綺麗に終わった本編の蛇足if続編です。
本作品を見る時は前作『アークの一般指揮官』をご視聴前提の話となっています。
⚠︎勝利の女神:NIKKEメインチャプター最新章49〜50のネタバレをガッツリ含みます。ご注意ください。
およそ百年前、宇宙より突如侵略してきた生命体『ラプチャー』の存在により、人類の生活圏を地上から広大な地下都市『アーク』に移し、人類は長らく敗北の歴史を繰り返した。
しかし今から五年前、ラプチャーの親玉であったクイーンを討ち取り、アークの悲願であった地上奪還をカウンターズとその指揮官が成し遂げた。その時、カウンターズの戦闘に最も貢献したとされるのは、ゴッデスとオールドテイルズであった。
ラプチャーから事実上地上の半分の領土の奪還に成功し、その復興と支援を優先した結果、ラプチャーとの戦争は冷戦状態にまで落ち着きを取り戻し、現在に至る。
しかし、その沈黙も破られつつあった。
◆◆◆
『聞こえているだろうか、人類諸君』
地下都市アークがそのまま地上にせり上がり、地上における新しい人類の首都とされるアーク中央都市、その至る所に点在されていた電光掲示板が同時に何者かによってジャックされた。
『私はピースメーカー、元アーク中央政府に所属"していた"指揮官だ。昔馴染みのものからすれば…感動の再会、かな?』
古くからピースメーカーを知っていたアーク市民も、巡回を行なっていた数多の量産型ニケも、元ピースメーカー部隊として前線で活躍した部隊のニケ達も、総じて電光掲示板を見上げ、足を止めて歓声の声をあげる。
地下都市の頃であったアーク全域にその名を轟かせ、"平和の象徴"とまで謳われ、第三次地上奪還作戦途中でMIAとして消息不明となっていたところの吉報となれば、仕方のないことだった。
しかし、無事であったのならどうしてアークに帰ってこないのか、どうして突如として電光掲示板の回線をジャックして放送されているのか、どうして"人類諸君"と語りかけているのか、困惑の声も漏れる。
『まずは、アークの悲願とも言うべき地上奪還を達成されたことに対して、「おめでとう」と賛辞と賞賛の言葉を贈らせてもらおう。そして、ここからが重要な話となってくるが…』
その電光掲示板に目が磔になっているかのように目を見開いている人物がいた。
「ピースメーカー指揮官…生きて___」
一筋の涙が頬を伝いながら、その人物の声をまるで遮るかのようにピースメーカーは話し続ける。
『私は…いや、私たち"ハルモニア"は、アーク人類に対して、新たなラプチャー陣営として、宣戦布告を宣言する』
電光掲示板の映像が引き、ピースメーカーの背後に佇む黒色のヴェールで顔を隠し、真っ白な司祭服に見える軍服を着た女性と、さらにその背後には赤い目をした同じ見た目、同じ武装のヘレティックが地上を埋め尽くすほどの大部隊が整列される映像が流れ、唐突に終了された。
「うそだ………ピースメーカー指揮官…」
カウンターズの指揮官は、予定通りの広告を流す電光掲示板の前で立ち尽くすばかりであった。
◆◆◆
「あら?もう引退したんじゃなかったかしら、アンダーソン?」
車椅子の車輪を回しながら、リビングでは現役引退したはずだったアンダーソンが、ネクタイを整えながら呆れた物言いで答えた。
「リリス…済まない、週末は確か海にバカンスの予定だったが、事情が変わった。あのバカのせいで復帰せざるを得なくなった…あんな方法で均衡を取ろうとする大馬鹿者には、一発この手でぶん殴ってアークに連れて帰る。長い会議になりそうだからな、食事は先に済ませてくれ」
リリーバイスは、仕事を部下に丸投げして自分との余生を満喫していたアンダーソンがバカンスの予定を蹴ってまで、驚くべき速さで現場復帰しようとするほどの相手を想像すると、ニヒリスターからエデンに話されたピースメーカーという人物の話を思い出した。
『現在、クイーンの脳はリリーバイスのNIMPHの抵抗によってダメージを受けている状態だ…。つまるところ、リリーバイスのNIMPHは機能を停止していなく、リリーバイスの人格データは残っていると断定できる。そして、リリーバイスの体となったクイーンの精神にダメージを与え続けたとしたら果たして、どうなると思う?』*1
リリーバイスの精神をクイーンから取り戻すキッカケを作り、結果的にはリリスの精神を取り戻すために、ピースメーカーはあえて険しい作戦を実行させた…ようにも感じていたため、リリスは快くアンダーソンを送り出す。
「そう…そのおバカな誰かさんには困ったものね。いってらっしゃい、納得するまで引退しちゃダメよ」
「ああ、行ってくる…私にハッピーエンドを譲った大馬鹿者には、休暇を与えてやるのが、元上司としての責務だからな」
伝説のゴッデス指揮官は、完全復活を遂げようとしていた。
◆◆◆
「あのピースメーカー指揮官が、人類に宣戦布告…ですって?」
「ああ、生きていたことに対しては奴のことだ、これと言って驚くことではないが…奴の放送はわざわざ人の集まる日中の電光掲示板の全てを、電波ジャックして流されたそうだ」
ヨハンから告げられた情報に対して、あまりの動揺に音を立てながらティーカップを置いたドロシーと、ヨハンが席に座ることを予想して、新しくお茶を淹れたのはリバーレリオ___もといピナであった。
「私はピースメーカーのことをあまり知らないのだけれど、ドロシー様の恩人でしたら、どちらに付かれますか?」*2
「まずは、アンダーソン指揮官とコンタクトを取ります。紅蓮、ラプンツェル、スノーホワイトにも連絡して合流。ヨハン、インヘルトを全員集合してから、アンダーソン指揮官と話を合わせますよ」
「では、ピースメーカーとは敵対するんですね?」
「ええ、少々手荒な事になりそうですが、血迷った方にはお灸を据えるべきです」
ピナは自分といる時とはまた違った笑みを浮かべるドロシーに微笑み、ピースメーカーに対しての興味を示した。
◆◆◆
「シンデレラ!今の放送を見たか!」
「えぇ…確認しているわ、エイブ…」
エイブの研究所兼、自宅として使っている屋敷で寛いでいたシンデレラの携帯端末では、録画されたピースメーカーの放送が繰り返し映し出されていた。
「セイレーン、ヘンゼル、グレーテル、そしてレッドシューズ…貴女達が人類の敵となるなら、私にも考えがあるわ。魔法使いさん、貴方にはあの娘達を誑かした理由を直接聞きに行くわね…。エイブ、ゴッデスの指揮官様のところに行きましょう、あの方は魔法使いさんとの付き合いが一番長かったそうよ、今頃大慌てで戦力を集めていると思うわ」
「ああ、救世主が生きてくれて嬉しいが、あれでは素直に喜べない。それにセイレーンと救世主の関係も、まだ本人に直接聞けていないからな?」
エイブはイタズラっぽくシンデレラに笑うと、シンデレラも釣られて笑みをこぼす。
「ええそうね、セイレーンも交えて魔法使いさんとはお茶会をする予定だったんですもの…美しい私との約束を反故にするなんて、許せるものじゃないわ」
口調は強くも、シンデレラの顔は笑みを浮かべながら、まるでこれから舞踏会にでも行くように足を運んだ。
◆◆◆
二週間前に録画した映像をアーク都市に流したが、アーク側部隊の編成とそれに伴う会議、ドバンが市民の扇動をした場合の暴動の鎮圧を計算に入れるなら、最短で五日、平均十日ほどの猶予はあるだろうか…。
『う…王子さま、とうとう始まるんだね…』
隣に立ったセイレーンは不安そうに私の手を握り、人肌に触れようとする彼女の手を一度握り返し、名残惜しくも優しく離す。
「セイレーン…大義を掲げているとはいえ、人類と敵対するのは気が引けるだろう。決意が揺らぐ事を承知の上で敢えて聞き返すが、この件から手を引いて早急にアークに行き、シンデレラ達と合流する…それがやはり、君たちにおける最善だと思うのだけどね…」
セイレーンはすぐに首を横に振り、確固たる意志を持って、その眼差しを私に向ける。
『あう…それじゃ、王子さまが一人になっちゃう…。孤独でいる事は、本当に寂しくて、悲しくて、辛いの…そんな想いを王子さまに体験して欲しくない………それに、私は王子さまとずっと一緒に居るって、決めたから…』
瞬間、セイレーンは耳まで顔を赤く染め、両手で顔を覆った。
分かるよ、セイレーン…。まるで告白しているように聞こえるセリフは、思い返した時に恥ずかしさが込み上げてくるものだからね。*3
「ヘンゼルはセイレーンの恋模様にワクワクドキドキしているわ、グレーテルはお兄ちゃんが、またクソボケをかましていると呆れているわ」
「ヘンゼルとグレーテルもシンデレラ達と合流して、平穏に暮らす手もあったはずだよ…それに、君たちを勧誘した殺し文句は『地上からラプチャーの排除』だったはずだ…話が違うと憤っても、誰も文句は言わないよ?」
ヘンゼルとグレーテルは互いに顔を合わせ、同時に微笑むと私に向き直り、手を差し出し声をハモらせた。
「「私たちは、人類同士が争わない真の意味の平和な世界を目指そうとしているわ、貴方ならそれが出来ると確信して私たちは手を貸しているの…出来るわね?」」
彼女たちは、まるで私が過去に二人を勧誘した時の焼き直しのように、手を差し伸ばし、それに応えるようにあの時と同じニュアンスを持って私は両手でその手を取った。
「私は、その答えにどう返答するか決まっている…勿論だ…」
フッ、全く…この人たらしな言いようは、いったい誰に似たのやら…。
「ふふ、私の神…この瞬間を待ちかねていました…」
カーレンは恍惚とした表情で私の正面に回り、ヘンゼルとグレーテルが別々の手を取っているのをいい事に熱く長い抱擁をすると、見かねたセイレーンは頬っぺたを膨らませ、私とカーレンを引き剥がす。カーレンは名残惜しそうに両肩を震わせているね。
「ありがとう、セイレーン。これで、ヘンゼルとグレーテルの手をわざわざ振り解かなくて済みそうだ」
セイレーンに今までのお礼の気持ちも込めて、頬に近づき優しくキスを送る。すると更に顔を紅くさせてしまったセイレーンはモリーに宥められているね。すまないね、手が塞がっていなかったら指先にキスをしていたところだった。
ああ、モリーはセイレーンの指示に従うと私に宣言してくれたから、確認は不要だね。
「カーレン…君には、最初から私の計画を話しているが、それでも心変わりして私を殺し人類側に寝返る行動したとしても、誰も攻めないどころか、賞賛さえされるだろう…"人類の脅威を排除した英雄"として後世にまで、その名前を語り継がれるだろうね」
「ふふふ、私の神も人が悪いですね…私の神が感じ取る恩寵を、私にも感じ取れるようにその寵愛を賜ったのですから…。今や私も神の視点を持ち、神の領域に足を踏み入れ、もはや言葉通り私の神とは運命共同体となったというのに!」
そう、カーレンの前頭葉に私のダークマターを移植させ、私の脳に流れた並行世界…ゲームとしての『勝利の女神:NIKKE』の映像と記録を感じ取る事が出来るようになったのは驚くべき事だが、今の状態は私の魂の一部をカーレンに預けていると言っても差し支えない。言葉の意味そのままの運命共同体という事だ。
「…それに、恩寵によって得られた情報を精査するに、今が最高の結末と言って差し支えないものでしょう。並行世界の物語とは違い、リリーバイスもアンダーソン指揮官も存命、リリーバイスのクイーンの人格は徹底的な敗北と恐怖により鳴りを顰め、マリアンのクイーン因子は活性化が不十分で、クイーンとしての実力は低く、カウンターズの指揮官と問題なく触れられる…残る問題は、この星の寿命程度でしょうか?」
しかし、全員に共有された内容だが、惑星の寿命問題に対する重要性は計り知れないだろう。まぁ既に手は打ってあるがね…。
「ああ、後十五年ほどでこの星の寿命が尽きる。グラトニー、プライド、ラース、エンヴィー、グリード、スロウス、ラスト…七体の調律者によって世界を再生する必要がある。それがクイーンの使命であり、それこそがマシンメサイアプロジェクト。しかしクイーンは星の害虫と定義した人類に対して、滅ぼすように動いた…私と君に流れた恩寵でのクイーンは、ああして終始使命感に囚われていたからね」
「ふふ、使命感に囚われているという事でしたら、私の神も似たようなものだと思いますけどね?」
「ふっ、これに関しては何も言い返せないね」
その時、後ろから指先でトントンと肩を小突くナユタに私は振り返った。
「やはり黎明卿の恩寵の精度は計り知れないですね。ところで黎明卿…。黎明卿が私にキスをするなら、唇にしてほしいですねぇ」
ナユタが、わざとらしく自分の唇に指を刺しアピールしている。
「…自分の身体は大事に扱うべきだよ」
本体とはNIMPHの接続を完全に切り、本格的に一人のニケとして活動することを選んだ隻腕のナユタ…いや、私のダークマターを義手として使う"ナユタ:ダークマター"と言うべき特殊なニケとなっている。
しかし、声がすごく似ている(同じ)からなのか、最近はちょっとシュガーに似てきた気がするね…。
「ああ、言い忘れていたわけではないが、オズ、グリム、ゴーテル、君達に拒否権はないよ…私の共犯者だ」
オズはため息混じりに肩をすくめ、グリムは「しょうがない」と言ってるかのように微笑み、ゴーテルは胸の前で腕を組み、得意げにフンと鼻を鳴らした。
「まるでパワハラですね…あ、労災はいつも通り申請しますから」
「オズ…前に指揮官に労災を申請した時、金の延べ棒が来て震えていたのを忘れていませんか?」
「いつものことだし、マスターとだったら、共犯は大歓迎よ!」
ふっ、最初からの仲間達で、苦難を共にした時間が一番長い彼女達にはいつも頼りっぱなしだね…。
お疲れ様でした。
ちしかん→ピースメーカーの表面的な部分ばかり見てきた結果、言葉通り人類を裏切って、宣戦布告を宣言したと思って絶望している。
アンダーソン→ピースメーカーの思考は解りたくないが、ほぼ完璧に理解出来ているので、馬鹿げた方法で恒久平和の実現をしようとしてることに苛立っている。ぶん殴って人類に連れてかえるつもり。
ドロシー→ピースメーカーの真意までは読み取れないが、ピースメーカーという個人の人読みで、戦争自体に別の意図があると考えている。ぶん殴って意図を吐かせるつもり。
シンデレラ→超絶的な勘の良さでピースメーカーの意図を大まかに感じ取るが、オールドテイルズを巻き込んだことに苛立ちを覚えている。カーレンをレッドシューズと呼んでるあたり割とキレ気味。ぶん殴って、止めさせるつもり。
勝利の女神:NIKKEのチャプター更新とか、新しい情報が出てきた時に、その都度書いていく方針になると思うので、更新頻度はめちゃくちゃ遅いと思います。