リリアの駄菓子屋   作:虚空小白

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第八話 名前で呼ばれた日

 ——リリアの駄菓子屋、開店六日目。

 

 扉が二枚の引き戸になり、窓も大きくなった。

 

 店内の中央には型抜き用のテーブルが置かれ、カウンターからでも見えるようになっている。

 

「レオン、どうでしょうか?」

 

「ああ。内装自体は悪くないと思う」

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「型抜き用のテーブルを置いたことで、陳列できなくなった駄菓子を裏に置いている」

 

 リリアは少し俯いた。

 

「ですが、型抜き用のテーブルも必要です」

 

「だから、外に出せばいい」

 

 レオンは引き戸を開け、店先のベンチの前にテーブルを移動させた。

 

 店内に戻ったレオンはリリアに言った。

 

「型抜きのためだけに、店内のスペースを圧迫するのは勿体ない。それに、ベンチの前に置いておけば、駄菓子を広げて食べることもできる。迷惑だったか?」

 

「私は型抜きのことばかり考えて、周りが見えていませんでした」

 

 リリアは柔らかく微笑んだ。

 

「レオン、ありがとうございます」

 

「リリアが型抜きを見せる時はカウンターですればいい」

 

 レオンは口元を緩めた。

 

「きっと面白いことになる」

 

「レオン、一体何を考えているのですか?」

 

「それよりも裏に置いてある商品を並べよう」

 

「わかりました」

 

 レオンが店内の中央に商品陳列用のテーブルを置き、リリアが駄菓子を並べる。

 

 親子が来店する。

 

「いらっしゃいませ」

 

 母親は店内を見渡し、微笑んだ。

 

「母ちゃん、早く買おうよ」

 

「はいはい」

 

 母親は買い物かごを持ち、子どもが急かすように駄菓子を入れていく。

 

「またこんなに入れて。虫歯になっても知らないよ」

 

「寝る前に歯磨きしているから大丈夫だよ」

 

「リリアさん、お会計お願いします」

 

「はい。……私の名前をご存じなのですか?」

 

「お店の名前がお嬢さんの名前になっているから、わかりますよ」

 

 リリアは駄菓子を紙袋に入れながら耳まで赤くした。

 

「銅貨三十二枚になります」

 

 母親が代金を支払い、リリアは紙袋を渡す。

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとうね」

 

「母ちゃん、早く行こう」

 

「はいはい」

 

 親子はその場を後にした。

 

 リリアは胸に手を当てた。

 

「型抜きの宣伝を忘れていたな」

 

「はい……」

 

 リリアは深呼吸を一つ挟んだ。

 

「突然名前で呼ばれたので、少し動揺してしまいました」

 

「店の名前を考えたのは僕だが、迷惑だったか?」

 

 リリアは首を横に振り、振り向いた。

 

 彼女は柔らかく微笑んだ。

 

「いえ、少し恥ずかしかったのですが、目標が一つ達成できました」

 

「目標?」

 

「はい。お客様に名前で呼ばれることです」

 

「……」

 

「レオン、聞いていますか?」

 

「ああ。目標があるのはいいことだな」

 

「これもレオンのおかげです。だから……」

 

 リリアは前に向き直り、言い直した。

 

「いえ、何でもありません。次は型抜きの宣伝をしますので、安心してください」

 

「ああ」




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