機動戦士ガンダムSEED GREYCHAIN 〜機動戦士ガンダムSEED二次創作〜 作:凰人吹雪
スターケージがゆっくりと大型のデブリへと近づいていく。
「おーらい、おーらい」
「ふぅ……ふぅ……」
艦橋では、スピーカーから織衣の声が響き、操縦桿を握る千尋は額に汗。
廃棄されたコロニーの残骸。艦の姿が正面しか見えない窪みを見つけた織衣たちは、そこへ係留するために、千尋が冷や汗をかきながらブースターの噴射角を調整し、少しずつ艦を下げているのだった。
「おっけー!止めて良いわ!」
「はぁ〜〜〜〜……はぁーい」
「お疲れ様でした」
織衣の指示に従って千尋が噴射を止めると、エレーナが係留用のワイヤーを射出した。
斜めに四方へ射出されたワイヤーがデブリへと突き刺さり、艦の中にキリキリと巻き取り音を響かせた後、スターケージはしっかりと固定された。
「んー……目視ならまず大丈夫そうね。あとはレーダー次第?」
「デブリがレーダーを誤魔化すでしょうし、発見は至難かと」
グレイチェインを駆り、周囲を軽く飛び回った織衣からの通信に、エレーナが軽く返した。
先日のデブリ漁りの際に、宇宙海賊に一度スターケージが捕捉されてしまったため、念の為にと活動の間隠すことにしたのだが、
「……私が場所を忘れたら最悪ね。帰って来れなくなるわ」
「その時は迷子放送でもいたしますよ、お嬢様。身長百五十センチに満たない少女を保護しております、と」
「逆じゃい」
画面越しに軽口を叩き合う二人を横目に、千尋は背もたれにぐったりと体を預けている。
「織衣ちゃぁん……これ、出る時、またぁ……?」
神経を使い果たしたとばかりに、千尋が弱々しい声をあげる。
ふむ、と織衣がしばし逡巡し、ニヤリと笑った。
「主砲でこじ開けましょ」
「電力消費が、賄えないからってぇ……つけてくれなかったよねぇ……」
戦艦に搭載される発電機は、ジャンクであっても非常に高額であり、スターケージにはたまたま安く手に入った壊れた発電機を無理やり修理して積んでいた。
そのため、主砲と呼べる威力のある砲塔は搭載せず、威嚇に使える程度の対モビルスーツ用の機関砲が一門積んであるのみ。
「このような豆鉄砲では、デブリはおろか鳩も鼻で笑うでしょうね」
「鳩連れてきなさいよ。ミンチにしてやるわ」
含み笑いをするエレーナへと噛みつきつつ、グレイチェインを旋回させる。
「んじゃ、私は予定通り付近でお宝探ししてくるから、二人はアルバートさんからデータ届いたらシステムいじっといて」
返事を待たずにペダルを踏み込み、加速。
「はぁーい……」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
通信を切り、織衣はヘルメットの中でポツリと呟いた。
「当たり、引けたら良いけどね……」
大小様々なデブリが浮遊する空間を、織衣は軽やかに進んでいく。
視界に入ったデブリを高速で選別していく。すでに何度もやってきたこと、慣れたものである。
艦は小さく、そしてグレイチェイン自体もとても大きいとは言えないサイズのため、比較的小さくて価値のあるものを選別しなければならない。
「あら、これ……シグーの盾じゃない。愛好家もいるし、拾っときましょうか」
普段実体剣を握っている右のマニピュレーターにはワイヤーでできた網をもち、価値のありそうなものを放り込む。
ある程度大きな獲物は、腰にアタッチした係留用ワイヤーを突き刺して持ち帰る算段であるが、今のところ有効活用したことは一度もなかった。
「大型艦の残骸とか……あーあ、あっても持ち帰れないかぁ」
一人でいる時はどうにも独り言が増えてしまうな、と自嘲に口角が上がる。
レーダーを視界の端に収め、反応を確認しつつ。
「うげ」
赤い点がレーダーの端に映り、すぐそばのデブリに取り付いた。
点は一つ、二つ、三つと増える。おそらく一個小隊。
「海賊なら良いんだけど……ね」
スラスターを落とし息を潜めながら、赤い点の見えた方向をズームする。
「ん……混成か。正規兵じゃないわね」
ゲイツと、ストライクダガーが二機。姿を確認してホッと胸を撫で下ろした。いくら自分が優秀とは言え、正規兵に手配などされようものなら宇宙に身の置き場がなくなってしまう。
「ダガー、出回りすぎてて買い叩かれるからいらないんだけどねぇ……」
徐々に近づく点を見ながらズームを切り、一度、二度とレバーを握り直した。
「っし、行くか。破損を減らせば多少はお金になるでしょ」
気合を入れ直して、所属不明機へと襲い掛かるタイミングを選ぶ。
果たして、無警戒なゲイツとダガーグレイチェインに気づくことはなく、理想的なバックアタック距離へと近づいてきた。
「悪く思わないでちょうだい……ねっ!」
一一機のドラグーンを射出する。狙いはゲイツ。頭を潰し、パイロットは脱出させ、無傷の胴体を奪う算段である。
周囲を三次元の機動で翻弄するドラグーンに、三機は明らかに対応できていなかった。散会して逃げ出すその背に、闇雲には撃たずに本命の射線へ追い込むように牽制のビームを放っていく。
が、死角からライフルを狙って放ったビームが、ダガーのシールドに受け止められた。
「ち……あのダガー、海賊のくせに……やるっ……」
フットペダルを踏み込んで急加速。持ち替えた実体剣を手に、三機を追った。ドラグーンの狙いは変わらず、織衣自身はダガーを狙う。
デブリの影から突如現れたグレイチェインに、三機は完全にバラバラの方向へと頭を向けた。しかし、
「遅いっ!」
出力には大きな差がある。追いついたダガーに剣を突き立てると、蹴り飛ばして剣を抜きながら鋭角に方向転換。
背後の爆発など気にも止めず、放たれたビームライフルを掻い潜り、もう一機のダガーへと肉薄する。
「死んじゃってたらごめんなさいね!」
本命の射線に追い込んだゲイツへビームを放ち、自身はダガーを追い抜く瞬間剣を横に振り抜いた。
腰から二つに分かれたダガーが爆散すると同時、ゲイツの頭が吹き飛んだ。
「いよっし、どんなもんよ!」
狙い通りの戦果に、思わずガッツポーズをする織衣だったが、誰かさんの呆れ顔とため息が脳裏をよぎり、ちょっとはしたないかと、腕を下ろすのだった。
「……」
画面に映るダウンロードバーが右端へ進んでいくのを眺めながら、
「んぅ……」
千尋はパックのドリンクに刺さるストローを噛んでいた。
艦橋内は静かで、最低限の機器しか起動していない。他者からの捕捉を避けるためでもあるが。
「う……」
その体がブルリと震えた。艦内の環境維持装置は切っていないのに、肌寒く感じる。
「千尋さん、こちらを」
「わひゃあ!……あ、すみません、ありがとうございます」
飛び跳ね、振り返る千尋に、エレーナがカーディガンを差し出していた。
「今日はとても集中していましたし、私が対応しておきますから、そちらでお休みくださいな」
柔らかい微笑みを浮かべて、エレーナが部屋の隅を指す。いつの間に準備したのか、丸テーブルと椅子が置かれていた。
「い、いえ、でもシステムの調整を──」
「私たち二人に、とお嬢様は割り振られましたから。私たちの間でどのように割り振るかも、自由でしょう?」
「わっ、わっ……」
エレーナが千尋を抱き上げ、お姫様抱っこをすると、そのまま丸椅子へと座らせる。
「神経すり減らして、お疲れなのですから、ここは私にお任せください、ね?」
「は、はぁい……」
くるりと背を向け、通信席へと戻っていくエレーナの背を、ポーッと眺める。
──こんな素敵な人なのに、織衣ちゃんにはアレだもんねぇ……
そんな千尋の内心など露知らず。
エレーナはシステムの調整箇所に目を通し始めた。