Azur“GM”   作:時空未知

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戦慄

 

 

全身が、焼けるように熱い。

意思を無視して動かされる関節は、既にほとんど擦り切れて。

そこら中から火花が飛び散っているというのに、

未だ頭の中に埋め込まれたままのそれは、尚も身体を限界を超えて動かし続ける。

 

[ぁ、あ]

 

鳴りやまぬアラート。

真っ赤に染まる視界。

悪夢のようなその中で、彼女は誰にも届かぬ悲鳴を上げる。

 

 

[誰か、私を……止めて]

 

 

………………

 

 

 

…………

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

とある世界の、とある海。

雲一つない満天の星空の下、満月の光が白い砂浜を照らし出し、

周囲の島々には青々とした自然が茂っている。

 

……その中、砲撃の轟音が吹き荒れた。

 

「ちっ!」

 

自分のすぐそばにセイレーンの下位人型個体から放たれた砲弾が着弾し、しぶきをあげた。

夕立はスカートを翻すと、残り少ない魚雷をそちらにぶちまけた。

放たれた魚雷は、目標と周囲の量産艦を巻き込んで大きな火柱を上がる。

それを見ながら、夕立は荒い息をついた。

銀色の犬耳やしっぽや髪にはすすが絡み、露出した肌は擦り傷だらけだ。

 

「夕立、大丈夫!?」

 

と、後ろから誰か近寄ってきた。

彼女に似た風貌の、ポニーテールの黒髪の少女……

 

「へへ……時雨、こっちは大丈夫だ、全部片づけてやったぜ」

「ならよかった。時雨様の方も全機撃沈したわ」

 

時雨はそう言うと、にんまりと笑う。

 

「ふふ、幸運艦の実力、甘く見ないでよ」

 

2人共傷らだけのすすだらけだが、大きなけがはしていない。

苦しい戦況の中、そのことにほっと一息つく。

……その時、

 

[ふ、2人とも、敵の砲撃がっ!!]

 

通信から切迫した少女の声が飛び込んできた。

はっと3人が上空を見上げたその時、先程の敵の砲口径とは比べ物にならない………

戦艦の主砲が降り注ぐ。

 

「っ、散開!」

「わかってるって!」

 

そう言うが早いか、2人は即座に航行を再開した。

小柄な体躯を生かし、砲弾の合間をすり抜けながら駆け抜ける。

砲煙を抜けた先にいるのは敵の巡洋艦。

その砲塔が、夕立の姿を狙う。

 

「っこの!」

 

体勢を下げる。すぐ頭上を砲弾が通過した。

返す刀で夕立が主砲を向けた瞬間、

 

「そ、そこ!」

 

横方向で先程通信から聞こえてきた声。けれど、今度は肉声だ。

夕立がトリガーを引くよりも早く視界内に躍り出た魚雷が、水の中に飛び込むと共に巡洋艦に迫る。

間もなく、標的は周囲の敵艦を巻き込んで爆砕した。

 

「白露、ナイスタイミング!」

「そっちで敵を引き付けてくれたからだよ。私なんて、またどこにいるかわかんなくなってたし……」

 

魚雷を放ったのは栗色の髪の、これまたよく似た風貌の少女、白露。

彼女もまた多少なりとも傷を負っているが、戦闘に支障はなさそうだ。

 

「そこ2人、急ぐよ!!」

「わかってるって!」

 

ちょっとした会話もそこそこに、

少女たちは燃え上がる黒の鉄屑の合間を縫いながら、盾にしながら、海上を疾駆する。

 

前回の脱出は失敗したが、去り際に航空艦隊を再起不能に追い込めた。

空に見える艦載機はまばらで、貧弱な駆逐艦の対空砲火でも十二分に撃墜が可能な程。

散々煮え湯を飲まされてきたアイツ(・・・)の姿も今は見えない。

 

これなら、漸く……!

 

 

「……ま、待って!」

 

 

その時だった。

残骸の中、先頭で索敵をしながら航行していた白露の足が急に止まったのだ。

普段ぼおっとしていることが多い彼女の表情。

その表情が、見たこともない程に青ざめてゆく

 

「目視、確認。敵スマッシャー(人型戦艦)級……6、7、8」

「……噓でしょ!?」

 

紛うことなき敵の主力、その全て。

無論1、2隻程度会敵する可能性は考慮していたし、突破の手立ても考えていた。

けれど、別方向に展開中の艦まで集結しているなどと……

 

「わ、私達の動き、読まれて

 

 

轟音

 

 

瞬間、劈くようなそれが、白露の声を掻き消しながら辺り一帯に響き渡る。

……狙いなど、火を見るより明らかだ。

 

 

「っ、回避!!」

 

 

そう叫んだのは、一体誰の声だったか。

瞬間、先の砲撃が比にならない、まさに豪雨のような榴弾の嵐が吹き荒れた。

 

「がはっ!?」

 

避けきれない。

 

爆炎に揉まれ、夕立は吹き飛ばされる。

幸いにも五体満足だったが、こちらの艤装はぼろぼろになってしまっていた。

夕立が舌打ちしたその時………

 

「ちょっと……白露、白露!」

 

時雨の切迫した声が聞こえる。段々と爆炎が晴れると……

 

先程までそこに立っていた筈の少女が、血の海に横たわっていた。

 

「うそ…そんな…」

 

ピクリとも動かない白露を抱き起して必死で呼びかける時雨、

だが、無情にもその奥からセイレーンの巡洋艦が砲門を向けるのが見える。

 

「っ!!よくもっ!!」

「ちょっと待ちなさいバカ夕立!」

 

夕立はへしゃげた魚雷発射管を投げ捨てると

唯一生きていた主砲から弾幕を放った。

ぶつ切りで放たれる赤い特殊弾が敵に着弾して爆炎を上げる。

そのまま今にも特攻をかけそうな夕立。

けれど、その尾を時雨が掴む。

 

「み゛っ!?な、何して」

「さっきのは弾着観測射撃、直ぐに本命が来る!

それに、白露がこんな状態でどうこうできるわけないでしょ!!」

 

重傷を負った白露を抱え上げながら、何かを押し殺しながらの声。

時雨のそれを聞いて、夕立は何とか踏みとどまった。

 

「……く、そっ!」

 

この日、アズールレーンガダルカナル島第2基地に唯一残った第2駆逐隊は、

敵包囲網を貫通し、付近のユニオン艦隊の駐留する基地に退避する突破作戦を敢行。

しかして、沖で待ち伏せを行っていたセイレーン大規模艦隊と会敵。

果敢に戦闘を行うも敗走、作戦は失敗に終わった。

………これで、実に3回目の試みだった。

 

 

_____________________

 

 

 

深夜、軍港……ではなく、そこから最も離れた場所にあるトーチカ。

小島の自然に隠されたその場所に、ボロボロの艦隊が帰港した。

第2駆逐隊、白露改、時雨、夕立。

 

つい1週間前、セイレーンの大規模な夜襲攻撃があった。

初撃で大損害を被った主力艦隊を逃がす為、駆逐隊が囮を買って出た。

しかしながら、奇襲で混乱する戦況下で適切な行動を行うことは難しく、

結果として夕立達、第2駆逐隊のみが敵の包囲に取り残される結果となった。

 

占拠されかけの基地から辛うじて物資をくすねて逃走する中、半ば放棄されていたトーチカを発見。

そこに身を隠し、臨時の拠点とする。

それから幾度かの脱出作戦を試みるも、悉くが失敗。

更に先頭艦であった白露が大破し、戦闘不能になった。

救援の報を受けることすらできぬまま、ただひたすらに状況は追い込まれていた。

 

「夕立、白露は……」

「ううん、まだ起きない」

 

医務室などあるはずもなく、

コンクリートの上に敷いた薄いマットの上に、白露は寝かされていた。

申し訳程度の応急処置は施されているものの、

目を覚ます気配はない。

 

「……っ、よりにもよって指揮官達がヨーロッパ方面の大規模作戦で出払ってる時に、あいつら攻撃を……」

 

時雨はそう言って唇をかみしめる。

そんな彼女に夕立は声をかける。

 

「なあ時雨、そういえば昨日見つけた倉庫の方は……」

「やっぱりダメ。医療品、探してみたけどここにあるので最後よ」

 

そう言って時雨は平たい石の上に置かれた

ほんの少ししかないそれを示した。

 

「わぅ……そっか」

 

夕立はそう言うと、トーチカの中に所狭しと置かれた物資を見渡す。

 

「包帯ひと巻きと痛み止め3錠。

めしは携帯食料が6食分、水が2Lペットボトル2本……」

「物資は燃料が3出撃ギリギリ。

主砲の弾は何とか持つかもだけど、問題は対空砲弾と魚雷ね。

この前、航空艦隊潰した時にだいぶ使っちゃったし、

あと、あんたの魚雷発射管もどうにかしないと……たはー、完全にジリ貧ね」

 

少しでも場の空気を軽くしようとしたのか時雨がおどけたようにそう言う。

そんな彼女の心情を察したのだろう。一拍の間をおいて夕立もにんまりと笑う。

 

「だな、完全にジリ貧だぁ」

「ね……あっ、そういえば。倉庫でこんなのなら見つけたわよ」

「お、なんだなんだ?」

 

首を傾げる夕立に、時雨は脇に置いてあった細長い何かを手に取ると、それを差し出した。

その物体とは……

 

「……軍刀?」

「綾波とか江風とか、こんな感じの使ってたでしょ?ないよりはマシかなって」

 

そんな言葉と共に差し出された軍刀を、夕立はとりあえず受け取る。

記憶の中の人物の見様見真似で鞘を取ってみると、錆び一つない刀身が現れる。

トーチカの隙間から差し込む月光で、銀色がきらりと瞬いた。

 

……これは、なるほど

 

「……使えるかも」

「……そこは、冗談だろって放り投げるところよ?」

「えぇ?」

 

どうやら冗談のつもりだったらしい。

とは言うものの、だ。

 

「だって、武装殆どなくなっちゃったし」

「それは……そうだけど」

 

夕立からのツッコミに言い淀む時雨。

その時、

 

「……そうでも、ない、かも」

 

か細い声が2人の耳に届いた。

……白露だ。

 

「白露!?」

「ちょっと、何時から起きてたの!」

「ぐ、軍刀のくだりから……こえ、中々、かけれなくて……えへ、へ」

 

そう言って、白露は笑みを浮かべる。

しかしながら、その表情は大分弱々しい。

 

「私の、ぎそう。発射管だけ、ぶじ、だったから……燃料も、のこったの……」

「はいはい言われなくてもそうするから、怪我人は大人しく寝とく!」

「ぅう……」

 

ぺしぺしとガーゼが張られていない方の頬をはたかれて何とも言えない表情になる白露。

そんな彼女のことを見て、時雨がため息をつくも一瞬。

その口元が、ふっと緩む。

 

「……でも良かった。目を覚ましてくれて」

「ん、そうだな。おはよう、白露」

「……ぅん」

 

目を覚まさなくてもおかしくない、それほどの傷だった。

けれど、こうして起きて、つたないながら会話までできているのだ。

これほどうれしいことがあるだろうか?

そうして少しの間薄く目を開いていた白露だったが、やがて一つ息を吐く。

 

「じゃぁ、わたし……にど寝する」

「え、ちょっと!?」

 

そう言うが早いか、白露の瞼が閉じた。

あまりにも突然のそれに、夕立と時雨は慌てて駆け寄る。

 

……けれど、そんな彼女たちの耳に聞こえてきたのは、安らかな白露の寝息だった。

 

「……普通に息してる」

「はぁ……心臓に悪い寝落ちの仕方はやめて欲しいんだけど」

 

全く……と言わんばかりに息を付く時雨。

正直、夕立も同感であった。

普通に死んだかと思った。極めて不謹慎だが。

 

……まあ、それはさておき、だ。

 

「それじゃ、どっちが先に見張りやる?交代はいつも通り3時間でいいわね?」

「今日は夕立からでも全然……」

 

話は見張りをどうするかという会話に移る。

普段の夕立なら全力で顔を顰めている場面だが、今は状況が状況である。

昨日、時雨から見張りをやってくれたことを思い出しつつ、

今日は自分からと夕立は声を上げた、

 

……その時、

 

 

カツン

 

 

「「!!」」

 

 

物音……ほとんど間違いなく、足音だ。

それも、トーチカに侵入した。

夕立と時雨の肌が総毛立つ。

彼女たちの存在を余所に、その音は未だ、断続的に聞こえてくる。

……こちらに、近づいてきている。

 

セイレーンにばれた?

いや、それなら今頃砲撃で消し炭になっている。

じゃあ、偵察か何かのため?

よりにもよってこんな場所に??

 

様々な疑問が、緊張が、脳裏をぐるぐると駆け巡る。

けれど、夕立と時雨は混乱しながらも、通路の出口目がけて主砲を向けていた。

 

 

カツン、カツン……カツン

 

 

人影が、見えた。

 

 

「今っ!」

「おう!」

 

 

トリガー

 

 

装填された127mm徹甲弾が、連装主砲から放たれる。

駆逐艦の主砲とは言え、至近距離。

砲弾は無防備な相手の装甲に突き刺さり……

 

「っ、跳弾した!?」

「噓、殆ど直撃よ!?」

 

しかし、砲弾は火花を散らしながら跳弾したのだ。

周囲のコンクリート壁に弾痕が形作られるも、相手は無傷。

小型のシールドを装備しているようだが、受け止める間もなく本体に直撃したはずなのに。

榴弾や魚雷なら結果は違うかもしれないが、この狭空間では使えない。

 

「……だったら!」

 

即断、夕立は抜き身で脇に置かれたままになっていた軍刀を手に取ると、

相手目がけて大きく振りかぶって切りかかる。

 

「でりゃあああああ!!!」

「わ、わあああ!?」

 

金属の衝突音が響き渡る。

素人丸出しで振り下ろされた夕立の軍刀は、

しかして、相手のシールドに受け止められた。

だからといってここからどう切り返すかもわからない。

 

「こんの……!」

 

故に、夕立はそのまま全体重をかけて無理矢理押し切ろうと試みた。

軍刀を握る手にギリ、と力が籠る。

……その時、

 

「ま、待って、待ってください!あなた方と敵対する意思はなくてっ!?」

「……え?」

 

相手から悲鳴のような、それでいて予想だにしない声が上がった。

騙すにしてはやけに必死なその言葉に、思わず夕立の手が止まる。

セイレーンに発見されることを恐れてずっと明かりを点けずにいたため、相手の姿は十分認識することができた。

 

背丈は、夕立や時雨と比べると、一回りほど大きい。

腹部や太股、二の腕辺りを除いて殆ど全身を覆う装甲。

そのほとんどが白色、胴体のみが紺色の配色となっている。

白い髪の頭にも例にもれず白いヘルメットのようなものを被っており、緑色のバイザーが暗闇でぼんやりと光を帯びている。

その奥に映っているのは、今にも泣きだしそうな、幸薄い少女だった。

 

……その手に持った砲塔には到底見えないマシンガンや、腰のバズーカのようなもの。

くるぶし辺りに乱雑に括りつけられた小さな発煙筒のようなもの含めて、

まるでロボットのような、全く見たこともない装備。

夕立達、KAN-SENのようにも見えないが……

 

「……セイレーン、じゃない?」

「ち、違います……そもそも何ですかセイレーンってぇ」

 

夕立のつぶやきに答えたのは、何とも情けない少女の声だった。

 

「あっ、ご、ごめん。急に入ってきたから敵だと思っちゃって」

「こらバカ夕立、まだ警戒するに越したことはないでしょ!」

「う、ぅぇえええ!?」

 

少女の反応を前に慌てて刀を放す夕立だったが、時雨の方はまだ警戒が解け切っていないらしい。

主砲を構えながら、相変わらずびくびくしている少女に近づく。

 

「あんた誰?何しにここに来たの?」

「そ、そんなこと言われても……」

「……」

「うひぃ!?」

 

要領得ない少女目掛けて無言でずいっと主砲を突き出す時雨。

その圧力を前にぱくぱくと口を動かしていた少女だった。

……が、

 

「……な、い」

「は?何て……」

「何にもわかんないんですよぉ!!」

 

……いよいよ緊張が限界に達したのだろう。

次の瞬間夕立と時雨の前にお出しされたのは、

悲痛な叫びと共にその場にへたり込んだ少女の姿だった。

 

「な、何なんですか、何ですか!?死んだと思ったら変な場所に飛ばされて!?

急に人間みたく姿も変わって、喉乾くしお腹空くしミノフスキー粒子が観測できないから通信できると思ったらそもそも通信できる存在がいないし!?

挙句の果てにレーダーで漸く別の人を見つけれたと思ったら、いきなり襲われて……う、うぇ」

 

あっけを取られた様子の2人を余所に、次々と吐き出される少女の言葉。

そしてその末に……

 

「やっぱり、私の人生にいいことなんてなかったんだぁ……うぇえええぇぇえん」

 

泣いた。

ガチ泣きである。

これには流石に時雨も勢いを完全に削がれた様子。

 

「え、ええと、その……」

「……やーい、時雨が泣かせた」

「っう……ああもう!」

 

殆どヤケクソ気味に頭をガシガシと掻いた末、

時雨は未だ泣きわめく少女目がけて屈みこむ。

 

「疑って悪かったわよ!もう尋問したりしないから泣くの止める!

それに、あんまりうるさくすると敵にバレるでしょ!」

「ぅ、うう……ひっく……ごめん、なざい」

「……謝んなくていいから。こっちが悪かったって……ほら」

 

時雨はそう言うと、先程の一悶着の被害を免れていた物資の山から携帯食料を1つ取り出すと、少女に差し出す。

 

「お腹空いてるんでしょ?こんなのしかないけど」

「ぅう……」

 

涙ぐみながらも差し出された携帯食料を受け取る少女。

暫く包装の開け方がわからなかったのか十数秒格闘していたが、

ギザギザの部分から破ればいいことに気が付いたのか漸く開封すると、

もそもそとそれを食べ始めた。

その様子を見ていた時雨に、夕立が耳元で囁く。

 

「……めし、あと5食分」

「うっさい!ちまちま食べれば何食分にでもなるわよ!」

「え、ほ、ホントに食べて良かったんですか、これ!?」

「あんたは黙って食べてなさいよ、もう!」

「なんでぇっ!?」

 

いい加減に怒り疲れたのか、その言葉を最後に大きく息を付く時雨。

けれど程なくして、その視線は改めて、恐る恐る携帯食料にかじりついている少女に向けられた。

 

「……それで、改めてだけど誰なのよあんた。強いて言うならユニオン所属っぽい見た目だけど」

「ゆ、ゆにおん?どこかの組織……ですか?」

 

少女にはよくわからなかったらしい。

その反応に時雨と夕立は顔を見合わせる。

 

「どこかの組織っていうか、アズールレーンの中で多分一番強い国だぜ?

まあ、夕立達のとことつい最近までケンカしてたけど……」

「ね、流石に夕立でも知ってるし……」

「んだとー!」

 

抗議の声を上げる夕立だが、時雨はこれを華麗にスルー。少女の反応に目を向ける。

……しかし、彼女は相変わらず首を傾げている。

 

「あ、あずーるれーん?も、ゆにおんも……正直、存知上げないのですが……」

「アズールレーンも知らないの?ホントに?」

「え、マジで?」

「ほ、ホントなんです!」

 

夕立たちの反応に、慌てた様子でそんな声を上げる少女。

そう言えば、セイレーン……ある日、突如として出現した謎の敵対存在群についても、全く知らない様子だった。

時雨の脳裏にある予測が思い浮かぶ中、今度は少女が声を上げる。

 

「そ、それなら逆に質問なんですけど、地球連邦軍って知らないんですか?」

「え?何よその世界政府軍みたいな名前の……」

「そ、その世界政府軍ですよ!私の所属!」

 

そんな少女の質問に、またしても顔を見合わせる時雨と夕立。

全くもって聞き覚えのない言葉である。そもそも世界政府軍なんていうものが存在しない。

強いて言うならアズールレーンだが、未だ完全な統一ができているかと言われればそうは言い難く……

2人の反応で何かしらの違和感を覚えたのだろう。

暗闇でも十二分にわかるほどの勢いで、見る見るうちに少女の表情が青ざめてゆく。

 

「あ、あの……ミノフスキー粒子って、知ってます?」

「ミルフィーユピザ?」

「どういう聞き間違え方してんのよバカ夕立。

みのふすきーりゅーしよ、みのふすきーりゅーし……まあ、時雨様もわかんないけど」

「い、いやいやそんなまさか……」

 

えげつない聞き間違えをした夕立はさておき、時雨の方も理解できている様子はない。

少女の表情がますます蒼くなる。

 

「……い、今……宇宙世紀、何年ですか?」

「はあ?宇宙世紀ぃ?」

「ミルクセーキ……うう、お腹空いてきた」

「あんたは一回黙ってなさい!!」

 

突如飛び出してきたSFチックな単語に思わず怪訝な表情になる時雨。

一先ず食べ物の妄想が止まらない夕立をド突きつつ、改めて返答を返す。

 

「宇宙世紀……はよくわかんないけど、今は西暦2155年よ。これも知らない?」

「せ、西暦……!?」

 

その単語に、バイザー奥の少女の瞳が驚愕に見開かれる。

 

「きゅ、旧世紀、じゃないですか。私が知ってる限り……いや」

 

何か悟ったのだろうか。少女の言葉が一度途切れる。

 

「私の世界(・・)では、ってことになるん……ですか?」

「……聞く限りでは、そうなりそうね」

「あわ、あわわわ……」

 

少女の話を総合すると、そう考えるのが妥当だろう。

そう結論付けて、時雨はこくりと頷いた。

とは言え、本人の方は状況を飲み込み切れていないらしい。

未だぐるぐると目を回している少女に向けて、時雨は一度息を付くと、改めて口を開く。

 

「まあ、何となく察しはついたわ。

大方、さっきの戦闘の余波から生成(・・)されたKAN-SENってところじゃないの?

なんか、そんなことが偶に起こるって前に聞いたような気がするし。

……ねえ」

「は、はい?な、何でしょう……」

 

時雨の呼びかけに恐る恐る、といった様子で応じる少女。

未だ何もわからず、未知に怯えているように見える。

……そんな彼女を少しでも安心させるべく、時雨は軽く微笑むと、問いかける。

 

「あんた、死んだ記憶があるんでしょ?」

「……はい、それらしいものは、一応……」

 

……あまり、良い記憶ではなかったのだろう。

まあ、大体そんなものだ。

だから、それ故に。

 

「だったら時雨様達と同じね」

「えっ」

 

思いもよらぬ言葉だったのだろう。

呆けた表情となる少女に、時雨は軽い調子で言葉を続ける。

 

「ここはそう言う場所なのよ。

別の世界で沈んだり、或いは存在した艦が、KAN-SENとして蘇って……って」

「……あの、私、実は艦船じゃなかったりして……」

「うっさいわね、どうせ似たようなもんよ。KAN-SENでいいのKAN-SENで」

「おう、細かいこと気にしてると面倒だしな!」

「え、えぇ……」

 

割りと適当な時雨と夕立の言葉に、困惑する少女。

……けれど、少なくとも。

先程までの混乱だの悲壮だのと言った表情は、もう見受けられない。

……そう言えば、今の今まで出来ていなかった。

時雨は、自分の胸元に軽く手を当てる。

 

「自己紹介がまだだったわね。白露型駆逐艦、2番艦の時雨よ。よく覚えておきなさいな」

「同じく、白露型4番艦の夕立だ!んで、後ろで寝てるのが1番艦白露。

3人合わせて重桜所属の第2駆逐隊だ、よろしくな!」

「時雨さん、と夕立さん……それに、白露さんですか」

 

少女は、聞いたばかりの名前をゆっくりと反芻する。

彼女にとっては、聞きなじみのない響きの名前だった。

 

……けれど、

 

心の中で、少女はつぶやく。

 

「私の名前は」

 

この世界でなら、今度こそ……

 

 

 

「地球連邦軍所属、RGM-79 陸戦型ジムと言います。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

RGM-79■"[G]"

 

■■■■"陸戦型ジム"■■■■

 

 

装備:

頭部バルカン

※以下の装備は当該個体がKAN-SENとして生成された際、何故か装備していたものである。

ビームサーベル

100mmマシンガン

ロケットランチャー

ショートシールド

 

 

 

地球連邦軍の開発したモビルスーツ。

遅れて開発された同名の汎用型が存在するが、こちらが先行量産機であり、構造的な共通点は少ない。

先行量産型故の高コストなどの要因から本格的な量産こそされなかったものの、

1年戦争の地上戦闘において地球連邦軍の戦線を確かに支え、そのデータは後の連邦製量産MSの礎になった。

 

当該個体はその中でも技術検証用に各部の改修が加えられた機体であり、細部の仕様が原型機と大きく異なっている。

戦闘が想定されていないため、武装は頭部バルカンを除いて搭載されていないが、一応、武装の使用自体は問題なく行える。

 

 

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