——リリアの駄菓子屋、開店三日目。
ドアに取り付けた鈴が小さく鳴る。
リリアは小首を傾げた。
すぐにまた鈴が小さく鳴った。
リリアは不審に思い、席を立つ。
レオンはリリアに声をかけた。
「リリア、ドアは静かに開けろ」
「はい。わかりました」
リリアがゆっくりとドアを開けると、男の子が背伸びをしてドアノブに手を伸ばしていた。
男の子は後ろに下がり、リリアはドアを大きく開けた。
「いらっしゃいませ。お買い物ですか?」
男の子はこくんと頷き、店の中に入った。
リリアはドアを閉め、カウンターの奥から男の子の様子を見守った。
男の子はカウンターに駄菓子一つと握り締めた銅貨五枚を置き、リリアに尋ねた。
「これください」
リリアは銅貨二枚を受け取り、男の子に残りの銅貨を返し、駄菓子を手渡した。
男の子は嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
踵を返し、ドアの前で立ち止まる。
「リリア、あの子は両手が塞がっている」
「はい」
リリアは慌ててドアを開けた。
「ありがとう」
男の子は笑顔で店を出て行った。
リリアはドアを閉め、息を吐いた。
「レオンは気づいていたのですか?」
「ああ。上菓子屋を思い出してほしい。引き戸になっていた。引き戸の窓は、子どもの顔を確認できる大きさになっていた」
変わらぬ口調で続けた。
「この店の内装は大人向けのデザインになっている。内装を決めたのは旦那様に雇われた職人だが、リリアが一言言えば変わっていたかもしれない」
リリアは肩を落とした。
「リリア、少し席を外すが、構わないか」
「はい……」
リリアは俯いたままイスに腰を下ろした。
「失敗は誰にでもある。それよりも笑顔を忘れるな」
「はい」
顔を上げ、笑顔を作る。
レオンは外へ出て行った。
一人になり、ため息をついた。
しばらくして、レオンが戻ってくる。
彼はドアを開け、金属の塊を地面に置き、ドアが閉まるのを防いだ。
レオンは店に入り、リリアに言った。
「こうなると思って、エルザに用意してもらっていた。これで、子どもだけでも買い物ができる。迷惑だったか?」
リリアは首を横に振り、柔らかく微笑んだ。
「レオン、ありがとうございます。ドアのことはお父様に相談しようと思います」
「ああ」
レオンはリリアの傍に控え、帳簿を手に取る。
「レオン、開店初日から気になっていたのですが、それは何をしているのですか?」
「駄菓子の売上を記録している。どの駄菓子がどれだけ売れたか知っておくことで、人気の駄菓子がわかるようになる」
「見せてもらってもよろしいですか」
「ああ」
リリアは帳簿に目を通し、小首を傾げた。
「この『正』は何でしょうか?」
「僕の故郷では数を数える際、その文字が使われている」
「もしかして、レオンの実家も商家なんですか?」
「そういう知識があるだけで、普通の家庭と変わらない」
リリアはレオンに帳簿を返す。
「レオン、ありがとうございます」
子どもが来店し、リリアは微笑んだ。
「いらっしゃいませ」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価、感想をいただけると、執筆の励みになります。