“抗魔の仮面”によって想定外だが助かったシズは、客室で考え事をしていた。
あの異常な強さを持つ黒い悪魔について。
(……魔王レオンから聞いた事がある。“原初の悪魔”と呼ばれる存在について……)
悪魔の始祖である彼等はいずれも危険度が遥かに高く、色に関する称号と容姿を持っている。
最古の魔王である“
東方にて暴威を振るったとされる“
そして詳細不明だが気まぐれに召喚され各地で目撃情報のある“
(黒……ノワール……)
あの黒い人の姿をした、手加減があってなお異常な力を持つ悪魔。
偶然だろうか?
「…まさかね。そんな大物がこんな所に…」
浮かんだ考えを打ち捨てる。
そして呼び出され、仮面を被り直して部屋を出ていった。
*
『空間移動』したノワールは依頼を遂行する事にした。
(半端な雑魚が多いですねぇ…折角ですし手伝わせますか)
パチン、と指が鳴ると同時にノワールの影が不定形に歪み悪魔が1人現れた。
「お呼びでしょうか、我が主」
フードを目深に被り灰色のマフラーを巻いた女悪魔が跪いている。
左右それぞれで異なる目を持つ、中性的な美しい見た目。
その正体は先史種・公爵級の悪魔。黒髪、黒い服、黒いピアス。明らかにノワールの眷属だと分かる。
しかも下級悪魔からの成り上がりというおまけ付き。
彼女あるいは彼は、主の魔力によって一時的に呼び出されていた。
「レプリカ。城内に潜む雑魚を一掃しろ」
「御意」
なぜ主が隻腕なのかと一瞬目を見開いていたが、降された命令が最優先。すぐさま影に潜り行動を開始する。
城内には下級悪魔を寄生させた兵士達がうようよしている。上位悪魔もちらほらと。
しかし人間から見ての脅威であり、黒い主従にとっては大したものではない。
「主はお前らに興味が無いらしい」
「だから、速やかに現世から往ね」
黒曜石の様に輝く大鎌を構えた。
レプリカ当人の体躯よりも大きい全長の鎌が器用に振り下ろされ、一瞬にして首を斬り飛ばした。
「狭いな、この城」
また、素早い蹴りや鉤爪で潰していく。細い見た目に反して重い一撃がねじ切り飛ばす。悪魔族の最大の武器は魔法…というのも間違いではないが、レプリカは主と同じく白兵戦も得意としていた。
「…そうだ、首級を持っていこう」
綺麗に首を落とせた雑魚の頭を何個か引きずり、まるで命令をこなして褒めてもらう前の忠犬の笑みを浮かべる。
主の元まで帰還すると、ノワールは自身が狩り尽くした者共の首級を持っていた。愚かにもノワールに攻撃したのだろう。
「我が主。掃討完了いたしました」
「宜しい。やはり迅速ですねお前は」
傍らに跪くレプリカにノワールは鷹揚に頷く。他の原初が見たら従者への態度の穏やかさに驚くだろう。
まぁ普通に厳しいし本人も道具扱いを是としているが。
「我が主、質問してよろしいでしょうか」
「なんです?」
「腕はどうされたのですか?」
一番気になっていた事を慎重に尋ねる。『魂の回廊』があると言っても、他人の思考が流れ込んだら感情が混線して不安定になるので基本シャットアウトしている。
「先程、興味深い人間と戦いました。その者が持っていた仮面に弾かれた結果ですよ」
「仮面?」
「時は停止させることができても巻き戻りはしない。時間厚は積み重なるもの…という話を以前しましたね」
「あの仮面は原初である私よりも時間の積み重ねが長い、この世にあり得べからざる存在…無限に等しい時間厚を内包した他に無い代物ですよ」
「どこで誰があんな物を創り出したのか…気になるでしょう?」
「それは……好奇心が擽られますね」
笑顔を浮かべてそう語るノワール。それほどの興味をもたせる仮面とその所有者とは何なのか、レプリカも好奇心に駆られた。
*
地下の広間にて。
シズがイフリートを暴走させようとした瞬間にノワールは現れた。
「困りますねぇ。私に痛みを与えた貴女がこのような雑魚に殺されるなんて」
(あれが例の人間…イフリートを宿しているのか…確かに仮面から異質な気配が感じられる……)
隻腕だがその手に悪魔達の首を持っているノワールと鎌に同じく首を吊り下げているレプリカ。
異質な二柱にその場にいた全員が困惑した。
「カハッ……貴方達は……!?」
「確かに強いが、それでも我らの敵ではない!爆炎の支配者の次はお前らだ、そこで大人しk」
グシャッ
片方は鈎爪で串刺しに、片方は大鎌で真っ二つにされた。
「囀るなよ、ゴミが」
「雑魚は大人しく死に腐れ」
凍えるような声でそう言い放つ。
それを見ても己を過信している首謀者オルトスは高笑いをしている。
「我が操り人形を倒せたとて、上位魔将である俺に勝てるとでも?貴様等ごとき低俗な悪魔など―――――」
サクッ、と薄い音と同時にオルトスの両腕が落ちる。
「身の程知らずの愚か者が。我が主への侮辱は看過できんな」
目にも止まらぬ速度で大鎌を振ったレプリカが心底不愉快そうに言う。
そして切断に痛みが追いつく前にノワールによって首を掴まれた。
「誰が低俗だと?“赤”の系列は自信過剰すぎる。これだから相手の力量も見極められないのだ」
「……まさか貴様等……いや、貴方様方は……!!!」
この期に及んでようやく目の前にいるのが何者か気づいた。
だが、もう遅い。
「お前のような魔族に与する恥晒しに生きる資格などありません。魂までも破壊して、二度と復活できないようにして差し上げましょう!」
邪悪な笑みを浮かべ、王は残酷にそう宣言する。
その日、フィルトウッドはたやすく崩壊した。
――――そして時は流れ。
フィルトウッド王国の崩壊は、クロという悪魔をシズが倒したというカバーストーリーで終息した。
時に敵対し、時に共闘し、ノワールが現世を眺めている内にシズが寿命を迎えた。共生ではなく封じていたイフリートの制御が困難になったのだ。
シズの死期が近い事を察したノワールとレプリカは見た。
創造者にしか壊せない筈の“抗魔の仮面”が割れる瞬間と、不可思議なスライムがイフリート相手に戦う姿を。
「クフフフフ……あの仮面が割れるとは……」
「このスライムは……否、この御方は……」
こうして一方的に必然的に邂逅した悪魔は、後にこのスライム――――リムル=テンペストに仕える事を目的とするようになる。