リリアはダイニングルームで遅めの昼食を取っていた。
パスタを口に運ぶ。
口の中のものを飲み込み、ナプキンで口元を拭き、グラスの水を一口飲んだ。
所作の一つひとつから気品が溢れていた。
そこへオスカーとレオンが近寄る。オスカーがリリアに声をかけた。
「リリア、食事中に悪いが、少し話を聞いてくれるか」
「はい。何でしょうか?」
「店を開くにあたり、娘たちには護衛をつけようと考えている。レオン殿は視察を最後に騎士を辞めるつもりでいた。そこでレオン殿と交渉し、リリアの店の専属護衛になってもらおうと考えている」
「私は構いませんが、なぜレオン様は騎士をお辞めになるのですか?」
「大人にはいろいろと事情があるんだよ」
リリアは柔らかく微笑んだ。
「わかりました。レオン様、よろしくお願いします」
オスカーはリリアの傍らに控えている使用人に言った。
「少し留守にする」
「畏まりました。旦那様」
「レオン殿、行きましょう」
「ああ」
二人はその場を後にした。
*
——半月もしない内に、レオンは騎士を辞め、ベルフォード家の門番を務めていた。
彼が時折見せる遠い眼差しを、リリアは不思議に思っていた。
ある日、リリアはレオンに尋ねた。
「レオン様、騎士をお辞めになったことを後悔されているのですか?」
「リリアお嬢様、僕は使用人です。もう敬称は不要です」
リリアは微笑んだ。
「レオン様が以前のように私のことを『リリア』と呼んでくだされば、私もやめます」
レオンは眉尻を下げた。
「リリア、僕は後悔していない」
「なぜ、レオンは寂しそうな目をされているのですか?」
「騎士を辞めたことに未練はない」
レオンは息を吐いた。
「たまに故郷のことを思い出す」
「お父様に言って、お休みをもらうのはどうですか?」
「僕の故郷はとても遠い場所にある。それに、リリアの護衛ができなくなる」
レオンは口元を緩めた。
「だが、安心してほしい。故郷に帰る目途は立っている」
リリアは少し俯いた。
「もう会えなくなるんですか?」
「ああ」
リリアは顔を上げ、笑顔を作った。
「少し寂しくなりますが、よかったです。お店の様子を見てきます」
「ああ。気をつけてな」
リリアは改装中の店へと向かった。
ふと足を止め、振り返る。
遠目でレオンを見ながらつぶやいた。
「せっかく会えたのに、寂しいです……」
踵を返し、小さな足取りで店へ向かった。
オスカーから商売のいろはを教わり、それが終わると店に足を運ぶ。リリアの日課になっていた。
*
——さらに数日が経過した。
リリアとレオンはオスカーの書斎で、彼と打ち合わせをしていた。
「リリア、店の名前は決まったか」
リリアは首を横に振った。
「ずっと考えているのですが、いい名前が思い浮かびません」
「レオン、お前ならどうする?」
レオンは顎にそっと手を当てた。
「『リリアの駄菓子屋』にします」
「レオン、上菓子屋ではないのですか?」
「客層は子どもだから、短くて覚えやすいものがいい。それに、駄菓子は響きがいいだろう?」
リリアは頷いた。
「お父様、お店の名前は『リリアの駄菓子屋』にします」
「わかった。そのように手配しよう」
*
——リリアの駄菓子屋開店前日。
リリアとレオン、手伝いを買って出たエルザの三人が駄菓子を陳列していた。
「レオン、明日が楽しみですね」
「ああ」
エルザは眉を八の字にし、レオンに小声で話しかけた。
「騎士様、本当にこれでいいのかい?」
「ああ。僕たちが教えては、リリアのためにならない」
ふふっとエルザは笑った。
「口を挟まない約束だったけど、騎士様が傍にいるのなら安心できるよ」
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