「総隊長様!緊急の報告です!」
「……申せ」
「はっ!」
護廷十三隊総隊長、山本元柳斎重國はその日の職務を終え、ようやく一息つこうとしたところだった。護廷を束ねる総隊長としての業務に加え、上位貴族達や時の有力者、更にその代表でもある四十六室との政争と、挙げ始めればキリがない。次々とやってくる仕事を淡々と捌き、気がつけば既に夜も更けていた。この上さらに厄介事かと、流石の元柳斎もややげんなりとしつつも、それはそれと心を切り替え、報告を受けるべく続きを促す。しかし告げられた言葉は意外なものであった。
「東の森が燃えております!」
「…燃えている?火事か?」
「そう思われます!」
「…ふむ」
ならば何時も通り消火作業をすればよいではないか──とは言わない。そんなことは彼らも百も承知だ。後程報告が上がるとしてもそれは鎮火後の事後報告であり、総隊長である自分に緊急で報告するものではない。で、あるならば聞くべきことは…
「……規模か?」
「はっ!…東の空をご覧下さい──おそらく、こちらからでもお分かりになるかと」
頭を下げたまま報告する部下をそのままに、東へと体を向ける。傍に控えていた別の部下がその視線の先へと体を動かし、外が見えるよう戸を引けば…
「なんと…!」
業火というのも生ぬるい──そう思わせるほどの焔が、天地を紅く染め上げていた。
流刃若火を始解して森を焼き払えば出られるんじゃね?
そう考えると同時に、それは無理だと理解する。何故なら大前提として斬魄刀の解放には刀との対話が必要だからだ。そこから斬魄刀の名前と解号を得て始解へと至る──みたいな流れだったはずだ。
「…でもそれだと時間がかかる…」
だから無理。本職の死神でさえ始解の条件を満たすのに長い時間を掛けてやっとそこへと至るのに、さっき出会ったばかりの小娘が「あなたのお名前教えて?」とか言ったところで『一昨日きやがれ』って話だ──そもそも会話の仕方だってよく分からないし。
「だけど…」
…だがしかし、状況は結構──いや、かなり深刻だ。食事や、獣なんかの脅威はもちろんだが…もっとも深刻なのは──
「トイレに…トイレに行きたい!!!」
これである。割とマジでピンチだ。ここでまかり間違って最後の堤防が決壊しようものなら、乙女としても人間としても冗談抜きで終わる。
例え誰に見られず、知られることもなくともだ。侵してはならない一線。それが今侵されそうになっていた。
「お願い、流刃若火…!乙女のピンチなの!この場を切り抜けたら後で何でも言うこと聞いてあげるから…!だから…お願い!」
一瞬、『あ、私って割とクズじゃね?』と正気に返りかけたが、直後に一気に押し寄せた腹痛によってそれも掻き消される。後に残ったのは、何を犠牲にしても私という存在とその尊厳を守るという強い意思のみ。
幸い、解号も名前も原作知識で知ってはいるのだ。あとは斬魄刀が力を貸してくれるかどうかそれだけだ。
私は大きく息を吸い、そして──
「……万象一切灰燼と為せ 流 刃 若 火!!!」
──そして、そこに炎熱地獄が顕現した。