——北区画の物件の前で二人は足を止め、レオンは周囲を観察する。
「ここはやめておけ」
「レオン様、理由を教えていただけますか」
「身なりからして裕福な者が多い。服やアクセサリーといった小物類が売れそうだが、裕福な客ほど商品に求める品質や接客の水準が高い」
リリアは少し俯いた。
「私にはできそうもありません」
「残り二カ所も確認したい」
「はい」
*
——中央区画の物件。
レオンは目を細め、周囲を観察する。
「ここは商売に適しているな」
「はい。私もそう思います」
「だが、その分、競合店が多い。誰も扱っていない商品にしなければ、価格競争になってしまう」
リリアは小首を傾げた。
「価格競争とは何でしょうか?」
「リリアは、同じ商品を取り扱っている店が二つあった場合、何を基準に選ぶ?」
「……値段、でしょうか」
「ああ。互いに値段を下げ合う構図が生まれ、客を取り合うことになる。ここは保留でいいだろう」
「はい。南区画へ案内します」
*
——南区画の物件。
レオンは腰に手を当て、周囲を見渡す。
「親子が多いな。幸福度も高いように見える」
リリアは指を絡ませ、頬を赤くした。
「レオン様、一つお願いがあります」
「お願い?」
「はい。上菓子を食べてみたいんです」
肩にかかった金髪が揺れ、翡翠色の瞳でレオンを見上げる。
「ダメでしょうか?」
「構わない。僕も上菓子には興味がある」
リリアは柔らかく微笑んだ。
「レオン様、案内します」
「ああ」
*
——上菓子屋の前に着き、レオンは建物を見上げた。
小さな工場から、甘い香りが漂ってくる。
リリアが引き戸を開けると、中から女性の怒声が響き渡った。
「廃業するってどういうことだよ!」
二人は顔を見合わせ、レオンはずかずかと店の奥に入った。リリアが後に続く。
作業着を纏った職人たちの視線が集中する。
「上菓子を買いに来たが、取り込み中だったか」
二十代半ばの赤毛の女性は笑みを浮かべた。
「ほら、客は来る。だから、廃業するなんて二度と言うなよ!」
女性は咳払いを挟み、二人に話しかけた。
「いらっしゃい。恥ずかしいところを見せてしまったね。上菓子なら店内の入口に置いてあるよ」
三人は店の入口付近へ戻った。
レオンは所狭しと並べられた上菓子を見て、僅かに目を見開いた。
「レオン様、私がごちそうします。好きなものを選んでください」
「……ああ」
レオンはサクサク棒・チョコ味を一本手に取った。
「レオン様、遠慮なさらないでください。銅貨一枚から十枚で買える物ばかりです」
リリアは上菓子をカゴいっぱいに詰め込んでいた。
レオンはレタス次郎を手に取った。
「僕はこの二つでいい」
「わかりました。お会計お願いします」
女性は上菓子の値段を計算する。
「銅貨三十八枚だよ。騎士様の分はサービスしておくよ。恥ずかしいところ見られてしまったからね」
リリアは上菓子が詰まった紙袋を抱え、女性に尋ねた。
「外で食べてもよろしいですか?」
「いいよ」
「レオン様、いただきましょう」
「ああ」
二人は店先のベンチに腰掛け、上菓子を食べ始めた。
レオンはサクサク棒を食べ、ため息をついた。
「穴が空いてないのか」
リリアは小首を傾げた。
「穴……ですか?」
「いや、何でもない」
ゴミをゴミ箱に捨て、レタス次郎を摘まんで口に運ぶ。
「廃業という言葉が聞こえてきたな」
「はい。上菓子自体は悪くありません。ですが、来客用にお出しすることができないんです」
「そういうことか。リリア、この上菓子を売らないか」
「レオン様、上菓子で儲けを出すのは難しいと思います」
ふっとレオンは笑った。
「リリア、キミは一つ勘違いしている。キミの話では『この街で、より多くの人々を笑顔にした者を、父親の後継者にする』と言っていた。つまり、売上の多さだけで決まるわけではない」
変わらぬ口調で続けた。
「ここは人通りが少ない。だが、南区画の物件で売れば、話が変わってくる」
「レオン様はそのことに気づかれて、先ほど考え事をしておられたのですね」
「ああ。僕が交渉する。その代わり、食事と寝る場所を提供してほしい」
「はい。お父様に相談します」
レオンはゴミをゴミ箱に捨て、立ち上がった。
リリアも立ち上がり、店に入るレオンの後に続いた。
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