長生き狐のおいなりコンちゃん   作:照喜名 是空

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世界交錯編
既知との遭遇


 ダンジョンができた時、わしはコタツでみかん食うとった。

 

「おう、大きいのう。震度三くらいかのう」

「四か五はありますよ!避難しないんですか!?」

 

 これはひより。

 氏神たるわしの世話をする神主の家系の……まあ、マネージャーじゃ。

 わしは昨今ちまたで流行りのお稲荷妖狐というやつじゃからの。

 神社で神様やってるだけで世間がほっとかんのじゃよ。ほほほ。

 

「髪の毛を変化でヘルメットにした。まあ少々のモノが落ちてきてもこれで怪我せんじゃろ」

「それはそうですけど!」

 

 まあ、ひよりには座布団でも渡しておくか。

 

「おっ、止ったのう」

「あっ、緊急ニュース出ましたね。震度は四ですけど……範囲おかしいですねこれ!?」

「世界中じゃのう。ブラジルまで揺れてるらしいのじゃ」

 

 うーむ、地震速報のこの昔ながらの書体は見てて落ち着くのう。

 

「どうしましょうね」

「どうするもこうするもこの程度で日本はどこも被害はないじゃろ。そうじゃのー、とりま海外の知り合いに義援金として何万か包んでおくのじゃ」

 

 えーと年賀状のファイルはどこにやったかの。

 

「年賀状探してるんですか?今ならメールでお金も送れますからやっておきますよ」

「おー、便利じゃのう。任せるのじゃ。わしの口座から引き落としておいておくれ」

 

 まあ……数百年生きればもう建物が崩れん地震とか何の感慨もない。

 耐震基準は日本基準のがもう輸出されとるからの。まあ心配ないじゃろ。

 みかんも柿ピーも食うてお腹がくちくなった故もう寝るのじゃ。

 

「あっ!ダメですよまたコタツで寝て!熟睡する前に布団へ行きましょうね!」

「おー、引っ張り出してくれて助かるのじゃあ。楽じゃのー」

 

 うーむ、ひよりはわしを甘やかしすぎではないかのう?

 まあもう寝るから面倒なことは明日考えようではないか。

 

 ■

 

「なんか……洞窟できてますね。こんなのありましたっけ?戦時中の防空壕とかですかね?」

「いや、防空壕はあったがこの位置じゃないのう。わし平成ごろにがんばって埋め戻したもの」

 

 わしの神社の鎮守の森にでかい穴ができとるのじゃ……

 人三人分くらいは入れそうじゃの。おまけに何か壁がレンガ造りじゃ。

 こんな地下室とか作ったかの~?

 おそらくは昨日の地震で入り口が出てきたんじゃろうが。

 

「でも人工物ですよねこれ?」

「うーむ……あっ、いかんこれあれじゃよ。妖し筋じゃよ」

 

 妖し筋というのはいわば異界じゃな。

 壁をすり抜けて遠くへワープできたりするああいうのじゃ。

 

「こんな所にありましたっけ?あれって案外国土交通省が入り口をキッチリしてるイメージでしたけど」

「ちゃんと入り口はキッチリしとるぞ。いやーでものう、これはのー……昨日の地震じゃな。たまにああいうので道順が崩れたりするのじゃ」

 

 そこでわしはもう胃が酸っぱくなった。

 これ世界規模で交通インフラがおかしくなっとらんかの?

 ひよりも顔を青くしとる。気づいたようじゃの。

 

「これ……じゃあ世界規模で交通インフラがおかしなところにつながるようになっちゃってません?もうほぼこれはバックルームスですよ!」

「妖し筋は荒れると八番出口みたいになるからのう。入らんほうがええのう」

「どうするんですかこれ?コン様の家の問題ですよ」

 

 うむ、わしの名前は稲荷コンじゃからの。

 日本の妖狐で一万人くらいいる名前じゃ。

 なにしろ明治維新の時に皆して苗字を稲荷にしてもうたからのー。

 

「我が社にできてしまうとはのー……よし!トタンでふさいでコンクリブロックで重しするのじゃ!あったじゃろ倉庫に使っておらん建材が!」

「ええ……?そんなのでいいんですか?妖し筋の野性怪異とかそのくらいぶち破ってきません?」

 

 わしらそう言いながら倉庫に向かって歩き、埃っぽい中でトタンを出しておる。

 軽いからよいがめんどくさいのー。

 

「まあパワーで言えば熊くらいあるのが普通じゃからな。じゃがこういうのは目隠しして入れません、というテイが大事なんじゃよ。人間だってカラーコーンとしましまバーで工事現場に入らんじゃろ?」

「そういうものなんですか!?」

「そういうものじゃよ。注意をそらせればそれでええんじゃよ」

 

 やれやれ……とりあえず塞げたのう。

 

「まあ後は軽くひよりが封印とかお祓いとかしとけば、まあよほど悪質なのじゃない限り向こうも気にも留めんじゃろう」

「よほど悪質な場合は!?」

「まあ……わしがこうする」

 

 わしは倉庫の中から金属バットを取り出してブンブン振った。

 わしとて多少の荒事の心得はあるんじゃよ!

 江戸時代とか九〇年代のヤンキー全盛期とかの!

 

「いやー血がたぎるわい」

「コン様が意外に運動神経あるのは知っていますけどやめましょうねそういうのは」

「いやまあ仕方ないじゃろ!?わしの縄張りである程度自衛するのは住民を守る義務じゃもの!」

 

 だいたいどこの神社でもこの手の怪異から街を守る許可が何百年も前からやんわり出てるんじゃよ。

 わしの紺野稲荷神社も元をたどれば京都の伏見稲荷から自治と自衛の免状をもらっているんじゃもの。

 

「まあ……それはそうですけど。本来はそういうのが出たら役所に電話して猟友会ですからね?」

「じゃから今から見回りついでに役所に話をしにいくんじゃよ」

「電話でよくないですか?」

「いやーこういうのは手土産をまめに持っていくのがコツじゃよ」

「じゃあ菓子折り用意しておきますね。お歳暮のたびに食べきれないほど送られてきますからね」

 

 ひよりがさっさと手を洗って押し入れから菓子折りを出して渡してくれる。

 いや~楽じゃなー。これをスーパーカブの荷台の黒い箱に入れてじゃな。

 最近のヘルメットは獣耳仕様もあってええのう。

 

「じゃあちょっと行ってくるのじゃ」

「お昼までに帰ってきてくださいね」

「今日のお昼は何なのじゃ?」

「オムライスですよ」

「わーい」

 

 最初から三速にギアを入れてゆっくりカブを走らせる。

 一速発進が原則?そんなだるいことはせんのじゃ。

 もう二年くらい三速と四速しか使っておらん。

 巫女服が風にバタバタはためく。いや~秋風じゃなあ。

 バイクは心地いいのう。

 

 ■

 

 駅前の薬局で栄養ドリンクも箱で買って載せておくのじゃ。

 役所は今てんてこ舞いかもしれんからの。

 

「おー、ギン。元気しとるか?いやあ昨日の地震は大変だったのう」

「くっくっく……母上殿。それでいま私が徹夜で仕事をしているのが解らぬあなたではあるまい」

「うむ、そう思って菓子折りと栄養ドリンクを差し入れに来たのじゃよ」

「我々は今忙しいと言ってるのだがね……」

 

 この嫌味な半妖狐の男はギン。わしの長男じゃ。

 役所に勤めてもう長くての。まあ……長男ゆえ苦労人に育ててしもうた。

 じゃからたまに様子を見に行ってるんじゃよ。

 こやつなんでも背負いすぎるからの。

 

「うむ、それなんじゃがな。たぶんそっちでも通報入ってると思うんじゃが、わしの神社に妖し筋ができてしもうての。多分昨日の世界的地震でおかしなつながり方してしもうたんじゃろうが」

 

 ギンはハーッとため息をついて眉間を揉む。

 

「そちらにできた妖し筋は母上がご自由に対処していただいて結構です。怪異が暴れた場合も同様。後日連絡で構いません。そのあたりの加減は母上の方がよほど詳しいのでは?」

「まあのう。何か手伝えることがあればすぐに言うのじゃよ?」

「言われずとも必要になれば連絡します。ああ、手土産はありがとうございました。では私は次の仕事があるのでね」

「うむ、がんばるのじゃよ」

「母上もご息災で」

 

 うーむ、いい年した息子とのかかわりは難しいのじゃあ……

 とはいえ、ちゃんと連絡はしたので安心じゃな。

 とりあえず商店街や駅前、河原など一通り縄張りを見回る。

 うむ、穏やかでレトロでいい街なのじゃ……

 

「アカネ、元気にしとるかの?昨日の地震大丈夫じゃった?」

 

 我が一族はわりと駅前で細々した店やっとるからのー。

 だいたいスナックとかカラオケとかゲーセンとかじゃよ。

 

「だから今日は掃除で休店なのよ。まー私もモカも怪我はしてないから平気ですよ」

「うわー……手伝うのじゃよ?」

 

 うーわ、グラスが粉々なのじゃ。ああ、高い酒の瓶まで。もったいないのう。

 

「大丈夫大丈夫、今週中に業者入れてさっと掃除しちゃうから」

 

 これが三女じゃよ。孫のモカももう働いとる。時がたつのは早いのじゃあ……

 

「そういえばキン姉こないだまた来てたよ。はいこれお土産」

「イカシュウマイ……?相変わらず風来坊じゃのうあやつは」

 

 長男長女にはまあ苦労をかけたのう……わしも妖狐成りたてじゃったからな。

 そもそも人間という生き物の仕様がようわからんかったのじゃよ。

 旦那は気立てのいい男じゃったからこの子はその性質をうまく継いだんじゃろうね。

 

 ■

 

「コン様!やっぱあのバリケードはまずいですって!なんかミシミシ言ってますよ!」

 

 家に帰ったらまあひよりが困っておった。

 うむ、バリケードが破られそうじゃね。怪異かのう?

 

「コン様これゴブリンですよ!こんなゲームのゴブリンみたいなのいたんですね!?」

「いやまあ……海外にはこういう妖種もおるんじゃが……これはそういう問題ではないのう」

 

 わしはス~ッと息を吸ってバットを構えた。

 

「なんじゃオラーッ!きゃんゆーすぴーくじゃぱにーず!?げらうとひあ!げらうと!!」

 

 とりあえずわしも英検三級くらいは持ってるんじゃよ。こういう時はパッション英語じゃ。

 

「ギャギャ!?」

「なんじゃオラーッ!お稲荷舐めんなコラァーッ!帰れっつってるじゃろオラーッ!」

「ギャブ、ギャブブ!」

「そんな野生動物のふりしても無駄じゃぞオラーッ!お主ら普通に言語を解してる種族じゃろうが!お主らは獣じゃのうてただの盗人の類じゃあーッ!帰れコラーッ!ボコされたいんかオラッ!」

 

 まあ……死なない程度にバットでどついて後はもうコミュニケーションじゃよ。

 

「ギャーッ!ギャーッ!」

「オラ帰れっ!二度と来るなよ盗人どもが!次は骨をへし折るからの!」

 

 うむ、妖し筋をそのまま帰っていったな。よし。

 

「だ、大丈夫なんですかアレ!?」

「あの手のは下手にぶっ殺すよりもこちらは面倒くさいと思わせて生きて返したほうがええんじゃよ」

「でもどう見てもゴブリンでしたよ!?アレは獣ですよ!」

「獣がボロ布をはくわけなかろう。服を着る知性があるんじゃからあれは言語が違うだけじゃよ」

 

 普通に腰布つけとったのをわしは見逃しておらんぞ!

 ありゃ単に文明に触れずに教育されなかったらそうなるってだけじゃろうな。

 たぶん現地の言語を解するだけの知能は普通にある。

 普通にあるのでわしは容赦せんぞ!

 

「あー……まああれは確かに服ですね」

「じゃから奴らは獣じゃなく犯罪者の類なんじゃよ。奴らの獣のフリにつきあってはいかん」

 

 いやー久々のバット捌きはいい運動になったのう。

 

「フリですか……それにしてもどうしましょうねこの穴……」

「今度はとりあえずベニヤと木材で釘打っておくのじゃよ!……ん?」

「あれっ、今どこかでファイナルファンタジーの音しませんでした?」

「わしにはドラクエの音に聞こえたのう」

 

 なんか……ファンファーレがどこかで鳴ったと思ったら脳裏に妙にリアルにステータス表が出てきよる!

 

『おめでとう!いなり こん はレベル38になりました!』

『ステータス たいりょくC ちからD ぼうぎょ E すばやさ B です』

『スキル きつねびD へんげS ふじゅつD ようじゅつE おさいほうA うんてんB おりょうりC』

 

 おおう、ひよりもなんかそんな感じじゃな。

 

「コン様これ現代ダンジョンですよ!」

「は~……またおかしなことが始まったのう」

 

 世の中いつもこんな感じじゃよ!

 だいたいいつもいきなり変な事が起きるんじゃよ!

 

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