ハイスクールD×D ~ネメアの獅子と挑戦者 獅子王の英雄譚~   作:sho_greenhouse

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第1話、どうぞ


第1話 砕かれる日常

「よう、カズキ。今日は俺の方が早かったな」

 

 朝、いつものようにレグルスに起こされ、父さんと母さんにあいさつする

 そう。そこまではいつもの朝だ。だが、今日は違った

 なんということだろうか、イッセーが俺よりも先に起きて、朝食を食べていた

 牛乳の入ったコップを片手にドヤ顔を向けてくる始末、相当誇らしいのだろう

 

「別に競ってねえだろうが。いつもより早起きしただけで何言ってんだよ」

「ふっ、甘いな。カズキ、見て分からないか? このオーラを」

 

(まさか、イッセーのヤツっ!?)

 

 一瞬、神器を発現したのかと疑った。だが――

 

「……何も感じねえぞ?」

 

 そう。何も感じなかった

 どこからどう見ても、いつもの兵藤一誠だった

 

「ま、まあ、そうだよな。そんなすぐには変わんないよな、あはは」

 

(どうしたんだ、コイツ?)

 

「今日も行くんだろ、ランニング。俺も付き合うぜ」

「それは、別に構わねえけど……」

「よっしゃ! それでこそ兄弟だよなっ」

 

 そう言って、俺の肩に腕をかけてくるイッセー

 

(ドヤ顔したり、哀愁漂わせたり、いったい何があったのやら……)

 

 

 

***

 

 

 

「は? 彼女ができただぁ? マジでかっ!?」

「そう、その反応! だよな! 驚くよな!」

「驚くも何も、いつの間に……」

 

 イッセーのペースに合わせた軽めのランニングの道中、休憩で寄った公園でそんなことを打ち明けられた

 なんでも、昨日の学校帰りの道中、別の学校の生徒に告白されたそうだ

 曰く、相当の美少女だそうで、当然のごとく即決したそうだ

 

「それで、こんならしくない真似してきたわけか」

「『らしくない』は余計だっての……」

 

 口をとがらせ、拗ねるイッセー。気持ちは分からんでもない

 

(ふっ、まったくコイツは)

 

「ま、良いんじゃねえか。見てる子もいるってことだ。大事にしろよ?」

「ああ! お前も早く彼女作れよ!」

「余計なお世話だっての」

 

 こんな他愛もない会話がこの先も続くと、そう思っていた

 少なくとも、この時点では密かにだが確かにイッセーを祝福する俺がいた

 実際に目にするまでは――

 

 

 

***

 

 

 

「紹介するぜ、『天野夕麻』ちゃん。俺の、彼女だ」

「はじめまして、天野夕麻です」

 

 朝の駒王学園前、俺は初カノこと夕麻ちゃんをカズキと松田、元浜の三人に紹介していた

 俺の言葉を聞いて、悪友コンビは信じられないように絶叫する

 カズキの方は信じられないものを見るような目で俺と夕麻ちゃんを見ていた

 多分だけど、緊張してるんだろう

 

(夕麻ちゃん、かわいいもんな)

 

 俺はそんな呑気なことを考えていた。カズキがどんな気持ちでいたかも知らずに

 

「ねえ、イッセーくん。私にも紹介してよ」

「ああ。坊主頭が松田、メガネが元浜。で、コイツが俺の親友で兄弟のカズキだよ」

「え? 親友で、兄弟なの?」

「ああ、血は繋がってないんだ。同じ場所で育った友達って言ったほうが近いのかな」

「ふうん、そうなんだ」

 

 そう言って、カズキへ顔を向ける夕麻ちゃん

 

「はじめまして、カズキくん。お兄さんって呼べば良いのかな?」

 

(お、お義兄さんっ!? そっか、もし俺と夕麻ちゃんが付き合い続けたら、そういうことになるのか! は! 夕麻ちゃんは、もうそこまで!)

 

 俺が内心でそんな場違いなことを考えていたら、周囲が騒がしくなった

 何かと思って目を配れば、とある有名人が登校してきたようだった

 

(あれは……同じクラスの『黒神星羅』さんか! 相変わらず、大人気だな)

 

 ――黒神星羅

 この駒王学園で大きな人気を占める女子生徒の一人

 綺麗な黒髪の美少女で、容姿端麗に文武両道、おまけに人格者と非の打ち所がない我がクラスのリーダー的存在だ

 

(同じクラスになったときはテンション上がったなぁ……)

 

「それじゃあ、私はこれで! じゃあね、イッセーくん! カズマくんもまた放課後ね!」

 

(え? それって、いったい!?)

 

 振り向いたときにはすでに夕麻ちゃんは走り去っていた

 

「お、おい、カズキ! お前、夕麻ちゃんと何を約束したっ!?」

「ん? 別に大したことじゃねえよ。ただ、兄貴として、ちょっと話をしたくてな」

「そ、そうか? なら、仕方ないのか……?」

 

 この時のカズキがどんな思いでいたのか、それを後で思い知ることになる

 

 

 

***

 

 

 

 放課後、俺は天野夕麻と名乗っている女と二人で歩いていた

 イッセーには、家族として話がしたいと口実を付けて、先に帰ってもらった

 事の次第では、嫌なものを見せることになりかねないからな

 そうして俺たちは終始無言の中、人気のない公園までたどり着く

 

(よし、これだけ開けた空間なら大抵のことは対処できるな)

 

 立ち止まった俺に倣うように女も立ち止まった

 俺たちの間にはある程度の距離があった。それはまるで心の距離を暗示しているかのようだった

 

「いくつか聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「いいですよ? でも、イッセーくんを外して二人きりで話したいなんて何のようですか? もしかして、カズキくん、イッセーくんから私を奪おうとか? やだ、困っちゃうなあ」

「……っ」

 

 俯く俺は、きっとろくな表情をしていないだろう

 内心、腸が煮えくり返っていた

 たぶんだが、俺が疑念を抱いたように、この女も感づいているはずだ

 でなきゃ、こんな絶妙な言葉は出てこない

 

「正直に答えてくれ。アイツとは、好きで付き合ってるのか?」

「なあんだ、そんなことか。分かりきったこと、聞かないでくださいよ~」

「答えろよ、クソ人外女」

「そんなわけないでしょう? 粋がるなよ、下等生物が」

 

 オブラートに包まずに言い放つ俺に対して、女も本音を吐き出してきた

 

「そうかよ。やっぱり、そういうことだったんだな」

「ええ、そうよ。私は、あんな男と恋人ごっこするために来たんじゃないわ」

 

 直後、女の背中から黒い翼が生えた

 

「あの害虫を殺処分しにやってきたのよ」

「てめぇ、それが本性か」

「お互い様でしょう? 今朝のあなた、私を見た時のあの表情、見ものだったわ」

「……」

 

(この女が堕天使だとするなら、なるほど。道理で落ちるわけだな)

 

「でも、それ以上に弟くんの方が傑作よね。私のことを疑いもしないんだもの」

「……」

 

 黙る俺をよそに女は口々にイッセーに関する罵詈雑言を言い放つ

 女の言葉は、言い様によっては事実とも捉えられるのかもしれない

 

(確かにスケベで素行が悪い。そのくせして女を疑わないバカだ。だけど――)

 

 脳裏に今朝のイッセーとの時間が思い浮かんでくる

 

「黙れよ、堕天使」

「――っ」

「確かに女ウケは悪いだろうな。けどよ、あんなヤツでも俺にとっては、家族で弟で、何より親友だ。てめぇみたいな糞女にはもったいない男なんだよ」

「なっ!? ~~っ!」

 

 俺の言葉に女は顔色を変えて殺意をむき出しにする

 といっても、この程度の殺気じゃあ俺は怖気づかないが

 

(さてと、どうにかして顔面に一発食らわせたいが、どうすっかな)

 

 そんなことを考えていると、女は顔色を戻した

 

(ん、どうしたんだ?)

 

 続けて女が口にしたのは意外な言葉だった

 

「ねえ、そんなに弟くんが大事なら取引しない?」

「取引だぁ? 何が狙いだ」

「シンプルなことよ。あなたが来てくれるなら、あのガキを見逃してあげる」

「? どういう風の吹き回しだ」

 

 意図が読めずに会話を続ける俺をよそに女は説明を続ける

 

「別に大したことではないわ。もともと、私が受けた命令では神器の有無の可能性を調査するところまで。殺害までは命じられてないもの」

「殺すつもりでいたんじゃねえのかよ」

「疑わしきは、というやつよ。だけど、状況が変わったわ。あなたのせいでね」

「……」

 

 女の言葉が事実なら筋は通る。だが、どこか疑わしいものが感じられた

 

「何を根拠に信じろと?」

「あなたの自由よ。けど、あなたも私を監視できるわ。これ以上のメリットはなくて?」

「!」

 

 確かな事実だった。本気で殺すならやり方はいくらでもある

 だが、ここで俺が取引に応じれば、まだ交渉の余地もある

 

(この場を退けられたとして、その後はどうする? この女の背景にどれだけの連中が隠れているかも分からねえ)

 

 判断するための前提知識が俺には足りていなかった。だから、選択を間違えた

 

「わかった。その代わり、あの家族に手は出すな」

「そうね。偉大なるアザゼルさまは慈悲深いわ。そのくらいなら考えてくれるんじゃないかしら」

「なら、俺が直接頼む。俺の神器は神滅具の一つだからな、見せるだけの価値はあると思うぜ」

「あら、嬉しい誤算だわ。アザゼルさまは神器に造詣が深いと聞くし、会ってくれる可能性はあるわね」

「……」

 

(ああ、くそ。こうなるんなら登下校くらい一緒にしてればよかったぜ)

 

 そんなことを思いながら、女へと歩み寄ろうとした瞬間だった

 この場で聞いてはならない声が聞こえた

 

「ダメだ! カズキ、行くなっ!」

「――!?」

 

 イッセーの声だった

 周囲を見渡すと、少し離れたところにイッセーの姿があった

 

「イッセー!? お前、何で!」

「上だ、カズキっ!」

「はっ!?」

 

 見上げると女が光の槍を両手に飛んでいた

 

「二人まとめて殺してあげるわ! 死になさい」

 

 俺は何も考えずにイッセーの方へ駆けた

 

(く、間に合えっ!)

 

 

 

***

 

 

 

 分からないことの連続だった

 放課後、カズキが夕麻ちゃんと二人だけで話をすると聞いた

 家族として話すなんて言うものだから黙って行かせた

 けど、なんか嫌な予感がした

 カズキのことだから悪いことはしないとは思ったんだけど、このままだと取り返しのつかないことになる気がした

 だから、後から追いかけた

 幸いなことに二人の姿はちゃんと見つけられた

 けど、そこにはおかしな光景が広がっていた

 人気のない公園で言いようのない雰囲気で対峙していた二人

 カズキは見たことない怒りの形相をしており、夕麻ちゃんに至っては黒い翼が生えていた

 そこから聞こえたのは信じられない、信じたくない会話だった

 夕麻ちゃんは俺のことなんて、これっぽっちも好いてないことが分かるような罵詈雑言を述べた

 正直、聞きたくなかった。耳をふさぎたかった。逃げ出したかった

 カズキも否定はしなかった

 なのに、怒ってくれた。こんな俺なんかのために

 そこからは俺には理解できない会話だった

 けど、一つだけ確かなことがあった

 このまま黙って見ていたら、アイツはどこか遠くに行ってしまう。二度と会えないかもしれない

 そう考えたら言わずにはいられなかった

 その直後、夕麻ちゃんが空に飛び上がったと思ったら、光の槍みたいなものを俺たちに向けて放ってきた

 俺は動けなかった。怪我はしていない。カズキが突き飛ばしてくれたから

 だけど――

 

「カズキっ、おまえ脚が!」

「っ、大丈夫だっての。平気だ。それよかお前は?」

 

(人の心配してる場合じゃねえだろ! コイツは……)

 

 口では平気だと言うが、俺にはそうは見えなかった

 カズキの片脚からは血溜まりができるほどの血が流れていた

 倒れているカズキを抱えることしか俺にはできなかった

 

「あらやだ、こんな初歩的な罠に引っかかるなんてねえ」

 

 夕麻ちゃんは俺たち兄弟を冷たく見下ろす

 俺はそれを睨むことでしか反抗できない

 

「やだ、ひどい。イッセーくん、彼女にそんな目を向けるなんて」

「……人を騙しておいて、よく言うぜ」

「よく言うじゃない、騙される方が悪いって」

「……っ」

 

 その通りなのかもしれない。少なくとも、俺が騙されなければ、カズキを巻き込まずに済んだかもしれない

 けど、カズキはそこに待ったをかける

 

「ほざけよ、糞女。そんなんだから堕ちるんだよ」

「フン、よくもまあ言えたものね。心配しなくても二人まとめてあの世へ送ってやるわ。感謝なさい」

「へっ、そいつはどうだろうな。やれるもんならやってみな、コイツをどうにかできるならな!」

 

 瞬間、カズキの体から目が眩むような閃光が放たれる

 

「な、何!? なんなの、このオーラは! この波動、上級クラス? いえ、それ以上!?」

 

 さっきまでとは打って変わって狼狽える夕麻ちゃん

 俺も何がなんだか分からない

 

「お、おい、カズキ。大丈夫か、どうなってんだよこれ」

「心配すんな、イッセー。俺たちには心強い味方がいる」

「え? 味方って!?」

 

 なおも光は輝きを増す

 そしてカズキは力強く呼びかける

 

「悪いがまた助けてくれよ。来い! レグルス!」

 

 直後、黄金の輝きから何かが現れて、雄叫びを上げた

 瞬間、夕麻ちゃんが吹き飛ばされる

 悲鳴が聞こえた気もするが、俺は目の前に現れたソレに完全に気を取られていた

 光り輝くような黄金の体毛、巨大な体躯、鋭い牙と爪を兼ね備えた、どこかの神話にでも出てきそうな威光を放つ百獣の王が現れたのだった

 それを人々は、呼ぶのだそうだ

 ――ネメアの獅子、と




個人的にはちょうどいい引きだったと自負しています笑
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