対クレイマン戦の作戦会議のため準備をしている中、そういえば忘れられた者がいた。
元精霊女王ラミリスと聖魔人形なる種族に変わった同胞のベレッタについてだ。書物を読み耽るラミリスは置いといて、問題はリムル様に話しかけているベレッタの方。
『あの時の眷属が…リムル様の前でなければすぐにでも処したものを…』
なにせあの者は私達が運悪く不在だった時にリムル様の召喚に応じたのだ。
望んでいた契約で先を越される事の屈辱たるや、筆舌に尽くしがたい。
あそこで応じたらリムル様に仕える事ができなかったと納得した。納得はしたが…。というか私の怒りは置いておくとしてもあの時はディアブロ様が一番怒っていた。
鎮まっていただくのにどれほど苦労したことか。あれで絶対に一度はあの者をしばき倒すと決意したのだった。
「ところでさ、お前達何しにきたの?」
ベレッタを睨んでいるとリムル様が目的を聞いた。
慌てるようにベレッタがラミリスを説得しているがなぜか動かない。
なにやら書物に熱中していたようで、リムル様が書物の内容を先んじて説明すると脅しをかければあっさり飛び上がった。
「もう一度言うわ!この国は滅亡する!」
「ナ、ナンダッテーー」
適当な相槌によって調子に乗ったらしいラミリスは恩着せがましく続ける。
ラミリス「フフン!まあ、アタシもそれは望まないワケ。それでわざわざ知らせに来てあげたのよ。感謝しなさいよね!」
書物を読みふけって目的放棄しかけた奴に言われたくない。
「で、なんで滅亡する事になるんだ?」
「そうね、それを伝える前に………まあ、人間にも関係ない訳じゃないか。いいわ、一緒に聞きなさい。魔王クレイマンの提案でね、“
魔王達の宴、ワルプルギス。
“
それ自体はただの報告会程度なのだが、議題が問題だった。なんでも「ジュラの大森林に新たな勢力が誕生しその盟主が魔王を僭称した」という内容だと。
「アンタ……魔王を名乗っちゃったワケ?」
「ああ。後悔も反省もしてない」
「うーんアンタなら不思議じゃないね。色々と面倒が起きると思うけど実力があるなら良いんじゃない?」
「それで、やっぱり制裁目的か?」
「名目はそれなんだけど、制裁するならご自由にってのが我々の業界での暗黙のルールなの。今回わざわざ魔王達の宴を提案した理由がね、魔王カリオンの裏切りなんだってさ。それに加えて配下の魔人ミュウランが殺されたとクレイマンが騒いでるのよ」
つまり、魔王カリオンの領地とジュラの大森林を制圧するのが狙いか。
「アンタねえ!そんなに落ち着いてるけどこれって大事なのよ!?アタシの元に届いた報せではカリオンはミリムに倒されちゃったらしいし。それにクレイマンも軍事行動を起こすつもりみたい。これはもう制裁とかじゃなくて戦争なのよ!クレイマンは難癖つけてアンタ達全員を始末しようとしてるって事なんだから!」
先程の態度が嘘のようにまくし立てている。各国の人間達は魔王が討たれたとあって驚いているようだが、しかしこちらとしては想定内だ。
魔王カリオンを裏切り者にされて三獣士は怒り狂っていた。まぁ主を貶された怒りは分かる。
「落ち着けよラミリス。魔王を名乗ったのは事実だけどさ、ミュウランを殺したのは俺じゃない」
「それってどういう意味?」
「意味も何もクレイマンが言ってるのは出鱈目だって事さ。クレイマンがそうやって俺に文句をつけてくるのは想定内なんだよ」
「ちょ、ちょっと!証拠はあるワケ?」
証拠も何もなぁ。
「あの、魔王ラミリス様。発言をお許しください。その殺されたというクレイマン配下の魔人ミュウランとは、私の事なのです……」
クレイマンは愚かにも勘違いしているのだろうが、奴はリムル様の誘いに釣られて踊る小者でしかないのだ。
「は?えっ!?て事は……分かったわ!犯人は魔王クレイマンで決まりね!!」
なぜ最古の魔王がこんな感じなのかギィあたりを問い詰めたい。ギィにはさほど敬意を払わなくていいという主からのお達しもあるし。
「おい、俺もその考えには賛成なんだが一つ聞きたい事がある」
「ん、何さ?この名探偵ラミリスに言って御覧?」
なぜ探偵気取りになるのか。
「こういう場合、他の魔王はどう動くと思う?」
「そこまでは知らないわよ。そういう内容で宴するから参加してねって言われただけだし?」
のほほんとし過ぎている。
「…それでラミリス、ワルプルギスはいつだ?正確な日時は分かるか?」
「言ってなかったっけ?ええとね、確か3日後の新月の夜だね」
3日か。魔王クレイマンを潰すのはその後か?それとも。
『リムル様以外の魔王など、全て潰してしまってもいいんですがねぇ』
直接乗り込んで、宴の場で決着をつけるか。
その後、魔王ラミリスが我儘言い初めて口論になったがその場は一度解散となった。
各国の人間達は帰り、軽食をとってから再び会議を始める。悪魔に栄養補給などの概念は無いがディアブロ様も私も勧められたので一応食べた。普通に美味しかった。
「あれ、お前ら準備しにいかなくて大丈夫か?」
「クフフフフ、我々に準備など必要御座いません」
「ご心配なく」
そんな時間かけて準備する必要は無いので問題ない。
毎度うるさいラミリスは置いといて会議に意識を向ける。
「さて、会議ばかり続いて皆も大変だろうが我慢して欲しい。今回の議題は2つ、『クレイマンとの戦』と『魔王達の宴』についてだ。こちらのラミリス君の報せで俺が狙われている事が分かった。まずはソウエイからの報告を聞き、作戦を考えようと思う。ソウエイ、クレイマンの軍勢の動きを報告してくれ」
「ハッ!」
会議をしている間にクレイマンの軍に動きがあったらしい。魔王ミリムの領土で軍を休ませ編成を行っていると。
「軍を率いるのはクレイマン本人ではないようです。数多の魔人を従え他と一線を画する魔素量を誇るようでしたが、それでも精々が三獣士の皆様と同程度。あれが魔王クレイマンなのだとしたら余りにもお粗末すぎます」
断言するじゃないか。
「クレイマン配下で三獣士に匹敵する者となると、考えられるのは3名――――」
ゴミでも一応は魔王、部下は揃えているか。
中指のヤムザ、示指のアダルマン、母指の九頭獣ナインヘッド。
ミュウランが与えられた地位は薬指で、召喚された時にいたので殺した奴は小指のピローネという諜報だったらしい。
そして指揮官はヤムザであると言う。氷結魔剣士などと呼ばれクレイマンに自ら忠誠を誓っているゲスだとか。そして軍勢の個々の強さは、Bランク8割、残りはA-からAランクに分類される者達らしい。
…いやそれにしても、全体としてみるとどこか弱いな?ファルムスの人間よりはマシでも、戦闘特化の獣人がいるのに。
この違和感には三獣士も首を傾げている。
「待てよ?クレイマンの狙いはこの町とは違うのではないか?」
あぁ、そうかも知れない。
「獣王国が狙いだっていうのか!?あそこに残っているのは避難民ばかりで戦士は一万強。質で勝っても数で押し負けちまう!?」
「そもそも我々がクレイマンを警戒している事に気づいていない可能性がありますが……」
それは期待するべきではない。冥界でも、楽観視は死に繋がる愚かな考えだった。
「狙いがこの町であったとしてもクレイマンが背後の危険を見過ごす事はありません。必ず禍根を断ってから行動するでしょう」
「おい、それはつまり……クレイマンは獣王国の戦士達を皆殺しにするつもりなのか!?」
戦士で済めばまだマシだろう。戦えない避難民も含めての可能性がある。
「クレイマンは情報収集能力が高い。だからこそ、三獣士とカリオン軍の本体がこの町に避難している事を知っているでしょう。そしてここから戻るとなると、どんなに急いでも2日はかかるわね……」
それでは後手に回る。だが獣王国はリムル様と友誼を結んでいる者達だ、見捨てるわけにはいかない。
「ベニマル、阻止しろ」
「ああ、任せろ――――じゃなくて、お任せを!!」
リムル様の命令にベニマル殿は笑顔で頷いている。
やはり配下なら、どんな命令であれ迷わず従い必ずこなさなければ。
「うむ。これより獣王国ユーラザニア防衛戦を立案する。ベニマルを中心に、勝利に向けた意見を述べよ!」
「「御意!!」」
主の言葉に一斉に頭を垂れた。
まず戦場の地形、敵の所在地や兵の構成と数などを知って対抗策を練るのが肝心だ。
獣王国の地形は隠れ潜む場所が無い平坦な構造、上空からの奇襲をかけるには数が足りないようだ。
こうなると作戦も基本に戻る。住民を可能な限りジュラの大森林に避難させ、部隊が応戦する。そして万一のため幹部も戦に出る。
幹部はリムル様が進化なされた時の祝福でエクストラスキル『空間移動』を覚えたらしい。ディアブロ様や私は元から使えるが、そもそもファルムスの方に行くので参加できなかった。
「ま、それしかないか。俺達で時間稼ぎに協力すれば犠牲者を出さずになんとかできるだろ。転送魔法で全員を送れたらよかったんだけどな……」
『転送魔法』は異空間を通って座標を繋ぐ過程で大量の魔素を受けるため有機物は変質してしまうが、保護する術式を組み込めば問題なくなる。それで魔力消費が増える代わりに有機物を送れるのが『転移魔法』や『空間移動』である。
と原理はわかっても軍団規模に拡げるというのは難しい。できたとしても消費が大きすぎる。
「リムル様、転送魔法で軍を送るというのは構造上危険性が高すぎるかと」
そんなわけで言ったのだが、リムル様は笑顔で驚くべき事を答える。
「ああ、レプリカの言う通りだ。だがたった今新たな術の開発に成功した!」
流石に驚いた。この一瞬で保護を組み込んでかつ魔力消費を削減した完全転送術式を作成したというのだから。
「後は君達の覚悟だけだ。それを使えば全軍を一気に送り出す事ができる。だが、初めて行使する術式で安全確認はできていない。実験を行う余裕もない。それでも俺を信じるか?」
「悩むまでもない。俺の忠誠は貴方に捧げた。リムル様の忠実なる家臣である以上、死ねと命じられたら死にますよ。貴方が俺達に無駄な命令をしない事くらい嫌というほど知っていますしね」
「信じるぜ。協力を願う立場のオレ達がリムル様を疑うなんてできねーし」
「俺は一度助けられた身だ。部下達もそれを知ってるし今更文句なんざ言わせませんよ」
「一番足が遅いのが私達の部隊だし、リムル様のお力に頼らせてくださいませ」
一同を見てリムル様は頷く。
「その命、預かった!これでクレイマンの策の上を行く。後はお前達次第だ、必ず勝て!!」
「「ハハーーッ!!」」
全員が獰猛な笑みを浮かべて頷いた。