刑事の仕事は疲れますが、悪女のお姉さんに呼ばれたら喜んで行きます 作:晴矢会長
塚浦警察署、捜査一課。
そのフロアの前方に、課長が立った。
「これから具体的に指示します」
課長は一拍置いて続けた。
「まず、過去三年分。浅間危機管理会社が関わった案件を全部洗って下さい。それから、被害届の取り下げ、示談、退職、転居、証言撤回。全部並べて、報告するように」
――浅間危機管理会社。
大企業だから、捜査も慎重に進めなければいけないらしい。
社会的信用ってものがあるんで。
まっ、そういうのは、どうでもいいけど……凶悪犯を捕まえに行くよりはマシかな。
こうやって、パソコンで調べる仕事の方が楽。
――けど、段々、目が疲れてきたな。
朝からずっと、これやってるんで。
俺は隣の席を見た。
武村さんが、真剣な顔でパソコンの画面と資料を見比べている。
ふと、泉の姉御に顔を向けた。
泉の姉御は立ち上がり、迷わず課長のデスクに歩いていく。
……嫌な予感がする。
泉の姉御はいつもの調子で言った。
「課長!」
課長は少し渋い顔になる。
「渋谷、どうした?」
「浅間危機管理会社。直接、行って話を聞いてきます!」
課長は、ため息をつく。
「自分が言ってること、分かってるか?」
泉の姉御は頷いた。
「分かってます。浅間は黒です。それなら、直接聞き出す方が速いと思います。では、行ってきます」
――やっぱり。
もう、次の展開、読めてます。
泉の姉御は小さく頭を下げて、その場を離れる。
「渋谷、一人で突っ込む気か?」
課長が声を上げる。
「一人じゃありません。浦田を連れて行きます」
泉の姉御は、そのまま俺のデスクまで来た。
「行くよ、浅間危機管理会社」
俺は、軽い笑みを作った。
「あのですね。僕、分からないことが多くて、まずリストを作成して。その、リストの中から――」
泉の姉御は、俺の言葉を遮る。
「浦田、あんた、今のままじゃ何も身に付かないよ! 仕事を覚えたかったら来て。経験を積むのが一番だから」
余計なお世話だよ!!!
独自ルール大臣!
我が国の御令嬢!
マイルールポリス!
こだわりモンスター!
そうだな。
……泉の姉御に一番似合うのは、そう、我が国の御令嬢だな。
あっ、そうだ!
『我が国の御令嬢、泉の姉御が人間国宝に認定されました!』
よし、これを小説のタイトルにしよう。
この小説は売れる! 絶対に売れる。
……けど、人間国宝って誰が認定するんだろう。
そこらへんは、どうでもいいか。
「浦田、なに考えてるか知らないけど、早く行くよ!」
泉の姉御は、扉に向かって歩き出した。
俺は後から追い掛けた。
「渋谷先輩! 待って下さい! 俺、真剣なんで!」
……いつものパターンだよ。
無理! もう限界!