獣神官ゼロスに転生した元とうらぶプレイヤーですが、なぜか三日月宗近が落ちてきました【第一章】   作:半熟ハラミ丼

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第二十話 玉座の間

 城の中は、しんと静まり返っていた。

 外の街の賑わいが嘘みたいだった。磨き上げられた白い床に、あたしたちの足音だけが響く。誰も出てこない。罠もない。まるで、どうぞ奥までお入りくださいって言われてるみたいだった。

 実際、そうなんだろう。

 いくつもの回廊を抜けて、最後の大扉を押し開けた。

 広い広間だった。

 天井が、見上げるほど高い。その一番奥、何段もの階の上に、玉座があった。

 子供が、座っていた。

 足をぶらぶらさせて、頬杖をついて。カタートで道案内をしてくれた、あの子供が。

「やあ。いらっしゃい、リナ=インバース」

 冥王フィブリゾが、にっこりと笑った。

「待ってたよ」

 その頭上を見て、あたしは息を呑んだ。

 玉座の真上。天井から吊り下がるようにして、巨大な水晶が浮かんでいた。透き通った結晶の中に、誰かが閉じ込められている。

 金色の長い髪。見慣れた鎧。目を閉じて、眠っているみたいに動かない。

「ガウリイ!!」

 叫んだ。叫ばずにはいられなかった。

 返事は、なかった。

「大丈夫、生きてるよ。今のところはね」

 フィブリゾは、楽しそうに水晶を見上げた。

「それより、どうだった? サイラーグの街。きれいに直したでしょ。住んでた人たちも、みーんな元通りにしてあげたんだ」

 あたしの中で、何かがぷつんと切れた。

「……ふざけるんじゃないわよ」

「ん?」

「死んだ人を無理やり起こして、笑わせて、泣かせて! あれのどこが元通りよ!」

「人の命を、魂を、何だと思っているんですか!」

 アメリアが、拳を握りしめて叫んだ。

「貴様……」

 ゼルが、剣を抜いた。

 三日月は、何も言わなかった。ただ、静かに太刀の柄に手をかけていた。

 フィブリゾは、あたしたちの顔を一人ずつ眺めた。

 それから、うっとりと目を細めた。

「ああ……いいね。すごくいい」

「は?」

「怒ってる。悔しがってる。悲しんでる。ねえ、知ってる? そういうの、ぼくたち魔族にとっては、すっごく美味しいんだよ」

 背筋が、ぞっとした。

 魔族は、人間の負の感情を糧にする。知識としては知ってた。でも、こうして目の前で、子供の顔をしたものにうっとりと言われると、吐き気がした。

 悪趣味にも、ほどがある。

 腹心の中でも一番性格が悪いって噂は、どうやら本当だったらしい。

「さて」

 フィブリゾが、ぱんと手を叩いた。

「本題に入ろうか。リナ=インバース。重破斬(ギガ・スレイブ)を撃つ気には、なってくれた?」

「お断りよ!!」

 答えと同時に、あたしは呪文を解き放っていた。

 

     *

 

「覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)!」

「「崩霊裂(ラ・ティルト)!!」」

 アメリアとゼルの声が、重なった。

 あたしの氷の嵐が、アメリアとゼルの炎が、一斉にフィブリゾへ襲いかかった。

 フィブリゾは、玉座から立ち上がりもしなかった。

 氷の嵐は、届く前に、霧みたいに消えた。

 二人の炎は、子供の指先で、ふっと吹き消された。蠟燭の火みたいに。

「うーん。やっぱり、こんなものか」

 フィブリゾが、退屈そうに呟いた。

 指先が、わずかに動いた。

 ゼルの体が、吹き飛んだ。広間の壁に叩きつけられて、そのまま床に落ちて動かなくなった。

「ゼルガディスさん!」

 駆け寄ろうとしたアメリアの前に、子供の姿がふっと現れた。

「君も、ちょっとうるさいね」

 軽く、額を小突いた。それだけだった。

 アメリアの体が、糸の切れた人形みたいに崩れ落ちた。

「アメリア!!」

 一撃だった。

 二人とも、たった一撃で。

 

     *

 

 三日月が、前に出た。

 太刀が、鞘走った。

 冴えた月の目が、まっすぐにフィブリゾを捉える。踏み込み。一閃。

 フィブリゾは、それを躱した。ふわりと宙に浮いて、太刀の届かない高さから三日月を見下ろした。

 その顔に、満面の笑みが浮かんでいた。

「待ってたよ、お兄さん」

 心底嬉しそうな声だった。

「君のこと、ずっと気になってたんだ。カタートの山道で、ぼくの正体に気づいてたよね? ちゃんと隠してたのに。すごいなあって思ってたんだ」

「……そうか」

「ねえ。異界の剣士が、どこまでできるのか。ぼくに見せてよ」

 フィブリゾが、指を鳴らした。

 闇の刃が、四方から三日月に襲いかかった。

 三日月は、それを受けた。太刀で弾き、身を捻って躱し、返す刃で一つを断ち割る。

「わあ、これも躱すんだ! すごいね!」

 フィブリゾが、子供みたいに手を叩いた。

「じゃあ、これは?」

 今度は、刃の形が変わった。細く、鋭く、針みたいに。数が増えた。速さが増した。

 三日月は、それも捌いた。けれど、さっきより余裕がない。袖が裂け、頬に赤い線が走った。

「これは? これはどう?」

 形を変えて。速さを変えて。数を変えて。

 フィブリゾは、完全に遊んでいた。新しい玩具の、壊れない限界を確かめるみたいに。

 あたしは、黙って見てなんかいられなかった。

「獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)!」

 隙を見て、横から叩き込んだ。

 フィブリゾは、こっちを見もしなかった。指一本動かさなかった。あたしの呪文は、フィブリゾの体に触れる前に、ただ消えた。

「邪魔しないでよ、リナ=インバース。今、いいところなんだから」

 頭の中で、数えた。ダイナスト・ブレス。ゼラス・ブリット。残った魔力で撃てるのは、せいぜい、あと三発。そのどれも、あの子供には、毛ほども届かない。

 届くとしたら、一つだけ。

 ――それだけは、撃たない。

 悔しかった。悔しくて、涙が出そうだった。

 三日月の傷が、増えていった。

 肩。脇腹。太腿。狩衣が、あちこち赤く染まっていく。息が上がっている。太刀を振る速さが、少しずつ鈍くなっていく。

「……あれ」

 フィブリゾが、首を傾げた。

「もう、終わり?」

 心底、がっかりしたような声だった。

「意外と、つまらなかったねえ」

 闇が、閃いた。

 三日月の右腕が、宙を舞った。

 太刀を握ったまま。肘から先が。

 赤いものが、噴き出した。

「三日月!!!」

 あたしは、叫んでいた。

 三日月は、倒れなかった。

 残った左手で、落ちた太刀を拾い上げた。歯を食いしばって、顔を真っ白にして、それでも、立っていた。

「へえ」

 フィブリゾが、目を丸くした。

「まだ立ってるんだ。すごいねえ」

 次の瞬間。

 左腕も、飛んだ。

 太刀が、床に落ちて、甲高い音を立てた。

 三日月の体が、ゆっくりと傾いた。

 そのまま、倒れ伏した。

「あーあ。倒れちゃった」

 フィブリゾが、ふわりと床に降り立った。三日月の傍らに、とことこと歩いていく。

「もう、駄目そうだね」

 子供の手のひらに、闇が集まっていく。

「じゃあね、お兄さん。楽しかったよ」

 ――やめて。

 声が、出なかった。

「バイバイ」

 闇が、振り下ろされた。

 

     *

 

 気がついたときには、僕は、そこにいた。

 三日月さんの前に。冥王様の、真正面に。

 杖を構えて、振り下ろされた闇を受け止めていた。

 重かった。ガーヴの剣よりも、ずっと。腕が、いや存在そのものが、軋みを上げる。それでも、退かなかった。退けなかった。

 闇が、霧散した。

 広間が、静まり返った。

「……ゼロス?」

 冥王様の声が、すぐ目の前で聞こえた。

 大きな目が、僕を見上げていた。笑っていなかった。

「何してるの?」

 ――何を、しているんだ。僕は。

 頭の中が、真っ白だった。

 精神世界から、ずっと見ていた。城に入ってからずっと。見ていることしかできないと分かっていて、それでも目を離せなかった。

 三日月さんの腕が飛んだとき、存在の芯が凍りついた。

 二本目が飛んだとき、何も考えられなくなった。

 そして、あの闇が振り下ろされたとき。

 体が、勝手に動いていた。

 折らせたくなかった。この人を。この刀を。ただ、それだけだった。

 予定にない行動だった。筋書きのどこにも書いていない。冥王様の命令にも、真っ向から背いている。

 どうしよう。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

「ねえ、ゼロス」

 冥王様の声が、一段低くなった。

「ぼくの邪魔をしたの? どうして?」

 考えろ。

 千年、上司の顔色を窺って生きてきたのだ。言い訳なら、得意なはずだ。

 考えろ。

「――お待ちください、冥王様」

 声は、震えなかった。千年の習慣のおかげだった。

「その剣士、ここで滅ぼすのは得策ではありません」

「どういうこと?」

「その方は、異界の神の端くれなんですよ」

 僕は、恭しく頭を下げたまま、言葉を継いだ。

「付喪神、という存在だそうです。末席とはいえ、神の名を持つもの。冥王様のご命令で、この旅の間ずっと調べてまいりました。この世界の理とは、まるで質の違う力を宿しています」

 冥王様は、黙って聞いていた。

「ここで滅ぼせば、その神気がどう弾けるか分かりません。そして間もなく、リナさんが重破斬を唱えるでしょう。異界の神気と、金色の魔王様の混沌。この二つがぶつかれば、何が起きるか、僕には予想がつきません」

 一拍、置いた。

「最悪、術そのものが不発に終わるかもしれませんよ」

 冥王様の目が、わずかに細くなった。

「千年お待ちになった機会を、異界の刀一振りのために棒に振るおつもりですか」

 沈黙が、落ちた。

 長い、長い沈黙だった。

 冥王様の大きな目が、僕を見つめていた。探るように。値踏みするように。

 気づかれただろうか。

 カタートの山道で、顔色を窺わないようにした。扉の前で、振り返らなかった。いつもの笑顔の下に、全部しまい込んだつもりだった。

 それを今、自分で、冥王様の目の前に放り出したのだ。

 あの人を庇った、という、ただ一つの動きで。

「それに」

 僕は、間を空けずに続けた。

「リナさんを動かすおつもりでしたら、この剣士より、ガウリイさんをお使いになる方が、ずっと効きますよ」

 言いながら、胸の奥が軋んだ。

「リナさんにとって、ガウリイさんは特別な方ですから。異界の剣士が一人倒れるより、相棒の命が懸かっている方が、ずっと早く決断なさるでしょう」

 言ってしまった。

 視界の端で、リナさんが、息を呑んだのが分かった。

 振り向かなくても、分かった。こちらを、見ている。信じられないものを見るような目で。――いや、違う。やっぱり、という目で。

 魔族は、所詮、魔族なのだと。

 ガウリイさんを、差し出したのだ。僕が。リナさんの、目の前で。

 ――ごめんなさい。

 喉元までせり上がってきた言葉を、飲み込んだ。今、それを口にすれば、全部が無駄になる。リナさんの方を、一度も見ないようにして、僕は、冥王様だけを見つめていた。

 冥王様は、しばらく黙っていた。

 やがて、ふっと笑った。

「……ふうん。確かにね」

 いつもの、無邪気な笑みだった。

「異界の神気、か。そういうの、ぼくもよく知らないや。何が起きるか分からないのは、ちょっと困るね」

 冥王様は、くるりと背を向けた。

「いいよ。その人は、放っておいてあげる。どうせ、もう動けないみたいだし」

 それから、肩越しに振り返った。

「ゼロスがそんなに仕事熱心だったなんて、知らなかったなあ」

 にっこりと笑って。

 その目が、僕から、床に倒れた三日月さんへ、ゆっくりと移った。それから、また僕へ戻ってきた。

 その目だけが、笑っていなかった。

「はい。恐れ入ります」

 僕は、深く頭を下げた。

 冥王様の足音が、リナさんの方へ遠ざかっていく。

 頭を上げられなかった。上げたら、顔に何か出てしまいそうだった。

 切り抜けた。

 切り抜けた、のだろうか。

 胸の奥で、まだ心臓のない場所が、早鐘を打っているような気がした。

 

     *

 

 リナさんには、悪いことをした。

 あの時の、息を呑む音が、耳の奥に、こびりついて離れなかった。

 千年、何度も、誰かを裏切ってきた。そのたびに向けられた目など、一つも覚えていない。覚えておく理由が、なかったから。

 なのに、今は。あの人の、たった一つの息の音が、こんなにも、重い。

 ガウリイさんを、差し出した。冥王様に、より効く脅し方を教えた。リナさんを、もっと追い詰める道を。

 迷わなかった。三日月さんを助けられるなら、と、ほんの一瞬も。

 長い年月で身についた、魔族のやり方だった。

 迷わなかったことが、今になって、怖かった。

 胸の底に、重いものが沈んでいった。

 罪悪感、というのだろう。千年、湧く場所すらなかったはずのものだった。

 ――もし、生き残れたら。

 この先の筋書きを、僕は知っている。ガウリイさんは、きっと戻ってくる。

 それでも、今、リナさんが味わっている恐怖は本物だ。

 もし、生き残れたら。リナさんたちに、何かしらの償いをしよう。何ができるかは分からないけれど。

 そう思いながら、僕は足元を見た。

 三日月さんが、倒れていた。

 両腕を失い、血の海の中で。それでも、まだ意識はあるようだった。

 三日月さんは、動こうとしていた。

 肩を揺すり、膝を引き寄せ、腕のない体で必死に起き上がろうとしていた。顔は真っ白で、唇からは血が滲んでいる。それでも、その目はまっすぐに、リナさんの方を見ていた。

 リナさんを、守ろうとしていたのだ。

 この体で。両腕を失ってなお。

 体は、少しも言うことを聞いていなかった。持ち上げかけた肩が、すぐに床に落ちる。それでも、また持ち上げようとする。何度も。何度も。

 僕は、それをただ見ていた。

 ――なんて、人なんだろう。

 高潔だと思った。偉大だと思った。

 利もなく、見返りもなく、ただ仲間のためだけに、壊れかけた体を動かそうとする。その姿は、どこまでも純粋だった。

 僕には、とても真似できない。

 千年、自分を守るためだけに流されてきた僕には。

 床に落ちていた太刀を、僕は拾い上げた。

 冥王様からは、ただ標本を回収したように見えるだろう。それでいい。少なくとも、これ以上、誰にも踏ませはしない。

 手入れをしたかった。今すぐにでも。けれど、冥王様の目がある。霊力など使えば、今度こそ気づかれる。

 歯がゆかった。

 けれど、もう少しだ。

 

     *

 

 冥王様が、玉座の前に立っていた。

 頭上の水晶を見上げ、それからリナさんを振り返る。

「さあ、リナ=インバース。もう一度聞くよ」

 水晶の中で、ガウリイさんの体が、かすかに軋んだように見えた。

「重破斬を撃つか。それとも、ガウリイ=ガブリエフが砕けるのを見るか」

 リナさんの顔が、蒼白になっていた。

 拳を握りしめ、唇を噛みしめ、震えていた。

 そろそろだ。

 筋書きが、進む。

 リナさんの唇が、動き始めた。

 低く、重く、長い詠唱が、広間に響き始める。空気が軋み、光が歪み、この世ならざるものの気配が、少しずつ満ちていく。

 僕は、三日月さんの傍らに膝をついた。

 冥王様は、リナさんに夢中だった。こちらを見ていない。今なら。

「三日月さん」

 小さな、小さな声で囁いた。冥王様には決して届かないほどの。

 三日月さんの目が、わずかに動いて、僕を捉えた。

「今は、僕を信じてくれませんか」

 三日月の浮かぶ瞳が、揺れた。

「これから起こることを、どうか。……大丈夫ですから」

 

     *

 

 大丈夫ですから、と。

 ゼロスは、そう言った。

 俺は、裂けた狩衣の袖を押さえたまま、その顔を見上げていた。いつもの笑みは、そこになかった。ひどく真剣な顔だった。

 分からなかった。

 この男が、何を考えているのか。

 冥王の前に飛び出してきたとき、俺は確かに思った。助けられたのだと。この男は、己の立場を危うくしてまで、俺を庇ったのだと。

 胸の奥が、熱くなった。同時に、ひやりとした。そんなことをすれば、この男の身が危ない。魔族の中で、主に背くということが何を意味するのか。俺にも、それくらいは分かった。

 だが、その後に続いた言葉は。

 リナを動かすなら、ガウリイを使う方が効く、と。

 なぜ、あんなことを言ったのか。

 俺を守るためなのは、分かる。冥王の目を、俺から逸らすためだ。だが、それでは、リナとガウリイが。

 動こうとした。

 リナを、守らねばならない。ガウリイを、助けねばならない。仲間が、目の前で追い詰められている。

 体は、動かなかった。

 腕がない。力が入らない。本体は、俺の手を離れている。肩を持ち上げようとするたびに、視界が白く霞んだ。

 歯がゆかった。

 これほど歯がゆい思いをしたのは、いつ以来だろう。

 そこへ、ゼロスが言ったのだ。

 今は、僕を信じてくれませんか、と。

 これから起こることを、どうか、と。

 何か、策があるのだ。

 そう気づいた。この男は、この先に起こることを知っている。少なくとも、知っているかのように振る舞っている。

 この男は、魔族だ。冥王の配下だ。今しがた、リナを追い詰める言葉を、冥王に囁いたばかりだ。

 それでも。

 昨夜、この男は、震える手で俺の手入れをした。千回でもやり直すような顔で。直った刃を見て、声を震わせて喜んでいた。

 今、この男の手には、俺の本体がある。

 それを握る手が、かすかに震えているのが見えた。

 あの言葉を口にした時の、この男の顔を、俺は見ていた。笑みを貼りつけたまま、ほんの一瞬、痛むように歪んだ口元を。

 好きで言ったのではない。

 それだけは、分かった。

 ならば。

 ――信じよう。

 俺は、ゼロスを見上げたまま、小さく、頷いた。

 声は、出さなかった。それで、十分だった。

 ゼロスの目が、わずかに見開かれた。それから、ひどく頼りない顔で、ほんの少しだけ、笑った。

 リナの詠唱が、広間を満たしていく。

 空気が、歪む。光が、軋む。何か途方もないものが、この場所へ降りてこようとしている。

 俺は、目を閉じなかった。

 何が起ころうとも。この男が信じろと言った、その先を、見届けるつもりだった。

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