黒の影従   作:御剣鎖刃

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6話「人魔会談 前編」

さて、ヴェルドラ様関連で少し騒ぎにはなったがなんとか会議が始まった。

 

獣王国ユーラザニア

武装国家ドワルゴン

ブルムンド王国

魔導王朝サリオン

 

人間社会において錚々たるメンバーと言える。

まずはリムル様の事情説明から。

ヴェルドラ様と親交を持ったところから始まり、町を作り出しイングラシア王国へと赴いた。そこで襲撃してきた者が坂口日向(ヒナタ・サカグチ)。

異世界人であり西方聖教会の聖騎士。剣術の腕は一流、簒奪系のユニークスキルに“聖浄化結界(ホーリーフィールド)”や“霊子崩壊(ディスインテグレーション)”といった神聖魔法の使い手。

稀有な人間もいたものだ。現時点ではベニマル殿やソウエイ殿も勝てないだろう。

 

「坂口日向、ですか。あの人は一見冷酷で恐ろしい殺人者という印象が強いでしょうね。ですが我々がつかんだ情報によると実情は少し違うんです」

 

「例えば、彼女を頼った者には必ず手を差し伸べてはいるんです。その手を握った者は助けている。まぁ助言を聞かなかった者は二度と相手にしないそうですがね。彼女はかなり理性的なんですよ」

 

非常に合理主義な人間というわけか。ならば何故リムル様の話を聞かなかったのか?

 

「だけどあいつ、俺の話を全く聞いてくれなかったぞ?」

 

「それはですね、ルミナス教の教義に“魔物との取引の禁止”という項目があるからでしょう」

 

悪魔を召喚した国家の末路を見ていただければ分かるだろうが、魔物との交渉や取引は危険だ。それ故の教えなのか。

どうやら合理主義かつ模範的信徒のようだ。

それにしてもブルムンド王国は情報操作に長けた国家のようだな。

 

「……まぁ、ヒナタが厄介なのは間違いない。せめて会話が成立するなら、敵対しなくて済むように話し合いの場を設けるんだが…」

 

「クフフフフ。では我々が出向き、始末して参りましょうか?」

 

「後顧の憂いを断つ為にも危険分子は排除するのが宜しいのでは?」

 

「おいおい、ヒナタには俺も負け―――引き分けた程なんだぞ?お前等が行ったからといって簡単に始末できるわきゃねーだろうが!」

 

あぁ、リムル様が話し合いを望むのならば殺してはいけないか?

 

「そうですよディアブロ、レプリカ。貴方達ごときが出向くくらいなら私が行って終わらせてきます。ですからリムル様、私に御命令してください!!」

 

こちらもかなり殺る気があった。

 

「これはこれはシオン殿。貴女には秘書の心得を教わった恩があるので厳しい事を言いたくはないのですが……残念ながら貴女ではヒナタとやらには勝てぬでしょう」

 

確かに本来ならもっと厳しく心を叩き折るように指摘してくるがこれは優しめになっている。

 

「ここは我々に任せていただきたい」

 

「ほぉ?つまりお前達は私よりも強いと言いたいのか?面白い。どちらが上かはっきりさせt」

 

「させんで宜しい!!」

 

叱られてしまった……。この会話で思ったが、シオン殿は直情型だな。自然と相手を煽るディアブロ様とは衝突が多そうだ。

ついでに便乗したヴェルドラ様も止められた。

 

「とりあえず、ヒナタおよび西方聖教会についての議論は以上だ。相手の出方以外では争うことになるが、慎重に対応して様子を見る事とする!」

 

いきなり潰すなどはしないようだ。

その後、リムル様が帰国するとファルムスの人間によって襲撃を受けており、犠牲者を蘇らせるために魔王へ進化したと話し終えていた。

まぁ我々も視ていたので把握している。

 

「…それでだ。今説明したのが本当の話なんだが、公に発表するのはちょっと筋書きを変える事にする」

 

シナリオとしては、リムル様は未覚醒の魔王で一方的虐殺でなく戦争による被害。全員死亡はヴェルドラ様の復活に巻き込まれたものとする。

ヨウム殿がリムル様と協力してヴェルドラ様を鎮めた事にすれば魔王化に人間の理解しやすい意味ができる。人間は物事に意味を求める傾向にある。

 

「考えてもみよ。人は自分が理解できない存在を恐れ決して認めようとしない。たった一人で二万の軍を滅ぼす者に友好を口にされても信じることなどできまいよ。だが、二万の軍勢が行方不明となったのが”暴風竜”の仕業であるとするならば、人々が理解するのは容易だろう。なにしろ”暴風竜”は既にして”天災”なのだからな」

 

「私もこの筋書きを支持します。娘のせいでリムル殿が魔王になったと恐れられ恨まれるよりも、リムル殿が魔王になったおかげで”暴風竜”に対する交渉が可能になったと感謝される方がいいですからね」

 

さり気なく反対する者がいないか睨みを利かせている。

 

「それにさ、俺達がヴェルドラと交渉可能だと噂を流せば、下手にちょっかいを出してくる国も減るだろう。西方聖教会が何か言ったとしても素直に従わない可能性が高くなると思うんだよ」

 

確かに、二正面作戦を避けるにはこれが手っ取り早い。

この案に対し、

 

「成程な、つまり我の面倒を見る理由ができたという訳だな」

 

ヴェルドラ様は満足げに頷き、

 

「確かに納得ですぞ。それならば今までとそう変わらぬ交渉を続けられそうです」

 

リグルド殿は経済的な面から考え、

 

「流石はリムル様!見事な御考えです!!」

 

「いや、発案者はガゼル王だし俺は意見を纏めただけだよ」

 

シオン殿は称賛し、

 

「フッフッフ、成程。俺達はクレイマンに集中できるという事か。これは勝たねば俺が無能だったという事になるな」

 

ベニマル殿は不敵に嗤い、戦意を燃やしていた。

公表する筋書きを定め、リムル様は今後の方針を話していく。

ヨウム殿を王としてファルムス王国の首をすげ替え新王国を樹立させる。

捕虜として尋問されているファルムス王以下3人を解放し賠償を行わせる。賠償問題は貴族と王を決裂させ内戦に持ち込む楔だ。人間は間違いなく素直に支払わないと予測できるので。

内乱の最中に英雄として名が広まっているヨウム殿を立たせ、魔国連邦はヨウム殿を支援。

分をわきまえて協力を申し出た者は残し他は全て追放。意地汚く邪魔をし続ける場合は消す。

通常なら長期的な計画となる…まぁやろうと思えば短期間でも完遂できそうだが。

因みにその話し合いでヨウム殿がガゼル王に試されたりフューズ殿が知るこちらに協力しそうな貴族の情報を聞いたりもしたが…それは割愛する。

 

*

 

終わるかと思えばエラルド殿がフューズ殿に問うた。

 

「君は魔物であるリムルとやらを本当に信じているのかね?」

 

「それは……どういう意味ですか?」

 

「別に魔物達が勝手に国を名乗ろうが、それを正式な国家と認めなくても良かったのではないかね?まして国交など結ぶ必要はなかっただろう?立地的に鑑みてももっと慎重に立ち回れた筈だ」

 

「そ、それは……」

 

「つまりだね君、私なら取引だけは行いつつ西方聖教会の出方を見ていただろう。裏で通報し問題が無いか全てを一任してね。利益のみを享受し後で問題が起きないように決して一方へ肩入れはしない。それが小国なりの立ち回りというものではないかね?」

 

国家としては下手な肩入れは存亡に関わる。正論だろう。

そんな質問を突きつけられ視線が集中したフューズは苦々しい顔をしていた。

 

「わかったよ、分かりましたよ!それじゃあ本音で語らせてもらうとしましょうか!エラルド公、俺も同意見でしたよ。知り合いの貴族と一緒に上司にそう説得しました。ですがね、却下されたんですよ――――」

 

話を纏めると、どうやらブルムンド王にエラルド殿と同じ事を言ったが魔国連邦との敵対を恐れて却下されたらしい。

時系列的には暴風大妖渦をリムル様達が撃破した頃。複数の上位魔人を保有し豚頭魔王(オークロード)や暴風大妖渦(カリュブディス)を退ける様な国家と戦えば負けると。

故に、選択肢の少ない小国として魔国連邦を信用する選択に全てを賭けたのだと。

ブルムンドの王は随分と義理堅い人間だったようだ。

疲れ果てた様子のフューズ殿の説明にエラルド殿は態度を和らげた。

 

「……成程、そういう事情でしたか。すまなかったねフューズ君。だが君のお陰でブルムンド王国がどういう思惑なのかよく理解できましたよ」

 

「相変わらず小狡いなエラルド。そこまでして他国を試さずとも俺がリムルを信じているのだから、貴様が疑うまでもあるまいよ?」

 

「そうは言うがなガゼル、魔物の国と新たに国交を結ぶ決断などそう簡単には下せぬよ。私は今、ブルムンド王に敬意を抱いたところさ」

 

「フッ、抜かせ。最初から決断していたからこそ貴様が出てきたのだろう?策士エラルド。それで結論は?」

 

「まあね、私なりに結論は出ている。だけどそれを答える前に、もう一ついいですかな?」

 

威圧を軽く流しながらもエラルド殿はリムル様に聞きたい事があると言う。

その際に少し場の空気が崩壊しかけたが、リムル様が『魔王覇気』を放った事で全員が緊張した。

いや本当、美しいご尊顔に強者の覇気が相まって素晴らしい神秘性を伺える…。

 

「――――聞こうか、エラルド」

 

「クッ……流石ですね。では―――魔王リムルよ、貴殿に問いたい。貴殿は魔王としてその力をどう扱うおつもりなのか?」

 

そんな質問にリムル様は簡単に答えた。

自身が望むままに、暮らしやすく皆が笑っていられる豊かな世界を創るのだと。

 

「――――そんなとこかな。ま、失敗もあるだろうしそんな簡単にはいかないだろうけどな」

 

「そ、そんな夢物語のような事を本気で実現できるとでも!?」

 

「その為の力さ。力無き理想など戯言だし理想なき力は空虚だろ?俺は結構欲深いけどさ、何を為したいかという願望もなくただ力のみを求める趣味なんざないんだよ」

 

この御方は絶対にやり遂げるだろう。

そんなリムル様の御言葉にエラルド殿も驚き、納得したようだ。

 

「ははははは!愉快だ、これは愉快ですな魔王リムルよ!業深き魔王よ!!貴殿が覚醒できた理由が私にも理解できましたぞ!!」

 

一しきり笑ったエラルド殿はリムル様に跪いた。

 

「失礼致しました、魔王リムルよ。私は魔導王朝サリオンよりの使者として、貴国、ジュラ・テンペスト連邦国との国交樹立を希望致します。何卒、善き御返事を賜りたく存じます―――――」

 

この日、ドワルゴンに並ぶ大国と国交が樹立し、魔国連邦はまた1つ世に受け入れられた。

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