大戦争を引き起こした元凶は、未だ健在なのだ。
大蛇丸。そして、結界の中で命を懸けて戦っている三代目火影と自来也。
サスケは拳を強く握り締め、前を見据えた。
「急ぐぞ。心やカカシ達が、里でまだ戦っている。俺たちも加勢に行くぞ」
「おう!! 任せとけってばよ!」
ナルトが九喇嘛のチャクラの残気を滾らせて立ち上がる。
シカマルは深くため息をつきながら、頭の後ろで手を組んだ。
「ったく……本当に最後まで死ぬほど面倒な任務だぜ。けど、火影のジジイを死なせるわけにゃいかねえからな」
「行くわよ、みんな!!」
サクラの号令と共に、四人の下忍たちは、里の命運を握る唯一残された最前線――火影の屋上へと向かって、一陣の風の如く一斉に走り出した。