黒の影従   作:御剣鎖刃

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2話「反魂の儀」

獣人グルーシスはランガと二人で街の入り口に待機していた。

魔国連邦(テンペスト)は現在、死者の魂を逃さないよう大量の魔素ごと隔離されている。一方通行の結界で内から外へ出られないようになっていた。

戦争の生き残りを捕縛して4体の悪魔が来るらしいので、進化の眠りによって倒れたランガの代わりに警戒活動を行っていた。

 

「おや、ランガ殿……進化の眠りについているようですね」

 

現れた悪魔の気配にグルーシスは硬直した。背筋が凍るほどの悍しく強大な魔力を感じたのだ。

 

「おいおい初めて見たぜ。上位魔将ってやつかい?」

 

「クフフフフ。正解ですよ。上位魔人さん」

 

危険度は一目見ただけで分かる。ベニマルや三獣士以上の圧倒的威圧感。

 

「クフフフフ、そう警戒しないでください。我々は新たなる魔王に召喚された唯の悪魔です。後ろの二体はただの雑用係なので気にしなくて結構」

 

「雑用係だと?」

 

傍らに控えるフードを被った悪魔はこの悪魔の配下で、後ろの二人…上位悪魔は単なる使い走りのようだ。確かに片方が失神したラーゼンを抱えている。

 

(あんな只事ではない魔力を感じるのにグレーターデーモンだと?冗談じゃないぜ…)

 

と思ったが口には出さず肩を竦める。

 

「成程、4体の悪魔が来るとランガ殿から聞いている。ではその男がリムル様の攻撃から生き残ったって野郎か」

 

「攻撃、ではありません。あれはあの御方にとっては遊びのようなものでした。それに、この者が生き残ってくれたおかげで我々は召喚されたのです。少しは感謝しているので丁寧に扱ってあげた次第です」

 

「丁寧、ねぇ…」

 

グレーターデーモンに担がせるのは果たして丁寧なのか、賢明なグルーシスは突っ込むことはなかった。

 

「まぁいい。街の中の魔素濃度が高いから結界で守っておいてやれよ」

 

「そこまでしたら甘すぎませんか?」

 

「……恐れながら我が主。ソレの事は一応丁寧に扱う予定なのでは?」

 

従者がそう呟く。

 

「ああそうでした。死んでしまうのは不味いです。あの御方に我々が役に立つところを見ていただかないと、ね」

 

悪魔達を案内しようとグルーシスが踵を返した瞬間、街を覆っていた結界と魔素が消え失せた。

 

「!?悪い、俺は中の様子が心配だからここで待っていてくれ!」

 

そう言い残し街の中央広場へ走り出す。

リムルの気配をうっとりと堪能したノワールは早速移動することにした。

 

「嗚呼、早く我が君の元へ行かなくては!」

 

「…お前達。その者を決して殺さぬよう、そして決して逃さぬようにしろ。いいな?」

 

ノワールは歓喜し、レプリカは手短に命令し、空間転移でリムルの元へ移動する。2体の上位悪魔も転移はできない代わりに高速で移動していった。

 

 

*

 

 

街の中心部では、魔王に進化したリムル―――のスキルである『智慧之王(ラファエル)』―――が“反魂の秘術”を行使しようとしていた。

 

「ただいま戻りました。我が君」

 

一瞬で来たノワールとレプリカは召喚主の後方に跪く。

召喚時のスライム姿と違い人型になっているが、魂を見分けられる悪魔族のため見間違えることはない。

彼等の召喚主は横たえられた百名程の死体を前に厳かに儀式を行っていた。

 

(本当に美しい…)

 

(なんという神々しい覇気……)

 

見惚れていたいところだが、一つ問題があった。

 

「失礼ながら申し上げます。どうも、魔素量が足らぬようですが」

 

跪いていたレプリカが指摘した通り、百名分もの死者蘇生ともなると現在召喚主が持っている分量では賄えなかったのだ。

 

「…是。規定の魔素量に満たない事を確認しました。生命力を消費し代用します」

 

「「!?」」

 

平然と自身の命を代替しようとする召喚主に悪魔達は慌てる。

 

ノワール「お待ち下さい我が君!代用に御自身の生命を用いずとも――――そうだ、良き考えが御座います」

 

悪魔達は速やかに辿り着いた上位悪魔を値踏みするように見やり、満足そうに頷いた。

 

「「この者共をお使いくださいませ!!」」

 

その言葉を聞いた上位悪魔は前に出て跪いた。

 

「この者達も貴方様のお役に立てるなら光栄です」

 

「えぇ、それこそが我らにとって最大の喜びなのですから」

 

上位悪魔も頷く。彼等にとってこれは当然の事なのだ。

召喚主は感情の伺えない赤眼で彼等を見やる。

 

「了。規定に必要な魔素量を補填可能。その案を承認します」

 

次の瞬間、『暴食之王(ベルゼビュート)』によって空間ごと上位悪魔を捕食し魂ごと魔素へと分解した。

 

「規定の魔素量に達した事を確認しました。これより“反魂の秘術”を再開します」

 

無色透明な光の玉を薄紫の膜が覆う。それが魔核たる魂とその守り星幽体(アストラルボディ)である。

そして“死者蘇生の秘術”に移行し、修復された魂が肉体に戻る。

彼等の魂は祝福ギフトによりエクストラスキル『完全記憶』を獲得していた。魂が無事ならば何度でも蘇られる、リムルの希望に沿う形で授けられた力。

魂と肉体の繋がりが確立した。魔核が力を発揮し心臓が再び鼓動を刻み始める。

 

ここに今――――――死者蘇生は成立した。

 

その人知を超えた偉業に

 

(ヨウムを決してリムルの敵に回してはならない。それをすれば、私達は間違いなく破滅する―――)

 

ミュウランはリムルの魔王としての器を察して誓いをたて、

 

(あの無価値なものを見るような目。死んだ仲間を生き返らせるのは有益な道具を修理する程度にしか思っていなさそうだぜ。何なんだ……普段のお人好しで温もりを感じさせる態度は全て演技だとでも言うのか?これが本性なのかよ―――ッ!?)

 

グルーシスは人知の及ばぬ魔王の姿―――リムル本人ではなくスキルなのだが―――に畏怖を抱き、

 

『……先程私達と会話したのは、本当に召喚主だったのでしょうか?』

 

『スキルが自律行動を取ったと御考えですか?確かに違和感は感じられましたが』

 

『えぇ、気配がどこか違ったような…いや、流石に考えすぎですね。そんな事よりも―――――クフフフフ。是が非でも配下として末席にでも加えて頂かねば……』

 

『仰る通りです、我が主』

 

悪魔達は一瞬浮かんだ疑問を打ち捨て、決意を新たにして自身をどのようにアピールするか思案を巡らせていた。

 

 

 

魔国連邦の者達の願いは成就した。

ラファエルは作業終了と同時に魔素を使い果たし、低位活動状態へと移った。

スライム状に戻りながら倒れたリムルを悪魔が恭しく抱き上げ、安置場所へと丁寧に運ぶ。

その後、人間達が結界消失に気づいて駆けつけ、何が起きたのか理解できなかったグルーシスや説明する気が一切なさそうな悪魔達に代わってミュウランが説明した。

シオン達が蘇生した事に街の者達は喜びに包まれた。それが奇跡ではなく究極能力による蘇生だと知る者は目撃者4人のみ。

 

―――その影で『智慧之王』に自我が芽生えた事は誰にも知られなかった――――

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