リリアの駄菓子屋   作:虚空小白

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第二話 上菓子屋との交渉

「いらっしゃい……って、さっきのお客さんか」

 

「責任者と話がしたい」

 

 女性が慌てふためく。

 

「まさか、うちの上菓子に不備があったのかい?」

 

「いや、上菓子は美味かった。責任者と交渉がしたい」

 

 女性は首を傾げた。

 

「騎士様と交渉するのかい」

 

「僕ではない」

 

 リリアが一歩前に出る。

 

「リリア・ベルフォードと申します」

 

 リリアは紙袋を抱えていたため、会釈だけした。

 

 女性は素っ頓狂な声を出した。

 

「ベルフォードって、あの大商家のベルフォードかい!? ちょっと待ってて。父ちゃんを呼んでくるよ。父ちゃん!」

 

 女性は慌てて奥へ向かった。

 

 レオンはリリアに尋ねた。

 

「リリアは有名人だったのか?」

 

「有名なのはお父様です」

 

 どたどたと足音が響き渡る。

 

「奥へ、どうぞ」

 

 女性は息を切らしながら言った。

 

 彼女の後に二人はついていった。案内されたのは会議室だった。

 

 五十代半ばの男性が頭を下げる。

 

「グスタフ・ハルトマンと申します。先ほどはお見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした」

 

 グスタフは顔を上げ、女性に言った。

 

「エルザ、お客様にお出しする茶菓子を用意しなさい」

 

「はい!」

 

 エルザは足早に立ち去った。

 

「イスにお掛けになってください」

 

 二人はイスに腰を下ろし、レオンは目を細めた。

 

「廃業の話をしていたが、経営状況が良くないのか?」

 

 グスタフは肩を落とした。

 

「はい……」

 

「原因はわかっているのか?」

 

 グスタフは首を横に振った。

 

「お客は来るのですが、多い日で数人。皆目見当もつきません」

 

 レオンはリリアに聞いた。

 

「リリア、正直に答えて構わない。この店に入る前、どう思った?」

 

「一人では入りづらいと思いました。今日はレオン様がいたので、勇気を出しました」

 

 グスタフはため息をついた。

 

「道理で、値段を下げても客足が伸びないのですね」

 

「廃業する判断は正しい」

 

「レオン様、私たちの目的は交渉ではなかったのですか」

 

「ああ。だから、リリアが上菓子を販売する場所を提供する。ここで働く者には上菓子の製造に専念してもらいたい」

 

 グスタフは顔を上げ、レオンの目を見つめる。やがて首を縦に振った。

 

 エルザが会議室に入り、二人の前にお茶と上菓子を置いた。

 

「エルザ、来客用の菓子はなかったのか!」

 

「そんなこと急に言われても、ないものはないよ」

 

 レオンは上菓子の包みを開け、口に運ぶ。

 

「エルザ、キミの判断は間違っていない。上菓子を製造しているのに、他人の菓子でもてなしてどうする」

 

「確かに、騎士様の仰る通りです」

 

 レオンは机の上で手を組んだ。

 

「それでは、本題に入ろう。リリアが場所を提供する。売上の三割をもらいたい」

 

「騎士様、それではうちが潰れてしまいます」

 

「それでは、売上の一割で構わない。その代わり、上菓子を運んでもらう。そして、店主になったリリアのやり方に口を挟まない」

 

「リリア様のお店を拝見したいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 お茶を飲んでいたリリアは笑顔で頷いた。

 

「はい。ご案内します」

 

 *

 

 ——南区画の物件。

 

 グスタフとエルザは周囲を見渡し、頷いた。

 

 レオンはリリアに尋ねた。

 

「リリア、店を開くまでに、どの程度時間がかかる?」

 

「内装のデザインを決めてからになりますので、ひと月はかかるかと思います」

 

 レオンは二人に言った。

 

「聞こえていたと思うが、ひと月は商売を続けてもらいたい」

 

 リリアは二人に言った。

 

「後ほど契約書を持って参ります」

 

 グスタフは深々と頭を下げた。エルザも倣った。

 

「リリア様、よろしくお願いします」

 

 リリアも頭を下げる。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 互いに顔を上げる。

 

「リリア様、騎士様。我々は失礼します」

 

 グスタフは会釈し、エルザとともに店に戻った。

 

「レオン様、一つよろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

「なぜ、初めに無茶な条件を出されたのですか」

 

「相手は廃業寸前だった。そして、リリアの存在が大きかった」

 

「私がですか?」

 

「ベルフォード家は有名なのだろう。だから、相手はベルフォードの名を信用した。そして、僕は利用した」

 

 レオンは淡々とした口調で続けた。

 

「僕の狙いは上菓子を運んでもらうことにあった。初めに取り分だけを伝えると、相手はそのことばかり考えてしまう。だが、上菓子自体、高級品ではない。売上の一割が妥当だと見越していた」

 

 リリアは目を僅かに見開いた。

 

「騙しているようで少々気が引けます」

 

「だが、相手は納得していた。リリアが気にする必要はない」

 

 レオンが目を細め、リリアに向けた。

 

「僕は約束を果たした」

 

「はい。わかっています。お父様にレオン様のことを紹介します」

 

 二人はベルフォード家へ向かった。




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