機動戦士ガンダムSEED GREYCHAIN 〜機動戦士ガンダムSEED二次創作〜 作:凰人吹雪
結論から言えば、ユニウスセブンの落下は、地上に甚大な被害をもたらした。
地上への落着による被害だけでなく、海上への落着により発生した巨大津波が各地の沿岸を襲い、大量の死者、行方不明者を出す事態に。
事件を受けて、地上ではコーディネイターへの憎しみが爆発、地球連合軍はプラントへ核による報復攻撃を行う。着弾は阻止されたものの、地球連合とプラント間の大戦は秒読みとなる。
アメノミハシラでは、ロンド・ミナ・サハクによる天空の宣言がなされる。戦火や迫害から逃れた人々が、アメノミハシラを頼り続々と集まっていく。
そして、織衣はというと。
「あーっ!もうっ!きぃーっ!」
「やめっ!止めろ嬢ちゃん!アホか!」
ガンガンと取り外されたエンジンを叩きながら奇声をあげ、それを見たアルバートが慌てて止めに入る。
先のユニウスセブンを巡る戦闘で負荷をかけすぎたエンジンが、ついにエネルギーを生み出さなくなってしまっていた。
どうにか修理ができないものかと色々な部品を組み合わせるなどしてみたものの、一向に動き出そうとしないそれに、
「言うことを!聞きなさいよっ!」
八つ当たりである。
グレイチェインは、本来の実験機から大型のライフルやビームソードをオミットしたことで、電力消費を抑えていたとは言え、ドラグーンの電力消費は大きく、現存する一般的なエンジンでは長時間の戦闘行動は難しい。
かと言って、条約で禁止された核エンジン本体やそのパーツなど望むべくもない。
ユニウスセブンでの活躍から、報酬の一部には無償修理やパーツの設計の無償協力が与えられたにも関わらず、事件後しばらく経っても修理が完了しないのはそのためであった。
「そもそもよぉ、故障の原因も分かってねえんだから、トライアンドエラーを繰り返すしかねえだろ、な?だから落ち着けって」
「これが治んないと開店休業だっての!ミナさんに生活費まで援助してもらって……ヒモになれってか!」
アルバートに腕を押さえ込まれながら雄叫びを上げる。
ここしばらく、修理で毎日顔を合わせていたため、織衣のお嬢様の仮面は完全に剥がれていた。
「あーもう!なんだっけ、脅せば治るんだっけ!?」
「そりゃアニメの見過ぎだ!そんなもんで機械が治ってたまるか!」
「じゃあやっぱ殴るしかないわよ!確か右斜め四十五度で……」
「やーめーろー!」
たまに取っ組み合いまでする二人の様子を、周囲の整備員たちは微笑ましく見守っており、エレーナはその様子を、肩をすくめて呆れた顔で眺めているのであった。
「やはり、プロのジャンク屋のお知恵をお借りするしかないのでは?」
「うぅー……」
煮詰まっていた様子に、エレーナは織衣を居住区の喫茶店へと連れ出していた。
テーブルの上には紅茶の良い香りを立ち上らせるカップにチーズケーキが一つずつ。しかし織衣はフォークを玩びながら唸り声で返事をする。
「唸っていても解決致しませんよ、お嬢様」
「わーかってるわよ……」
と、大きくため息を吐いて、自身の頬を軽く叩いた。
「プライドでは修理できないものね。よし、切り替えた。打診しといてくれる?」
「承知しました、お嬢様」
エレーナが端末を操作するのを眺めながら、フォークでケーキを切り分ける。
「ん、おいし。……千尋も来たらよかったのにね」
濃厚なチーズの香り。甘さは控えめではあるものの、確かな主張に頬が緩む。
「……千尋さんは、その……いつもの場所に行かれてるようなので」
「またか。私のせいとは言え、実質休みだからって入り浸ってない?」
呆れ顔でケーキにかぶりついた。ここ数日、姿が見えない時はだいたいタバコである。
「ミナ様から、色々と便宜を図っていただきましたからね」
ここで利用できる施設のうち、いくつかの施設を無料で使用できる権限を貰っていた。喫煙室もその一つである。
「頭が上がらないわね。追いつけるのはいつになるやら」
やれやれと頭を振る織衣に、
「床掃除ですか?お嬢様。っと……」
エレーナは端末を見た後、残念そうな目を織衣に向けた。
「あによ」
「……火星に向かって出発したばかりなので直接は見れない、と」
顔を見合わせ、しばし固まった後、ケーキの最後の一切れを口に放り込んで咀嚼する。
「タイミング、悪かったわね」
まだしばらく、デブリ漁りは開店休業が続くようである。
仕方なく、アルバートや他の技術者と毎日のように機体をいじっていたある日のこと。
「頼むから休みをくれぇっ!」
と言うアルバートの叫びにより、急遽機体いじりが中止となってしまった。
二人を誘って居住区に繰り出すかと、端末で連絡を入れると、千尋は天空の宣言から増えた子供達の面倒を見るアルバイトに、エレーナは居住区の家事代行のアルバイトに行っているとのこと。
「最近、タイミング悪いのが続くわね……」
軽く嘆息して歩き出す。
「私もバイトとかしたほうが……いやでもグレイチェインの修理が……うぐぐ……」
独り言が増えた気がしつつ、一人で居住区を歩いていると、
「……ふぅん?」
ポスターに興味を引かれ、ここへ行ってみるかと雑に決めて。
訪れたのは、広がる人工の空、きらめく人工の太陽、レジャープールであった。
売店で水着を購入。胸に合わせざるを得ず、ビキニタイプを購入することになりかなり後悔したものの、せっかくお金払って入ったのだからと着替えをすませ、いざプールに入る、と言うことはなく、プールの周囲に設置されているサマーベッドへ身を横たえて、なんとはなしに人々の様子を眺めることにした。
外では戦争が起こっていると言うのに、ここは平和なものだとあくびを噛み殺す。
ふと視界の端に、男が数人、織衣にこっそりカメラを向けているのを見つけた。
「(盗撮とか……はぁ……)」
呆れつつ、背を向けるように寝返りをうとうとしたところで、
「(いいこと思いついちゃった)」
逆に、男たちに見えるように寝返りをうち、腕を交差して胸を強調して見せ、しっかりとカメラに目線を向ける。
「お、おおおっ!」
男たちが声を上げながら、パシャパシャとシャッターを切った。
「あ、あの!お嬢さんお一人ですか!?もし良かったら一緒に──」
「モデル代、頂けますよね?」
男の声を遮って、織衣は満面の笑みで手を出したのだった。
結果として、大成功ではあった。
男たちからお金を受け取ったあと、さらに数枚撮影に応じていると、徐々に撮影者が増え始め、いつの間にか人だかりができていた。
そこで、最初に撮影した男たちが仕切り始め、撮影者に列を作らせ、お金を払えば写真を撮影できる、と言う流れが出来上がる。
「あの!目線をちょっと上にお願いします!」
「人差し指を咥えて背もたれにもたれかかってもらってもいいですか!」
などと、指定されたポーズを取りながら、撮影に応じること二時間。
「疲れたので、終わりにして欲しいのですけど」
仕切っていた男に声をかけると、
「はい!承知しました!最後に全員で一斉に一枚宜しいですか?」
「ええ、それで最後で」
と、男たちが横に並んでパシャリと織衣の姿を撮影し、解散していった。
「……モデルのバイトでもやろうかしら」
予想以上の金額が集まり、思わずニヤニヤとしていると、背後に気配を感じとり、振り返りながら、
「ごめんなさい、今日はもう終わり、で……」
「大人気だったようですね」
微笑みを浮かべて立っていたのは、エリオットであった。
「あ、あはは、お恥ずかしいところを……」
「いえ、とてもお綺麗で、恥ずかしがるようなことなどありませんよ」
赤面し、少し引き攣った笑みを浮かべる織衣に、微笑みを絶やさないエリオットがドリンクを差し出した。
「どうぞ、お疲れでしょう?」
「あ、ありがとうございます……」
素直に受け取り、口をつける。甘酸っぱい柑橘の味が口いっぱいに広がった。
「ん、おいし……。あ、あの、お金──」
「お気になさらず。良いものを見せていただいたお礼ですよ」
「……セクハラですか?」
頬は少し引き攣ったまま、ジト目で軽口を叩くと、エリオットが「おっと」と両手を挙げた。
「これはいけない。僕としたことが失礼しました」
「冗談です」
そう言いながらも、少し気になってしまい、先程の撮影者たちが置いていったタオルを腰にかける。
「世間では、あのようなことがありましたが、ここは平和ですねぇ」
辺りを見回しながら、エリオットがしみじみと呟いた。同じく、織衣も。
「そう、ですね……」
「ですが、常に気を張り続けるのは難しいですからね。人々もこうして気晴らしをしなければ、立ちいかないでしょう」
「ふふ、そうですね。エリオットさんも?」
見上げる織衣に、目を細めて、エリオットが笑う。
「ええ。今日ここへ来ようと思えたのは幸運でした。貴女に会えましたから」
その言葉に、織衣の頬に朱が差した。社交辞令とわかっていても気恥ずかしい。
「……セクハラですね?」
「いけませんね、これ以上ここにいては失言が増えてしまう」
笑いながら、エリオットが背を向ける。
「冗談ですって」
織衣の言葉に、背中越しに手を振って。足を止めることなくエリオットが去っていった。
「…………。ふぅ……」
その背を見送って、織衣は小さくため息一つ。
「胸のゼッケンにひらがなで名前って……変わった人ね……」
その日の夕食。貸し与えられた一室で。
「──で、こんな儲かったわ」
「あ、あはは……」
「お嬢様、モデルにでも転職されますか?」
エレーナの作った食事に舌鼓を打ちつつ、織衣はプールでの出来事を語って聞かせていた。エリオットとの遭遇については伏せて。
彼のことを聞かれれば、ユニウスセブンの時のことを説明させられかねない。そうなると、撃墜されかけたと言う事実を言わねばならなくなるだろう。
「(ま、機体に負荷かけすぎて壊れたってことで、バレてるかもだけどね)」
「お嬢様がモデルに……世間知らずなところがありますから──」
「誰がよ」
「──きっと男たちに騙されて裏の動画に──」
「おいこら」
「──そうするとお嬢様の肢体が半永久的に記録され──」
「おい駄メイド」
「──ああ、いけませんお嬢様!そのようなことは!」
「やらねぇわ。勝手に盛り上がらないでく──」
「せめて!腕だけでもぷにぷにからほっそりさせなければ!お腹は難しいかもしれませんが!」
織衣のツッコミを意に介さず捲し立てたエレーナが、悲しげに織衣の腕に触れる。
「……はっ倒しますわよ?」
「お嬢様。身長のせいか、威厳が少々不足しておられるようです」
そんな応酬をしながら、二人はチラリと千尋の様子を伺った。
いつもなら止めに入るはずの彼女が、今は少しぼんやりしながら、こっそりため息をついている。
「(──これは、お嬢様)」
「(──よほどの事があったわね)」
織衣とエレーナが居住まいを正し、千尋へと向き直った。
「千尋?どうしたの?なんだか上の空のようだけど」
「……ふぇ?あ、えと、ごめんなさい?」
呼びかけにハッとしたあと、何か声をかけられていたかと思わず謝罪する千尋に、二人が笑顔を向ける。
「違う違う。何か困ったことでもあった?もしタバコが手に入りにくくなったなら、エレーナに言って私の実家から手配させるわ」
「あ、いえ、それは、助かりますけど、そう言うのではなくて……」
「では、本日のアルバイトで何かありましたか?」
「っ……」
図星だったか、千尋が返答に詰まってしまった。
「話しづらいこと?」
「え、っと……その……たいしたことでは、はい、ないんですけど」
と、前置きをして、一呼吸置く。織衣もエレーナも急かすことなく、千尋が話し始めるのを待つ。
「アルバイト先の子どもたちが、その、わんぱくで。疲れちゃったと言いますか……その、スカート捲られたりとか、抱きつかれたりとか、子供の相手って大変だなあって」
「ああ……それは大変でしたね……お相手されてたのはエレメンタリースクール未満でしたか」
「そうなんですよね。だから怒るに怒れなくて。注意しても聞いてくれませんし」
おいたわしや、と同情に満ちた声のエレーナとは裏腹に、織衣が首を傾げる。
「スパッツとか履いてったらどうかしら?」
「い、いえ……そういうことじゃ……」
「お嬢様……はぁ……」
二人ともギョッとしたあと、千尋が困った顔で曖昧に笑い、エレーナが心底呆れたとため息をついた。
「な、なによ、そういうことでしょ?」
「お嬢様」
珍しく、エレーナが強い口調で織衣を止める。
「そういうことではないんですよ、お嬢様。その小さなお体で無駄に大きなお胸を晒してお喜びになられ、さらにはなぜか無駄に自分の体を完璧なものと思い込んでおられるお嬢様にはご理解いただけないかもしれませんが、スカートを捲られるという行為自体が、一般的に辛い体験になるのです。なので少し黙れ」
口を挟めない圧を感じ縮こまっていた織衣に、少しキツイ口調でトドメを刺して、辛かったですねとエレーナは千尋を抱きしめた。
織衣自身、別に無駄に露出する趣味があるわけではない。ないのだが、見せて恥ずかしい体ではないという自負、そして相手がお子様であれば気にするものでもないという見下した感情が、千尋に決定的に寄り添えない原因であった。
「千尋さん、明日からは家事代行のバイトに切り替えましょうね。私が紹介いたしますので」
「エレーナさん……ありがとうございますぅ……」
ギュッと抱きしめ合う二人に疎外感を感じ、織衣が少し口を尖らせた。
「じゃ、それで解け──」
「お黙りやがってください、お嬢様」
「はい……」
しばし、抱きしめ合う二人を眺めながら、首を傾げる織衣であった。
「すみません、エレーナさん。恥ずかしいところをお見せして」
「良いんですよ、千尋さん。お嬢様は後ほど改めて教育しておきますので」
落ち着きを取り戻し笑顔を見せる千尋を撫でながら、エレーナも笑顔を見せる。
「お嬢様はもう少し、人の機微というものを理解するようにしてください。人の上に立つものと自負があるなら尚更です」
「う、ぐ……主人に閨に呼ばれたら喜んで子供こさえそうなツラしてるくせに……」
悔し紛れの反論を、フッと鼻で笑い飛ばす。
「当然です。ちゃんとスカートや袖の中には暗器を仕込んでおりますから。寝室へ入れれば最後、セクハラする主人の息の根をしっかり止めますとも」
「……普通に拒否したら駄目なんでしょうか……」