一夜限りの仮面舞踏会。   作:@ペケ

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異変。

初華がクルマを注文し、祥子がフェアレディZで走り込みを重ねる日々の事であった。

 

「はあ、今日も始めますか」

 

なんとなく始めた、八幡海鈴の配信は海鈴らしい雰囲気の落ち着いたどこかラジオに近しい配信ではあったが、海鈴の新しい一面を解放したことから本人が思う以上にリスナーを生み出した。

 

熱狂的なファンも海鈴は多いことから、スーパーチャットも盛況を迎え、にゃむと顔を合わせるたび、配信について言及される事も珍しくはなくなっていた。

 

中でも、アメ車の魅力を語る海鈴の姿にファン層が拡大したのか、海鈴のアメリカ車語りに多くのコメントが飛び交うようになった。

 

ファンの性別比率が動いている。配信の傍ら、コメントを確認する海鈴から見てもそれは感じ取れた。

 

しかし、海鈴自身、このコーナーが、なんとなしに話し始めた事が迂闊ではあったが、アメリカ車を語る上で自身の乗るクルマの製作者、シボレーと、そしてシボレーが誇るアメ車の代名詞、コルベットについて、避けては通れない。

 

リスナーからのコメントによる要望も多く、可能な限り、自身がコルベットユーザーであることを悟られぬように、話した「つもり」だったが、海鈴はネットの特定力を少し、甘く見ていた事を数日後に思い知る。

 

数日後、海鈴の事務所宛てに段ボールが届き、検閲に引っ掛からなかったのか、その差し入れは海鈴へと届いた。

 

「ロイヤルパープル……」

 

高級オイルのボトルが、ファンからコルベットのオイル容量に近しい本数ーー。

 

6リッターあれば、確かに海鈴のコルベットのエンジンLS2に足りるくらいの量だ。わざわざ、ロイヤルパープルを送りつけてくるという事は、海鈴が日頃どんなクルマに乗っているか推測しての可能性を感じたーー。

 

スポーツ、レースグレードのロイヤルパープルを見ると、コレを送ってきたファンは恐らくそれなりに自動車に明るく、分量がジャストに近しい事から疑惑はさらに深まる。

 

海鈴は標準グレードのC6を選んだ理由に、もう一つ理由があり。

 

C6コルベットは幾つかのグレードがある。海鈴の乗る、ベースグレードの上に、グランスポーツ、Z06、ZR1とハイパフォーマンスモデルが存在する。

 

金銭的な理由も確かにあったのだが、ハイパフォーマンスグレードになるほど、台数が減り、匿名性が薄れるというのも理由だった。もっとも、輸入車なんてどう頑張っても目立つのだが、それでも限定車みたいなものを乗り回すよりかは、幾分かマシな気もしたことを覚えている。

 

「以前、お世話になったショップさんの差し入れだったら、素直に喜べるのですが……」

 

差し入れとしての金額で見たら、3万円クラスのありがたい差し入れではある。

 

しかし、海鈴のコルベットが割れて、芋づる式に首都高への暴走行為まで明るみに出てしまったらーー。

 

「……しばらく、首都高はお預け。かもしれないですね」

 

海鈴は思い出したかのように、以前のショップへ連絡を取ると。しばし、その場に座り込み、呆然としていた。

 

「……黄色は目立ちますからね」

 

リペイントの見積もり相場を調べ、うなだれる。ならば、黒のラッピングでは、と調べて見るものの、こちらもかなりの金額相場だ。

 

「何なんだよ……っ」

 

やっと見つけた貴重な居場所が、何か蝕まれているような気がして、冷静な海鈴が珍しく吐き捨てるように言葉を吐いた。

 

海鈴や祥子たちが首都高を走るようになり始めて、首都高自体にも少しずつ異変が現れ出してきた。

 

それは、海鈴が自粛を考えていた日の深夜帯。

 

帰りがけのC1アタックを始めようと、首都高のランプへクルマを走らせる祥子。

 

一周目は必ず感覚を確かめるように、そしてその日の交通の流れを掴むように、巡航速度での下見を習慣にするようになったからこそ、気付くことができたのだが。

 

「……おかしいですわ。スポーツカーのような車種がちらほら……」

 

少なくとも、隊列を組んで、数台に連なるスポーツカーの群れなど、祥子が首都高を走り出してからは珍しい光景であった。

 

フェアレディZの80km/h巡航の傍を、推定2倍以上の速度で抜き去っていく。祥子の目から見ても、手練れの走りに見受けられた。少なくとも、普段乗りのGS450hでは全く歯が立たないような走り。

 

「今日はC1は辞めましょう……」

 

C1を抜けるべく、江戸橋分岐を右方面、箱崎線へと折れていく。特に深く考えずに、湾岸線からレインボーブリッジを経由し、C1に再び合流して、最寄りのランプから帰路につく事にする。

 

しかし、何故だ。

 

下火になった首都高だからこそ、走っていたのに、見ず知らずの手練れが彷徨くようになりだした……?

 

何かを忘れたくて走っていたつもりなのに、現実はそうはいつもさせてくれない。祥子は色々なもどかしさに、唇を噛み締めるしかなかった。

 

「明日は、海鈴との仕事でしたわね……」

 

首都高から降り、帰路の最中で海鈴と顔を合わせる予定がある事を思い出し口にする。

 

海鈴に首都高の異変を伝え、あわよくば、情報収集を二人で敢行しなければ、と。

 

確かに、公道である以上。誰が走ることを止める権利はない。それでも、多くの人がまたうろつくようになられたら、首都高さえもリスクの上乗せでしかなくなる。

 

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