「おう一角。てめーに仕事だ」
早朝の鍛練を終え、これから三席としての業務に就こうとしていた一角は、自分が所属する隊の長である更木剣八に声を掛けられた。『この人が仕事ぉ?』と、内心で考えはしたが、それはそれとして立場上、上司に仕事の話を振られて無視する部下などいないし、なにより一角は彼なりに剣八を尊敬していたため、話を聞こうと続きを促す。
「で、何ですか仕事って?」
「あぁ…てめー、昨日の火事の件は知ってるか?」
「そりゃあ、まぁ人並みに」
昨日の火事と言われて該当するのは1つしかない。深夜に発生した東の森のことだろう。一角自身は消火作業に適した能力を持たなかったために召集がかからなかったが、十一番隊からも何名か出動していたはず。おかげでパトロール等のシフトのローテーションを何件か変更せねばならず、軽く面倒だったことを思い出す。
一角の言葉に更木は「そうか」と軽く頷き、「それでな」と言葉を続ける。
「これはまだ他の隊には秘密らしぃんだが」
「……」
「その火事の下手人、まだ小さなガキらしい」
(こいつはいってーどういう状況だ…?)
狭い個室に、自分と小さな子供の2人。一見、向こうは両手を拘束されてはいるが、見せ掛けだけであり、見る者が見れば本気で拘束しようとは微塵も考えてないような錠の選定具合。オマケにこの部屋一つとっても狭いというだけで生活用具は全て揃っているし、仮に今からでも『ここで暮らせ』と言われても、誰であれ、そう苦労はしないだろうことは想像に固くない。
「あの…」
「─ん?あぁ…わりーな。ちょっと考えごとを、な」
罪人にしては破格…いや、手錠をつけてなければまるで一般人のように見える上の遇し方に、一角が困惑し、黙りこくっていたのを居心地悪く感じたのか、放火犯の子供が遠慮がちに話かけてくる。
まだまだ体つきは子供の域を出ないが、今でも可憐という言葉が似合いそうな整った容姿。自分の好みとは違うが、世の男が夢見る理想の女子とはこいつのことなんじゃねぇか、等とらしくもないことを考えてしまうほどに、一角は困惑していた。
(やりづれぇ…)
困ったようにこちらを見て曖昧な笑みを浮かべてくる少女に対し、一角は自分が面倒事に関わってしまった事に、大きなため息をつくのだった。
「聞いたヨ?あの子供の聴取、十一番隊に任せたんだって?何とも酔狂なことだネ」
「…涅。せめて先触れくらい出さんか」
「これは失礼。だがこの私に『最優先で』と調査を依頼してきたのはそちらだヨ?その調査に進展があった以上、何を差し置いても報告に来るのは部下として、至極当然のことだと思わないかネ?」
苦言を呈する元柳斎に対し、悪びれることもなくそう答える涅。
「…して、何が分かった?」
付き合い切れぬ、とため息をついた元柳斎は早々に話を切り上げようと用件を促す。
「流石総隊長、話が早い」
「二度は言わぬぞ」
「ハイハイ、分かりましたヨ」
効果のない自身への叱責よりも、調査結果という実利を取った元柳斎の判断に気を良くした涅は、満面の笑みを浮かべながら自身の調査結果を告げるのだった。