うちはの忍からボーダー隊員へ   作:zatumozi

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『NARUTO』×『ワールドトリガー』のクロスオーバー作品です。

主人公の転生・前世記憶ありの設定を含みます。

ほんのり恋愛要素(仁礼光→主人公への片思い表現など)が含まれます。

以上の要素が苦手な方、何でも許せる方向けとなっております。


1話:転生したら忍術の無い世界だった

争いの絶えない戦国時代で、俺が幼かった頃の最初の記憶は、優しい兄達の笑顔だった。どんなに外が血生臭くても、兄達は俺を優しく抱きしめ、可愛がってくれた。明日が来るかわからない日々だったけれど、兄達と過ごす時間は本当に楽しかった。

 

だが、戦力が枯渇していた時代。わずか6歳の俺は、戦場へと駆り出された。対峙したのは、うちは一族と長年敵対する千手一族。

 

名前は聞いていたけれど、幼い俺の手足など何一つ届かなかった。絶望を感じる間もなく、俺の短い人生は幕を閉じた。

 

黄泉の国で、ずっと兄達が来るのを待っていた。けれど、どれだけ待っても来ない。

 

次に目を覚ました時、俺は赤子になっていた。最初は状況が呑み込めなかったが、物心がつくにつれ、俺の魂は巡り巡って再び「うちは」の人間として生まれ変わったのだと理解した。

 

夢かと思った。何せ、皆がいる。忍びとして名を隠す必要もなく、自由に名を名乗ることができる。自分の意思で学び、兄達と並んで笑い合える。

 

望んでも手に入らなかった平和が、そこには確かに存在していた。

 

しかし、神様のいたずらだったのだろうか。幸せな日常は、異世界からの侵略者、近界民(ネイバー)の手によって脆くも崩れ去った。

 

この世界にはチャクラが存在しない。いくら印を結ぼうとしても忍術は使えず、目の前の敵すら倒せない無力さに打ちひしがれた。

 

「逃げろ……!アサギ!!」

 

俺の目の前で、家族が全員、俺を守るように倒れていった。異形の手が迫ったその時、真っ先に瓦礫を押しのけて庇ってくれたのは、イズナ兄さんだった。

 

身を挺して迫る爪を遮り、最後に俺を抱きしめてくれたのは、マダラ兄さんだった。二人は俺を守り抜いて息絶えた。

 

純粋に、悲しかった。

 

なんで人は、また争うのだろう?

 

なんで命は、こんなにも簡単にこぼれ落ちてしまうのだろう?

 

直後、駆けつけた組織の手によって敵は一掃された。だが、俺の元に戻ってきたものは何一つなかった。

 

のちに俺が所属することになる組織、「界境防衛機関ボーダー」。心に復讐心はない。ただ、あれは俺にとっての「使命」のように思えた。

 

○○○○

 

ボーダーに入隊して早四年。時の流れは本当に早い。かつて惨劇の舞台となった三門市は、今や近界民(ネイバー)を迎撃する要塞都市のようになっている。

 

新設された機関でありながら優秀な隊員が多く、特にトリガーを動かす「トリオン」が豊富な同年代の仲間がたくさんいた。

 

ボーダーと連携している学校もあり、防衛任務のための公欠も認められている。

 

しかし、学生の本分は勉強だ。定期テストが近いこともあり、俺は朝早く登校して教室で一人勉強ノートを開いていた。

 

「アサギ助けてくれー!!」

 

早朝の静かな教室に、快活な声が響き渡る。俺の机の前に現れたのは、同級生の仁礼光さん。ボーダー本部所属、影浦隊のオペレーターだ。

 

「どうしたの?光さん?」

 

「小テスト範囲教えてくれこの通り!」

 

そう言って彼女が勢いよく机に突き出したのは、コアラのパッケージでお馴染みのチョコレート菓子だった。

 

乱世に生きた前世では、ろくな娯楽も知らずに死んでしまったため、この新しい世界で出会ったお菓子類は、俺の数少ない好きな物だ。

 

「いいよ。その代わり、これはしっかりともらうけどね」

 

「持つべきはやっぱり優秀なヤツだな!」

 

「ありがとう……でいいのかな?」

 

光さんと並んでテスト勉強を始めると、時間が経つにつれて生徒たちが続々と登校してきた。

 

「どう? わかる?」

 

テスト範囲の問題を一通り、教えた後光さんに確認を取る。すると、彼女は顔を綻ばせた。

 

「本当にアサギは教えるのが上手いよな〜」

 

「そうかな? 光さんはいつも影浦隊をまとめて動かしてるんだから、要領はすごくいいと思うけど」

 

「なんだよ〜! 褒めても何も出ないぞ!」

 

「褒めたつもりはないんだけど……あっ、はい。これ」

 

箱を開封し、チョコ菓子を一つ摘んで光さんに渡す。

 

「疲れたでしょ。これで小テスト、がんばろうね」

 

俺は何の気なしに渡したのだが、光さんは少し目を見張り、照れたようにチョコを受け取った。

 

○○○○

 

学校の授業が終わり、今日は防衛任務のため学校からボーダー本部へと向かう。

 

街並みは、4年前の侵攻を忘れたかのように人々が平穏に過ごしている。けれど、ボーダー基地周辺には過去の遺産を残すように放置された住宅がたたずんでいた。現在は危険性から「警戒区域」に指定されている場所だ。

 

基地へ向かう地下通路を通れば危険はない。平日だというのに、基地内には大勢の隊員が行き交っている。防衛任務以外にも、隊員同士が模擬戦で切磋琢磨する「ランク戦」があるからだ。

 

「防衛任務までまだ時間があるな……」

 

今日はお菓子をもらったから、売店でさらに甘い物を買うと身体に良くない。自販機で飲み物を買うくらいがちょうどいいだろう。

 

紅茶、緑茶、カフェオレ。

 

自販機の前に立ち、真剣に悩む。お茶も捨てがたいが、カフェオレのミルクの甘さも惜しい。

 

「なに悩んでんだ?」

 

後ろから声をかけてきた光さんに、俺は素直に悩みを打ち明けた。

 

「今日、光さんからお菓子をもらったでしょ? だからジュースだと糖尿病になりそうで」

 

「そんなこと気にしてるのか」

 

「最近甘い物食べすぎって怒られたから」

 

俺の保護者は、ボーダー内でも有名だ。開発や作戦指揮の能力が高く、上層部にいて顔も広く、周囲からとても慕われているので、些細な点も小言をこぼされることがある。

 

「確かに、考えちゃうかもなー。悩んでるなら、ボタンを同時に押せば?」

 

「同時に?」

 

「そう! こうやってやれば」

 

光さんが適当に紅茶とカフェオレのボタンを同時にバンッと押す。ガコン、と音を立てて落ちてきたのは無糖のカフェオレだった。

 

「な?」

 

「効率が良いね」

 

「だろ〜?」

 

プルタブを開け、缶口からカフェオレを口に含む。ほのかな苦味とミルクの風味が広がる。やっぱり、この味は飽きない。

 

隣で得意気に笑う光さんの視線がどこか優しく自分に向けられていることにも、俺は全く気付かないまま、静かに缶を傾けていた。

 

4年前の侵攻以降、近界民 (ネイバー)が使役する侵略兵器トリオン兵の討伐が大半だ。トリオン兵もボーダーが座標操作によって出現位置を本部基地周辺の警戒区域に誘導しているので、大きな事件は起きていない。

 

指定された防衛エリアの待機ポイントに着くと、風が冷たく頬を撫でた。指示されたポイントで近界民 (ネイバー)の出現を待ち、立ち塞がる敵の動きを封じるのが、俺たちの仕事だ。

 

C級から這い上がってB級の正隊員になれば、ボーダーから給料も出る。だが、そのぶん背負う責任の重さもまた段違いだった。

 

「今日は影浦隊か」

 

B級ともなれば隊を組んで戦うのがボーダーの常識だ。だが、俺は未だにソロのまま、誰ともチームを組まずに活動している。これまでにも何人かの隊員から誘いの声がかかったけれど、そのすべてを断ってきた。

 

理由は、至極単純だ。自分の失態で、誰か失いたくないから。

 

このことを隊員に話せば、きっと首をかしげられるだろう。ボーダーが支給する未知の生体エネルギー「トリオン」で形成されたトリオン体ならば、生身が傷つくことはない。

 

最悪、体が破壊されても「緊急脱出」機能が働き、本体は無傷で基地へと送り返されるのだから。だが、頭で分かっていても、前世の記憶がそれを拒む。

 

目の前で大切な家族の命が呆気なく消え去っていったあの惨劇が、トラウマとなって俺の足枷になり続けているのだ。

 

けれどあのひと(保護者)は、そんな俺の臆病さを責めるような真似は決してしなかった。

 

『トラウマで組めないなら、組めないなりに別の勝ち方を考えろ』

 

どこか不愛想に、けれど、冷静にそう告げてくれたあのひと(保護者)の言葉。それを胸に刻み、俺は隊に所属せず、一人でも自分と周りを守り抜ける強さをひたすら磨いてきた。

 

そこから、最初は臨時部隊ですら組むことを拒んでいたが、技を身につけて今では防衛任務では、臨時部隊の参加が多くなかった。

 

「アサギくん〜!久しぶりだね〜」

 

警戒区域の廃墟が並ぶ中、俺の姿を見つけるなり、笑顔で手を振ってくれたのは影浦隊の銃手、北添尋さんだった。

 

恵まれたトリオン量から放たれる圧倒的な高火力は、乱戦を得意とする影浦隊にとって欠かせない要だ。

 

「そうですね、ソロ隊員は何かと融通が効くので」

 

俺は苦笑交じりに応じた。B級ソロの俺は固定の隊を持たないぶん、シフトの空きがあればこうして臨時で各隊に組み込まれることが多い。

 

特定の居場所を持たない気楽さと、どこにでも入れる使い勝手の良さがあった。

 

「アサギさん入ればこっちの動きも楽になるから、助かる」

 

ぽつりと静かな声で言葉を添えたのは、隊で最年少の狙撃手、絵馬ユズルくんだ。まだ中学生だというのにその狙撃技術は折り紙付きで、味方の援護はもちろん、隙があれば自ら敵を仕留める度胸もある。

 

「アサギ、防衛任務が終わったらランク戦やるぞ」

 

「唐突すぎません?」

 

影浦隊を率いる隊長・影浦雅人さんの容赦ない打診に、俺は思わず引きつった声を返した。

 

「テメェこの間、鋼とランク戦しただろうが」

 

不機嫌そうに首を鳴らす影浦さんの威圧感に、俺は降参したように肩をすくめる。

 

「わかりました」

 

影浦さんとの約束を交わし、俺たちは気を引き締めてそれぞれの配置についた。

 

直後、警報とともに空間が裂け、ゲートから続々とトリオン兵が姿を現す。刃を構え、押し寄せる敵をひたすら斬り、切り伏せ続ける。交錯するトリオンの光と、緊迫した息遣い。静寂と熱気が交錯する時間は、瞬く間に過ぎ去っていった。

 

○○○○

 

防衛任務を終え、ブースに入った影浦さんが不敵に笑う。

 

「アサギ、10本勝負だ。遠慮なしでいくぞ」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

影浦さんはアタッカーとしてB級上位でしのぎを削るトップクラスの猛者だ。過去の隊務規定違反で個人ポイントこそ減点されているが、その実力は本物だ。

 

彼が使うアタッカートリガーは「スコーピオン」。弧月のような重さがなく、非常に軽量で、形状を自在に変形させられるのが特徴のブレードだ。

 

影浦さんはその自由度を極限まで活かし、スコーピオン同士を繋ぎ合わせて鞭のように振るう「マンティス」という独自技を使う。その変幻自在で予測不能な攻撃は、彼の十八番だ。

 

「いくぞ!」

 

「ッ……!」

 

鞘に収まっていた弧月を出し、一気に距離を詰めると、影浦さんの手元から伸ばされたマンティスの刃がしなって飛んでくる。

 

瞬時に左手でスコーピオンが起動した。俺のスコーピオンは、普通の隊員のようにブレードとして振るうものではない。

 

手のひらに収まる小ぶりの「ナイフ」の形状だ。忍として生きた俺にとって、刃物はこのサイズが最も手に馴染み、扱いやすい。

 

難点を挙げるなら、クナイのように硬くないから、すぐに折れることぐらいだ。

 

「相変わらず細かい動きしやがる……!」

 

ボーダー内にスコーピオンの使い手は数多くいるが、こんな小型の形状に加工して扱うのは俺くらいだ。そしてこの形状である以上、投擲も可能になる。

 

(攻撃の隙間から一点に投げ込む……!)

 

「ちっ……本当にお前の攻撃は刺さらねぇな!」

 

影浦さんが間一髪で体を捻るが、投擲されたスコーピオンは足を薄く削り、トリオンが漏れ出した。

 

「ありがとうございます……?」

 

「褒めてねぇわ!」

 

足を削り、機動力を奪った。だが、ここで勝ちを確信するのはあまりに浅はかだ。元A級の実力者である影浦さんの恐ろしさは、身をもって知っている。

 

(手を打つのみ)

 

右手の弧月を鞘に収め、小さなキューブが展開する。オプショントリガー「スパイダー」だ。

 

通常、スパイダーは壁や建造物に返し付きの角を撃ち込み、ワイヤーを張ることで機動力を上げたり敵のトラップに使う。

 

だが、俺は違う使い方をする。スパイダーのキューブを影浦さんへ投げる。目眩しにもなるが、本命はそのワイヤーだ。

 

スパイダーは一度使えば、トリガーのON、OFF関係なく残り続ける。耐久もさほど高くなく、攻撃用トリガーで簡単に切れる。

 

スパイダーが空中で展開された物をワイヤ部分をスコーピオンで切り取り、即座にワイヤーをスコーピオンにくくりつける。

 

回り込まれる前にスコーピオンワイヤーを影浦さんの周りをぐるっと囲む。この独創的な戦い方から、隊員たちの間でいつしか俺のことを「ボーダーの忍」と呼んでいた。

 

影浦さんの肌に刺さる緊張感が増す。だが次の瞬間だった。影浦さんはワイヤーが身体に巻きつく直前に、極限までに薄くしたマンティスがワイヤーからすり抜けた。

 

「さすがです、影浦さん……!」

 

「お前も、まだまだだな」

 

その早すぎるスピードに追いつけず、マンティスで俺の胴体を貫いていたのだった。

 

○○○○

 

ブースを出て、ロビーのベンチで影浦さんと落ち合う。スポーツドリンクの缶を傾けていた影浦さんが、ふと冷ややかな視線をこちらに向け、ポツリと言葉をこぼした。

 

「そういえばお前、サイドエフェクト使わなかったな」

 

影浦さんのその問いには、単なる探りではなく、自分と全力でぶつかり合えなかったことへの苛立ちと、どこか不器用な気遣いが混ざり合っていた。

 

「サイドエフェクト」高いトリオン能力を持つ者に稀に発現する、脳や感覚器官がもたらす超人的な感覚能力のことだ。

 

影浦さんのサイドエフェクトは「感情受信体質」自分に向けられた他人の意識や感情を、肌にチクチクと刺さる感覚として受信する。

 

信頼、恐れ、そして殺意。負の感情ほど不快に肌を刺すため、実質的にあらゆる奇襲や不意打ちを直前に察知できる恐ろしい能力だ。

 

そして俺にも、サイドエフェクトが存在する。もし戦闘中に使用していれば、影浦さんのマンティスの軌道を見切り、もう少しマシな粘り方ができたはずだった。影浦さんが違和感を抱くのも当然だった。

 

「すみません。手加減をしたつもりはないんです」

 

嘘ではない。影浦さんという圧倒的な強者を前に手加減などできるはずもなかった。だが、全力のカードを切らなかったのもまた事実だった。

 

「……なんかあったのか?」

 

影浦さんの眉間にしわが寄る。感情受信体質を持つ彼には、俺の言葉の裏にある「隠し事」の気配が、チクチクとした微小な不快感として肌に届いているのかもしれない。俺はこれ以上彼に余計な勘ぐりをさせまいと、努めて静かに理由を口にした。

 

「実は、定期検査の日が近いので、あまり使わないようにと言われていまして」

 

「検査? 大丈夫なのか?」

 

珍しく影浦さんの声にほんの少しのトーンの低さが混じる。乱暴な言い回しの裏にある彼の根の優しさに触れ、俺は少し目元を緩めながら頷いた。

 

「はい。この間、少し視界がボヤけることがあって……念のためです」

 

「無理すんじゃねぇぞ。大事にしろ」

 

影浦さんはそれ以上深く踏み込むことはせず、短く吐き捨てると、乱暴にパイプ椅子から立ち上がった。踏み込みすぎないその距離感が、今の俺にはたまらなくありがたかった。

 

「失礼します」

 

深く頭を下げ、俺は影浦さんの元を離れた。足音が静かに響く長い廊下を、一人で歩き出す。

 

俺の持つサイドエフェクトその原理は、ボーダーの持つ最先端の科学技術をもってしても未だ解明されていない。

 

俺自身は周囲に対し「相手の動きを一瞬でコピーしたり、動向を予測できる能力」だと説明している。けれど、そのあまりに多岐にわたる現象ゆえに、あの人(保護者)でさえこの能力に明確な名前をつけていない。

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