Orbis Insaniae -狂気の円環-   作:@ペケ

25 / 25
MR2。

オフの2日目。

 

「さきちゃん、今日も出かけてくるね。留守番、よろしく」

 

いつも休みが被ると、一緒に居たがるはずの初華が外出を告げて、足早に出て行く。

 

「……はて?初華、あれほどまで以前、活発だったものでしょうか……」

 

と、口にはしてみるものの、夜間出撃に向けて貴重な休みを体力回復に当てたい祥子は、初華を見送るともう一眠りしようか、ぼんやりと思案していた。

 

しかし、どこか行動の活発さが自身に重なるような……気もしながら。

 

初華は初華で、紅魔館のリーフレットに記載のあった「ガレージ・ヒナ」へとアポイントを確保しておいたので、そこへ向かうためにMR2に乗り込み、目的地を目指す。

 

ネットからでもアポイントが取れるのが、初華からしてもありがたかった。

 

話は遡り、数日前の夜ーー。

 

ガレージ・ヒナ、事務所内。

 

ネット予約システムの確認をし、入庫予定表、出庫予定表を組んでる最中の出来事……。

 

以前、紅魔館から連絡のあった車両を見つけた雛は世間話も兼ねて、レミリアに改めてあの車両が来る理由に探りを入れようと思い、TELをする。

 

「ハロー!雛でーす♪」

 

「はあ、いきなり電話してきて〜!なんなのよ、そのテンション……」

 

「ん〜、ちょっと聞きたい事あってね。あとこっちに動きが出てきてさ、阪神エリアってどうなのかな〜って気になって」

 

「ま、暇つぶしになるから付き合ってあげるけど。そうね、阪神はやっぱり昔ほど環状族なんて居ないかしら。府警の取り締まりも激しいし、それにもうウチはレース屋みたいなものよ。環状には深く関わる気は無いわ」

 

阪神高速道路に集う大阪の走り屋は、純粋な速さもそうだが……。お祭り騒ぎのような様態を繰り広げる事も多かった。抗争なども日常茶飯事。そんな歴史を持つ環状族の勢力も昔ほどもなく、徹底した撲滅作戦から下火になったまま戻らないのは変わらないらしい。

 

「今の環状で踏みちぎれたら、なかなかの命知らずか筋金入りのバカ、だと思うわ。ま、半分褒め言葉よ。たぶん。堂々と喧嘩できた時代も懐かしいものね」

 

極たまにお忍びで、テストランと称し、アミダ走りで環状を踏みちぎる事実を伏せ、懐かしむ口調でレミリアは返した。

 

「あはは、あなたらしいな〜それ。ところで、なんでわざわざウチ指定でレミリアのとこのクルマが来るの?簡潔にはメールで読んだけど、確認よ」

 

初華のMR2の話へ話題が移る。

 

「ああ、その話ならーー値段をASK(応相談)にしてたら、3年近く動かなくて、つい最近400万程度で放出したんだけど……アレがね私が関わってない、スーパーラップの開発車両なの」

 

「え〜?スーパーラップ車両を400万で流したの!?」

 

「ええ、そうよ。性能は良かったし、完成度も高かった……非公認だけど筑波で59秒台に叩き出したくらいに。ま、最終テスト段階で中止したから大赤字だったけれど、それも良い経験だったわ。SW20なんだけど」

 

「SW20で1分切りを貴方が関わらないで?内製チームが?それは、貴方たち居なくてもショップとしてやっていける気がする話ね。で、それが東京に来て、私が面倒見ればいいって話?って事よね」

 

「ええ、流石に500km離れた先のクルマは面倒見切れないですもの……ま、元の480馬力から350辺りまで落として納車してるけど……それに買って行ったの女の子で」

 

「なるほど。よくその子、買う気になったね。クルマには詳しいの?」

 

「いいえ。どうやら初めてのクルマ、みたいな話が上がってきて」

 

流石の雛もびっくり仰天してしまう。

 

「ひえ〜、初めてがスーパーラップ車両って……なかなかすごいアタマしてそ」

 

作業しながら通話を続けていたが、少しの間手が止まるほどの衝撃を受ける。

 

「そういう事。ま、アフターにまつわる利益は雛に投げるわ。ウチにマージンは一切いらないから。その代わりアレを棺桶にしないで頂戴、頼めるかしら。紅魔館は悪魔の館と言えども、走る棺桶をつくるシュミはないの」

 

「はいはーい、おっけー、わかった。それにこの前のさきこ……っ。あっ、しまった。この前のZの件もあるから、大丈夫よ。制御系協力してもらった恩もあるし」

 

同業者同士の会話に気が緩み、口を滑らせてユーザー名をつい話してしまったと、気付き言葉を重ねるようにしてごまかしてみるものの。

 

「はあ?さきこ?祥子ってあのゴシックメタルのバンドの?Ave Mujicaとかってバンドの……」

 

「うん。バレちゃったらしょうがないけど……レミリアも知ってるの?そう、あのフェアレディZは祥子ちゃんの依頼」

 

「……貴方の店、芸能人でも集めるつもりなのかしら……意味がわからないわ。でも、もっと意味がわからないのは、SW20を買ったのは三角ってヴォーカルの子よ?」

 

「へぇ?そうなの……ちなみに、一応聞いておくけど、どーせフルコンなんでしょ?どこで組んでるの?」

 

オブリビオニスの次は、ドロリスか、と変な方向に話が転がっていきそうな予感がし、雛は呆けたような返事をするしかなかった。一応、車両仕様の簡潔な確認はするが。

 

「LINK ECUよ。ハーネスも引き直してある。以前のメールに車両仕様書は添付してあるから、それを見れば分かるはずよ……ま、とにかく、よろしく頼むわ。じゃ、また何か用のある時に……はあ〜……たまに、首都高が羨ましくなるわね」

 

レミリアとの同業トークは終わりを告げ、MR2の応対をどのように進めようか、思案しながら止まっていた作業を再開する。

 

「はあ〜あ。公道って何か集める魅力、あるのかな?添付ファイル、ね……」

 

予定表を作成を中断し、添付ファイルの仕様書を確認し、ふと呟いてみる。LINKなら対応できるソフトはあるが、それにしてもホンモノのタイムアタックマシンの仕様だと、添付ファイルに目を通せば通すほど分かってしまう。

 

結局は赤字覚悟の叩き売りも、道楽者の一面をもつレミリアらしさが、全てのはじまりなのかも知れない。それにしてもチューニング部門の内製力の高さには驚かされたが。

 

あの女の子たちは、何を考えて、首都高に集まっているのだろうと、ぼんやり考えてみる。

 

あの頃の自分たちと変わりなく、ただスピードに魅せられて、全てを突っ込んでいるだけなのかも知れない。

 

それに、だんだん噂になり出している正体不明のC6ーー。

 

色々と、手解きがてらSW20と、ともに、繰り出してみるか、と。

 

「……しかし、よりにもよって……MR2かあ」

 

祥子のフェアレディZよりも更に古い年式のクルマ。小柄な軽いボディにハイパワーエンジンをミッドシップに乗せてしまうという90年代トヨタの挑戦者らしい一面がふんだんに現れたモデルではある。

 

スポーツカーと言えども、フェアレディZのZ34型とSW20型のMR2ではボディ剛性や設計の差はありすぎるほどにあり過ぎる。名車と呼ばれる、BNR32でさえもボディの造りなどを比べてしまえば、純正の完成度の高さは年式が新しいほど高いのも事実ーー。

 

「ま、加担してるのは、私も変わらないか……」

 

まだ見ぬ乗り手と、見知った乗り手のことを思うと一人呟く雛であった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。