刑事の仕事は疲れますが、悪女のお姉さんに呼ばれたら喜んで行きます   作:晴矢会長

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説教マダム

俺は泉の姉御と二人で、浅間危機管理会社に向かうことになった。

浅間危機管理会社には、不正の疑いがある。

しかも、社会的な信用のある大企業。

簡単には手を出せないらしい。

 

だから、俺たちは慎重に捜査していた。

というか……証拠が出るまで、パソコンの前に座っていれば良かったんですけど。

泉の姉御が、勝手に浅間危機管理会社へ行くことにしたわけです。

俺を連れて! 

また「浦田を連れて行きます」だよ、我が国の御令嬢の決め台詞。

……マジ、疲れる。

 

 

泉の姉御が先に捜査車両へ乗り、俺は助手席に乗り込んだ。

泉の姉御の表情が、少し引き締まる。

「行くわよ」

車が塚浦署の駐車場を出た。

 

泉の姉御が前を見たまま話し掛けた。

「覚えなきゃいけないこと、山ほどあると思う」

「はい!」

俺は姿勢を正し、声を張った。

「車の中で、声張らなくていい」

 

赤信号で車が止まる。

横断歩道を、会社員と学生が歩いていく。

泉の姉御が軽く笑って、続けた。

「私も新人の頃は、色々あった。怖い目にも遭ったし、嫌な思いもした」

 

信号が青になり、車がゆっくり動き出す。

泉の姉御は、真剣な顔になった。

「刑事って、人を見る仕事なの。書類を見る。現場を見る。証言を見る。でも、最後は人を見る」

俺は、泉の姉御の横顔を見た。

 

――美人の部類だけど。

そうだな、クラスで三番目に可愛い子くらい。

ビジュアル国宝級までは、いかない。

 

何より、価値観のアップデートが出来ていない。

だから、自分の考えを押し付ける。

我が国の御令嬢だから、しゃーなし。

けど、トーク、長すぎ!

――泉の姉御、お話し中につき、自動延長モード発動中!

 

「刑事をやってると、色々な人に会う。いい人も、悪い奴も、嘘をつく人間もいる」

泉の姉御がハンドルを切る。

「でも、最初から分かった気になると失敗する。優しそうだから安全とか、怖そうだから悪いとか、そういう見方をすると、簡単に外す」

「はい」

「だから、近くで見る。会って、直接、声を聞く。自分の目で確かめる」

 

 

泉の姉御は、まだ話を続けていた。

「浅間が黒だと思う理由もそこなの。数字だけじゃない。浅間が入ったあと、人の声が消えてる。訴えてた人間が、急に黙る。怒ってた人間が急に引く。そこが引っかかる」

――俺は、泉の姉御がアドバイス・クイーンなのが気になる。

『泉の姉御こと、説教マダム』

 

俺は前方に目を向けた。

「浅間危機管理会社って、どんな会社なんでしょうか?」「普通の会社よ」

泉の姉御が小さく答える。

「普通に見える会社が、一番面倒なの」

……俺は今、なんで聞いたんだろ。

 

やがて、車は一棟のビルの前で速度を落とした。

通りから少し奥まった場所に、灰色のビルが建っていた。

磨かれたガラスの入口。

 

その横に、小さな金属板がある。

『浅間危機管理会社』

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