戻ってきたソウエイ殿の報告を聞くため再び会議を行う事になったのだが…なぜか50名ほどの人間が来ている。敵ではないがかなり緊張状態のようだ。
「お久しぶりですリムル殿。間に合ってよかった。ブルムンド王国と魔国連邦テンペストの安全保障条約に従い馳せ参じました。手遅れになるのではないかとヒヤヒヤしましたよ」
「おいおい、ギルドマスター自ら一体―――」
「はは、そう言わないでくれよ。後の事はジーギスに任せてきたんだ。町の状況はミョルマイル達から聞いてる。ファルムス王国と事を構える事になったんだってな…」
そう言われても既にファルムスとの戦争は終わって……あぁそうか、情報伝達が遅れているのか。
我々やリムル様、三獣士も話の噛み合わなさに首を傾げている。
「あー、フューズ君。ちょっと待ってほしい」
「なんですかリムル殿?もしや何か作戦が?」
「あぁ、うん。作戦というかね……」
「まさか我々には秘密の?いや疑われるのは最もですがそこは信用して―――」
「違うんだよフューズ君!気持ちは嬉しいのだけどもう終わったから!」
「は?終わった?どういう意味です?」
「なんて言えばいいか……つまりだね、一言で言えば俺が全滅させちゃったんだよ!」
「……何を?全滅?」
「だから、ファルムス王国の軍勢なんだけどね、俺が一人で全滅させちゃった!」
「はあ、はぁぁぁ!!?」
ヨウム殿など知人らしき人間が絶句したフューズ殿を慰めている。流石に予想外過ぎたようだ。
「先日、私の息子のリグルドを使者として送ったのですがすれ違いになってしまったようですな。リムル様の仰る通り、既に戦争は終わっているのです」
兵士達もフューズ殿も呆然としている。緊張状態での行軍は疲れただろうと、案内の兵士にブルムンドの者達は休まされた。
「フューズ、お前も休んだらどうだ?」
「あぁ……そうですな、俺もちょっと混乱しているようなので少し休ませてもらえれば……」
そこで別の気配がした。ブルムンドの援軍とは規模が違う。
(あれは…ペガサスか)
「あ、また来客だな。しかも……」
「来客?しかも?」
そこで足を止めなければよかったものを、休憩は取れなくなった。
「久しいな、リムル。聞いたぞ、魔王になったらしいな」
「まぁね。色々あって魔王になる事にした。ぶっちゃけ面倒だけど今後の対策も今から考えようと思っていたところさ」
「ならば丁度良い。俺もその会議に参加するとしよう!」
当然のように言い出す。会話を聞いていたフューズ殿は血相を変えていた。
「魔王…?それは一体何の話ですか!?リムル殿、今の話は聞き捨てなりませんよ?どうにも俺には貴方が魔王になったとか聞こえた気がしたのですが…?」
「あぁ、魔王ね。なったけど?」
「ははは、冗談でも笑えませんな。真面目に答えていただきたいのですが」
相当動揺しているらしい。リムル様は面倒そうな表情だ。
そのまま軽く説明した結果、現実逃避に入っている。
「ところでガゼル。そんな簡単に王様が国を抜け出してもいいのかよ?」
「問題ない。ちゃんと影武者がおるわ!」
これは良いのか悪いのか…。
「それよりもリムルよ。3日前にベスターから受けた報告、あれは間違いないのか?」
「あぁ、俺が2万の」
「待てリムル。ファルムス王国軍が何故か行方不明になったと聞いたが何か知っているのか?」
「?」
「ベスターからの報告ではこの街に迫っていた二万近い軍勢が忽然と消えたそうだが何があったのだろうな?」
無言の圧を感じる。
「はっ、それがですね、未だに行方不明でして……」
成程、確かに弱肉強食の魔物と異なり、人間国家からすれば単独で2万人殺せる者を信用するのは難しい。気まぐれに助けてやっても異種族と知れるだけで恩を忘れ石を投げてくるほど疑り深い種族だ。
嘘を吹き込むくらいが丁度良い事だろう。
問題は、ブルムンドの者達に既に言ってしまっている事だが。
「あ、あー、フューズ君」
「リムル殿…」
現実逃避から帰ってきたようで、ため息をついている。
「俺は何も聞いてない。勿論だが俺の部下達も明日の朝には何も覚えちゃいないと思うぜ。今日は疲れてるから幻聴が聞こえたようだ」
空気を読んだか。
「クフフフフ。それでしたら念の為、我々が確認して参りましょう」
「記憶の改竄は得意ですので」
主が小声でそう言った。
フューズ殿は我々の申し出を了承し、同時に会議に参加すると決めたようだ。
「フン、あの男は信用できるのかリムル?」
「ああ、それは大丈夫」
フューズ殿はリグルド殿に案内されて行った。
そして次の来客は――――。
「ならば問題はそちらの者共よな」
我々の後方にエルフの一団が立っていた。よく訓練された護衛と貴族のようだ。
特に殺意など無いようだが。
「何者だ貴様達?」
「これはこれは、地底に隠れ住むのがお好きな帝王ではありませんか。意外ですな、臆病な貴方が魔王に肩入れなさるなど……」
「貴様か。馬鹿みたいに高いところが好きなエルフの末裔よ。神樹に抱かれた都市より降りてきたのか?」
この二人の間に明確な敵意は見受けられない。というより知人と口喧嘩する様な気安さがあった。
「リムル様。この者達は魔導王朝サリオンからやって来られた使者だそうです」
ソウエイ殿の部下が連れてきたのか。
「相変わらずだなエラルド」
「お前もなガゼル。それで、そちらの少女は……」
「あ、どうもはじめまして。この森の盟主をやっているリムルです、宜しく!」
気さくな挨拶。というか少女だと思われてらっしゃる。
まぁ魂から美しい御方だし、擬態のベースにあの人間が使われているから女性に見えてもおかしくはない。
「貴様か!貴様が私の娘を誑かした魔王ですか!!覚悟はできているんでしょうね!?」
起動したのは超高等爆炎術式。シズがイフリートを支配して扱っていた魔法だな。
なぜここまで何もしていないかと言えば、魔法がどう見てもフェイクだからだ。発動に必要な魔素量が足りてなさすぎる。こちらを試すための演技といったところか…。
「ちょっとパパ!?何しに来たのよーー!!」
娘らしいエレンが来て盛大に叱られていた。
「いやースマンな、娘が魔王に攫われたと報告を受けたもので」
「いいえ閣下、きちんと報告致しましたが閣下が早とちりなされただけです」
「やっぱり!パパが悪いんじゃないのよぉ!!」
また叱られている…こういう人間をなんと呼ぶんだったか。
「親バカは治らんなエラルド…」
そうそれだ。
「親バカなのではない。エレンちゃんが可愛いから仕方ないのだ!」
「それを世間一般では……いやこれ以上言っても無駄よな…」
これは付ける薬もないのだろう。
どうやらこの貴族、魔導に秀でたエルフの王国サリオンでも三本指に入る人物らしい。
皇帝の親戚筋にあたり、大公爵家当主なのだと。
今回は自衛のためホムンクルスの身体に
つまり娘らしいエレンは姫君と呼べる立場だったわけか。それが冒険者になるとは……確実に周囲に止められただろうに自由奔放な事だ。
とりあえず一段落したらしいのでリムル様が用件を聞く。
「で、用件はエレンさんの件のみですかね?」
「ふふふ、当然そんな訳はない。今後、君の国との付き合い方を考える上でも自分の目で見ておきたかったのだよ。娘が気に入った貴殿という人物をな」
「その堂々たる盟主ぶりを見れば貴殿がスライムなどと信じ難い。だが、貴殿達の実力は見極めさせてもらったとも」
フェイクの魔法に慌てる者はいなかった。流石にそこまで血気盛んではない。
こうしてエラルドも会議に参加する事となり、タイミングよく会場も準備が整った。
魔国連邦の動向はこの会議で決まる事になる。