機動戦士ガンダムSEED GREYCHAIN 〜機動戦士ガンダムSEED二次創作〜 作:凰人吹雪
しかし、事態は目まぐるしく、そして深刻に進んでいく。
グレイチェインが運び出され、メンテナンスを始めようとした矢先のことである。
「ん……?」
工廠の、スターケージへと慌てた様子で駆けてくる男性の姿を目の端に認め、織衣が顔を上げる。
「天海様はおられますか!」
「私ですが……?」
駆け寄ってきた男に告げられた言葉に、口を半開きにして固まった。
「コロニーの残骸が、地球へ向かって動いてる……?」
「はい!そのため、アメノミハシラとしては、その破砕作業の支援や、被害が想定される宙域への支援、護衛を行うことが決定しました。そのため、天海様にも戦力としてご協力いただければ、と」
「え、ええ……わかりましたわ。微力ではありますが、助勢致します。スターケージは大した戦力を持ちませんので、単独で、と言うことになりますが」
男性が深々と頭を下げる。
「ありがとうございます!詳細はすぐに通信にて共有いたしますので、ご準備を!」
言うや否や、男性は背を向けかけだしていく。その背を、表情はそのまま見送った。
「地球の重力にでも、捕まった?……このタイミングで?」
「お嬢様、こちらを」
どこから聞いていたのか、エレーナがパイロットスーツとヘルメットを手に、千尋は眉根を上げて駆け寄ってきた。
「ああ、ありがと。……ほら、千尋。そんな不安そうにしない」
努めて明るい声をあげて、千尋を抱き寄せる。
「事が事だもの、アメノミハシラの戦力だけで全部やるわけでもなし。すぐ片付くわよ」
「織衣ちゃぁん……」
緊迫した空気に当てられたか、涙声になっていた。
「はいはい。二人はここにいてちょうだい。報酬……は何も言われてないけど、出るでしょうし、終わったら美味しいものでも食べに行きましょ」
背中を優しく叩くと、パイロットスーツとヘルメットを受け取って、
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
織衣もまた、駆け出していくのだった。
ユニウスセブンの残骸、その周辺では、すでに破砕作業と合わせて、戦闘が始まっていた。
「ちぃっ!やってくれるわねクソッタレ!」
そして織衣も、ユニウスセブンに取り付いた破砕作業部隊の援護に宙域を飛び回る。
ユニウスセブンまでの移動中に行われたブリーフィングで、この事態が人為的なものである事が共有されていた。
旧式のジンやその発展機が、破砕を阻止しようと襲いかかる。
「あーもうっ!なーにが『艦の護衛も普段からやってるので行けますぅ〜』よっ!バカじゃないの!」
飛び交うビームを掻い潜り、作業中のザクウォーリアへ向かうビームはシールドで庇いながら、少し前の自分へ向かって悪態を吐いた。
「四の五の言ってられないわね!ったく!」
すでにドラグーンはソードも含め全て射出、牽制のバルカンを放ちながら、黒いジンへと肉薄する。
「起動まで後どれくらい!?」
「あと四……いや二分くれ!」
「了解!」
護衛しているザクウォーリアへ怒鳴るように通信。その回答に叫び返しながら、しかし思考はドラグーンの操作へと割いていた。普段の追い込み、狩る戦術ではない乱戦。味方の位置にも気をつけなければならないのが厄介である。
「どんだけ戦力あるのよ、コイツら!」
すでに七機、襲い来る黒いジンを撃墜しているものの、後から後から増えてくる様子に舌打ち。
破砕にはタイムリミットがある。刻一刻と迫るそれに、気持ちだけが急いていく。
「っ!」
ビームが掠め、飛び退いた。その先にさらにビームが置かれており、慌ててシールドで防ぐ。
視界の端にはエネルギーゲージが赤く染まったドラグーンのリストが見える。しかし、呼び戻し装着してしまうと、グレイチェインの生成できるエネルギーを超えて供給してしまい、システムがダウンしかねない。
「くっそ、しくじったかしらね、これは」
歯噛みしながら、すれ違いざまにまた一機。すでにもともと持っていた実体剣は失われ、撃墜したジンから奪い取ったものを使っている有様であった。
「これで主戦場じゃないってんだから、狂ってるわね、本当にっ!」
また一機。ソードドラグーンが突き刺さり、貫通したジンが爆散する。と、そこに、
「近距離通信!?」
「貴様!その機体に乗りながらなぜ奴らに味方する!」
ヘルメットのスピーカーからは怒声。
「くっ!」
至近に肉薄したジンと、鍔迫り合う。
「腐ったプラントの目を覚まさせ、下等なナチュラルどもを根絶やしにしなければならないとなぜわからん!」
「うっさいわね!クソッタレ!」
ジンを蹴り飛ばし、少し距離をとりながら叫んだ。
「その機体はクルーゼ隊長の!その意志を継ぐものならば、こちらに付くのが筋だろう!」
「知るか!ンな名前ぇっ!」
何度も打ち合い、離れ、急旋回を繰り返す。
「下等だっつーんなら!あんたらも等しく塵芥よ!クソみたいな事件起こしやがって!」
「なんだと貴様!この崇高な──」
「虐殺に崇高な意思なんかあるかボケぇっ!」
ソードドラグーンを回り込ませ、自身は正面から突撃する。
「な、なんだとっ!」
「お前たちコーディネイターもっ!ナチュラルもっ!くっだらない争いばかりする下等生物ばかり!」
剣と剣がぶつかり合い、また競り合う。その背後からソードドラグーンを急襲させた。
「ぐっ、ぐわあっ!」
「それでもねぇ!両方を!どちらかを!絶滅させたところで解決しないのよっ!」
ソードドラグーンの当たりが浅く、片腕をもぎ取るのみ。ジンを蹴り飛ばし、距離を取った。
「起動完了した!こちらは引くぞ!あんたは!」
「オーライ!撤退を支援する!」
破砕の始まったユニウスセブンから、作業を行っていた二機のザクが飛び立つ。そちらへ砲口を向けるジンを、
「させないわよ!」
ドラグーンのビームで貫いた。自身も周囲を浮遊するデブリを利用し、ビームを躱しながら下がり始める。しかし、デブリの影から飛び出した、その時。
「逃がすものか!せめて、貴様だけはっ!」
「しまっ……!」
正面に、蹴り飛ばしたジンが躍り出る。すでに肩のビームライフルが光を帯びていた。
「(間に、合わないっ)」
放たれたビームが眼前に迫り、
「ち、くしょおっ!」
レバーを限界まで引き回避を試みる織衣の前に、
「なにいっ!?」
「……え」
黒い、M1アストレイの面影を持つ機体がシールドを掲げて割って入っていた。
「ふふ、僕に任せてください」
通信に割り込んだ黒いアストレイが、ジンに肉薄し、ビームサーベルを突き刺した。
「君たちのような下等生物が奪っていい命では、ありませんよ」
「こ、こんなところ、でぇっ!」
ビームサーベルが抜かれ、アストレイがくるりと離れる。
「ぐわああぁぁッッ!?」
断末魔を残して、黒いジンが爆散した。
「あ、ありがとうございます。助かりました……」
グレイチェインの側に、護衛するように佇むアストレイのパイロットへ。大きく息を吐きながら織衣は礼を言った。
「いえ、お気になさらず。貴女とは、他人と思えませんでしたので」
ディスプレイに映る端正な顔立ちの男が、ヘルメットの向こうでにこやかに笑う。
「それ、は……どういう?」
「貴女も、ナチュラルやコーディネイターなどと区別し、争い合うことを、くだらないと思っているのでしょう?僕もです。本当に、くだらない……」
笑顔を崩さずに、パイロットが肩をすくめる。
「通信、聴こえていましたよ。貴女も、大抵の愚民どもより優秀である自負がお有りなようで。奴らの自由意志に任せていては、世界は争い合うばかり」
そう言って、やれやれと首を振る。
「僕たちのように優秀な人間が、導いてあげなければ、ね」
アストレイがバーニアをふかし、くるりと振り返った。
「こちらへ。撤退されるのでしょう?もう直ぐ限界点、巻き込まれてしまいますよ。護衛させていただきます」
「え、ええ。ありがとうございます。助かりますわ」
ドラグーンを周囲に浮遊させながら、先導するアストレイに続いた。
「……ふぅ」
初めて死を身近に感じ、ブルリ、と身震いをする織衣だったが、
「あ、申し訳ございません。助けていただいたのに、えっと……なんとお呼びすれば?」
「ああ、僕こそ自己紹介もせず。僕はエリオット。エリオット・ヴァレンタインと言います、お嬢さん」
「お嬢さん、なんて……私は天海織衣と言います。織衣と呼んでいただければ」
未だ、数多の機体が、攻撃が飛び交う戦場での、奇妙な邂逅であった。