王都リーヴェルには、食品から不動産まで幅広く商売を営むベルフォード家という大商家があった。
その当主オスカーは、三人の娘を書斎に呼んだ。
柔らかい笑みを浮かべ、三女のリリアに声をかける。
「リリア、卒業おめでとう」
リリアは微笑んだ。
「お父様、ありがとうございます」
オスカーは机の上で手を組み、三人に言った。
「本題に入るとしよう。俺の後継者を決めるため、お前たち三人には、この街で商売をしてもらう」
引き出しから丸めた地図を取り出し、机に広げた。
「見えないだろう。近くへ来なさい」
三人は前へ進み、地図を見た。地図には三か所、赤い丸で印が付けられていた。
「この物件の中から場所を選び、何を売るのか、今夜までに教えてくれ。この街で、より多くの人々を笑顔にした者を、俺の後継者にする」
長女のヴィクトリアは首を横に振った。
「お父様、私たちは商売について何も知りません。助言をいただけませんか」
「俺が教えては意味がないだろう。お前たちは俺の指示で動く使用人ではない。自分で考えなさい。失敗しても怒らないから、やってみなさい」
ヴィクトリアは頷いた。
「わかりました」
次女のセシリアがオスカーに尋ねた。
「お父様、物件は早い者勝ちですか?」
「ああ。ただし、売るものも決めてくれ。内装のデザインを決める必要があるからな」
セシリアは地図に視線を落とした。
「問題は何を売るのか」
リリアはオスカーに言った。
「お父様、物件を見て回りたいので、外出してもよろしいでしょうか」
「ああ。あまり遅くならないようにな」
「はい。お父様、失礼します」
リリアは踵を返し、書斎を出た。
家の外へ向かっていると女性の使用人がリリアに声をかけた。
「お嬢様、お出かけですか」
リリアは足を止め、振り向いた。
「はい」
「私もお供します」
「大丈夫です。私一人の力で考えたいんです」
「差し出がましい真似をして、申し訳ありませんでした」
使用人は頭を下げ、仕事に戻った。
リリアは外に出て、物件を一つひとつ見て回った。
北区画は、富裕層の住宅や高級店が建ち並んでいる。
中央区画は、商業の中心地。人通りが多い。
南区画では、住宅の間を子供たちが駆け回り、楽しそうな笑い声を上げている。
*
——昼過ぎ。
リリアは公園のベンチに腰を下ろした。
「どこで何を売ればいいのか、全然わかりません」
ため息をつくと、隣からもため息が聞こえた。
隣を見ると、青い髪を後ろで一本に束ねた青年と目が合った。青年は、白い制服を纏った騎士だった。
「騎士様、どうかされたのですか?」
青年は静かに目を閉じた。
「僕に声をかけたのか?」
「はい。そのような装いの騎士様は、初めてお見かけしましたので」
青年は目を開け、黒い瞳でリリアを見つめた。
「確かに、僕はこの街の騎士ではない。そんなに珍しいのか」
「はい。王都では見かけない装いですから。もしかして、他国の騎士様でしょうか?」
「ああ。視察に来た。……だが、困ったことに財布を落としてしまった」
「それは大変ですね」
「ため息が聞こえたが、キミは何か困っているのか?」
リリアは少し迷った挙句、青年に事情を説明した。
「——なるほど。僕でよければ力を貸そう」
「本当ですか?」
「ああ。騎士に二言はない」
リリアは立ち上がり、青年に向き直った。
「リリア・ベルフォードと申します」
スカートの裾を少し上げ、会釈する。
青年は純白の鞘に収まった剣を手に取り、立ち上がった。
「僕の名は——レオンハルト・ヴァイス。レオンで構わない」
「レオン様、ご案内します」
「ああ」
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