ほら、私が恋愛感情とか理解できるわけないじゃないですか 作:えれくとろきゅーしょにすと
れな子ちゃんへの、まあ、その、実質的な告白かプロポーズから数日。
あ、ついでに真唯ちゃんとの宣戦布告的なそれからも数日。
れな子ちゃんと食べるご飯はもっと美味しくなって、それだけでもあれを失言と後悔しない、それどころかお釣りをもらってしまったほど。
これ以上は危険かもしれません、1人でのご飯がつまらなくなってしまいます……なんて理性で止まれる類の私だったらまだ良かったのかもしれませんが、生憎この御神楽 六華、やりたいことしかやらない人生を送っています。
この道が私の征く道でしょう。
けれども、それはそれとして面倒な人を相手にしてしまいました。
紫陽花ちゃんも……いずれ強敵になりそうではありますが、今はそれ以上の優先事項。
そう、みんな大好き王塚真唯です。
恋敵?らしき真唯ちゃんはお母さんは世界的なデザイナーで本人もプロのモデル、慕う生徒も甘たという学園のトップスター。
文武両道、才色兼備、完璧超人、スパダリ……彼女についての評判はすこぶるよく、おそらくどの生徒に聞いてみても良い言葉しか返ってこないでしょう。
有史において唐揚げ以来のアベレージです。
ところで唐揚げってニンニク醤油での味付けが至高だと思うのですが、たまに塩からあげって食べたくなりますよね。
あおさ、海苔なんかを振りかければ立派な強豪主菜の爆誕です。
……あっ、一旦思考を戻しましょう。
ですが勝てない相手とは思いません。
考えてみればいくつか私が勝てそうなものも思いつきます。
彼女のファンダムである香穂ちゃんの恨みは多少なりとも買ってしまうかもしれませんが、まあどうにかなると思います。
どうにかなってください。
「それ若者特有の無根拠な自信じゃないですか?」などとのたまう思考回路には脳の適当な、言語野辺りとレスバをさせておくことにしました。
勝ってくださいね、言語野。
「……お会計6,708円です」
「QRでお願いします」
通学路のコンビニで早弁用の惣菜パン、40個前後を買い占めていざ学校へ。
2ヶ月ほど続けていれば流石に店側も慣れてくれたのか、最近は仕入れが多くなってきた感じがあります。
ありがたいですね、人間の学習能力というものは。
最初は「この人美人ですね……」って感じだったバイトの方の目つきが次第に化け物を見る目に変わっていったのにもちゃんと意味がありました。
ちなみにそのうち4つか、5つほどは片道5分弱の道のりで消えてしまいます。
まあ、これくらいは普通でしょう。
朝ご飯はいっぱい食べないと元気が出ないそうですし。
そうしていつものように4つ目を、今日はホイップクリームあんぱんを頬張っている辺りで丁度見えてくる高校の正門。
これまた慣れた人だかりが1人の人物を中心に作られていました。
何を隠そう、例の真唯ちゃんです。
「あ、真唯様!」
「真唯様おはようございます!」
「みんなおはよう。今日も1日頑張ろうか」
「ああ、なんてお美しいのかしら……」
「まるでルネサンスの象徴だよ……」
「モナリザの擬人化……」
相変わらずの大人気ですね。
公式のものとは別に校内ファンクラブも出来たそうです。
「モナリザは人では?」なんて考えつつも、私はああいったノリは得意ではありません。
ホイップあんぱんを飲み込み、いつも通りに教室行って、今日はれな子ちゃんを晩ご飯にお誘い……
「……」
「……!」
「……、……!!」
反省します。
いえ、猛省しましょう。
猛省という言葉を人生で初めて使います。
舐めていました。
侮っていたのです。
王塚真唯という人間の強かさを。
別に望ましいことではありませんが、遠巻きに真唯ちゃんと目が合った時、互いに何を考えているのか悟ってしまいました。
「失礼、少しだけ急ぎの用事があったんだ」
取り巻きたちにそう告げて自然発生した集会を切り上げると、いつもよりも明らかに早い足取りで下駄箱へと向かう真唯ちゃん。
1、2クラス程度の人数はある取り巻きもそれにつられて校舎の方へと大移動していきます。
こうなると履き替えの大混雑は必至、ここから教室までの道のりで、現在50mほどある私と真唯ちゃんの距離を詰めようにも人混みに邪魔されて上手くはいかないでしょう。
そう。
真唯ちゃんは私よりも早く放課後の予定を入れることで今日のれな子ちゃんを独り占めしようとしているのです。
独占欲が強いタイプは嫌われますよ……なんて言ってみますが、それはそれとして許せません。
たとえ友人であってもそのような暴挙は認めません。
ましてや取り巻きまで有効活用するとは……私にはできないことをしてきます。
ですが私の美味しいご飯は譲れません、そのためにはもう手段は選んでいられません。
私はパンパンになったレジ袋の口を結び、小さく息を吸いながら校舎を見上げました。
教室は……あ、あそこですね。
「……っ、と」
そして5秒も数えない内に、私は真唯ちゃんを出し抜いて教室へと到達しました。
窓際の席にカバンとレジ袋を置き、辺りを見回すとトイレか何かから戻ってきたばかりのれな子ちゃんが教室の入口に。
好都合。
とっても好都合です。
私は急いで駆け寄り、彼女に声を掛けました。
「おはようございます、れな子ちゃん」
「あっ、六華さん! おはよう!」
「早速なんですが、今夜って空いてますか? 良かったら晩ご飯など、ご一緒に」
「うん、全然OK!」
よし、勝ちました。
心のガッツポーズが止まりません。
見事ミッションコンプリートして席に戻ろうとしたところで、少し遅れた真唯ちゃんが教室に入ってきました。
走ってはいません。
実際、私が廊下を行っていれば今の彼女のような余裕あふれる早歩きでも充分セーフティリードだったのでしょう。
ですがその得意気な表情は私を視界に捉えた瞬間、珍しいほどに固まりました。
「……!?」
「あは。おはようございます、真唯ちゃん」
「……、……っ、なるほど、“窓”か……!!」
気付いた瞬間、とっても綺麗なお顔が僅かに崩れました。
いえ、崩れても綺麗なのですが、つまりはそういうことです。
身長や食欲、私が真唯ちゃんに勝っているものはいくつか思いつきますが、その内の一つが『運動神経』。
いくら彼女が文武両道と言えど、たくさんご飯をたべる私には敵いません。
「校舎の壁を駆け上がって三階の教室に窓から入る」、流石にそれを可能とするのは私だけ。
お互い手の内は隠していましたが、今日は私の勝ちです。
あの王塚真唯の悔しそうな顔、少し唆るものがあるかもしれません。
私はちょっとだけドヤ顔を作りながらポケットの中のどら焼きを開け、今夜は何を作りましょうか、なんて考えていました。
120円のどら焼きは、勝利の味とれな子ちゃんと一緒という圧倒的な補正が混ざりあって、至上の一品として私の味覚中枢を埋め尽くしたのです。
「……あの、六華さん、スニーカーのままだよ……?」
「あっ」
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