ライブ明けの、翌日。
まだ眠る祥子を置いて、初華は約束の場所へと向かうべくMR2へ乗り込む。
「久々にまなちゃんと会えるの楽しみだな」
以前から、初華はsumimi時代の相方、純田(すみた)まなの誘いで久方ぶりの二人の休日を過ごすために、約束していた集合場所へとクルマを走らせる。
連絡のやり取りで、まなになら気楽に話してもいいかなと思い、クルマを買ったことを報告するとまなは喜んでくれた上にドライブに行こう、という話になり、初華もそれを承諾した。
走りのことは少し置いておいて、自分の運転に誰かを乗せてみたかったのもあるし、このドライブが終わってから、メンテナンスに出すでもいいよね、と一人初華は納得したことを覚えている。
ういちゃんのクルマ、見てみたいな〜との返信に、初華は荷物は少なめでお願い、とやり取りした一幕もある。幸い、二人乗りだし、友人のような距離感の子と単にドライブすることもクルマがなければできなかったことだなあ、と。
集合場所で初華を待つまなからしても、初華が自動車を購入したことはびっくりさせられたが、初華の運転でドライブなんてsumimi時代には考えられなかった出来事が楽しみであった。
オフなんだし、楽しまなきゃな〜、なんて考えていると、一般車の音の群れに混ざって、轟くような音が鼓膜を刺激する。
「ん……?」
指定した集合場所へと、近づいてくる赤い一台のクルマ。先ほどよりも音がどんどん近づいてくる。
「え〜……ういちゃん。すっごいの買ったな〜」
にこやかに乗って、と言われたまなはまなで元相方が何を思ってこのクルマを買ったのだろうと思うも、旧知の仲でのドライブも楽しみなので、ちょっと乗りにくいシートへまなは初華と同じく身体を預けることにした。
程なくして、クルマは初華の手によって走り出し、巡航速度へと変わる。
「びっくりしたな〜。ういちゃん、なんかすごいクルマで来るんだもん」
「ごめんね。気に入って買ったんだ。これ」
とんでもないクルマで迎えにこられ、度肝は抜かれたものの、どこか優しげに微笑む初華を見てると、まなは懐かしい気持ちになった。
「どこ行こっか?」
「せっかくクルマだし、箱根行こ?」
そんなやり取りから、初華たちを乗せたクルマは箱根方面へと向かう。自然を散策するのも良いよねという話もしながら。
「まなちゃん、乗り心地良くなくて、ごめんね」
ちょっといつもの自分とは違い突拍子もない行動をした初華は少し気まずそうに、まなへと気遣いのつもりで話しかけるが。
「ううん。大丈夫!なんかういちゃんじゃないみたい!でも、すっごくかっこいいなって」
表裏ない、にこやかな表情が初華の気持ちを晴らしてくれた。
初華は自身のクルマに慣れてしまい、逆にたまに乗るタクシーやロケバスの乗り心地が退屈で頼りないものに感じるようになった反面、まなからしても、普段というより普通ではまず無いような経験だと思うとこれはこれで面白いもののように感じた。もっとも旋回時のパキパキ音だけは気になって仕方がない部分はあったが、それさえも滅多にないことだしな、と納得した。
「でも、ういちゃん。流石だね。このクルマ、まなはクルマ詳しくないけど運転難しそうに見えるのに、ういちゃんスムーズに運転してるから」
「ありがと。私も最初はこんなにスムーズに運転できなくて。結構練習したんだ」
「え〜っ!練習したんだ!ういちゃん、すご〜い!」
積もる話をしながら、箱根へ向かい、二人して箱根観光を心ゆくまで楽しんだ。
今日の出来事は、クルマがあるからこそあったんだと思うと、自身のクルマに愛着がさらに湧いたのも確かだ。サウンドやフォルムから注目の的になったりして、少し困ったけど。
クルマの写真を撮りたがる人が居ると、アイドル時代の経験もあり初華はつい快く対応してしまい、意外と抜けないものだなと苦笑いをする。
「ういちゃんのクルマ、人気者だったね〜。ういちゃんが乗ってるからかな?ふふっ。まなは、あまりクルマ興味なかったけど、カッコよかったりするとさ、ファンってできるのかもしれないな〜って。クルマも」
初華もまなも身バレを防ぐ工夫をしていたから、二人の正体は大丈夫だとは感じているものの。
そもそもが箱根自体も自動車好きが集まる場所でもあり、しっかり作り込まれたSW20が現れたなら、クルマだって人気者になってしまう可能性がある場所なのだ。
「そうだね。きっと、そんな気がするな」
クルマを撮らせて欲しい、などと言われる経験は流石の初華も初めてではあったが、競技用車両にも何か魅力があるのかもしれないと、改めて気付かせてくれたような気がするから。
「まなちゃん、これ競技の為のクルマなんだって。私は何かが知りたいから、コレを大阪で買ったんだ」
意を決して、購入した動機を話してみる。きっと表情はまた知らないうちに、暗くなっているかもしれない。
「そっかぁ。ういちゃん、わざわざ大阪まで行ったんだ。競技用って事は、早く走る為のものなのかな?」
何が知りたいから、に触れないで居てくれるーー。
まなの優しさと気遣いが嬉しかった。この子は私が身勝手な理由でsumimiを解消した時も、Ave mujicaの活動でsumimiに迷惑をかけた時も、私を守ってくれた。
その後は取り留めのない話や、近況報告などで盛り上がり、初華はまなの自宅近辺まで送り届けると、楽しかった二人の時間が終わる。
「ういちゃん。今日はありがとうね!と〜っても楽しかったよ!また行こ!」
太陽のような笑顔で、純田まなは私を送り出してくれた。
走る事は悲しみだけではないのかもしれない、と今日のドライブが教えてくれた気がした。
明日からメンテナンスに出してあげなきゃ。無機物に重なっていく思い出を想うと、途端に愛車を心の底から労わってあげたいと初華は自宅へ向かう車内の中で、そっと語りかけた。
「今日はありがとうね」
とーー。