甘織れな子とずっと一緒にご飯を食べたい女の子の話 作:えれくとろきゅーしょにすと
いや、別にあのファムファタルに引っかかったのは大したきっかけじゃありません。
あの子と食べるごはん美味しいですね〜、もっといっぱい食べたいですね〜、とかって思ってただけなのです。
それで私、言ってから気付いてしまったんです。
「あ、これ実質プロポーズじゃないですか」って。
「れな子ちゃん、毎日一緒にごはん食べません?」
学校が始まって数ヶ月ほどのお昼休み、4人でご飯を食べてる時でした。
ええ、そうです。
他の2人もいたんです。
真唯ちゃんに、紫陽花ちゃんも。
「あ、超絶ヤバいですねこれ」と思いました。
このグループは全員が最低でもうっすら、多分この二人はかなりれな子ちゃんを好いているフシがあります。
つまり何をしたか、火薬庫とは言わずとも花火コーナーに、私は竹サイズくらいの爆弾をぽいっと無意識に放り込んだ感じになります。
馬鹿なんでしょうか。
馬鹿でした。
「正気?」というイマジナリー紗月ちゃんの視線が頭から心臓にかけてを貫きました。
欲望に正直なことを正気と称するのであれば正気なのだと思います。
私は仮にも無表情キャラ、今更その程度の威圧は通らないのです。
「えー、でも最近は毎日こうしてお昼食べてるよねー?」
紫陽花ちゃんのナイスアシストです。
ウルトラBくらいはあります。
「出来れば晩ご飯とかも一緒がいいです」
こいつはド阿呆です。
大馬鹿です。
欲が思考に先ん立ちました。
口の専横です。
逆によくこの状況で私は無表情キャラを継続できているなとさえ思います。
どうなっているんでしょうかこの表情筋は。
ああ駄目です。
真唯ちゃんのお手々が若干プルプルと震えています。
まあ仕方ありません。
恋とは人をおかしくします。
私の口もそうなのだと思います。
私は空になったパソコン大ほどのお弁当箱をカバンに仕舞い、空気を仕切り直すべくトイレに立ちました。
けれどその時、
「わ、わたしも好きだよ! 六華さんとご飯食べるの!」
これだからファムファタルは駄目なのです。
後先考えずにその場にいる人間の好感度を稼ごうとするのはよくない癖です。
ああいけませんいけません。
さっきまでは普通にほんのり甘くて美味しかったはずの岐阜県産ブランド米の後味はれな子ちゃんの微笑みによって莫大な旨味とむせてしまいそうなほどの甘みを放ち始めました。
しかしこの幸せな口内とは引き換えに目の前の空気はピリついています。
間違いなく、その空気の発信源は目の前の王塚真唯というそれなのです。
困ってしまいました。
武力による積極防衛しか勝ち目が見つかりません。
ということで一旦脳をリセットし、平和モードへ強制移行。
「あは、ありがとうございます」
これで逃げられます。
購買に寄って時間を稼いで、後はさっきの発言が取るに足りない譫言ということになれば私の勝利に違いありません。
れな子ちゃんとのご飯は後ほど考えましょう。
あれもまた紛れもなく本心なのです。
「では私もご一緒しようか」
王塚真唯が王塚真唯しています。
目が笑っていません。
顔が良いな、とも思いますが、考えてみると私も充分に顔が良いのでそこで敗北感はありません。
張り詰めています。
空気が張り詰めています。
東西冷戦を圧縮するとこんな感じなのかな、なんて思います。
どっちが東でどっちが西なんでしょうか。
彼女はおもむろに席を立ちました。
案の定真唯ちゃんはテンポも足幅も私を完全に真似て、等間隔が保たれています。
そして踊り場の影。
誰もいません。
誰から見えません。
それに気づくと同時、早押しのようでした。
私が僅かに制したようです。
「はい。「君はれな子のことが好きなのか?」、答えは「はい」です」
答えると、真唯ちゃんは少し驚いたような顔をしました。
普段の私が意思表示をすることはあんまりありません。
会話が苦手なので。
これが陰キャというやつなのでしょうか。
分かりませんが、真唯さんは少し言葉を詰まらせました。
「それは、「恋人」として、か?」
「分かりません」
素直に答えました。
私は食べるのが好きです。
美味しいものを、沢山食べるのが好きです。
四六時中、少なくとも起きている時は常に何かを食べている自信があります。
授業中も堂々と菓子パンを食べますし、放課後は常に何らかを飼い食いしている自負があります。
「スパダリ」やら「大天使」が市民権を得る中で「ブラックホール」と呼ばれています。
その上で、れな子ちゃんと食べるご飯が美味しいのだと答えました。
少し考えた後、少し雰囲気の緩んだ真唯ちゃんは口を開きました。
「……なら、やはり私達は相容れないようだね」
「私は好きですよ。真唯ちゃんと食べるご飯も」
「光栄だ。それと、君はもう少し口数を増やしたほうが良い。君が思っているほどつまらない会話じゃないとも」
「つまらないとは思っていません。苦手なだけです」
「ふふっ、案外強気か。それも悪くない。だが……最後にれな子を手にするのは私だ」
「食の恨みは、怖いですよ」
もちろん、この時は考えてもいませんでした。
この感情を恋と呼ぶことも、この争奪戦にまだまだ沢山のライバルがいることも。
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