三尾の妖狐と僕の帰る場所   作:ゆくじろ

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初投稿です!
筆が乗るまでは少し短いかも?


第一話 妖狐との出会い

僕が八歳のとき、両親は事故で亡くなった。

 

あまりにも突然の出来事だった。

 

昨日まで当たり前のように隣にあった温もりも、聞き慣れた声も、何気ない日常も、何の前触れもなく消えてしまった。

 

葬儀の日、周囲の大人たちは僕に何かを話しかけていた。けれど、その言葉はほとんど耳に入ってこなかった。

 

泣いたのかどうかも、よく覚えていない。

 

その後、僕は孤児院に引き取られた。

 

そこでは、いろいろな事情を抱えた子供たちが暮らしていた。僕と同じように家族を失った子もいれば、家に居場所がなくなった子もいた。

 

決して幸せな場所ではなかった。

 

それでも、当時の僕にはそこ以外に行く場所がなかった。

 

孤児院での生活が始まってしばらくした頃、僕は一人の不思議な女性と出会った。

 

彼女は孤児院の関係者ではなかった。時折、施設の近くに姿を現しては、子供たちに奇妙な話を聞かせていた。

 

妖怪。

 

人間の目には見えないもの。長い年月を生き、人とは異なる理で存在するもの。

 

彼女はそんな話を、まるで本当に見てきたかのように語った。

 

「この世には、人間だけが生きているわけではないのよ」

 

その言葉が、なぜか僕の心に残った。

 

当時の僕は、その話を信じていたわけではない。ただ、彼女の話を聞いている時間だけは、嫌なことを忘れられた。

 

やがて年月が過ぎ、僕は十九歳になった。

 

孤児院を出て、社会に出て、会社に勤めた。

 

けれど、そこに自分の居場所を見つけることはできなかった。

 

仕事を辞めたのは、自分の意思だった。

 

それからの僕は、特に目的もなく過ごしていた。

 

古びた建物を見つけては中を歩き回り、誰もいない場所で時間を潰す。そんな日々を繰り返していた。

 

そして、ある日。

 

僕は一つの廃墟にたどり着いた。

 

建物はひどく傷んでいた。壁には亀裂が走り、窓ガラスのいくつかは割れている。長い間、人の手が入っていないことは明らかだった。

 

それでも、完全に朽ち果てているわけではなかった。

 

水道はまだ使える。雨風をしのげる場所もある。

 

何より、誰もいない。

 

僕はその場所が気に入った。

 

その日から、そこは僕の居場所になった。

 

誰かに気を遣う必要もない。誰かに期待されることもない。

 

ただ静かに、自分の時間を過ごせる。

 

そんな場所だった。

 

しかし、そこには先客がいた。

 

最初に気づいたのは、建物の奥から聞こえた小さな物音だった。

 

風で何かが倒れたのかと思った。

 

けれど、違った。

 

物音のした方へ歩いていくと、薄暗い部屋の中に、見慣れない少女が座っていた。

 

赤い着物に、淡い橙色の帯。

 

腰まで伸びた白い髪は、ところどころ跳ねていて、頭には白い狐の耳が生えている。

 

そして、その背後には――三本の大きな尾。

 

少女は僕に気づくと、ゆっくりと顔を上げた。

 

鋭い目が、まっすぐ僕を捉える。

 

頬はほんのり赤く、表情にはどこか威厳があった。

 

「……何者じゃ」

 

幼い声だった。

 

しかし、その声には長い年月を生きてきた者だけが持つような、不思議な重みがあった。

 

僕はしばらく返事ができなかった。

 

目の前の存在が、人間ではないことはすぐに分かった。

 

頭の中に、昔聞いた話がよみがえる。

 

妖怪。

 

人間とは異なる存在。

 

少女は僕の沈黙を見て、少しだけ目を細めた。

 

「答えぬか。ここはワシの住処じゃ。人間が勝手に入り込んでよい場所ではないぞ」

 

どうやら、ここは彼女の住処だったらしい。

 

僕は彼女を見つめたまま、静かに口を開いた。

 

「……僕は、ただ雨風をしのげる場所を探していただけなんだ」

 

「ほう。ならば、他を探すがよい」

 

「ここが気に入ったんだけど」

 

「ならぬ」

 

即答だった。

 

少女は三本の尾をゆっくり揺らしながら、僕を警戒するように見つめている。

 

その姿は不思議なほど堂々としていた。

 

僕は少し困ったように息を吐いた。

 

まさか、廃墟に住み着いている先客がいるとは思わなかった。

 

しかも、それが狐の妖怪だなんて。

 

少女は僕の様子を見て、ふん、と小さく鼻を鳴らした。

 

「まったく……人間というものは、どうしてこうも勝手なのじゃ」

 

その日、僕は初めて彼女と出会った。

 

彼女の名は、稲荷 恋珀(いなり こはく)。

 

五千年もの時を生きる、三尾の妖狐だった。

 

そして、この出会いが僕の人生を大きく変えることになるとは、このときの僕はまだ知らなかった。




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