「氷雪系、流水系の斬魄刀持ちは小隊を組んで消火作業に当たれ!鬼道が得意な奴もだ!…この規模の火災だ。途中、息切れしないよう各小隊ごと、必ずローテーションを組むのを忘れるなよ!」
「「「「「了解!!」」」」」
「よし…行け!」
指示を出し終えると同時、現場は一気に動き出す。各々が己の責務を果たすべく。だがしかし…
(…動きが悪い)
この場の指揮権を預かる男は冷静にそう判断し、心の内で舌打ちをする。同時に、それも仕方のないことだとも考える。何せ消火訓練など受けたことのない人間がこの場の大半だ。その上、斬魄刀や鬼道どころか霊力すら持たない者も数多くいる。彼らはこの火災に際し、急遽召集された者達だ。それ故、男には彼らについての一切の情報がなく、部隊の編成にも困る始末。
「……後で上には文句を言われるなぁ…こりゃ」
一応最低限の指示は出したが本当に最低限だ。言ってみれば、先ほどの指示の中身は『お前らの持ってる情報で適当に小隊組んで事に当たれ』という、聞くものが聞けば丸投げ以外なにものにも聞こえないことだろう。
(…でもまぁ、仕方ないだろ)
本来であれば、それ専属の訓練を積んだ人間が事に当たる方が様々な面で圧倒的に効率がいい。特にこういった1分1秒が貴重な場面では、その練度が物を言う。現世では『プロの現場に素人が入ってくるな』というと「ブラックだ」「差別だ」と批判されるそうだが、現実的に見れば、それはある側面からしたら確かに的を得ている意見でもあるのだ。
(…だが、今回ばかりは規模が大き過ぎた。)
そうも言ってられないほどに。
何せ今に至っても火災の規模がまるで把握出来ていない。東の森は広く、深い。そのため、全体を把握しようとすれば必然、空からとなるのだが、炎の勢いと熱気で近付くことすら容易ではない。空でこれなのだ。地上など、言わずもがなだ。
故に場当たり的かつ消去法という、指揮を執る者としてはなんとも情けない理由により、地上からの遠距離による放水という術を選択せざるをえなかったのだが…
「…やはり手が足りないか」
完全にキャパオーバーだ。それもそうだろう。元々、専門部隊だけでは対処は不可能と判断された結果の急遽召集だ。それでもこの火災の規模に対しては焼け石に水というのは分かりきったことだった。なにせ目に映る範囲、その全てが何の比喩でもなく炎に包まれているのだ。
「くっ…せめて総隊長がいてくだされば…!」
「呼んだかの?」
「そ、総隊長様!」
時間とともに衰えるどころかより勢いを増す炎を前にし、祈るような気持ちで吐いた言葉が果たして天に届いたのか。急報を伝えに走らせた部下を伴い、男が最も会いたい人間がこの場に現れたのだった。