「ふむ流石に近くで見ると益々圧巻よな。天地が燃え盛っておる。」
元柳斎は顎の髭を撫でながらそう呟く。遠目でもその異様さは際立っていたが、流石にその現場ともなれば桁が違う。仮に現世の人間を連れてきて、『これが地獄の業火よ』と嘯いたとして、その全員が信じて疑うことなどないだろう。
「申し訳ありません、総隊長様。我々の力及ばず、わざわざご足労願いまして…」
「よい。この規模の火災ともなれば最早一隊士の手に余りあることは明白。むしろ早々に見切りをつけ、恥を忍んで儂に助力を乞うたのは賢明な判断だったと言えよう」
「お気遣い、ありがく…」
元柳斎の言葉に男は深く頭を下げる。男にとってみれば、ただの隊士でしかない自分の要請に、護廷のトップが応えた上に、さらにはその判断を指示する、とまで言葉にしたのだ。頭などいくらでも下げようというものだ。
「さて…」
そんな男の心情を知ってか知らずか、元柳斎は己の杖に封じられた斬魄刀を解き放ちながら、ゆっくりと歩を進める。
「ここからは儂がやろう──お主らは下がれ」
「はっ!」
男は元柳斎の言葉に一切の疑念も疑問も持つことなくその身を翻し、消火作業中の他の者達へも下がるよう指示をとばす。
それもそのはず。
これから振るわれる力は全斬魄刀中、氷雪系最強と名高い──
「霜天に坐せ──氷輪丸」
「ふふふ」
「あははははははははははははは!!」
一方、炎の反対側でそんな事になっているとは欠片も思っていなかった私は、自分の振るう力に魅せられて、ハイになっていた。
「すごいよ流刃若火!あんなに邪魔だった森があっという間に消し炭に!」
刀を持つ手を振るたびに周囲の木々は一瞬にしてその圧倒的な火力によって消し飛ばされる。流石に遠く、距離のあるものに関しては燃える程度の威力に止まっているがそれも時間の問題だ。じきに燃え尽きる。オマケに流刃若火の影響か、本来熱いで済まされないこの場所であっても、私にとってはとても居心地のいい温度に感じられ、心なしかお腹の調子もマシになってきた気もする。
「さーてだいぶ進んだと思うんだけど、出口はまだかなー?流石に人のいる場所まで燃やすわけにもいかないからそろそろ加減をしないと──え?」
その時だった。
それまで春の暖かな日差しの中に包まれていた私を、冬の風が襲ったのは。
「き…きゃあああああああああ!!!!!」
思わず流刃若火を盾にした私は、それでも堪えきれずに吹き飛ばされ、空中へと投げ出された。マズいと感じた時には既に遅く、風雪と共に舞い降りた氷の龍が私の体を拘束せんと殺到し、あっという間に四肢を封じられ、地面へと叩きつけられる。
「…これは驚いた」
それまでの人生で味わったことのない衝撃と痛みに意識を刈り取られる寸前、私の顔を覗き込むその顔は──
「──山本…元…柳斎…重……國…」