刑事の仕事は疲れますが、悪女のお姉さんに呼ばれたら喜んで行きます   作:晴矢会長

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人生のパートナー

泉の姉御は、ためらわず浅間危機管理会社の中に入り、俺が後から続いた。

ロビーは静かだった。

受付カウンターの奥で、スーツ姿の女性が顔を上げる。「いらっしゃいませ」

丁寧な声だった。

 

泉の姉御は警察手帳を出した。

「塚浦署、捜査一課の渋谷です。特別対応本部の責任者に話を聞きたい」

「ご予約はございますか?」

「ありません」

泉の姉御は即答した。

 

受付の女性の表情が、ほんの少しだけ止まったが、すぐに笑顔へ戻った。

「恐れ入ります。ご用件を確認させていただいてもよろしいでしょうか」

「浅間危機管理会社が関わった案件について、確認したいことがあります」

 

泉の姉御の横で、俺は姿勢を正していた。

受付の女性は内線電話に手を伸ばす。

「少々お待ちください」

 

短い呼び出し音が鳴る。

「受付です。塚浦署の方がお見えです。特別対応本部長にお話を……はい。はい、分かりました」

受話器を置く。

 

「二階へお上がりください。エレベーターを出て、右手奥になります」

「どうも」

泉の姉御は短く返し、すぐ歩き出した。

 

俺は慌てて頭を下げる。

「ありがとうございます」

泉の姉御は振り返らない。

――何だよ、泉の御令嬢。

頭くらい下げろって!

 

 

エレベーターの前で、俺たちは待っていた。

「渋谷さん」

「なに?」

「予約なしで、大丈夫なんでしょうか」

俺は不安そうに聞いた。

「大丈夫とは言えない。でも、突然来た時にしか見えないものもある」

泉の姉御は何事もないように言った。

 

――奇襲作戦かよ、……それ、常識外れってことになりません? 

というか、そんなことしたら、満場一致でディスライク。

泉の姉御だけじゃなくて、俺まで低評価ボタンを押されるんだよ!

 

やがて、エレベーターに乗って二階へ上がった。

総務部、調査管理部、法務連携室。

そして、奥に一枚だけ、黒い文字のプレートがあった。

『特別対応本部』

 

 

泉の姉御は迷わず進み、俺はその文字を見てから足を速めた。

部署の入口はガラス張りだった。

中には十数名の社員がいる。

電話をしている者、パソコンに向かっている者、資料を抱えて歩く者。

 

泉の姉御が入口に立った瞬間、いくつかの視線が止まった。

「失礼します」

泉の姉御は返事を待たずに入った。

俺も続く。

 

近くの男性社員が立ち上がる。

「あの、どちら様でしょうか」

泉の姉御が警察手帳を見せる。

「塚浦署、捜査一課。渋谷です。特別対応本部長の大島令子さんに話を聞きたい」

 

「警察……」

誰かが小さく呟いた。

 

その言葉は、部署の奥まで伝わった。

キーボードの音が少しだけ減る。

電話の声が低くなる。

 

男性社員は困ったように笑う。

「ただいま確認しますので、こちらでお待ちいただけますか」

「待つ時間があるなら、本人を呼んでください」

泉の姉御が強く返す。

男性社員の笑顔が、少し引きつった。

 

 

若い社員が小走りで奥の扉へ向かう。

「本部長に確認してきます」

部署内に妙な緊張が広がった。

怒号はない。

騒ぎにもなっていない。

ただ、全員が仕事をしているふりをしながら、こちらを見ていた。

 

泉の姉御は、それを見逃さなかった。

「浦田」

「はい」

「こういう時、人は隠そうとする。隠すのが上手い会社ほど、動きが小さい」

俺は小さく頷いた。

……はいはい、分かったから。

 

奥の扉が静かに開く。

先ほどの若い社員が戻ってくる。

「大島が、お会いします」

泉の姉御が奥の扉を見た。

俺も、そちらへ目を向けた。

 

『特別対応本部長室』

 

そのプレートが扉の横に掛かっていた。

中から一人の女性が出てくる。

――大島令子、三十二歳。

 

目を見張るほどの美人。

無造作のようで、整えられた髪型。

服装は派手ではない。

だが、人目を惹きつける。

 

俺は、その女性を見つめた。

――この人だよ、理想の人! 

ビジュアル国宝級、尊すぎる。

……近い将来、人生のパートナーになる人を見つけました!

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