リムル様がワルプルギスに赴いていた頃、私は馬車の中で解呪作業をしていた。
……原型が残ってない醜悪極まりない肉塊を相手に、である。
出発の少し前、仕事のために捕虜共を利用するので尋問室へ回収に来た。そしたら目も当てられない状態になっていた。
「……紫の係累と張り合えるな、これ」
凄惨な状況には慣れ親しんでいるし愚か者がどうなろうと知らないが、正に悪魔のような所業にそう呟く。
聞けば、死なないように薄皮を剥ぎ筋肉を1つ1つ削ぎ…いわゆる活造りを人体で練習していたらしい。ファルムス王には追加で手足を食わせたとか。尋問ですらない。
その間ユニークスキルで肉体的苦痛を感じさせないようにし、死の寸前で回復薬を使い何度も何度も繰り返し…痛みで気絶する事も発狂する事もできず己の体が分解された結果、捕虜の心は完全にへし折れていた。
「相応しい報いでしょうが……見た目はどうにかする必要がありますね」
尚、気乗りは全くしない。
そんなわけで箱に放り込み捕虜を原型に戻そうとしているのだが……。
「やれやれ、シオン殿にも困ったものですね」
翳した魔法が弾かれて消え、ため息をつく。
「厄介な……。法則が変に捻じ曲げられて、素直に回復魔法が通用しないではないですか……」
ユニークスキル『
捕虜の一人の頭を掴み、色々と解呪を試す。
「荒療治になりますが耐えてくださいね」
「ぐあぁぁぁぁ!!?」
そんな隣の馬車にまで聞こえる断末魔などを無視してディアブロ様に話しかけた。後にげっそりしたヨウム殿に一つ二つ文句を言われるのは別の話。
「…楽しそうですねディアブロ様」
文句を言いながらもディアブロは目を輝かせていた。
「クフフフ…永い間魔法を極めこの世のあらゆる法則を知悉してきましたが、未だ世界に不思議が満ちているなんて喜ばしい事でしょう?」
本心から楽しんでいる様子に同意し微笑む。楽しんでいる主の姿を近くで見るのが最も喜ばしい事なのだ。
少し後、シオンの力の残滓を解除できた。
ディアブロ様は気の向くままに適当な順番で元に戻していく。しかしファルムス王に目を向け、手を止めた。
『折角ですし一人だけこのままにしておきますか』
『見せしめにするおつもりですね』
『リムル様に弓引いた愚かさを知らしめるには丁度良いでしょう。それに回復薬の宣伝にも使えますし』
『良き御考えかと』
思念伝達でそんな話をしていると、捕虜の一人であるラーゼンが懇願してきた。
「儂よりも王を……王を元に戻してくだされ…」
そんな姿を冷たく一瞥し、ディアブロは嗤う。
「クフフフフ、私に願い事をするのですか?その代償は高くつくと理解しているのでしょうね?」
優しげな笑み、しかしその瞳は絶対零度。
「……あ……いや、儂は……」
目の前にいるのが誰かしっかり思い出したのか血の気が引くほど恐怖し、後悔を顔に浮かべたラーゼンはディアブロ様の前に跪いている。
「無論です。是非とも儂を、いえ、私を、貴方様の下僕の末席に加えて下さい!今後、この身命の全てを貴方様に捧げます!ですからどうか、エドマリス王にお慈悲を―――」
賢明にも従う事を選んだようだ。それを見て鷹揚に頷く。
「いいでしょう。お前程度でも人の世では強者なのだそうですね。ならば使い道はあるでしょう。元よりリムル様の命令なくその者を殺すつもりなどありませんでした。無事に開放して差し上げますよ。ただし……」
「姿を戻す前に協力してもらおう。あの姿を王国の重鎮に晒し、我等が王に逆らった者の愚かさを思い知っていただきましょう」
先程話し合ったアイデアだ。
どうせディアブロ様に跪いた時点で彼等が逆らう事は不可能だし、とことん有効に使わせてもらおう。
「我々が見逃すのは一度だけ。その後の行動次第では王の命どころかファルムスの地から生命の息吹が消え失せる事になるでしょう」
捕虜共は愚かだったがどうしようもない馬鹿ではないようだ。そもそもディアブロ様に睨まれて脅されてる状態で人が抗えるわけもないか。
「無論ですとも!何でも言ってくだされ、私は何でも協力させてもらいますぞ!」
「私の忠誠は貴方様に!」
「余はファルムス最後の王として、ディアブロ殿の望むように協力すると約束しましょうぞ―――」
一人は媚びへつらい、一人は覚悟を決め、一人は諦念の心持ちで従う事を宣言する。
その瞬間、ユニークスキルによって捕虜共は隷属する。
ディアブロ様のユニークスキル『
他にも凶悪な技があるのだが…それは今はいいだろう。
「御安心を。私に従うならば、悪いようにはしませんよ」
美しく恐ろしい我が主は嗤い、優しくそう囁いた。