Azur“GM”   作:時空未知

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トーチカの中で

 

 

「……お、朝だぁ」

 

 

トーチカの隙間から差し込む朝日。

夕立は欠伸を噛み殺しつつ、その光に目を向けた。

 

「ここに来てから初めての朝……です」

「ん、そうなのか?」

「はい、意識がはっきりしたころは夜だったので」

 

その横でちょこんと座っているのは陸戦型ジム……長いので普通にジムと呼ばれている。である。

初対面時は一悶着あったものの、何だかんだ時雨や夕立と普通に放せる程度には親しくなっていた。

因みに、時雨の方は現在見張り番の休憩側なので眠っている。

 

「つかジム、結局夕立が後退した後もずっと起きてたよな。寝てても全然よかったのに」

「色々ありすぎて寝れる気がしなくて……それに、寝るのがどんな感じかもよくわかってないですし」

「んーそっか」

 

建造当初からよく食べてよく寝ていた夕立には、よくわからない感覚であった。

けれど、他のKAN-SENも初めはそういうのが多いと聞くので、そんなものなのかと思った。

彼女は細かいところは色々適当である。

……まあ、それはさておき。

 

「……」

 

朝日が差し込んでくると、夜は暗くて見えていなかった損耗具合がどうしても見えてくる。

血の滲んだ包帯塗れの白露だったり、

破れて危うい感じになっている駆逐隊の皆の衣服だったり、

白露のものとニコイチしている自分の艤装だったり……

 

……

 

「……なんというか、お前も運、ないよな。

折角生まれた場所がこんなとこで」

 

一応、昨夜の自己紹介の後、ジムに自分達が置かれている状況については一通り説明してあった。

セイレーンと呼ばれる敵がいること。

それに基地を乗っ取られたうえ、自分達が艦隊から孤立してしまっていること。

救援の目途もまともについていないこと……

 

……その際、携帯食料を食べてしまったことについて、

ジムが暫く謝罪マシーンになってしまったのは別のお話である。

 

「い、いやいやきっと何とかなりますよ!

私達の世界では、敵軍のど真ん中に単艦で落ちちゃった部隊が、

艦載のMSだけで敵の司令官まで倒して自軍大隊に合流した、なんて話もありますし……」

「え、それホントのことなのかっ!?」

「うひゃっ!?」

 

ジムとしては、夕立を励まそうとしたのだろう。実際、効果は十分過ぎるほどあった。

ただ、全くの別世界出身であるジムの世界について、内心夕立が非常に気になっており、

その一端が聞けそうだということで勢い良く飛びついてきたというだけで。

それは宛ら、目の前に好物を垂らされた犬のようであった。

 

「ほ、ホントのこと……らしいです?私も叉聞きしただけのでアレですけど」

「へえぇ……すごいなぁ」

 

夕立の勢いに気圧されながらも、その言葉に頷くジム。

そんな彼女の言葉を、夕立は目を輝かせながら聞いていた。

 

「そんだけ戦果上げたなら、いっぱい褒めてもらえたんだろなぁ……

お肉とかお菓子もいっぱいもらえてぇ……」

「あ、あはは……お菓子はわかんないですけど、褒めてはもらえたんじゃないですかね……」

 

自らの欲望駄々洩れな夕立の言葉に、何とも言えない表情で応じるジム。

夜の時の時雨との掛け合いを見ていたこともあり、

夕立の人となりと言うものを彼女も何となく理解し始めていた。

 

……と、今にも涎を垂らしそうな表情をしていた夕立だったが、

表情をくるりと変えると改めてジムの方を見る。

 

「そう言えば、そっちの艦歴ってどうなんだ?なんかすごいのとかあったのか?」

 

何気ない言葉である。

夕立は単に気になっているだけ、なのだが……

 

「……私の、ですか」

「あっ……」

 

自分自身の過去について尋ねられた瞬間、ジムの表情が露骨に暗くなった。

 

しまった。

 

KAN-SENは、その出自から艦歴について強烈なトラウマを患っている者も少なくない。

それ故に、艦歴について尋ねる時は慎重にならなければならないのだが、

完全に興味を先行させてしまった。

 

どうしよう、どうしよう……?!

 

明らかに、過去になんだかの問題を抱えているらしいジム。

沈み込んでしまった彼女に一体どうすべきか、すべきか……

 

「……夕立はな!この島から結構近い海域のところで戦ったんだ!」

「え?」

 

声を張り上げて、夕立が言う。

張り上げすぎて若干上擦っている。

その声にキョトンとした様子のジムを余所に、彼女は言葉を続ける。

 

「その時は夜で、色々あって本隊から突出してたんだけど、その時に敵の艦隊と鉢合わせちゃったんだ!」

「えっ?」

 

色々あって突出して?艦隊と鉢合わせ?

 

……夕立の説明はざっくらばんとしているし、ジムの方も艦隊戦の知識はからっきしであるが、

明らかに普通じゃない状況であったことは理解できた。

夕立は相変わらず時々声を上擦らせながら……しかし、自信満々にその時のことを語る。

 

「夕立は戦った!魚雷全部ぶっ放して敵のど真ん中に突っ込んで、取り敢えず主砲諸々撃ちまくった!」

「お、おお……!」

 

……取り敢えず過ぎて誤射ったような気もするが、細かいことは気にしない。

相手も相手で誤射しまくってたし。

 

「んで、その後はまあ……袋叩きにあって大破しちゃったんだけど。兎に角それまで滅茶苦茶暴れまくったんだ」

「そ、そんなことが……」

 

そう言って、夕立は語りを終えた。

ジムの方を見てみると、尊敬と羨望の眼差しでこちらを見てくれている。

先程の暗い表情がきれいさっぱりなくなったことも相まって、夕立はますます胸を張った。

 

「まあとにかく、夕立の艦歴はこんな感じ」

 

そこで一度言葉を区切った夕立は、改めてジムの方を見る。

 

「夕立は何だかんだこの艦歴が自慢だし、話すのも大丈夫だけど、

艦歴にもいろいろあるからジムが嫌なら言わなくてもいいぞ。

……さっきは勢いで聞いてごめんな」

「……あっ」

 

その言葉に、ハッとした表情になるジム。

 

「……ごめんなさい。その、気を遣わせてしまって」

「い、いやいいって!夕立が聞きすぎたのが悪いんだしさ」

「…………」

 

何故か謝るジムに、夕立は慌ててパタパタと手を振る。

しかし尚も、彼女は黙り込んだまま。

 

……余計に、沈ませてしまっただろうか?

 

夕立の脳裏にそんな不安が浮かぶ上がった、瞬間。

 

 

「わ、私は!」

「うおっ!?」

 

 

突然、ジムが声を張り上げたのだ。

驚く夕立を余所に、ジムは顔を赤くしつつも言葉を続ける。

 

「て、敵のエース機体を、撃破したことがあります……」

 

……けれどその言葉は、後半に差し掛かるにつれて俯き加減になり、しぼんでしまう。

恐る恐る、といった様子でジムの視線が夕立の方へ向けられる。

そこにあったのは……

 

「すっごいじゃん!」

「ふえっ!?」

 

先程にも増して目を輝かせる夕立の姿だった。

夕立はジムの目の前にまで素早く移動すると、その手をぎゅっと握る。

 

「なあなあその機体ってどんなのなんだ?どんな戦いだったんだ!?」

「え、えぇとですね」

 

興味津々な夕立。

それに気圧され気味のジムであるが、

先程とは違い、まんざらでもなさそうに頬が緩んでいる。

 

「私達モビルスーツって、夕立さん達みたいな艦艇と違って人型兵器なんですけどね。

相手のモビルスーツは真っ青で、大きな剣を2本持ってて……」

「おお!なんか手ごわそうなやつだな!」

「そうなんですよ。すごく早くって、移動の合間にミサイルやグレネードランチャーも撃ってきて……」

 

段々と饒舌になるジム。

そんな彼女の話を、夕立は尻尾をふりふり聞いている。

 

「でも、私も何とか食らいついて、最後は相討ちになっちゃったんですけど……でも、撃破しました」

「おぉ……!頑張ったんだなぁ」

「え、えへ、えへへ……」

 

直球に褒められてはにかみつつも笑みを浮かべるジム。

……そんな彼女の背に、思わぬ方向から声がかかった。

 

「……すごいんだねぇ、ジムさん」

「え?」

 

思わず振り返るジム。

そこにいたのは大怪我でずっと眠っていた白露だった。

 

「あっ、白露、いつから起きてたんだ?」

「夕立が昔ばなし……始めた、あたりから、かな?」

「ほ、ほとんど最初から……」

「話しかけるタイミング、また見失っちゃって……」

 

そう言って力なく笑う白露。

……とは言うものの、夜の時と比べるとかなり元気になったようだ。

そういえば、ジムと白露はこれが初対面である。

 

「名前聞いたみたいだけど、こっちはジム。白露が寝た後に偶々会ったんだ」

「あ、あの。白露さん、初めまして……」

「うん……初めまして……」

 

恐る恐る、といった様子のジムの言葉に、

白露はこくこくと頷く。

彼女もまた、夕立と方向性は違うものの細かいことは気にしないタイプである。

 

「私、前の戦闘で……怪我、しちゃったからこんなだけど……妹たちのこと、よろしくね」

「……妹?」

「あー」

 

初耳である。

それに加えて、あまり姉妹感のないやりとりばかり目にしていた為、ジムは首を傾げる。

そんな彼女に、夕立が補足する。

 

「ほら、白露が1番初めに建造されたから、姉妹艦ってやつ。正直あんまり実感ないんだけどな」

「この中だと……時雨が、いちばんしっかりさんだしねぇ」

「な、成程……」

 

わかるようなわからないような……

……自分で言うところの、一緒に生産された陸戦型ジム達のようなイメージだろうか?

諸事情あり、途中自分だけ別のラインに外れてしまったのだが……

 

そんなことをジムが悶々と考えていると、白露が再びゆっくりと話し始める。

 

「……それで、私もっと、ジムさんの話聞きたいかも」

「あっ、夕立も夕立も!」

「そ、そうですか?」

 

2人の期待に満ちた様子に、ジムもうれしそうな反応を示す。

幸いなことに、彼女には話せる戦歴のストックがまだいくつかあった。

 

「……じゃあ、ミサイル発射基地を単機で破壊した話とかあるんですけど」

「……おー」

「そんなのもあるのか!!」

 

反応は上々。

さて、とジムがそれについて話し始めようとした……その時

 

「……バカ夕立ぃ」

「あっ」

 

夕立の背後でゆらりと起き上がる黒い影……言うまでもなく時雨である。

その表情はかなり不機嫌そうである。

 

「時雨、交代は後30分ぐらい後……」

「あんたがうるさくするから起きちゃったんでしょ!」

「えぇ、いつもよりは……静かに、してた気がするぞ?」

「気がするだけなのよ!」

 

夕立の言い訳に噛みつく時雨、

そんな彼女にジムが慌てて言う。

 

「あ、あの、話を始めたのは私なので、あまり夕立さんを責めなくても……」

「いーや、どの道目が覚めたのはこいつのせいだから!

いい加減とっちめないと気が済まないのかしら!?」

「おっ、喧嘩か、やるか?」

「ふ、二人共落ち着いて……」

 

お互いに握りこぶしを作って瞬く間に一触即発となる場の空気。

それを何とか止めようとジムが慌てる中、

その様子を見ていた長女である白露が一言。

 

「大変、だねぇ」

「ひ、人事……!いや、手伝ってくださいとも言えないし……」

 

のほほんとそんなことを言う白露。

ますます慌てるしかないジム。

そうしている合間にも時雨と夕立の睨み合いは続き、そして……

 

 

「……っ!?皆さん、待ってください!」

 

 

その緊張状態は、切迫したジムの声により解除された。

 

「待ってって……どうしたんだ、急に?」

「何かあったの?」

「ほえー?」

 

彼女の元に時雨と夕立が駆け寄ってくる中、ジムは幾たびか視線を彷徨わせる。

けれど、やがて意を決したように息を付くと、彼女らに尋ねる。

 

「レーダーが反応をキャッチしました。

確認しますが、周辺航行中の艦が味方のものである可能性は低いんですよね……?」

「……限りなく、ね」

 

ジムの言葉に、時雨の視線が鋭いものに変わる。

その言葉に頷くと、彼女は言葉を続ける。

 

「こちらに接近してくる反応があります。艦艇クラスが8、小さなものが……3」

「量産艦8、人型3ってところかしら。戦艦クラスがここに出張ってくるとも思えないし、いても精々重巡……夕立!」

「わかってる!」

 

時雨が声をかける頃には、既に夕立はトーチカの隙間に背を伸ばし、外の様子を確認していた。

少しの間、目を限界まで細めて周囲を窺っていた彼女だったが、やがて勢いよく振り返る。

 

「見えた!ほぼ全部駆逐艦で、多分量産に2隻と人型に1隻巡洋艦が混じってる!

多分哨戒かなんかなんだろうけど、こっち来てる!」

「っ、できるだけ物資を持って外に出て隠れるわよ!トーチカだといざって時に逃げれなくなる!」

「了解!」

 

そう言うが早いか、先程までの様子が噓のように手早く物資をまとめ始める夕立と時雨。

対して、一拍動作が遅れてしまったジムだったが、然程せぬうちに時雨の背に声をかける。

 

「あの、私にも何かできますか?」

「あっ、そうね」

 

その言葉を受けて時雨は少しばかり考える。

良くも悪くも、物質は少ないので駆逐艦である自分たちでも十分に運び出せる。

とは言え、夕立と時雨は小破してしまっている状態。

対するジムは完全に無傷で、積載限界も自分たちより大きい気がする。

それに、昨夜の一悶着で見たあの強固な装甲……

 

……

 

「……白露の事、任せていい?」

「……う、えぇぇえ!?」

 

まさか、白露のことをお願いされるとは思っても見なかったらしい。

情けない叫びをあげるジムに、時雨は手を合わせる。

 

「た、確かに白露さんぐらいなら片手塞がるぐらいで対応できるとは思いますけど……」

「だったら余計お願い!こっちが白露抱えて最大船速出そうと思ったら、

2人掛かりじゃないとどうにもなんないの!」

「時雨、ひどいよー」

「うっさいわね事実でしょ!昨日逃げる時滅茶苦茶大変だったんだからね!」

 

寝たまま抗議の声を上げる白露を一喝すると、

時雨は改めてジムへと目を合わせる。

緑色のバイザーの奥に映る瞳は、不安そうに揺れている。

 

……まあ、無理もない。同じ立場に置かれたら自分とて不安になる。

 

けれど……

 

「ジム、頼んだわよ」

「……!」

 

今、白露のことを頼めるのは、彼女しかいない。

ジムは尚も、幾たびか視線を左右に彷徨わせていた。

けれどやがて、一度ぎゅっと目を瞑った後、時雨のことをしっかりと見返した。

 

「……わかりました、任せてください」

「……ありがとね。代わりに、援護は任せなさいな」

 

決意を固めてくれたジムに、時雨は頷く。

そんな彼女に、他の少女らも口々に声をかける。

 

「おう、白露のこと頼んだぞ!」

「お願いね、ジムさん」

「な、何とか頑張ります!」

 

そんな彼女らの言葉に応えつつ、ジムは白露の傍に屈みこんだ。

先程まで普通に会話していた為気が付かなかったが、傷の状態はかなり酷い。

少なくとも左腕は簡易ギプスで固定されていて、

三角巾で半ば隠れている腹部に巻かれた包帯には、かなりの量の血が滲んでいる。

千切れた着物の端で代用されている箇所も多々あり,火傷に関しては覆いきれていない場所もある程だ。

 

「……それじゃあ、持ち上げますね」

「ん、りょうかい」

 

故に、ジムは慎重に彼女の身体の下に腕を差し込むと、慎重に持ち上げる。

そうして、そのまま腕を移すと、左腕と胸元で支えるような体勢を取った。

……ジムにとっては、始めて人肌に触れる経験だった。

 

「……っ」

「だ、大丈夫ですか……?」

「う……ん。ちょっと、痛むだけ」

 

やはり傷は痛むのか、白露の顔色は悪い。

とは言え、彼女の身長は時雨たちと比べると少し高く、ジムと同程度であるのだが、

左腕のシールドの存在も手伝って意外と安定していた。

 

……この状態なら、白露を支えたままある程度の機動戦も行えるだろう。

 

ジムは、そう結論付けた。

 

「時雨!こっちのは全部持ったぞ!」

「よーし……って、その軍刀結局持ってくの?」

「ないよりマシって奴だって、ないよりマシ!」

 

時雨と夕立の方も、諸々の準備は整ったらしい。

ジムはそのことを確認すると、敵の迫るトーチカの外へと視線を向けた。

 

 

_____________________

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

数分後。

4人は、トーチカから離れた位置にある森林地帯で息を潜めていた。

その目の前を、今まさにセイレーンの艦艇が通過している。

哨戒……にしては、やけに航行速度が遅く、周囲にも視線を配っている。

 

やはり、こちらのことを探しているのだろうか?

 

……その時、不意にスカベンジャー(人型駆逐艦)級の内1人の視線が、彼女らが隠れているシダの間へと向けられた。

 

「……っ」

「夕立、こらえて」

 

今にも飛び出して行きそうになる夕立を、時雨が押さえる。

その言葉通り、どうやらた偶々そちらの方を見ただけらしく、スカベンジャーは直ぐに視線を外した。

そのことにほっと息を付く時雨。

……その背後で、思いっきり敵にバレたと思っていたジムが、

ロケットランチャーのトリガーを引き絞る寸前だったのは、彼女の与り知らぬところである。

幸いなことに、白露が制してくれた。

 

……その時、

 

「!!」

 

不意に、敵の量産型軽巡の主砲が回頭を始めた。

先程のこともあり、全員の身体が緊張に強張る。

……しかし、その砲門は、彼女らに向けられたものではなかった。

 

 

轟音

 

 

放たれた大口径の砲弾が飛跳する。

その射線上にあったのは、先程まで彼女らが隠れていたトーチカだった。

 

「わっ!?」

「!!」

「……うわぁ」

 

榴弾を装填していたのだろう。

着弾の瞬間、炎と爆風が着弾地点に吹き荒れる。

あのままあの場所にいた時のことなど、考えたくもない。

 

「ト、トーチカが……」

「間一髪だったわね……」

 

ジムと時雨は、その光景を見つつ息を付く。

雨風を凌げる場所は失ってしまったが、、死ぬよりはましだ。

 

……ところで夕立は、トーチカの方はちらりと見ただけで、ジッと相手の様子を窺っていた。

故に、真っ先に気が付いた。

トーチカを砲撃した軽巡の船体がずれた瞬間、その奥にいたもう一隻の軽巡の主砲が、まっすぐこちらへと向けられていたことに。

 

「……!避けろっ!!」

「なっ!!」

 

 

轟音

 

 

即断。

夕立と時雨は身をかがめて正面へと飛び出すと、そのまま接水。

その勢いのまま、最大船速で敵艦隊の進路とは真反対の方向に離脱を図る。

 

「だーっ!くそ、なんでバレたんだよ!」

「わからないけど、とにかく逃げるわよ!」

 

何はともあれ、何とか敵を撒かなければ。

本体に合流されたら、それこそ一巻の終わりだ。

……と、

 

「……あれ?」

 

ジムがいない。

 

砲撃に巻き込まれたのか?

 

そう思って島の方を見ると、白露を抱えつつ、岸辺に沿ってこちらに追従してくるジムの姿が見える。

しかし変わらず、時雨たちのような水上機動を行う様子がない。

……機関に異常でもあったのだろうか?

 

「……ジム?何があったのっ!?」

「あ、あの、私……!」

 

時雨がジムに向けて呼びかける。

その声に彼女は確かに反応した。

 

結論から言うと、ジムや白露の身に何かあったわけではなかった。

全ては正常だった。正常だった、故に……

 

 

「私[陸戦型]ジムなんです、水上滑走なんてできませんよぉ!」

「……はわわ」

 

 

……そもそも水上に、行けなかった。

MSというのはある程度の汎用性を担保しているが、それでも行ける場所には限りがある。

ましてや陸戦を想定した機構になっている彼女に、水上で滑走するなどできるはずもなかった。

 

彼女の正式名称を今この場で知った白露が、あら~、と口元に手を当てる中、

正式名称の意味について考えもしなかった時雨も夕立も呆然となる。

 

「……マジかっ」

「っ、名前聞いたときに察しとくべきだった……!」

 

そんなやりとりをしている合間にも、反転した敵の艦隊が、こちらを逃すまいと迫ってくる。

……そうなれば、取れる手段は一つしかないだろう。

 

「しょうがない、速戦即決ね」

「仲間呼ばれる前にぶちのめせばいいんだろ?任せろって!」

 

息を整え、反転。

敵艦隊を見据え、主砲を構える。

ここで敵を撃滅せねばならないのなら、その通りに。

時雨は、沿岸のジムに向けて声を上げる。

 

「ジム!そこから援護射撃お願い、できる!?」

「りょ、了解しました、任せてください!」

 

彼女もまたそれに頷くと、白露を庇いつつ、ロケットランチャーを構える。

そのロックが、敵の先頭艦を捉えた。

 

 

「さーて、戦闘開始よ!」

 

 

……午前8:00

群島の合間にて、不意遭遇戦が開始された。

 

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