黒の影従   作:御剣鎖刃

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11話「悪魔の掌の上で踊れ」

捕虜達がディアブロ様に隷属した後、直していないエドマリスを箱に詰めた状態で送り返した。

城内は上を下への大騒ぎになり大変面白い阿鼻叫喚が聞こえた。大半は割愛させていただくが「暴風竜の復活によりファルムス軍は壊滅した」という虚言をうまく信じ込んでもらえたようだ。

そのあたりでヨウム殿一行の後に踏み入った。因みに私はディアブロ様の影に潜んでいる。

 

「遅くなってすまんな。だが、なんとかあの人の説得に成功したぜ」

 

堂々としているが粗野は変わらない。そりゃあ王侯貴族の物腰を覚えるには時間を要するから仕方ない。

仕方ないが…考えなしに反発したがる者が現れることになった。

 

「なんじゃ貴様は!民風情が無礼であろう!!」

 

案内役もちゃんと案内していたしエドマリスを直す薬を持ってくるとも説明したはずだが…貴族でない者を許せないとかそんなんだろうか。

状況を弁えない人間には慣れている。邪魔だなとは思うが。

 

「お待ちくださいカルロス卿。その者達こそ我らを救ってくれた者。王をお助けできる唯一の手立てなのです!」

 

「何?ラーゼン殿達を助けた、ですと?」

 

「王国の守護者たるラーゼン殿の言葉とは思えぬが一体どういう事なのですかな?」

 

実績のある者に言われたからか矛を収めた様子。

 

「それは私からお答えしましょう」

 

あ、援護に来たようだ。

 

「それで、ラーゼン殿達はどのようにして助かったのですかな?」

 

「"暴風竜"が復活したという話はラーゼン殿から説明を受けたようですね。あの戦場で両軍がぶつかり合い激しい戦闘が行われたのです。数では我等が上回っておりましたが、地の利は魔物ど共にあった。思っていた以上に苦戦し、多大な犠牲が出たのです……」

 

やたらこちらの顔色を伺いながら説明している。

 

「儂はその場にいたレイヒム殿と二人して王をお守りするので精一杯でした」

 

「その通り、その通りですぞ。私とラーゼン殿は広報の本陣にて、目の前で起きた惨劇に絶望しておりました。目の前に迫る死、全て砕く偉大なる"暴風竜"を前に、我等は死を覚悟したのです。ですがその時、我等と"暴風竜"の間に立ちふさがった者がおりましたのじゃ…」

 

「それこそが魔物共の主であったリムル様なのです」

 

「その通りです。儂もレイヒム殿も、死を覚悟して負った。しかし、魔物の主であるリムル様がヴェルドラ様を説得してくださったのです」

 

顔色を伺われながら説明が続く。

 

「説得ですと?会話が成り立ったのですか!?」

 

交渉可能と聞いて暴風竜の暴走を諫められると期待をし始めているようだ。

 

(馬鹿な考え方だ。ヴェルドラ様をリムル様の裁量でけしかけられると思わないのか)

 

「皆様もご存じでしょう?魔物達の主であるリムル様はジュラの大森林の盟主だと」

 

「それは勝手に自称しているだけではないのか?」

 

あ゛?

 

一瞬だけ苛ついたがそれで手を出すほど浅慮ではない。

 

「自称などとはとんでもない。魔物の町というものをこの目で見ましたが、正に国の首都と呼ぶに相応しいものでした。まあその話は今は置きましょう。そのリムル様ですが、彼の御方はジュラの大森林の管理者であるドライアドを従えておったのです」

 

ドライアドが従ったという事実だけで説得力が増している。ドライアドの立ち位置も危険度も知っているだろう。

 

「なるほど…」

 

「敵に回したのは失敗であったか…」

 

「まずいですな。邪竜との交渉が可能なのであれば、そのリムルとやらが我等と敵対しているというのは非常にまずい……」

 

今頃考え付いたのか?と呆れた頃にヨウム殿が広間の中心に移動し話し始めた。

 

「ああ、皆さん。その点については安心してほしい。俺はよ、オークロードを討伐する際にリムルさんと協力した。リムルさんは案外気さくな方で人との協調を望んでるんだ」

 

「おお!ではその方が間に立って我等の要望を伝えるのだ。内容については追って通達する故、別室にて控えておれ」

 

また弁えない人間が偉そうに言っている。煩わしいプライドが凝り固まっているのか。

 

「おいおい待てって。そりゃあよう、普段ならあの人も気さくなんだが今は違うぜ?その理由はあんた方がよく知っているだろう?」

 

「なんだと?」

 

「あんたら、リムルさんの国に戦争を吹っ掛けただろ?あれがまずかった。あれでリムルさんの仲間にも犠牲が出たもんだから、あの人激怒しちまってるんだわ」

 

「何を言うか平民風情が!国家の大義を貴様如き平民が語るでないわ!リムルとやらに顔が利くなら都合がいい。取り成すのも英雄の仕事であろう、なんとかせよ!」

 

まったく、人間とはいつの時代もこんな羽虫が湧くようにできているのだろうか。

流石にヨウム殿も苛ついたようで少し感情が揺れているが、表面上は余裕をもって言い返した。

 

「いいか、先ずは俺の話を聞け。宣戦布告もせず異世界人を送り込んで好き勝手に暴れさせたらしいな?俺は戦争の仲裁に出向いたんだがそれを聞かされて唖然としたぜ」

 

「だがよ、俺もファルムス王国で生まれた者だ。祖国を滅ぼされるのは忍びないし、なんとか怒りを鎮めて交渉してもらえないか頼み込んだんだよ。そこのラーゼンさんにも頼まれてな」

 

良い感じに説明するヨウム殿も黙っているラーゼンも明らかにこちらを警戒…否、恐れているのが分かる。ディアブロ様に人間とは格の違う悪徳を見たからか、悪魔だと知っているからか。

あるいは今現在苛立ちで雰囲気が禍々しくなっているからか。

 

『あの二人、先程から顔色を伺ってきますね。ディアブロ様や私がこの場で虐殺を行うとでも怯えているのでしょうか』

 

『クフフフフ…確かに先程から貴族共の発言には苛立ちを覚えますが、そんな愚かな行動をするわけ無いのに過剰な心配ですねぇ』

 

そんな杞憂を見ると少し嗤えてくる。恐怖の感情で小腹を満たせる。

 

『苛立ちはしても与えられた命令が最優先だというのに…』

 

悪魔族はどこかしら狂っているのは認めるが、根は真面目な種族でもある。ちゃんとした契約は基本破らないし強さによって主に認められる事を純粋に望む。

それにディアブロ様はやると決めたら絶対に妥協せず最良の結果を用意する御方だ。

 

「カルロス卿、控えるのじゃ!」

 

「なっ、ラーゼン殿はそのような平民の肩を持つのですか!?」

 

「黙れと言っておる!事情を知らぬ者が出しゃばるでないわ!!」

 

とうとう収拾がつかなくなると判断したのか、氷漬けにして黙らせた。

 

「良いか皆の者。今のヨウム殿の言葉は事実じゃ。ショウゴ達三人は魔物の幹部に倒され、全軍で蹂躙しようとすれば"暴風竜"に阻まれ、我等の敗北は決定したのじゃ」

 

「生き残ったのは儂とレイヒム殿、そしてエドマリス王の三人のみ。捕らわれた我等はヨウム殿の口添えで解放される事になったのじゃ」

 

疑いを抱く者はなく話が進む。

 

「……つまり、王は戦場で呪いを受けて今の様な御姿となってしまわれたと」

 

「王が和睦を約束されたから魔物の主は話し合いに応じる気になったという事か…」

 

「大国ファルムスが魔物に屈するじゃと?」

 

「しかしどうしようもあるまい。卿は戦うつもりかね?敵対するならば"暴風竜"をも敵に回すのじゃぞ?」

 

「いや、それは…」

 

誰もが不利を悟ったらしく、ミュラー侯爵の言葉もあり和睦協議に頷く。

和睦協議が決定したタイミングで私は影から静かに出てきた。

 

「クフフフフ、賢明な判断です。それでは約束通り、この国の王を解放して差し上げましょう」

 

二コリと微笑み悠然と歩く。

 

「何者――ッ⁉」

 

「これは失礼。がら空きだったもので」

 

嘲笑うようにディアブロ様はそう返した。

 

「私の"名"はディアブロと申します。偉大なる我が王リムル様の忠実な執事(バトラー)ですよ」

 

自分の名は大好きだ。主からいただいた主に認められている証。

とても自然に進むディアブロ様と追従する私に近衛騎士が警戒を向けている。しかし向こうもディアブロ様に根源的な恐怖を感じたらしく硬直している。

 

「それでいい。無駄に死にたくはないだろう」

 

そう呟くと自然と退けていった。

肉塊になっているエドマリスにディアブロ様が回復薬をかけ、同時にシオン殿の呪縛を解除する。

あっという間に修復された。目論見通り如何なる手段を用いても直せなかったところをあっさり直した事実に驚愕している。

 

「そ、その薬は一体…?」

 

「完全回復薬(フルポーション)です。我が国の特産品として友好国にのみ輸出している極上の回復薬ですよ」

 

回復薬製造に関わっているガビル殿などから聞いたがリムル様は回復薬の宣伝に力を入れているそうだ。この一連を宣伝にも使おうと前々から決まっていた。

今回の策略はシンプルだ。

恐怖と慈悲(アメとムチ)を使い分け、国家の重鎮達の思考を誘導する。逆らうより素直に従う方が良いと理解させる。もしそれすら理解できない愚か者がいれば粛清する。

それがディアブロ様と私の立てた計画の大筋なのだ。

傍目には回復薬単体で元に戻ったように見える形でエドマリスを元に戻した。

 

「御気分は如何ですか?」

 

「あ、ああ…助かった。感謝する」

 

服を着たエドマリスは命じた通りの演技をしている。

 

「さて、ファルムスの王よ。我が王であらせられるリムル様より伝言があります」

 

「聞こう、魔物の国の使者殿」

 

この時点でディアブロ様は戦争相手国からの使者として扱われる事になった。これで貴族共も反発はできない。

持っていた羊皮紙をディアブロ様に差し出す。

 

「では、申しますよ。これより1週間後、この地にて両国代表による和睦協議を行いたい。講和条約の締結に先立ち、我が国が貴国に突きつける条件は以下の通り」

 

――――汝らに、選択肢を与えよう――――

 

それは、リムル様からの書状という名目のディアブロ様からの要求書。勿論だがえげつなくしてある。

 

一つ目の選択、王が退位し戦争賠償を行う事。

二つ目の選択、魔国連邦(テンペスト)の軍門に降り属国となる事。

三つ目の選択、一つ目も二つ目も選べない場合に戦争を継続する事。

 

どれもこれも選べば争いが起こる脅し。破滅を提示すれば人は回避のために多少の無茶を呑むようになるから。

貴族達の慌てる様子にディアブロ様が愉悦に満ちた顔をしている。個人的にディアブロ様の楽し気な様子が見れて朗々と良く通る声を聞いて最高に嬉しい。

 

「―――以上となります。それでは一週間後までに答えを用意しておいてください」

 

「ま、待ってほしい!それは余りにも時間が足りないというものですぞ!せめて一月…」

 

「黙りなさい。私は気が短いのです」

 

「しかし!これは宮廷議会だけでは決定しかねます。地方の貴族達も招集してファルムス王国としての全体議会を通さねb」

 

今更そんな譲歩を頼める立場だと思っているのか?とジト目で睨む。ディアブロ様も苛ついたようで鋭く睨みつけた。

 

「黙れと言っている。お前達の都合など私には関係無い」

 

ドス黒い妖気が浮かび上がる。お怒りでさえなければ主の妖気は魂に心地良い。

これでも手加減されているのだが、人間が見ると悪夢に苛まれる位に致死量らしい。

 

「いいですか、つまらない小細工を弄しようなどと考えない事です。何だかんだと理由をつけて返事を先延ばしにする事は許しません。一週間後に返事がなければ、それは『戦争の意思あり』と受け取りますので」

 

「それでは、せいぜいよく考えて返事をするように」

 

一方的に告げてディアブロ様と私はその場を去った。

 

           *

 

要求書で脅した後、早速だが仕事にかかる。

 

「さてレプリカ、ファルムス王国各地の財政状況を調べますよ」

 

「承知いたしました。ディアブロ様」

 

計画に見落としが無いように色々と調べておかなくてはならない。そんなわけでディアブロ様と私はそれぞれ各地を飛び回っていたのだが…。

 

『ディアブロとレプリカ!今すぐ戻って来い!』

 

思念伝達でヴェルドラ様から命令が来た。

はっきり言えば直轄の主でないヴェルドラ様からの唐突な命令に少し困惑したのだが…。いや緊迫感は感じられないが万が一の事もある。

 

「ディアブロ様。ヴェルドラ様からの帰還命令ですがどうなさいますか」

 

「そちらに任せた分の情報は収集済みですね?」

 

「勿論です」

 

「では一旦情報収集を止めても問題ありませんね。帰還しますか」

 

二人共々呼ばれてしまったので魔国連邦に戻る事にした。

 

「おぉ、戻ってきたか」

 

戻ってきたが何か襲撃されているような事はなかった。

クアハハハと笑っているヴェルドラ様に話を聞けば、今からワルプルギスに乱入するので代わりに国の守りを固めておけとの事。

何やら渡されていた書籍が最終巻だけ偽造だったとかで文句を言いに行こうとしているらしい。

確かリムル様がヴェルドラ様を自由に召喚できると言っていたが逆にヴェルドラ様は転移できるのか…。

 

「…」

 

ふとディアブロ様を見ると何か考えている。

 

「…どうなさいました?」

 

「ヴェルドラ様にワルプルギスの様子を逐一伝えてもらえればリムル様のご活躍を見れるのでは?」

 

「…確かに、そうですね」

 

「では早速交渉するとしましょうか」

 

リムル様がどのように魔王の座を奪い取ってるか確かに見たいので、ヴェルドラ様に頼む事になった。

交渉材料はどうするのかと思った…がヴェルドラ様が甘いものを好んでいるらしいので食後のデザート三食分で引き受けてくださった。悪魔と竜種による交渉としては大分平和的な気がする。

 

「よかったですね」

 

「クフフフフ…これでリムル様の御活躍を堪能できますね…」

 

そうして魔国連邦を守りながらワルプルギスの様子を見る事になった。

ああ、そうだ。リムル様が帰還なされるまで、ディアブロ様が心酔するきっかけになった話でもしようか。

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