幸いでございます。
―――真央霊術院とかいう学校に入学する前に護廷十三隊八番隊隊長京楽春水の計らいで図書室を借りた。そこで片っ端から言語に関する書物を読み漁った。ひらがな、カタカナ、漢字の順に覚えた。言葉も覚えた。知識を得て学習するのが楽しかった。寝る間も惜しんで…というより眠くならない。以前いた場所でもまともに眠ったことがない。副隊長を名乗る女から約1か月ほど図書室に籠りっきりだったらしい。不思議と腹は減らなかった。更木剣八とやらの戦いから俺の中の何かが変わった。それだけはハッキリとわかった。
「そういえば…貴方の名前を聞いていませんでしたね。聞いてもよろしいですか?」
副隊長の女に聞かれた。名前…名前…今まで考えたこともなかった。記憶を探る。『バージル』その名前だけが俺の脳内に響いた。
「……バージルだ。苗字か名前かもわからん。」
それだけ伝えた。どうやら俺は死神とやらになるらしい。そのための知識も全て習得した。約2ヶ月を経てようやく真央霊術院とやらに入学する準備が出来た。京楽春水に礼を言った。
「世話になったな。礼を言う。」
「気にしなさんな。君はきっと尸魂界にとって重要な人物になる。楽しみに待ってるよ。」
こうして俺は真央霊術院に入学した。入学試験科目『斬・拳・走・鬼』でどれも満点を叩き出した。特進学級とやらに在籍することが決まり浅打なる刀を渡された。手にした瞬間から脳内に何者かの呻き声、喚き声が響いた。雑音を無視して授業を受けた、退屈だった。どうにか今日の分の授業を受け終えた。浅打から響く声に従った。
「(我の声を聞け! 力が欲しいのだろう! 我と戦え!)」
庭にある樹に寄りかかり目を瞑る。意識が遠くなっていく。
目を開ける、見たこともない風景が広がっていた。辺り一面芝生に覆われ木々が生い茂り自然豊かな反面、空は硝子が砕けたように亀裂が走り向こう側は闇に覆われていた。目の前には鱗だらけの巨大な化物、身長は俺の3倍以上はある人型の化物だった。見ているだけで気分が悪くなる。何故かはわからなかった。
「お前か、さっきから俺を呼んでいたのは? 何者だ?」
「我が名は魔王ユリゼン、かつてのお前の半身だった存在だ。」
「お前のような醜い化物が俺の半身だと? 笑えない冗談は止めろ。」
「……それすらも忘れてしまったのか。かつてお前は大罪を犯した。身に覚えはあるか?」
「ロクでもない生まれ育ちから俺の行く末が地獄だろうという確信はある。それだけだ。」
「そうか、まあいい。力が欲しいのだろう? 我を倒して見せろ。」
紫の光線を放つ。エアトリックで掻い潜りながら間合いを詰める。頭部までジャンプして浅打で居合斬りをする。首を斬りつける。硬い。それでも出血はする。狙いを定めた。ひたすら化物の腹を踏み台にジャンプしては居合斬りを繰り返した。化物が腕を振り回す。トリックダウン…後方、あるいは地面への瞬間移動で回避しては斬り続けた。青色の球体を放つ。当たってしまった。動きが鈍くなる。その隙に化物の腕が当たる…直前に連続エアトリックで回避した。居合斬りにも飽きたので蹴りに替えた。化物を踏み台に急降下蹴りを繰り返す。顔面に当て続けた。顔面は陥没し次第に首が千切れていく。トドメの一撃で首が千切れて転がる。
「見事…だ…。その刀は…今から『閻魔刀』…だ…。だが…お前次第で…別の武器に…変わる…。『ベオウルフ』と『ミラージュエッジ』だ…。イメージしてみろ…お前は…もっと強く…なる。」
化物が光の塊になり俺の体内に入る。力が漲る感覚。
目が覚める。真央霊術院の庭…見覚えのある景色…。浅打を眺める。束は真っ黒に染まり気のせいか以前より長く反り返っている気がした。試しに抜いてみる。刃の部分が研ぎ澄まされている。鍔は金色の装飾が施されていた。未知の情報が脳に入り込んでくる。閻魔刀連斬・壱、閻魔刀連斬・弐、閻魔刀連斬・参、閻魔刀飛翔斬・壱、閻魔刀飛翔斬・弐、次元斬、疾走居合、羅閃天翔、閻魔刀墜撃斬、時空裂閃、次元斬・絶。試し振りした。全てイメージ通りに出来た。『ベオウルフ』『ミラージュエッジ』も同様に出来た。
「……膨大な霊圧を感じて駆けつけてみれば…君か…十一番隊隊長更木剣八と互角以上に殺り合ったというのは…。その様子ではもう始解を習得したようだね…。」
「誰だ貴様は?」
「これは失礼、僕は五番隊隊長藍染惣右介。君の名を聞いてもいいかい?」
「俺はバージル、苗字か名かもわからん。ただそれだけだ。」
表面上は優男で物腰も柔らかい礼儀正しい好青年といったところか、表面上は。
「何を企んでいるのか知らんが俺を敵に回せば貴様は死ぬことになる。」
「……僕が何を企んでいると言うんだい? 君を敵に回すということは君が尸魂界の敵になるということかな?」
「逆だ。貴様がこの世界の敵になる。」
「……その根拠は?」
「ただの直感だ。根拠などない。ただ…貴様は有り余る力を隠しながら生きている。それだけはわかる。」
「……どうして断言出来るんだい?」
「貴様を目の前にして実感できた。ドス黒い悪意と禍々しい気配と膨大な霊圧とやらを感じるぞ。」
「悪意などないよ。ただ尸魂界の平穏を願って生きている。膨大な霊圧とやらも君には敵わないよ。」
「試してみるか?」
閻魔刀の束を親指で押す。
「おやまあ偉い険悪な雰囲気どすなあ。どないしはりましたんですの?」
次から次へと…ため息をついた。またも胡散臭い奴が現れた。
「誰だ貴様は?」
「ボクは三番隊隊長市丸ギン、よろしゅう。」
満面のニヤケ面、何を考えているのかわかり辛い態度、こいつも要警戒だと思った。
「何を企んでいるのか知らんが失せろ。怪しい動きを見せたら躊躇なく背中から刺されることをよく覚えておけ。」
「……よく覚えておこう。市丸、彼には手を出すなよ。」
「怖いなあ、こらあ退散した方が良さそうやね。ほなさいなら。」
ふたりは立ち去って行った。だが俺の中での直感は絶えず警報が鳴り響いていた。今のうちに首を取っておくべきか。いや、死神見習いですらない身分で隊長格を殺せば奴の言っていた通り尸魂界全体を敵に回すのは必然だろう。燻る不信感を内に秘めながら静観することしか出来なかった。
約1年が経った。剣術、体術、歩法は既に合格点を得ていたので鬼道の習得に時間を費やした。訓練の甲斐あってか破道は九十九、縛道は八十一まで極めた。詠唱は隙が大きすぎるので全て破棄して発動して見せた。効果が下がるらしいが実戦を想定すればとても詠唱している暇はないと思い覚えなかった。いつか藍染惣右介を殺すためにも。真央霊術院は通常6年制だそうだが俺は特例で1年で卒業が認められた。
今日は死神の実習試験、現世…人間界へ赴き黙々と死者への魂葬を行う。俺の試験官はひとりの死神だった。どこの隊かは聞かなかった。魂葬も終わりに近づいたと思っていると禍々しい気配を感知した。
「あれは…⁉ メノス・グランデ⁉ しかも3体も⁉」
「強いのか?」
「隊長格なら1体なら何とかなるだろうが3体は厳しいぞ⁉」
「そうか、少しは楽しめそうだ。」
「お、おい⁉ 待て⁉ 今すぐ救援要請を――――⁉」
「必要ない。」
エアトリックで顔を踏みながら居合連斬を繰り返す。仮面が砕け顔から順にバラバラになっていく。残った体は絶刀で細切れにした。次の奴に飛び乗る。ベオウルフに切り替えヘルオンアースを叩きこむ。塵になって消える。残り1体、やったことはないが試してみることにした。空中スティンガーを顔面に突き刺す。その状態からディープスティンガーをお見舞いした。顔から首まで細切れにしながら掘り進む。最後尾まで掘り進んでバラバラになって消えた。
「メノス・グランデが3体も現れたと聞いて急いで来てみれば…また君か…もう始末したとは驚く他にない。」
「そうか? 貴様なら余裕だろう?」
「……僕を買い被り過ぎだよ。君は凄い死神になるだろうね。戦う姿を拝見したかったが叶わなくて実に惜しいよ。」
「俺の手の内を見たくばもっと強い奴を用意するんだったな。」
「……まるで僕が奴らを呼び出したような言い方は止めてほしい。」
「それは済まなかった。だが随分タイミングのいい登場だと思ってな。」
「……君の思い過ごしさ。」
「俺はまだ試験の途中だ。行くぞ。」
「あ、ああ…⁉ 隊長⁉ 失礼します⁉」
「……。」
最後の魂葬を終え試験は終了した。合格らしい。こうして真央霊術院を1年で卒業した。長い歴史の中でも異例だそうだ。俺の知ったことではなかったが。八番隊に配属された。
「また会ったな。よろしく頼む。」
「意外と早く会えたね! よろしく頼むよ! 君の配属先を巡って五番隊隊長藍染惣右介くんが随分入れ込んでたみたいだったけど何かあったの?」
「『何を企んでいるのか知らんが俺を敵に回せば貴様は死ぬことになる』と忠告しておいた。」
「……何故そう思うの?」
「ただの直感だ。実際に会って確信した。奴の精神はドス黒く染まり有り余る力を隠しながら何かを企んでいると。」
「……そうか。君には話しておこうかな。」
約100年前の魂魄消失事件とやらの経緯を聞いた。
「なるほど、奴の目的は死神を超える力を手に入れることか?」
「そうかもしれない、それにしても…あの時ボクが現場に行っていれば…。」
「お前ひとりでは分が悪い。奴の力は計り知れん。協力者もいるようだしな。」
「誰なの?」
「市丸ギンという男だ。あいつも怪しい。藍染と同じ気配を感じた。他にもいるかもな、俺が出会っていないだけで。」
「隊長格がふたりにもっといるのかぁ…。まいったねこりゃどうも。君の直感はたぶん正しいよ。ボクも調査したけど証拠は何ひとつ見つからなかった。でも彼への疑念は全然晴れてないよ。」
「行方不明になった奴らの消息は掴めたのか?」
「全然、尸魂界のどこにもいないってことはたぶん現世に結界を張って身を隠していると思う。」
「そいつらに直接会いに行って真相を聞くしかあるまい。俺は度々現世へ行くが根回しは頼むぞ。」
「……分かった、そっちは任せて。くれぐれも君も藍染くんの行動に気をつけてね。彼に目を付けられているようだから。」
そして俺は護廷十三隊八番隊第三席に着任した。『元』第三席の円乗寺辰房という男から決闘を申し込まれた。どうやら俺のような新入りの若僧がいきなり第三席に就いたのが気に食わないらしい。ため息をつきながら八番隊全員の立ち会いの下、決闘に応じた。ベオウルフでブッ飛ばした。